男子は昨年の全国大会において個人形で優勝した熊谷拓也(スポ1=東京・世田谷学園)、組手で同じく全国大会の経験がある池田倖紀(スポ1=北海道・恵庭南)、時田隼門(社1=滋賀・玉川)ら有力な1年生に加え、入学時から団体組手で活躍する野澤颯太(法3=長野・松商学園)というメンバーでの対談となった。新たに大学生活がスタートした有望新人たちとチームの主軸として活躍し続ける野澤の、ここまでの道のりに迫る。
※この取材は9月25日にオンラインで行われたものです。
左から野澤、時田、池田、熊谷。対談では野澤が話をリードする場面も見られた
多彩なメンバー集まる
――まずは右隣の方の他己紹介をお願いします
熊谷 同期の池田倖紀くんです(笑)。倖紀は自分から見て模範的な学生だなと思っています。空手選手としてもそうですし、勉学においても高いGPAをとっていますし、オンとオフの切り替えがすごい選手だなと思います。
池田 同期の時田隼門くんです。彼は一言で言うと同期のパパ的存在で、精神年齢の低い自分達をまとめる役割を果たしてくれていて、競技に関してはすごくパワフルな選手で、その圧に圧倒されちゃうんじゃないかと思うくらい力強い組手をする選手です。敵にいたら本当に嫌なタイプなんですけど、味方にいて心強いなと思います。
時田 3年生の野澤先輩を紹介させていただきます。野澤先輩は誰よりもストイックに取り組んでいらっしゃる印象で、部内でメニューを一つやるにしても一つ一つの練習に意味や目的を持っていると感じます。
野澤 後輩の熊谷くんです。彼はめちゃくちゃ努力家だと思います。自分は結構就職活動や勉強で夏休み中に部室に来たのですが、よく自主練をしているところを見たので、日本一を取る選手はこういう選手なんだなと肌で感じました。あとカフェインが大好きです(笑)。
――オフの時はどんなことをしていますか
熊谷 オフの時は基本的に走りに行ったり筋トレをするんですけど、極力空手のことは考えないようにしています。自分もオンとオフの切り替えがすごく重要だと思っていて、やるときはやる、やらない時は何もせずずっと寝ているので、そういう切り替えは意識しています。
池田 自分も拓也(熊谷)と似ていて、休日は家にこもって好きなことをしています。結構料理が好きなので自炊をしたり、友達とゲームをしたりしています。自分はあまりメンタルが強くないので、本当は常に空手のことを考えたいんですけどそうすると逆に悪い方向に行ってしまうので、休むときはしっかり休むことを意識しています。最近は資格やTOEICの勉強にも手をつけています。余裕があれば簿記系のことにも挑戦してみたいなと思っています。
時田 僕にはこれといった趣味がないので、休日は一週間でたまった学校の課題をこなしベッドに寝転びながら空手の動画を眺めたりしています。特に何もすることなく気づいたらオフが終わっているという感じです。
野澤 僕はとにかくオフの日は時間を長く使いたいという思いが強くて、具体的には朝5時に起きて午前中はバイトをして午後は本を読んだり、街歩きが好きなので色んな街へ散歩しています。
それぞれの視点から見る早大空手部
――空手を始めたきっかけ、そして早大空手部を選んだきっかけを教えてください
熊谷 (始めた理由)6歳の頃から始めたんですけど、家の近くに道場があって体験に行ったのですが、最初に練習した時からビビッと感じるものがあり、すぐにのめり込みました。(早稲田を志望した理由)自分は中高の時から文武両道の重要性をかなり考えていて、やっぱり空手だけやって勝つのは当たり前のことで、そういう選手は沢山いるのでそれではつまらないなと思っていて、頭が良くて空手も強い選手の方がセカンドキャリアを考えた時にも有効だろうしかっこいいなと思って早稲田を志望しました。
池田 (始めた理由)兄が空手を始めた時に、自分も5歳ぐらいだったので家に留守番ではなく兄の空手を道場に見学しに行っていて、その頃の自分が「空手をやりたい」と言ったらしく、それがきっかけです。(早稲田を志望した理由)早稲田の文武両道のレベルは国内でもトップクラスだと思うので、それを実現したかったです。また部の基本方針として部員の自主性を重んじることが挙げられるのですが、自分は自主性がすごく大事だなと思っていて、空手を通じて人間としても成長できるんじゃないかなと思えたのが早稲田でした。
