【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第7回 畝尾奈波/剣道

剣道

ワセ女剣士たちの道標

 「自分の負けよりチームが勝ったことの方が嬉しい」。この言葉を口にできるアスリートが、いったいどのくらいいるだろうか。最後の早慶対抗女子試合で、チームは勝ったものの自身は思うような結果を出せなかった時の言葉だ。名門・早大の剣道部をけん引する主将にかかる重圧は、並大抵のものではない。その中で、常にチームのことを一番に考えてきた畝尾奈波(スポ=京都・日吉ケ丘)だからこそ、心から口にできた言葉だ。

  兄の影響で5歳から始めたという剣道。それから17年、真っ直ぐに剣の道を歩み続けてきた。地元の名門道場から強豪・日吉ケ丘高校を経て早大にスポーツ推薦入学という誰もが認めるエリートコースだが、その道のりは決して平坦なものではなかった。剣道漬けの毎日に嫌気が差し、何度も辞めようと考えた。中でも高校進学時には、「普通の高校生活を送りたい」と剣道から離れることを決意。しかしそんな折に、日吉ケ丘高校の監督から声が掛かった。始めは乗り気ではなかったが、道場の仲間たちは既に同校への進学を決めていたこともあり、畝尾も悩み抜いた末剣道を続ける道を選んだ。

強さと優しさを兼ね備え誰からも慕われる畝尾

  そこで出会った菊池優香(平27社卒=現ESテクノサービス)に憧れ、その背中を追い早大の門をくぐることに。長身から振り下ろされる鋭いメンを武器に、入部直後から実力を認められレギュラー入りを果たす。しかしその活躍の裏には、知られざる苦労があった。入部した当時同期に女子部員がおらず、このままずっと一人でやっていけるのかという不安を抱えていたと言う。同期の男子部員や先輩に支えられたが、慣れない厳しい環境の中で同じ立場の仲間がいないという孤独は計り知れない。だからこそ2年生に進学する春、同学年の髙橋萌(スポ=栃木・佐野日大)の入部の知らせを受け取った時は「本当に嬉しかった」。それからは二人三脚で厳しい稽古を乗り越え絆を深めた。

 「本当に楽しくて、あっという間の1年でした」。最高学年となり、菊池から受け継いだ主将のバトンを手に駆け抜けた1年をそう振り返る。始めは不安も大きかったものの、レギュラーとそれ以外の部員との距離を縮めることに腐心。早大剣道部の結束の固さは、「誰にも居づらい思いをさせたくない」という思いのもとでチーム作りに励んだ畝尾の努力のたまものだ。また、自身も春の個人戦では全日本女子学生選手権ベスト8の好成績を収め、最後の1年でこれまでの努力を実らせた。秋の団体戦でも、常に大将であるとともに精神的支柱であり続ける。しかし「うれし泣きで終わりたい」と臨んだ全日本女子学生優勝大会の3回戦、女王・法大との激闘の末に敗れ、大学生最後の試合を『うれし泣き』で飾ることはできなかった。決して納得のいく結果ではなかったが、そのとき口から出たのは「このメンバーでできたことをすごく誇りに思う」という、どこまでも畝尾らしい言葉だった。

 ついに果たせなかった『大学日本一』の夢は後輩に託し、自分は実業団の世界で優勝を目指す。これからも『強く、優しく、美しく』この道を歩んでいく畝尾の背中は、卒業してもなおワセ女剣士たちの憧れであり、道標であり続ける。

(記事 久野映、写真 藤川友実子氏)