万感の勝利、5年ぶりに早慶対抗戦を制す

柔道

 柔道の総本山である講道館で33年ぶりに開催された早慶対抗戦(早慶戦)。詰めかけた大勢の観客が見守るなか、最後の一瞬まで勝負の行方の分からない、手に汗握る戦いが繰り広げられた。両校主将による優勝決定戦を制した早大は、5年ぶりの単独優勝という悲願を達成した。

 互いに譲らず引き分けとなった女子の部の熱が冷めやらぬまま、両校20名による勝ち抜き戦が開幕した。先鋒・桐生知明(商3=神奈川・小田原)の一本勝ちにより幸先良いスタートを切った早大。続く片岡雅樹副将(スポ4=千葉・幕張総合)も一本勝ちを含む2連勝でチームを勢いづける。「先鋒の桐生と2人で5人相手しよう」(片岡)という言葉通り3人のリードをつくり、序盤に起用された期待に応えた。

2連勝でチームを鼓舞した片岡

 続く選手の活躍で理想的な試合運びを展開した早大だったが、中盤に苦戦を強いられることとなる。12番手として登場した郡司拳佑(慶大)に3連敗を喫し、負ければ両校タイに戻る場面で登場したのは早大11番手の蛯沢敏生(スポ3=埼玉・蕨)。「途中で本当に心が折れかけた」と語るように、重量級の郡司に対し終始劣勢の試合展開を許してしまう。しかし、このまま引き分けに終わるかに思われた試合終了15秒前。試合を決めたのは蛯沢だった。相手の一瞬の隙を突いた絞め技を決め、見事一本勝ち。終了間際の劇的な勝利に、会場はここまでで一番の盛り上がりを見せた。

一本勝ちで優勝を決定づけた小林

 蛯沢の勝利で再び活気を取り戻した早大。その後も堅実な試合運びを見せたが、後藤隆太郎(慶大)に二枚抜きを許し、一戦目から保ち続けていたリードを失ってしまう。両校タイの状態で突入した17回戦、18回戦、19回戦。互いに一歩も譲らぬ戦いは3試合全てが引き分けとなり、拮抗(きっこう)した勝負の行方は最後の大将戦に託された。「自分はこういう大舞台が好きなタイプ」と語った小林将来主将(社4=三重・四日市中央工)は気迫のこもった攻めの柔道を展開。大勢の観客が固唾(かたず)を呑んで見守るなか、その瞬間は訪れた。小林が圧巻の掬投げで一本勝ちを決め、5年ぶりの単独優勝が決定。大接戦を制した早大には惜しみない拍手が送られ、講道館にはチームの歓喜の輪が広がった。

 5年間単独優勝から遠ざかっていたことから、ことしこそはという思いで臨んだ今大会。吉村拓郎監督(平成3年卒)の「控えの選手や早慶戦に出場できない選手もチーム一丸となってやっていく」という言葉どおり、チームの士気が勝利につながった。2週間後に控える全日本学生体重別団体優勝大会の目標は、前年を上回るベスト8。今大会の劇的な勝利が、早大柔道部の今後を後押しする原動力となるだろう。

(記事 水落真央、写真 三尾和寛、平岡櫻子)