時田 (始めた理由)空手を始めたのは3歳の頃なのですが、市役所に掲示されているチラシを見て1回体験に行ってみたら当時の僕は楽しくやっていたそうで、やってみようという流れになりました。自分は訳も分からないまま入会した感じです。(早稲田を志望した理由)前の二人とかぶってしまうのですが、まず僕自身空手が大好きで、勉強も好きだったので、それが両立できるのが理由の一つです。あと、すごい選手の元で空手をしたい思いもあり、それらが全部叶うのがここかなと思いました。
野澤 (始めた理由)空手を始めた理由は変わっていて、ポケモンにはまっていて、それに出てくるエビワラーという(格闘技系の)キャラクターがかっこよくて、その影響で空手を始めました。今は全然かっこいいと思わないんですけど(笑)。(早稲田を志望した理由)みんなと被ってしまうのですが文武両道なところと、末廣哲彦(平スポ卒)先輩が主将の時にインカレでベスト8に入ったのですが、その時に超強豪の近畿大学との試合を見て、「頭が良くてこんなに強いのはかっこいいな」と思ったのはきっかけとしてあります。
――文武両道がポイントに上がることが多いようですが、実際に入部してからはいかがですか
熊谷 先輩方が優しいのももちろんあるのですが、選手一人一人に寄り添って各個人に合った練習方法や個人の主体的な行動を心がけるような練習が確立されているところが素晴らしいなと思いました。全体に向けた指導だけではなく一人ひとりに寄り添うことが重要だと思っていて、悪い上下関係ではなくすぐに先輩方に相談できるところが素晴らしい部活だなと感じました。高校の部活動は忍耐力や従順さが求められるのですが、それだけでは技術の向上に限界があると思いますし、早稲田だからこそこういう練習方法ができるのではないかと思います。
池田 高校の時は言われたことをただひたすらやっていたのですが、やはり早大空手部は主体性を基本方針に掲げているので、メニューを始め自分たちで考えることがメインになっています。そういった点で自分がイメージした通りのびのびとできると思いますね。勉強面でも高校より自由な時間があるので、隙間時間にぱぱっとできるので、勉強と部活がいい意味で干渉し合わないので、両方ともしっかり取り組めるのがすごくいいなと思いますね。
時田 昨日は一年生がメニューを考えたメニューを全体で行ったのですが、これが表しているように、下級生の案も重んじてくれる方がチームを引っ張っているので、それが全体の雰囲気にも表れているのかなと思います。
野澤 優秀な後輩達が言ってくれたんですけど(笑)、すごく自主性や主体性を大切にしている部活だなと思いました。逆に言えば、自分が何かしなければ強くなれないという弱みでもあるので、そのギャップは改めて気付かされた部分です。というのも、練習メニューも凝ったものをやるのではなく、シンプルなメニューに対して各々で工夫していくスタイルなので、各自が目的意識を持って取り組むことの大切さを改めて感じました。
――チームを引っ張る三役の印象はいかがですか
野澤 一番長く話せる自分から行きます。まず吉田先輩はすごく視野が広くて、一人一人のことを考えてくれている首相だなと思います。去年やおととしとはまた違う形でチームを引っ張ってくれているだと思います。伊坂先輩は吉田主将がやろうとしている上下の仲の良さをすごく実践しようとしている人で、休憩時間にも後輩一人一人に話しかけてくださいますし、部の雰囲気を大切にされている方だと思います。長沼は前回も言ったのですが見た目はチャラチャラしてるんですけど根がしっかりしていて、チームのことを一番に考えていますし、彼の努力は部内でも圧倒的なので、背中で引っ張ってくれているなと感じています。
時田 主将は先ほどの話にもあったように全体をすごく見てくださっているだと思います。個人的にアドバイスを頂いたこともあり、よく見てくださっているんだなと思います。伊坂先輩は全体の雰囲気をよくしてくださっていることが本当に伝わってきて、野澤先輩もおっしゃっていたように休憩時間に話しかけてくれます。俊樹先輩は練習中に1番声を出していらっしゃる印象があり、すごく場を盛り上げてくださいます。実力もあるので、技術面のアプローチもすごく的確で素晴らしいなと思います。
池田 二人と似ているのですが、吉田先輩は全体を見てみんなを引っ張ってくれていて、伊坂先輩はやはり部の雰囲気を良くしてくれることに加えて事務的なこともしてくださり、部を支えている本当にすごい人だなと思います。長沼先輩も部を盛り上げてくれていることに加えて実力が凄く、みんなにあった練習メニューも考えてくださっています。3人とも非の打ち所のない方々なんですけど違う個性があって、互いに補い合ってるいい関係なのかなと思っています。そして本当にみんな優しいです。早稲田に来て良かったなと感じました。
