日本オリンピック委員会が、将来を嘱望される選手を集め育成を行う組織、JOCエリートアカデミー。今季、早大には2名の『エリアカ』出身選手が入学した。それぞれアーチェリー部、射撃部に所属する園田稚(スポ1=東京・足立新田)と佐藤琳(スポ1=東京・成立学園)だ。長年共に生活を送った2人に、自身の競技についてや、エリートアカデミー入学の経緯を語ってもらった。
※この取材は10月4日に行われたものです。
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「(競技を)辞めたら泣きたくなると思う」(佐藤)
競技について振り返る佐藤
――そもそもお二人が競技を始めたきっかけや、エリートアカデミーに入った経緯は何だったのですか
園田 私は中1からアーチェリーを始めたんですが、元々中学では吹奏楽部に入っていて。担当決めの時にやめたんですよ。友達がいるから一緒に入ったら、母が私にスポーツをさせたいということで、掛け持ちで何かやってみたら、と。ちょうど中学を少し上ったところにアーチェリー場があって行ってみたら、たまたま教えてくれる人がいて、じゃあ来なよ、となって。そしたらハマって、吹奏楽部を辞めて。1年ちょっとやったら、全日本中学生大会にギリギリ引っかかって。全中行けるやった、と思って行ったら、その年ちょうどエリートアカデミーの候補生を探していて。私はその時身長も高かったので。
佐藤 中学校からそんなに変わってないよね。
園田 それで目立っていて、偶然声をかけてもらいました。何であの時に行くって言ったのか分かんないんですが(笑)。それで入ったという感じですね。
――運命の分かれ道ですね
園田 そうですね。本当にここにいないですね。
――アーチェリー場が近くにあったのも大きいですね
園田 本当に。徒歩3分くらいで着くんですよ、中学校から。教えてくれる人もあまりいないので、本当にたまたまが重なりました。
――部活ではないんですよね
園田 そうですね。個人的にコーチの方にお願いして見てもらってやっていました。
――佐藤選手はいかがですか
佐藤 私は、地域スポーツタレント発掘事業というのが各県で行われているんですが、そこの山形に応募してみて。親もスポーツが好きだったので、体力テストをやってみて、受かったんですね。山形県のスポーツタレントは、いろんなポテンシャルが高い子たちを集めていろんな競技を経験させて、その中で自分に一番合った競技を見つけてトップを目指そうというものでした。そのトライアルで射撃体験をしたときに、県の強化委員長の方から、やってみないかと声をかけられて。最初は陸上をしていたので、陸上がメインで月1行こうかなくらいの、遊び感覚で始めました。
――陸上は何をやっていたんですか
佐藤 小学校では長距離でした。父親が長距離をやっていたので、途中からいろいろ言われるのが嫌になって、ハードルをしました。わりと昔は何でもできたので、中学校に入ってからは四種競技をやっていました。エリアカは、中2の夏にエリアカがあるのを知って、その時はピストルを触ったばかりで。それまでライフルの方を月1回ゲーム感覚でやってみようと、試合も全然出ていなくて。親とも話して、来年受かればいいよねという感じで試しに受けました。そしたら試合に出たこともなかったんですが、協会面接に受かって。びっくりで。でもJOC面接は成績がないと取ってもらえないので、全中出よう、って。全中に出て、優勝して、
――どういうことですか(笑)
佐藤 7人くらいしかいなかったんですよね。誰でも参加できるんですよ、予選なしで。人がいなさすぎるので。それで全国から7人、その中で優勝しました。大会新でしたね。
一同 すごい! どういうこと(笑)
佐藤 全中が第2回、第3回のレベルで。ジュニアの育成が始まって間もなかったので。その年に大体、年少射撃といって銃を所持できる年齢が少し下がって。ちょっとジュニアの育成頑張ろうという時期だったので。
――運も重なりましたが、センスが良かったんでしょうね
佐藤 それで、成績も全中1位がついたので、無事に入りました。でも本当は高1の代でいいよねとなっていたんですが。たまたま受かりました。
――陸上をやっていましたが、射撃でいきたい思いはあったのですか
佐藤 全然違う競技でしたけど、単純に撃つのは楽しかったです。楽しくて、あとかっこいいじゃないですか(笑)。そういうところにも惹かれたのかなと思います。
――今でも楽しい、好きだという気持ちはありますか
佐藤 うーん…。やめたら泣きたくなると思うんですよ。なくなったら。例えばけがしたとか。
園田 それは不完全燃焼だからじゃない?(笑)私は波があるタイプで、楽しい時はアーチェリーしたいんですが、やめたいときは毎日憂鬱で。試合が近づいてくると、私はいつも、下がって下がって、練習しなきゃで上がって試合にいくので、当たらない時期が本当に苦痛すぎて。本当にやめたくなります。
佐藤 当たらないと面白くないよね、私たちの競技は。
園田 本当に。報われないもん。
佐藤 なんで? なんで? 分かんない。なんで? ってなります。
園田 分かる。イライラしてきます。
佐藤 でもそういうとき撃ってても当たらないんですけどね。最悪な気分で家に帰るという。
――練習やめたい、サボりたいと思うことはなかったですか
園田 私は結構サボりたいと思うタイプなんですが、チームで練習しているので、私だけやらないと置いていかれるじゃないですか。それが怖すぎてできなかったです。
佐藤 私は…。後輩にすごく練習しない子がいるので、その子を見て、絶対こうはなりたくないなと思って練習してました(笑)。
――サボるとしたら何をするんですか。外出もできないとなると
佐藤 私何してたんだろう…。
園田 あ、ダンス踊ってました!