※掲載が遅くなり、申し訳ありません

笑顔でワセダポーズをする選手たち

結果

▽女子対抗戦

慶應     決まり技   早稲田

富岡愛実    警告   ○齋藤裕里子

鬼谷奈津子  引き分け   市場愛梨

難波英里   引き分け   山口悠子

伴美弥子○   警告    五十嵐祥子

▽男子20人制対抗戦

慶應      決まり技    早稲田

渡邊龍太郎   肩車   ○桐生知明

井上頌悠   引き分け   桐生知明

白鳥力也   大外刈   ○片岡雅樹

大畠裕宜    合技   ○片岡雅樹

人見幸広   引き分け   片岡雅樹

安藝悠馬○   合技    古川凌

安藝悠馬   大外刈   ○中上駿

中沢嵩史   引き分け   中上駿

瀬詰晃弘○  小外掛    中嶋颯

瀬詰晃弘   大外刈   ○林孝樹

辻卓也    引き分け   林孝樹

藤塚捷    払巻込   ○高橋龍大朗

西村康佑   引き分け   高橋龍大朗

郡司拳佑○   内股    西岡慎太郎

郡司拳佑○  内股透    齋藤光星

郡司拳佑○   内股    河田満

郡司拳佑   送襟絞   ○蛯沢敏生

梅田貴志○  払巻込    蛯沢敏生

梅田貴志    警告   ○熊田耕成

福島遼太郎○  警告    熊田耕成

福島遼太郎   警告   ○吉野拓馬

菅原将吾   引き分け   吉野拓馬

鎌田一輝   引き分け   石井雄也

後藤隆太郎○  警告    浅賀慎太郎

後藤隆太郎○ 袖釣込腰   井上昂亮

後藤隆太郎  引き分け   圓山泰雄

宮本康平   引き分け   五嶋広道

新藤嘉樹   引き分け   立浪祐

吉武壮祐    掬投   ○小林将来

個人表彰

最優秀選手 小林将来

優秀選手 片岡雅樹、蛯沢敏生

コメント

吉村拓郎監督(平成3年卒)

――優勝おめでとうございます。今のお気持ちは

感無量というか、一言では言い表せないです。まだ実感がないというのが正直な気持ちです。

――早慶対抗戦(早慶戦)に向け、チームの状態はいかがでしたか

実力をつけることはもちろん、とにかく雰囲気づくりを大事にしたのでチームの士気も高まっていました。具体的には早慶戦に向けてフェイスブックで宣伝をしたり、モチベーションビデオを作成したりしましたね。控えの選手や早慶戦に出場できない選手もチーム一丸となってやっていくということを指導陣や主将、4年生が意識して練習してきました。

――序盤は大差をつけてリードしました

慶大は序盤が初段陣だったのですが、そこはあらかじめ予想していたので。前半戦は抜ける選手をつけたので、リードは予想通りでした。

――郡司拳佑選手、後藤隆太郎選手(共に慶大)の攻略が鍵になったのではないでしょうか

そうですね。その2人に対してそれぞれ3人ずつで止めれば勝てる、という感覚は持っていました。3人以上抜かれるとさすがにうちのチームは勝てない。だから、3人3人の計6人で止めるということを意識しました。うまく食い止めることができてよかったです。

――では、オーダーもそのように組んだのですか

はい、ある程度は主力を固めました。ただ、後藤選手が先に出ると思っていたのでそこは誤算でしたね。

――最後は大将戦で優勝が決まりました

最後は主将同士の対決になるだろうとは想定していて。主将同士の意地がぶつかって、主将が勝った方が強いチームだということだったので、小林(将来、社4=三重・四日市中央工)にすべてを託しました。大将というポジションが彼の場所なので、勝ってくれるだろうと信じていました。結果として劇的な勝利を飾ってくれて、よくやってくれた、の一言です。

――選手のみなさんに贈りたい言葉はありますか

とにかくよくここまで成長してくれた、と伝えたいです。強さや弱さではなくて、チームとしての完成度が上がっていて。学生の努力に敬意を表したいと思います。

――2週間後には全日本学生体重別団体優勝大会が控えています

目標はベスト8なので、そこを目指してやっていきます。ただ、ベスト8を決める試合が東海大との対戦になるので、この強敵を相手にどこまでチャレンジできるかがポイントになると思います。

小林将来主将(社4=三重・四日市中央工)

――早慶戦優勝おめでとうございます。今の率直なお気持ちは

本当に、素直に嬉しいです!

――きょうまで部としても広報活動などに力を入れていましたが、どのような気持ちでこの一戦を迎えられましたか

ことしから、柔道の聖地であるこの講道館で33年ぶりに(早慶戦を)やるということで、例年以上に気合が入っていましたね。

――ご自身の大将戦まで勝負がもつれました。すごく重圧のかかる場面だったのではないですか

そうですね。すごく緊張したのですが、自分はこういう大舞台が好きなタイプなので、思い切って行こうと思ってやりました。

――試合前、監督やチームメイトから何か言葉をかけられたりしましたか

「小林先輩お願いします」や「小林、いけ」といった言葉をかけられました。みんなに「お前で決めてこい」と言われたので、主将としても負けられないなと、気合が入りました。せっかくみんなきつい思いをして(自分まで)繋いできてくれたので、その思いを無駄にはできないと思いましたね。

――試合の内容について振り返っていかがですか

(技をかけるタイミングで)行けるときには行こうと思っていました。あの(一本の)形は自分も得意な形で、試合でも何回か決めているので、チャンスが来たときに思い切って攻めました。上手く決まってよかったです。

