6月に行われた全日本学生優勝大会(全日本学生)。51年ぶりのベスト8進出へチームを引っぱっていったのは、間違いなくこの2人だった。1年間チームを率いてきた佐藤竜主将(スポ4=東京・修徳)と高波勁佑副将(社4=富山・小杉)。苦しい時期を乗り越えながら、チームをまとめ上げた。そんな二人に4年生最後の集大成として迎える早慶戦への思いを伺った
※この取材は10月4日に行われたものです。
「全員が同じ方向を向いていた試合」(高波)
全日本学生の中大戦、一本勝ちをしてガッツポーズをする高波
――今年の個人戦を振り返っていかがですか
佐藤竜 2月に全日本体育系学生体重別選手権があって去年同様に優勝することができて、自信をつけて団体戦に臨むことができました。団体戦は目標としていた結果に届くことができたと思います。そこから気持ちをしっかり入れ直すことができなくて、東京都学生の個人戦では1回戦でけがをしてしまい、負けてしまいました。
――けがは治りましたか
佐藤竜 そうですね。ようやく練習がフルでできるようになったぐらいです。団体戦ですごく気持ちが入るタイプなのですが、うまく個人で気持ちを乗せられなかったです。最後もう一回頑張らなきゃと思っているところです。
――高波選手はいかがですか
高波 目標が次々と達成できた年だったかなと思います。僕は個人戦も団体戦と同じぐらい力をいれていたので、今年東京で予選を勝ち上がって全日本学生体重別選手権に出られたのはこれまで3年間結果が出ていなかったので、自分の成長を感じられました。
――全日本学生ベスト8達成した当時の気持ちを教えてください
高波 ずっと入学した時からベスト8という目標を掲げていたけど、毎年ベスト16で負けていて、手が届きそうで届かないのが全日本学生のベスト8だと僕は思っていました。今回組み合わせを見た時から「これはいけるんじゃないか」と思っていました。いざ戦ってみたらみんなが同じ方向に気持ちが向いていて、あの時は本当に一体感がありました。ベスト8達成した時は今までの柔道人生で一番うれしかったのではないかなと思います。
佐藤竜 高波が言ってたのですが、半世紀ベスト8に入れなかったので、他のトップの強豪校からしたら「ベスト8なんて…」と思われるかもしれませんが、僕らからしたら大きな一歩だったので、僕の柔道人生からしても大きな出来事でした。
――今年のチームはどのようなチームですか
佐藤竜 去年は田中先輩(大勝氏、平31卒)がリーダーシップを発揮してみんながついていくようなチームだったのですが、今年はみんなになるべく好きにやらせてあげようと思っています。締めるところだけ締めるというチーム運営を考えていたのですが、それがうまく噛み合って団体戦の結果がありました。そこからチームを引き締め直したり、これからどうやってやって行くかという方針の決定だったりがうまくいかないのが現状ですね。よく言えば個性的、悪く言えば少しまとまりがないですかね(笑)。
「柔道が自分の一部」(佐藤竜)
佐藤竜
――つづいてプライベートな話を聞いていきたいと思います。まず、お二人が柔道を始めたきっかけは何ですか
高波 父が強い柔道家で兄も柔道をやっていたので、気づいたら柔道をやっていたという感じですね。本格的に始めたのは小学校2年生ぐらいなのですが、ものごころつくまでに柔道着を着てて、受け身をやって、道場で遊んでいました。いつからやっていたかは記憶にないですね…。
佐藤竜 生まれた時から(笑)。
高波 生まれて2ヶ月ぐらいで柔道着着ていたので(笑)。生活の中に柔道がある感じでしたね。僕の父親が監督をしている高校に行って親子二人三脚で柔道をしていました。
佐藤竜 僕も似たようなものですね。兄が柔道を始めていたので、姉と一緒にまねっこして始めました。警察道場だったので結構きびしかったのですが、ぶっちゃけ楽しいというよりかは辞める理由がなくここまで続けていたという感じですね。中学高校も熱意ある先生の下でやってきたので、柔道が自分の一部だと思って続けてきました。
――早稲田を志したきっかけはなんですか
高波 先輩が何人かいたのと、高校生の時に全国大会の調整で早稲田に練習にきたのですが、その時に雰囲気が良かったことが決め手になりましたね。柔道が好きなので大学は楽しく柔道をしたいと思って入りました。早稲田なら楽しく柔道ができそうだなと思いました。逆に早稲田じゃないともう柔道やりたくないと思っていました。
佐藤竜 いろいろ理由がありましたね。最後の決め手は早稲田は名前もあるし、柔道だけではない環境で、強い学校の選手に勝ったらかっこいいなと思って決めましたね。まあそれができているかと言われたら微妙なのですが…。毎日楽しく柔道をやれているので、自分の選んだ道は正しかったのかなと思います。
――お二人の第一印象はどうでしたか
高波 中学校の時に彼と練習試合やっているんですよ。お兄さんが結構有名な選手で知っていて、佐藤という名前が見えて顔を見るとお兄さんにそっくりでした(笑)。いざ試合をやってみたらぼこぼこにされて…。あんまり覚えてないでしょ?(笑)
佐藤竜 小杉とやったかなとは思うけど、勁佑だとは思わなかったなぁ。
高波 彼も僕らの世代では知らない人はいないぐらいの強い選手なので。柔道スタイルからもわかるように怖いじゃないですか…。暴れん坊将軍みたいな。だから第一印象は怖かったです。
佐藤竜 大学に入学するまでに高波とは喋ったことなかったんですよ。高波は早稲田の先輩とつながりがあって、入学前にテレビ出たことをめちゃくちゃいじられてたんです。あれ言っていいの?
