成長そして成長
「今だから言える。あの時もっと練習しておけばよかった、こうしておけばよかったと思える後悔がたくさんある。充実した剣道生活だったが点数としては70点」。安井奎祐(スポ=茨城・水戸葵陵)は自身の早大剣道部での四年間についてこのように語った。1年時から数多くの試合に出場するも、決して上り坂ではなかった安井の四年間を振り返る。
礼儀を学ぶため、両親に4歳から始めるよう勧められた剣道。しかし、通っていた地元の道場では同年代の友達ができず、最初は剣道のことを楽しいとは感じていなかった。週に5回あった稽古も週に1回しか参加せず、真剣に剣道に向き合えてはいなかったという。ところが、小学3年時にそんな不真面目だった剣道生活が転機を迎えた。安井が誘った小学校の友達が道場に入門してきたことで、安井の剣道に対する熱意が燃え立ったのだ。それから切磋琢磨(せっさたくま)して稽古に打ち込み、中学時には全国大会において団体戦準優勝、個人ベスト8を収める。その後、高校剣道界きっての名門・水戸葵陵高に進学し、全国剣道選抜大会においては団体準優勝を成し遂げ、屈強な剣士へと成長した。剣道に明け暮れた生活を経て、安井は「人間としてもっと成長したい」と考え、文武両道を貫くために早大剣道部に入部した。
関東学生優勝大会で活躍する安井
大学デビュー戦となった関東学生選手権では激戦を勝ち上がり、全日本学生選手権(インカレ)にも出場。団体戦では先鋒に抜擢され、関東学生優勝大会、全日本学生優勝大会(全日本)、早慶戦と数多くの試合に出場、1年生ながら早大剣道部を支える一端を早くも担う。順調に勝利のリズムを刻んでいると思われたが、2、3年時は団体、個人共に成績が伸びず、目標である日本一へはまだまだ届かない結果となった。
「主将として必ず結果を残す」と満ち溢れた気迫の中で試合に臨んだ4年目。関東学生選手権では早大勢として8年ぶりとなる個人ベスト4に輝く。しかし続くインカレでは、「結果を残したい」という気持ちの反面、自分の持ち味である思い切った剣道ができず、大学個人最後の試合は惜しくも3回戦敗退となってしまう。「本番は団体戦」と関東学生優勝大会は強い思いで迎えたが、一度も白星を挙げることもできず全日本へ駒を進めることはできなかった。
安井は「今までは自分が強くなるためだけに練習に打ち込んできたが、主将となってからは部員全員の気持ちを一つにできる環境作りを意識した」と語った。同期、先輩、後輩、OB、すべての人に感謝しながら、主将としてチームと常に向き合って来たことは、本来の入部目的である「人間としての成長」の達成に違いない。これから安井は早大で得た成長を糧に、実業団という新たな舞台へ前進する。まだまだ安井の成長は止まらない。
(記事 湯口尊、写真 大山遼佳)