佐藤 いやいややめてやめて(笑)。
園田 2・5次元の、アニメの、曲を流したら踊ってくれるんですよ。
佐藤 それは入った当初ね!(笑) 仲良くなろうという時期に、踊ったな…。
園田 趣味聞いて、「流したら踊れるよ」っていうから流したら、踊って、しかも結構ガチな感じで。
佐藤 みんな爆笑でした。そんなこともあったね。
園田 忘れられないね。
佐藤 いや忘れて(笑)。あ、そういうところがギャップなのか。
園田 アニメとかも最初興味なさそうな感じで、でもしゃべったら大好きみたいな感じだったので、意外でした。
――リフレッシュ方法はやはりそういったものですか
佐藤 昔は…部屋で騒ぎまくってました(笑)。
園田 遠征が終わった後にどんちゃん騒ぎ。
佐藤 深夜テンションが激しくて。遠征終わった後ちょっとだけ夜更かしが許されるので。
園田 11時消灯なんですが、11時ちょっと過ぎても許されます。
――今は一人暮らしをされてますが、大変ではないですか
佐藤 全然。寮に比べたら自由です。食事も毎日自炊してます。
園田 えらい。
――最近作った料理は何ですか
佐藤 山形の郷土料理の芋煮の時季なので、芋煮を作りました。めっちゃおいしかった…。今度作ってあげる。食べて。芋煮。
園田 食べたい。
佐藤 実家から米は送られてくるので、米を炊いとけば何とかなるという部分はあります(笑)。
――両競技とも、筋肉や栄養面は考えますか
園田 アーチェリーは、考える人はたんぱく質をたくさん取ったりするんですが、別にオールOKですね。何でも。
佐藤 射撃も、トップ選手しか筋力トレーニングしてないので。普通の選手は普通の人です。
園田 でも琳は結構するよね。
佐藤 そうだね。元々運動してた競技なので、その習慣がついていて、運動しなきゃなとはなります。
園田 ごはんもすごい気を遣って。
佐藤 それは、昔ね。
園田 一緒にご飯食べると、私はご飯を結構食べるんですが、ちょっとしか食べてなかったです。
「態度が悪くてあいさつもしない子に負けるのだけは嫌」(園田)
表情豊かに話す園田
――自分の競技で魅力だと感じるところはどこですか
佐藤 何があるか分からないところですかね。本当に強い選手でも、ファイナルになると外したりしますし、本当に何があるか分からず、誰にでもチャンスがある競技だと思います。始める年齢も遅くてもチャンスがあるし、そういうところは楽しいかなと思います。
園田 アーチェリーは、ずっと見てたら多分つまらないんですが、ファイナルの決勝とか見てたら結構すぐ終わるので、お、かっこいい! となると思います。見栄えもいいですし、やってる側も、自分が今10点入れたら勝てるという時に10点入れたら爽快感があります。
佐藤 あれは気持ちいい。
園田 そういう時は楽しいですね。自分に勝った感じがして。
佐藤 そういう練習しない? するよね。宣言してやるみたいな。プレッシャーかけ合うような。
園田 私は、コーチが「じゃあ今から稚1本射って10点入れたら終わり」ってやったりしました。「自信ある人?」「あります!」って言って挑戦したり。
――同じような瞬間はありますか
佐藤 ありますね。最初の1発、最後の1発は緊張しますし、あと10点撃ったら何点だとか。考えちゃいけないですけど、考えるじゃないですか。でも考えちゃいけないんじゃなくて、考えても撃てるようにするんですよ。なのでそういう練習をしますね。めちゃくちゃプレッシャーかけまくったり、最後の1発というときにみんなに見られながらやったり。先に競射して、一番先に10点を撃った人から抜けていって、終わってない人を見続けたり。プレッシャーかけ合ったりしますね。
――だいぶメンタルが大きい競技ですね
佐藤 そうですね。みんな基本練習は当たるので。試合でどれだけそのまま出せるかが大事です。
――アーチェリーも試合と練習でだいぶ違いますか
園田 はい。全然ありますね。予選がめっちゃうまいのにファイナルがダメだったり、予選はあんまりだけどファイナルになったらめっちゃ強い人もいるので。
佐藤 麻央(渡邉麻央、日体大)とか?