熊谷 先輩方と自分の競技が違うので専門的なことはお話できないのですが、4年生の先輩方と3年生の先輩方の連携の取り方がすごいなと感じていてます。師匠がいない時は長沼先輩や伊坂先輩が代わりにみんなをまとめていて、1年生から見てすごく頼もしいです。選手として以上に、人としてすごく尊敬できると自分は感じています。
コロナ禍での取り組み
――今特に取り組んでいることは何ですか
野澤 実践練習の機会を増やすことに重きを置いています。関東個人(選手権)は全然だめな試合内容で負けてしまい、それはコロナで実践経験を積めなかったことが一番大きな要因かなと思ったので。練習が終わった後に町道場に行って社会人の方だと一緒に練習したり、俊樹(長沼)とかとフリーをしたり1年生に練習に付き合ってもらって実践練習をしました。
時田 最近は部のメニューとしても技を中心にやる練習を入れていると思います。そこでペアを組んで自分の動きを動画で撮ってアドバイスしてもらっています。試合ももちろん大事ですが、その前にもう一度初心に帰って一つ一つの動きのイメージと実際の動きのズレを埋めていくことを意識して練習に取り組んでいます。
池田 自分の組手のスタイルをまずはしっかり持ちたいなと思っています。高校の時からそう考えていたのですが、今はさらにその考えを強く持ち、どんな相手でも自分のスタイルに会うような戦い方ができればいいなと思っています。後は技術面でも足りない部分がたくさんあるので、その戦い方をベースに色々な技術や技を上乗せしていくイメージで自分は練習しています。
熊谷 自分は練習の時にはリラックスした状態なので素晴らしい形が打てるのですが、試合本番で極度に緊張してしまい人が違ったような形を打ってしまうことがあり、形競技はメンタル面の弱さが出てしまう競技だと思っています。高校生の時から自分が心がけているのは、あえて人に見られる環境で形を打つことです。そこで緊張するのではなく、「この人たちみんな俺の形が好きなんだろうな」と自分で思い込んで(笑)、よりのびのびと自信を持てるように意識してます。メンタル面の強化に今も取り組んでいます。
――コロナ禍でモチベーションを維持するために心がけていたことはありますか
野澤 自分はモチベーションが下がることがそんなになくて、強いて言うならば時々目標をノートやメモに書き出すことでモチベーションを持ち直しています。でも基本的には自分はめちゃくちゃポジティブなので、例えばコロナで練習がなくても他大もできていないのは同じですし、逆に言えば少しは差をつけるチャンスじゃないかと捉えています。
時田 惰性で練習してもだらだらしてしまうのですが、大会があればそこから逆算して一か月ごと、一週間ごと、1日ごとの目標を作り、それまでに自分がどうなっていたいのか、どんな技を習得したいのか計画を立てて練習すれば、だれることはなくなっているのかなと思います。
池田 モチベーションにかなり差がある方なので、モチベーションを維持の方法はいろいろあります。一番多いのは、過去の試合で負けたことや練習中感じた悔しさを忘れないようにして、モチベーションが下がってきたときにそのことを思い出して「やってやるぞ」と奮い立たせることです。大会がないことについてはポジティブに考えていて、大会がないからこそ次の大会までの時間がたくさんあるので、めちゃめちゃ強くなって次の大会に出てやるぞと考えて練習に取り組んでいます。
熊谷 コロナの影響で自分達は高3の時からかなり試合がなくなっていたのですが、自分の空手人生の最終目標はオリンピックなので。次の大会で空手はオリンピックから外れているので、次にチャンスがあるのは8年後。一番体の動きも良い時期なのかなと思っています。自分がもっと活躍して空手がもっとスポーツ界全体に知れ渡ればオリンピックに採用されると信じているので、モチベーションが下がるというよりは楽しみで仕方がないです。
――夏には去年に引き続き夏合宿の代わりに二部練習が行われましたが、その振り返りをお願いします
野澤 良かった点は楽しかったことですね。ただ欲を言うなら、ちゃんと合宿に行って練習したかったなと思います。結構早く起きて、家に帰って色々やって大変だったのですが、合宿ならそういった大変さがないので。自分の課題として出だしのスピードがずっとあり、一貫してそこに意識を向けてきたのですが、その成果がちょっとずつ出てきたと感じています。実際にスピードが上がったからこそポイントにつながる場面も何回かありましたし、成果が本当にちょっとずつ出てきたかなという感じです。
