『人為尽力』
51年ぶりに全日本学生体重別選手権でベスト8入賞を果たした早大柔道部。その原動力となったのは間違いなく主将を務めた佐藤竜(スポ=東京・修徳)だ。「個人戦より団体戦の方が燃える」と誰よりも団体戦に懸けた主将の4年間に迫った。
柔道一家で育った佐藤竜は幼少期から柔道に没頭する。「団体戦が好き」という言葉の根本には高校時代の教えがあった。柔道の強豪校・修徳高校では個人戦よりも団体戦が大事だと教えられる。厳しい練習に耐え抜いてチームの勝利に貢献できた時に、「竜のおかげだね」と言われることが励みになっていたという。高校で好成績を残し、「オリンピックに出たい」と夢を抱いて入学した早大。その言葉通り、東京学生優勝大会(東京学生)では1年生ながらメンバー入りを果たし、格上の日大に対して1点を奪う。その後もいい結果を出していたが、柔道人生の転機となったのは2月に行われた体育系学生体重別選手権での股関節脱臼だった。このけがをきっかけにオリンピックから大学4年間で精一杯柔道をしようと目標が変わった。
3年次に副将、4年次には主将に就任し、技術面でも精神面でもチームを引っ張ってきた佐藤竜。新チームを作る際には、4年生全員が集まって『人為尽力』というスローガンを立てた。色々な個性を持った部員がそろう早大で全員がチームのために力を尽くせれば、いい結果は付いてくるだろう。その言葉を象徴した試合が、6月の全日本学生優勝大会(全日本学生)だ。早大の目標は全日本学生ベスト8。そのベスト8のかべに立ちふさがるのは、1ヶ月前の東京学生では7−7で引き分け、代表戦の末敗れた中大だった。負けないことが大切になってくる団体戦。全員が東京学生で勝てるかもしれないと手応えを感じていたため、佐藤竜は1ヶ月間部員を鼓舞し続け、最高潮の状態で全日本学生を迎えた。そして結果は2−2で内容差勝ち。気持ちの差で51年ぶりの全日本学生ベスト8という目標を達成した。
全日本学生で仲間に声をかけ続ける佐藤竜(左)
しかし、ここからチーム運営の仕方に苦労するようになる。主将としてどこまで部員たちに強制していいのか疑問を持つことも増え、後半には下級生とぶつかることも少なくなかった。色々なタイプやレベルの選手が所属している早大では、みんなが一つの方向を向くことは難しい。しかも学生が主体となって運営を行なっているから、なおさらだ。自分の思いが届かない時には、はがゆさも感じた。そんな時に支えてくれたのは、同期の存在だった。
『人為尽力』ーー。人のために力を尽くすと言葉にするのは容易だが、実行に移すのは難しい。柔道を通してたくさんの人に出会い、たくさんのことを学んだ佐藤竜。柔道とは大学で一区切りをつけ、卒業後は一般就職の道に進んでいく。今度の目標は就職して、「人のためにこの仕事をしてると胸を張って言える人になる」ことだ。早大で培ったその思いを胸に抱いて、次のステージでも輝いてほしい。
(記事、写真 瀧上恵利)