未来に照準を
「射撃は生活の一部」。加藤東(社=神奈川・聖光学院)にとって射撃とは、かけがえのない自身の核だ。ただ、射撃を始めたのは大学から。これまで運動部に所属した経験すらなかったという。これほどまでに加藤をひきつけた魅力はどこにあるのだろう。射撃とともに歩んだ4年間に迫った。
きっかけは「一度くらいは体育会をやってみたい」。そんな、些細(ささい)な思いからのスタートであった。入学を決め、未経験者でも活躍ができる部活を探す中で射撃部に出会う。入学前から入部への思いは固かった。体験射撃などを通し射撃の難しさを知りながら、競技へのめり込んでいった。「楽しく射撃ができた」と、加藤は当時を回想する。同級生よりも少し早くから銃を持ち始めていたこともあり、満足感を抱きながら競技に打ち込んでいた。
だが、その満足感は長くは続かなかった。同級生も銃を持ち始め、着実に点数を伸ばしていく中で、加藤は点数が伸び悩むことに苦悩することとなる。「もの凄い焦り」にさいなまれながら日々を過ごす。周囲の成長と比較した際の、自身の停滞にもがき苦しむこととなった。「苦しんだ時期は長かった」。そんな加藤に転機が訪れたのは、2年生の終わりに差し掛かる頃だ。エアライフル(AR)に加え、スモールボアライフル(SB)にも取り組むようになると、少しずつ歯車が回り始める。
「射撃がどういうものかというのが分かった」。新たな競技に触れ、射撃に関してより深く理解し、考えながら練習を積み重ねていく。さらにはコーチからの助言が発端となり、トップレベルの選手の射撃を研究。「自分と体格の近い選手の映像を見て、自分に落とし込んで」という作業を繰り返した。すると、おのずと結果は付いてくる。団体戦のレギュラーメンバーに定着すると、学生選抜にも出場。さらには3年次の早慶定期戦では個人優勝を達成する。「まだまだ伸びられる」。強い手応えを持って最終学年を迎えた。
銃を構える加藤
しかし、そんな加藤の希望と手応えも、例に漏れず打ち砕かれることとなる。未曾有の疫病は射撃部にも等しく大きな影響を与え、長期間の練習自粛を余儀なくされた。「思っていた以上に実力が低下していた」。射撃場に戻ってきた加藤を待ち受けていたのは、ブランクから以前の実力を発揮できない加藤であった。「去年の自分に追いつけるように」と、懸命に本来の自身の姿を追い求める最終学年となった。
迎えた11月。加藤にとって最後の学連主催試合となる全日本学生選手権、10m立射60発競技で初の600点越えを達成。さらに翌々週の早慶定期戦では、50m伏射60発競技において2年連続の個人優勝を達成し、ブランクの影響を感じさせない活躍を見せた。しかし「SBの方はずっと満足のいかない結果ばかり。国体の出場や学連試合の入賞も目標だったのですごく悔しい」と無念の思いをにじませる加藤の姿があった。
「努力をして結果を出すということが楽しい」。加藤にとっての射撃の魅力は、自身の成長に伴った点数の向上にある。最終学年、満足のいくシーズンを送ることはかなわなかったが、卒業時期を延長し国体出場という目標を追い求めるという。やり残した標的に狙いを定めて。加藤は未来へと照準を合わせた。
(記事、写真 橋口遼太郎)