時田 普段の練習よりもきついメニューが多くて、僕自身体力面が課題なので凄くしんどかったんですけど、そういう練習も部員全員が声を出して盛り上げあったので、チームの雰囲気がこの一週間を通して良くなったと思いました。
池田 自分も振り返って「楽しかったな」と一番初めに思いました。でも野澤先輩と同じく合宿に行きたかったなとも思います。技術面では自分も課題を箇条書きにして頭に入れているのですが、一番成長したのは攻撃した後の部分です。そこでもう1回攻撃したりとその部分を意識する感覚がつき、二部練習の中で顕著に変わったと思えたのでそこはすごく良かったです。他の細かい課題も少しずつ改善されてはいるので、すごくいい二部練習だったなと思います。
熊谷 自分は諸事情で二部練習に参加できなかったので、来年はしっかり目的意識を持って取り組んでいけたらと思います。
――二部練習の中で印象に残った出来事はありますか
野澤 一つ一つの内容が濃かったので特別に印象に残ったことはないのですが、強いて言うなら最終日に吉田(翔太)先輩を胴上げしたんですよ。それが楽しかったです(笑)。
時田 最終日に(大学に入ってから)初めて団体戦をしまして、団体戦の雰囲気ってこういう感じなんだなと思いました。個人で試合をするよりも背中を押されている感じがして楽しいなと。後期から団体戦がメインで進んでいくので、そこでその練習の成果を生かせればなと思います。
池田 午前中は結構体づくりや基本的なことを中心に取り組む練習で、今までの練習にはあまりなくて新鮮でした。すごくきつかったのですが、すごく楽しかったなと印象に残っています。
――これから取り組んでいきたいことは何ですか
野澤 スピード不足の改善が一番のポイントかなと思っています。チームとしてはベスト4以上を目標にしているので、自分が上級生として粘り強くどんな試合でも必ず勝ちをもぎ取り、一つでも貢献できればと思います。
時田 チームでベスト4という目標を掲げているので、どこで出てくるか分かりませんがチームに勢いをつけられるような組手ができればと思います。
池田 チーム全体では上級生がしっかり勝って1年生が挑戦するようなイメージがあると思うのですが、その中で1年生の自分が勝つことができれば上級生の方々もリラックスできるし、自分や時田の勝ちがすごく大きいと思うので、しっかり勝って先輩方に回したいなと思います。
熊谷 関東団体では団体形に参加させていただくのですが、そこで今までとは違う流派の形をやることになりました。正直今まで早稲田は形競技ではあまり勝ち上がれていないですが、でも自分はやるからには結果を残したいと思っています。関東には帝京大学や国士舘大学など強豪大学がたくさんあるので、大番狂わせを起こしたいです。
――最後に後期の大会に向けて意気込みをお願いします
野澤 チームの目標は大きく2つあり、1つは関東団体のベスト4、もう1つが早慶戦の勝利です。早慶戦はここ2年負けているので、今年は負けられないという思いで取り組んでいきたいと思っています。個人的にはまた開催されるかはわからないのですが関東体重別選手権があるので、-67㌔級で優勝できるように頑張りたいです。
時田 個人の課題としては夏にまとまった時間が取れてたくさん課題が出てきたので、それを一つ一つ改善していくのに必死の状態です。大会までに一つでも多くのことをつかめればいいなと思っています。ベスト4という目標に少しでも貢献できればと思います。
池田 関東団体ではベスト4以上をしっかり取って、来年はもう一つ勝てるようにいいイメージをつけて終わりたいのと、早慶戦で勝利することが目標です。個人としてもチームの勝利に貢献したいので、自分が勝って貢献したいです。
熊谷 これからの目標を順を追って説明します。まず大学生のチャンピオンになることが大前提なのですが、その後にナショナルチーム選考会が高3の時に一度シニア枠で受けたのですが、大人との圧倒的な力の差を感じで負けてしまいました。次に受ける時は必ずシニア枠で日本代表に受かって、一歩一歩確実に自分の強さを証明していきたいと考えています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 名倉由夏)