――一本の瞬間にはガッツポーズも出ていましたね

そうですね(笑)。自分たちの代がまだ一度も早慶戦で勝っていなくて、本当に絶対に勝ちたかったので。そのためにここまで頑張ってきたことが報われたので、嬉しくてつい出てしまいました。

――その活躍で見事大会の最優秀選手にも選ばれました

それはもう、監督さんたちが決めてくださったことなので、嬉しいですし、光栄なことだと思います。

――主将として、きょうのチームの戦いぶりというのはどのように感じましたか

前半が本当に良い流れで来ていて。慶大の郡司選手と後藤選手が強いというのはわかっていたので、その2選手をいかにはやく止めて、後ろの選手で勝負できるかというのが作戦のカギだったのですが、間違いなく最低ラインでは(慶大の強敵である)両選手を止めてくれていたので、本当に良かったです。

――他の選手の試合中も積極的に声をかけられていましたね

そうですね。勝ち抜き戦はすごくつらくて、選手の気持ちが前に出過ぎても負けてしまうので、落ち着いて辛抱してほしいというのを伝えていました。前の選手がリードをつくってくれないと後ろで厳しくなるのはわかっていたので、たくさん声をかけて、頑張ってもらいました。

――このチームで闘う大会もあと1つとなりました。意気込みをお願いします

次の大会は、きょねんベスト16まで行っているのですが、ことしの目標はベスト8になることなので、一戦一戦気を抜かずに、勝って行きたいなと思います。

片岡雅樹副将(スポ4=千葉・幕張総合)

――優勝おめでとうございます

ありがとうございます。4年目の早慶戦で自分の役割を果たせて、チームも優勝できて、最高にうれしいです。

――2番手で出場という意図は

慶大は1年生が最初の方に出てくるので、1年生をできるだけ抜いてリードする役目として前で出ました。

――2人抜きで3人目は引き分けとかなり良い結果だったのではないでしょうか

そうですね。先鋒の桐生(知明、商3=神奈川・小田原)と2人で5人相手しようということを話していたので、それが達成できて本当に良かったです。

――1人目はきれいな大外刈りでした

階級が同じで、一本取れるか心配だったのですがチャンスをものにできてよかったです。

――2人目は抑え込みでした

あれは結構ラッキーでしたね。あそこで(一本を)取れて、次に行けたのが大きかったと思います。

――3人目はさすがに疲れがありましたか

もうギリギリでしたね(笑)。あと一歩で取られるところだったのですがそこを粘れてよかったです。

――そして早慶戦の最後は劇的な幕切れでした

4年間の全てを出し切って勝って、有終の美を飾れたのではないかと思います。

――チームとして良い勝利でしたね

テレビになるんじゃないかと(笑)。ドラマになっちゃいますね。完璧なシナリオで予想通りに来て、最後キャプテン同士で取ってくれるという。持ってますね。キャプテン持ってます(笑)。

――最後に今のお気持ちを一言で表すと

最高です。最高に尽きますね。

蛯沢敏生(スポ3=埼玉・蕨)

――優勝おめでとうございます。今の気持ちを聞かせて下さい

自分が入ってからまだ一度も勝っていなかったので今日の優勝はすごく嬉しいです。

――この早慶戦に向けてどのように準備をしてこられましたか

早慶戦は無差別の勝ち抜きなので、大きい相手でも小さい相手でも戦い抜けるように練習してきました。

――対戦相手は三連勝されていた郡司選手でしたが、どのような気持ちで試合に臨まれましたか

相手は自分より全然格上だったので、最後まで諦めずに攻め抜いて、結果的に勝てて良かったと思います。

――相手が郡司選手になるということは予想されていたんでしょうか

はい、予想していました。

――試合終了15秒前での一本勝ちでしたが、振り返ってみていかができたか

途中で本当に心が折れかけたんですけど、次に繋げようと思って最後まで攻めて諦めずに、相手の一瞬の隙をつけたので、本当に良かったと思います。

――郡司選手を対戦相手に予想されていたということでしたが、対策などはされていたのでしょうか

とりあえず組手を決めて、たくさん動いて、勝負しようと思っていました。

――監督やチームメイトからは何か言葉をかけられましたか

相手が三人抜きで、どこまで相手が抜けるかという勝負だったと思うので、「自分でしっかり止めようと思ってやっていけよ」と言われていました。

――今後に向けて目標や抱負などがありましたら聞かせて下さい

二週間後に兵庫県の尼崎市で試合があるので、それに向けて体調をまた整えて練習していきたいと思います。