高波 良いけど(笑)。NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』という番組で僕の母校に鶴瓶が来て「東京オリンピックで金メダル獲ります」と調子に乗って言っちゃったんですよね。
佐藤竜 それで先輩に「田舎っぺが何言ってんだ」といじられていたので、それが最初の印象ですね。あとは高校まで育ってきた環境が全然違うなとは思っていました。僕のところは「やられたらやり返せ」みたいな教えだったのですが、勁佑のところはスマートで「柔道を磨き上げる」みたいところでした。練習した時に勁佑がもう自分の練習は終わったみたいな感じだったのですが、僕は納得いかなくて「勁佑やろう」みたいになってましたね(笑)。
高波 竜が僕に「お前根性ねえな」みたいなこと言ってくるんですよ。
佐藤竜 あした試合がある勁佑に向かって僕がそんなこと言ってるんですよね。最初はそんな感じでした。僕は自分のそういうところ結構好きなんですけど、早稲田は僕みたいな人が少なくて…。人と関わっていく上でそういった気持ちをぐっと我慢しなきゃいけない時もあるじゃないですか。そういうことを学べたので、早稲田にきて良かったなと思います(笑)。
高波 柔道はピリピリしてたんですけど、私生活は仲良かったです。
佐藤竜 よく飲みにいくので、仲良いですね。
高波 彼はちょっと血の気が多いんです。頭に血がのぼると周りが見えなくなって、感情に左右されやすいですね(笑)。
佐藤竜 でもだいぶ丸くなったよね(笑)。3年生の柳川(昂平、社3=三重・四日市中央工)がいつも打ち込みパートナーなのですが、この間ふとした時に「丸くなったよね」と言われました。だから成長していると思います。
――今はお互いの印象は変わりましたか
高波 今でも怖い時は怖いですよ。でも一緒に過ごしていると、意外とかまってちゃん的な一面もありますし、さみしがり屋なところもありますね。また彼は読書をしたり、漫画を読んだりと趣味がいろいろあるので、柔道をしている時とのギャップがすごくあります。アウトドアな一面もあれば、インドアな一面もあって面白いです。
佐藤竜 最初のイメージがひどすぎて、本を読んでいるだけで意外って言われるの?(笑)
――では柔道部の中で一番ギャップのある選手はどなたですか
佐藤竜 清水(祐希、スポ3=愛知・大成)、柳川あたりかな。普段は静かなタイプなのですが、いざ何かをする時はすごく面白いんですよね。ずるいよね(笑)。
高波 見た目からは想像できないようなお笑いのポテンシャルがありますね。
佐藤竜 高波はお笑いに関して厳しいんですよ。
高波 僕、お笑い担当をやらせていただいているので。
佐藤竜 よく自分で言えるよね(笑)。普通言えないもん。
――4年生全体ではどのような学年だと思いますか
佐藤竜 仲が悪くないという一言だと思います。男女でも、男子の中でも「こいつはダメ」みたいな人がいなくて。四六時中一緒にいるわけではないので、付かず離れずといった感じですかね。だから結構大人の付き合いができているんじゃないかなと思います。
高波 バランスがいいと思いますね。学年の中で、竜みたいに引っ張ってくれる人がいて、僕や瀨川(勇気副将、スポ4=北海道・東海大四)のようなウケを狙いにいく人がいて、主務の間瀬(勇希、スポ4=神奈川・相洋)のように裏方でサポートしてくれる人がいてというようにバランスがいいと思いますね。だからうまく回っているのかなと思いますね。
「試合前は徳を積むタイプ」(高波)
高波
――オフの日はどのように過ごしていますか
佐藤竜 日中は結構ゴロゴロして夜になると、瀨川、高波、眞也(加藤、社4=三重・四日市中央工)とかと飲みに行ったり、他の部活の人たちと飲みに行ったりしてますね。
高波 誘われたら遊びに行くんですけど、自分からどこかに行くことはあまりないですね。僕も一日中寝ていたいタイプなので。
佐藤竜 マサ(加藤)がアクティブなので、みんなを誘ってくれますね。
高波 お互い意外とインドアですね。
――お二人とも教育実習に行かれていたそうですが、何かおもしろいエピソードはありましたか
