【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第53回 辛島喬任/射撃

射撃

チームのために

 「自分は競技でガンガン引っ張っていけるような主将ではなかった」。インカレ男子総合5位入賞、男子部の関東一部復帰、5年ぶりの早慶戦勝利といった好成績を残した本年度のワセダ射撃部において主将、辛島喬任(法=東京・青山学院)が競技面で大きな貢献をしたとは言えないかもしれない。しかし常に部全体のことを第一に考えて奮闘してきたこの主将の存在があったからこその部の躍進であった。チームを支え続けた辛島の4年間とは。

 大学入学を機に射撃を始めた辛島。下級生の頃は周りの誰よりもがむしゃらに練習に励んだ。当時のことを「自分の事に手一杯で周りが見えていなかった」と振り返る。そんな辛島の意識が変わったのは2年生の終盤。今までの人生ではグループのリーダーになるのを避けてきたがこれからはチームマネージメントでもチームを支えたていきたい、それが自分の成長にもつながるはずだ。そんな思いから副将に立候補した。

ひた向きに射撃という競技に取り組んできた辛島

 そして主将となった本年度、辛島が目指したのは部員全員の意見を吸い上げ部の協調性を保つことだった。「競技面で引っ張ってカリスマ性を持つのが理想のリーダーかもしれないが自分にはこの方が現実的だった」。辛島は競技面では決してチームの中心に居たわけではなかった。主将であるからには良い点数を取らなければならないという重圧から、気負いすぎて結果を残せないこともあった。団体戦のレギュラーから外れるという悔しい思いもした。しかし部内の結束を何より大切にする辛島の下であったからこそ、射撃部には学年の枠を超えた意見交換や部員同士の競い合いが生まれ部全体のレベルアップにつながったのだ。そしてこれこそが辛島の主将としての何よりの喜びとなった。「自分がレギュラーではなかったのが残念ですけれども」と付け足しながらも、今年の射撃部の躍進を語る辛島の顔には確かな達成感が表れていた。

 迎えた最後の早慶戦。ワセダ射撃部が最も重視している大会であり、4年生の最後の大会でもある。「プレッシャーを感じることの多い一年だったが、最後に吹っ切れて撃つことができた」と振り返る辛島は個人で出場したSBのP60部門で見事に一位に輝く。チームをけん引してきた辛島の活躍に他の部員たちの奮起し、ワセダは5年ぶりの勝利をつかみ取った。この試合で辛島は主将として部の悲願を果たすと同時に、「入部して以来、初めて表彰台に立ち金メダルをもらい」、一人の選手としても見事な集大成を飾ったのだった。

 「同期の仲間やしっかりした後輩が頼りない自分を助けてくれた」と語る辛島だが、そこにはやはり辛島だからこそ作り出せた部員たちとの絆があるのだろう。卒業を機に競技からは離れるが辛島が培った、信頼関係や協調性を築く能力は必ずや新たなステージでも生きるはずだ。一方で、副将や主将を経験したことで自分に不足している点も見つかった。「自分の成長のためにチャレンジしたが、さらなる課題に気づかされた」という。しかしどんなときでも良い意味で現実的に、冷静に対処してきた辛島ならいかなる困難も一歩一歩、着実に乗り越えていってくれることだろう。

(記事 大庭開、写真 網代祐希)