園田 同期がいるんですが、我が強いタイプなんで、我が道をいくようなタイプなんですが、そういう人は強いと思いますね。いろいろ考えちゃう、優勝したら、とか、そういうのが。私は、この人にだけは負けたくない! というのがあって、その人の時はめっちゃ頑張ります。
――それはやっぱり麻央さんですか
園田 そうですね。めっちゃ負けたくないんで。
――他にはいますか
園田 態度が悪い人とか。かわいらしい人とかいい人なら負けても納得できるじゃないですか。でも、態度も悪くてあいさつもしないような子に負けるのだけは嫌なので、そういうときは殺しにかかります。
一同 (笑)
佐藤 そういう基準?(笑) 私は競射じゃないから。射撃はいつだって、自分で、撃つとなったら弾入れて、次こうしてこうしてというルーティンを考えて。撃つとき、集中できないときは決めるんですよ、こことここは絶対にやるというのを一つか二つだけ決めて、大体それに向かってやると、射撃だけに集中できます。そうやって持ってます(笑)。じゃないと他が気になったり、どうしても競射は「バン!」って聞こえるんで周りの音が。早く撃ったな、誰も撃ってないな、一番初めに撃ったなって。そういうのを考えるのが良くないので、そういう感じで頑張ってます。
――アーチェリーも射撃も、音が独特なスポーツですよね。ずっと音がしていて。それは聞こえてますか
園田 聞こえてますね。それぞれの音があって、音が違ったらネジが緩んでたり。
佐藤 それ分かる。射撃も弾速といって、弾が出るスピードが調整できるんですが、緩むときがあって。弾速が一定以上落ちると音が変わって、弾がぶれやすくなって影響を受けやすくなるので、結構同じ種目の人で撃ってみたら、「スポン」って音がしてはじめて、あれ弾速落ちてない? ってなります。
園田 初めて聞いたな(笑)。そんなに詳しいこと話すことないもんね。
佐藤 たしかに。メンテナンス部分は話さないよね。
園田 私は結構めんどくさい。トップ選手になったら、リム(しなりによって矢を飛ばす、弓の上下につけるパーツ)も一定期間使うと柔らかくなってきてあまり引っ張る力がなくなるので、半年くらい経ったら変える選手が多くて。リムによって強い弱いがあるので、そこでまた長さも変わるので弦の長さも変えたり、細かい調整も必要で。チューニングといって、刺さる高さを合わせたりするので、1日2日はかかりますね。そういうのも大変です。矢も作って、いいのを選んだり。
佐藤 やってたね。部屋行ったらみんな作ってた(笑)。射撃のメンテは銃器なので、エアは基本的に月1回、中を紐とか通して掃除するだけでいいんですが、スポーツピストルは火薬を使ってるので、弾が詰まったりとかしたら、試合で不発弾とか起こったら0点なんですよ。なのでSPは気を遣ってますね。オイルとかつけて、SB、ライフルの長いのと同じ、またはそれ以上の清掃をします。すすを取って全部分解して、拭いて、ガンオイル塗って、また組み立ててというのをやっています。試合中は銃器故障したらやりますが、大体は終わったらですね。5発連続で撃つと、うまく入っていかないと弾がまた詰まるので、弾を斜めに入れる向きも気を遣っています。
――すごく繊細なんですね
佐藤 繊細ですね。火薬は。エアはそんなにでもないですが、難しい競技です。
――それぞれ用具が重要な競技ですが、自分なりのこだわりなどはありますか
佐藤 銃を選ぶときにちょっとこだわります。メーカーによってグリップの傾き具合、重さのバランスもあって。壊れやすい、壊れにくいもあるので。(値段も)高いですし。日本では試しができなくて、一つの銃と一人で結び付けられて許可証があるので、セットなので、触れないんですよ他の銃は。なので海外の試合に行った時に持ってみて、次買う銃決めようという感じで決めました。
園田 じゃあもし私が触ったらどうなるの?(笑)
佐藤 誰かに見つかって報告されたら、免許剥奪です。
園田 厳しい。アーチェリーも一緒で、メーカーによって引きやすい、柔らかい硬いもあって。あとは色ですね。
佐藤 かわいいのがいいよね。
――帽子などでかわいいものを使っている選手もいますよね