高波 僕が社会科の授業をしていたら、女子の生徒が「ギャーー」と叫び始めてびっくりして見てみると、教室にカナブンみたいな虫がいたんですよ。それが教卓にくっついていて、生徒がざわざわしだしたんです。今まで僕虫が大の苦手で触れなかったのですが、「これは授業が進まなくてやばい」と思って覚悟を決めて虫をパッとつかんで、外に投げ捨てて。なので、教育実習で虫嫌いが克服できました。
佐藤竜 学校では「高波さん」と黄色い声援が飛び交っていたらしいですよ(笑)。高校の時からそんな感じらしいです。
高波 それはない(笑)。でも僕の学校は40人クラスだったら30人女子で、10人男子みたいな比率でした。ほぼ女子校みたいな感じで高校生活を送らせてもらいました。それでも黄色い声援は浴びてないです(笑)。
佐藤竜 あれ?飲み会では結構言ってたのになあ?(笑)
高波 それはお前たちが勝手に言ってただけだろ(笑)。全然そんなことないです。
佐藤竜 僕の教育実習はそんなおもしろい話はないのですが、3週間の中で高校生の必死さに泣けてきました。
高波 高校生はエネルギーに満ち溢れているよね。
佐藤竜 僕らの大学の朝練を高校生にやらせたら、息も絶え絶えになりながらやっているんですよ。普段僕たちがちょっと息が切れるぐらいのメニューを本当に必死にやりきっているんだなと思いました。まだまだ自分がぬるいなと感じました。
――試合前のゲン担ぎがあれば教えてください
高波 僕めっちゃあります。徳を積みたいんです。前日の夜には、部屋と廊下の掃除をして、早く寝ます。そして次の日には、部屋のゴミ箱のゴミを全部捨てて、ベッドメーキングをしてから寮を出ます。
佐藤竜 僕は1、2年生の時までは、食べるものや勝負パンツなどいろいろありました。でも学年があがるにつれて、仲良い友達が試合前にお酒を飲んでるのを見ているとバカらしく思えてきたんですよね。これは気を楽にしていった方が良いんじゃないかなと思ったので、自分の中でルールをなくしました。だから今は気合を入れるために試合の直前にジャンプするぐらいですね。
高波 僕はゲン担ぎして行かないと不安になっちゃいますね。
佐藤竜 それができない時に不安になるよね。だから僕は辞めちゃいました。
「早慶戦は絶対に負けられない試合」(佐藤竜)
全国体育系学生体重別選手権で優勝した佐藤竜
――もう一度早慶戦の話に戻ります。お二人にとって早慶戦はどのような試合ですか
高波 一番負けたくない試合ですね。僕が変わるきっかけになった試合でもありました。1年生の時に先鋒で出場してチームは勝ったんですけど、派手に一本負けして僕は本当に悔しかったです。そこで気持ちが切り替わって今のままじゃダメだと思うようになりました。なのでその頃から一番重要視している試合かもしれないです。
佐藤竜 早慶戦って早稲田と慶應を知らない人からしたら大したことない試合だと思うんですけど、いざ中に入ってみたら絶対負けられない勝負というのが身に染みてわかります。僕は団体戦が好きで、部員全員で戦う試合なのでこんなに楽しい試合はないなと思っています。特に1年生は早慶戦がどのようなものなのか知らないと思うのですが、僕ら上級生やOB全員が負けられない試合という認識があるので、その気持ちが伝わって部員の全員がその気持ちを汲んでくれたらいいなと思います。
――佐藤竜選手が一番印象に残っている試合はいつですか
佐藤竜 自分が活躍して勝った試合が好きなので、1年生の時に微妙な戦力差で僕が優秀選手を取って勝ってすごく印象に残っています。逆に2年生の時は僕が相手のエースを止められずにずるずる攻撃されてしまったので、そこも印象に残っています。全部印象深いですね。
――慶大に対してどのような印象をお持ちですか
高波 強いです。
佐藤竜 今年は強いね。
高波 個人戦でも結果を出している選手が多いので、単純に強いです。チームワークがあるのかは分からないのですが、個が強いという印象があります。
佐藤竜 強いですね…。慶應義塾高からしっかり人数を確保したり、推薦で取る人数も多かったりしして層がうちより厚いです。でも全然勝てないような相手ではないです。
――講道館ルールでの試合となりますが、何かいつもと違う思いはありますか
佐藤竜 勁佑はいやだよね?(笑)
高波 僕は嫌ですね。足持ちというのがすごく嫌です。僕は足を持てないのですが、相手はすごく足を狙ってくるので。あと試合時間が長いですね。普段の試合は4分なのですが、早慶戦は普通が5分で、後ろの方になってくると6分、7分と試合時間が伸びるので、僕はスタミナがないので不利なんです。でも今講道館ルールでやっている試合は世界中を探しても早慶戦ぐらいしかないと思うので、そのルールの中で戦えるというのは自分の中でも特別です。
佐藤竜 足持ちで普段かからない技がかかると会場が沸き上がるので、楽しいですね。1つ上の伊藤さん(悦輝氏、平31卒)とかがそれでフィーバーしていた人なので、あれ見るとうらやましいです(笑)。僕もそういったスタイルの柔道なので尼崎(全日本学生体重別優勝大会)が終わったら磨いていきたいです。僕が負けなきゃ負けじゃないので、こすい技で何人でも抜けるようにしたいですね。
高波 柔道の醍醐味が一番感じられると思います。
佐藤竜 小さい相手が大きい相手に勝てるルールですね。
高波 見ていても面白いと思います。
――6連覇がかかっていますが、意識されていますか
佐藤竜 やめてほしいですね(笑)。
高波 連覇に関しては重要視はしてないです。毎年苦労して勝ってきた結果が連覇というかたちになっているので、僕らの代は僕らの代だと思っています。6連覇というよりは今年勝つことしか考えていないです。
佐藤竜 同じで、連覇よりは僕らの代で勝つ方が大事だと思っています。下馬評だったら慶應の方が高いと思うのですが、その中で勝ったら歴史に名を刻めるような感動する試合になると思います。見てくれている人が早稲田すごいなと思ってもらえるような試合をするだけですね。連覇とかはあまり考えたくないです。やめて(笑)?
――早慶戦のキーマンとなるのはどなたですか
佐藤竜 あ、出た。これ言われると思って考えてきたんだけど、まだ決まってないんだよね。1人というより2年生ですね。2年生は個性的な子が多くて、すごく練習するんですよ。チームの運営をする時にはコントロールをするのが難しいんですけど、いい方向に向いたらチームにいい影響を与えてくれる子たちだなと思います。体は小さいんですけど、チームの勝利に貢献してくれる試合をしたら勝てると思います。そういう意味で期待しています。
高波 僕は早稲田の絶対的エースの空くん(辰乃輔、スポ3=広島・崇徳)を推したいですね。
佐藤竜 好きだな(笑)。
高波 1、2年生の時から活躍してきて、慶應も空を止めないと勝てないと思っているので、かなり研究してくると思います。でもそれを跳ね返すだけの力はあると思いますし、いつも通りの力を発揮してくれたらまた大活躍してくれると思うので、彼をキーマンにあげたいです。
――ご自身のアピールポイントがあれば教えてください
高波 僕は投げて勝つ柔道なので、華麗な技で勝つところを見てほしいです。
佐藤竜 よく言えるよね。そんなこと(笑)。
高波 投げ技だけが僕の取り柄なので、華麗な技を見に講道館まで来ていただければうれしいです。
佐藤竜 僕は柔道人生を通じて作ってきたのが泥くさいガツガツした柔道なので、必死なところを見ていただければいいなと思います。
――では改めて早慶戦への意気込みをお願いします
高波 勝つことしか考えていないですね。僕の柔道人生の集大成として自分の出せる力を全て出して勝ちたいです。
佐藤竜 僕もこの試合で柔道できなくなってもいいぐらいの気持ちで臨むので、部員全員で勝ちたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 瀧上恵利)
最後の早慶戦にふさわしい言葉が並びました
◆佐藤竜(さとう・りゅう)(※写真右)
1998(平10)年2月22日生まれ。172センチ。B型。東京・修徳高出身。スポーツ科学部4年。佐藤竜主将の兄・雄也さんは今月2日に行われた講道館杯全日本選手権で3位入賞されました。弟である竜主将も早慶戦で大将として大活躍してほしいですね。
◆高波勁佑(たかなみ・けいすけ)(※写真左)
1997(平9)年7月21日生まれ。178センチ。AB型。富山・小杉高出身。社会科学部4年。終始対談を盛り上げてくださった高波副将。卒業後は教員になられるそうです。柔道部随一のお笑い担当は、虫嫌いを克服して生徒から大人気の先生になりそうですね。