園田 矢を入れるものもいろんな色を組み合わせられるので、そういうのも決めたり。でも高いので、その時の選択で5年くらい使うので、大事ですね。
佐藤 でも金銭感覚バグってこない? 会話してて、え、10いってないからまだ安いよ、とか(笑)。SBは100万超えくらいだし。サイト1個でも高いんですよ。装備品、バップレ(バットプレート)、グリップ1個でも1万円、靴が4万円とかするので。眼鏡もこの前12万で買いました。
――どういう機能があるんですか
佐藤 普通のサングラスです。SP始めるのでサングラスを買うことにして。全部度付きにして、カラーを3種類で全部度付きにしたので、高くなりました(笑)。
――火薬も一つ一つかかりますよね
佐藤 そうですね。一つ一つ使い捨てなので。一発撃ったら終わりなので。それも高いですね。一発一発5円投げてるようなもんです。
一同 (笑)
園田 失敗したらやだね。5円無駄にした…って(笑)。
佐藤 高いやつだとね。安いやつだとそんなでもないんですが。アーチェリーは何回か使えるもんね。射撃は撃ったら終わりなんで。
――どちらの競技も走るとおっしゃってましたが、基礎体力で必要になるんですか
佐藤 いらないというわけではないんですが、本当に人によります。必要だと思ってやっているので。いらないという人はやらないですね。でもやった方がいいと思ってやってる人がトップには多いです。
――何かいい影響はありますか
佐藤 正直分からないです(笑)。点数に表れないので分からないですが、よくコーチや他の人から、すごく銃が止まってるねとか、体全然動かないねとは言われます。あとは呼吸と言われていて。一度に深く吸えたり、酸素を多く取ると、メンタル的にもいいので。どちらかというと、トレーニングとしてのランニングよりは、メンタル的な部分も含めて。走ると健康じゃないですか。それで、射撃健康が一番です。フィジカルは、健康なことが一番です。
――アーチェリーは走る人が多いのですか
園田 私たちの練習内容としては、走ると心拍数が上がるので、緊張したときの心拍数に似せて、息が上がった状態でどうやって落ち着けて次に持っていくかという練習をしていたので、フィジカルの面もありますが、試合の練習みたいなのもありました。
――それぞれ目的が違うんですね
佐藤 違いますね。
園田 あんまり動かないもんね。
佐藤 本当に動かない。
――でも体重がすごく落ちたりするんですよね
佐藤 ライフルの選手は汗で落ちたりしますね。SBの3かけだと、あれはすごいと思います。ピストルはあまり落ちないですね。
――最後に、大学4年間の目標と直近の目標をお願いします
園田 直近の目標は、10月の最後に全日本ターゲット選手権があるので、32位以内に入りたいです。そしたらナショナルチーム選考会に出られるので、そこで3番以内に入るのが目標です。4年間の目標は、ちょうど4年生のときにパリ五輪があるので、そこに出場して、日本にメダルを持って帰ってこられたらなと思います。
佐藤 私は、直近の目標は、来週の試合で優勝するのと、同時にJOCカップという、点数を使って全国ランキングがあるので、ダブルで優勝したいです。去年優勝したので、2連覇したいです。JOCは20歳までなので。4年間の目標は、パリ五輪に、QPを取らないとまず出られないので、世界選手権やワールドカップに出てQPを取って、それでオリンピックに出ることが目標です。
――ありがとうございました!
(取材・編集 朝岡里奈、橋口遼太郎)
早大での競技生活について、意気込みを書いてもらいました!
◆園田稚(そのだ・わか)
2002(平14)年4月23日生まれ。169センチ。東京・足立新田高出身。スポーツ科学部1年。高3時に全日本ターゲット選手権3位入賞、今年の世界ユース選手権女子団体優勝。漫画が好きだという園田選手。佐藤選手と、お互いに好きなものを紹介し合っているそうです!
◆佐藤琳(さとう・りん)
2002(平14)年8月27日生まれ。158センチ。東京・成立学園高出身。スポーツ科学部1年。高2時に全国射撃ピストル大会(U30)優勝、ジュニアW杯ズール大会団体9位。アニメや漫画が好きな佐藤選手。今は2・5次元にハマっているそうです!