「やっとチームらしくなってきた」。石川みらい(社3=群馬・前橋工)はそう言って両隣の後輩に目をやる。猪越優蘭(政経2=埼玉・早大本庄)、永田一紗(スポ2=茨城・水城)の入部と共に女子形を結成してから一年。苦しい夏合宿で鍛錬を積み、関東大学選手権(関東)では見事に全日本大学選手権(全日本)出場を決めた。とはいえ、思うように点数が出ず内容には納得のいかない様子。「不完全燃焼」と口をそろえた関東の分も、全日本では今年度最後にふさわしいやり切った形を披露してみせる。
※この取材は11月7日に行われたものです。
「まとまりが出てきた」(石川)
団体形でリーダーとなって2年目石川(中央)
――女子形のお三方に来ていただきました。昨年から同じ三人ですが、変化はありますか
石川 前よりまとまりが出て、やっとチームらしくなったかなと思います。
永田 去年はケガも多くて一緒にできない時も多かったんですけど、ことしは去年よりは一緒に団体をやれている分、まとまりもそうだし、技としても気持ちとしても一つになってきたかなと思います。
猪越 去年はついていくだけで精一杯で。ことしは個人の形のレベルも上がってきたので、言われたことをちょっとずつ体でできるようになってきたり、二人に指摘できる点もでてきたので、団体のチームの一員としてちょっとずつ貢献できるようになってきたかなと思います。
永田 去年は「個人形をやっているように見える」と言われることも多かったんですけど、そういうのもなくなってきたと思います。
石川 会話が増えましたね。
猪越・永田 (笑)。
石川 本当に。バラバラでチームがごちゃごちゃしていたので、そういう意味では和気あいあいと。言うことは言ってもらうようにしています。
――ことしに入り女子形にはルーキー細田悠乃選手(スポ1=沖縄・開邦)が加入しました。このことはどんな影響がありましたか
石川 流派が全く違うので。団体を一緒にやることも考えたんですけど、個人の意思を尊重するというか。個人でやってきた選手で、個人で強くなるという彼女の意思もあったので、そこは自由に。こっちのチームの争奪戦もなく。穏便ではあり、良いのか悪いのか分からないですけど、三人でやっていこうという意思は強くなったと思います。
永田 後輩というよりは、第三者の意見をもらえて。聞くと先輩後輩関係なく遠慮せずに言ってくれるのが自分たちにとってはいいことだと思うし、団体としてやっている身で感じていることと、外から見て感じることが違うので。違う流派だからこそ、気付く部分もあるので、それはプラスになっていますね。
猪越 流派が違うということで、松濤館の形としてこうした方がいいという指摘ではなく、根本的な体の使い方だとか、そういう部分を教えてくれます。松濤館の方に見てもらうと結構技術的な部分を指摘してもらうことが多いんですけど、形の見映えやダイナミックさで「もっとこうした方がいいと思います」というのをアドバイスしてくれるので、流派は違うんですけど、刺激をもらっています。
――この三人による団体形で自分たちの強みは何でしょうか
石川 タイプが違うけどお互いに良い部分をもらいながらですね。自分と猪越は結構パワーで先輩はスピードとかパワーなんですけど、それだけではまとまりも出ないから、自分のいいところを伸ばしつつ相手のいいところをもらって、まとめていくというのが去年よりうまくいっていると思います。
永田 そうですね。お互いを認めて。スピードだけ、力強さだけ、では勝てないので、お互いの違う面があるのはいいことだし、そこをプラスアルファで埋めていけたらもっと良くなるかなって感じですね。
――では、逆にもっと詰めていきたい部分は
石川 形をやる中で自分が引っ張っていっている立場ではあるんですけど、それぞれ教わったことが異なったりする。自分がずっと正しいと思っていたことが他と違って、審判の目からも違うし。正規の形が把握できてなくて、その面でギャップがあります。正しいかたちにしていくというのが課題としてありますね。
永田 あと、かたちや技は合っているけど、審判からの見方が違うから勝てないとか。技としては合っているけど、見映えとして勝てる形はこっち、とかあるんですよ。勝つための形がよく分かってなくて勝てない、というのがありますよね。
石川 分かっている先生が教えている大学はうまくまとまって審判の受けもいいみたいな。今までずっと勝てている大学は勝てる形を知っているので、それを指導者が教えるんですけど、ワセダはそういう伝統がなくて、数年前に全日本ベスト8とか関東3位とかになったことはあるんですけど、それが受け継がれていない分手探りで始まっているので、なかなか・・・。
――石川選手はここまでご自身のリーダーシップを振り返っていかがですか
石川 最悪ですね(笑)。自分はリーダーという立場を名付けられているだけで、二人とは同じ目線で教えてもらうという気が強くて。ずっと引っ張っていく立場ではやってこなかったので、リーダーシップはよく分からないし、分からないなりにちゃんとコミュニケーションは取ろうと。話し合いの場と言うか、お互いがお互いを受け入れて、そういうやりやすい環境をつくろうとしていて。それが課題でした。
永田・猪越 課題だったんですか?(笑)
石川 課題だった(笑)。自分のキャラの問題もあるんですけど・・・。
永田 先輩なんですけど、そういう感じは全然出さなくて。ちゃんと話も聞いてくれるし、練習外の時は面白いので(笑)。いい意味で『先輩』という感じではなくて、練習ではもちろんあるんですけど。
石川 先輩なのかな。
永田・猪越 先輩です!(笑)。
石川 分け隔てなく付き合っちゃうんですよね。
――二人の後輩は石川選手から見てどんな存在ですか
石川 後輩っぽいですよね。可愛げあるし、「はい」って聞いてくれるし。ちゃんと聞いているかどうかは分からないですけど(笑)、慕ってくれている感じはあるので、自分はそれで満足しています。
一同 (笑)
石川 自分は『先輩』とかいらなくて、変な話、一緒にやっていく仲間みたいな認識しかないです。ずっと同期や同い年とやってきて、上と下というのは難しいのかなと思っていたんですけど、それを考えてしまうとダメなので。向こうも自分と同じ目線でやれたらと思っていたので、求めているものは返ってきているかなと思います。
永田 お互いの意見をぶつけるというのもみらい先輩だからできることだし、なかなか後輩の意見って聞きづらいじゃないですか。でもワセダ全体がそれを先輩後輩という上下関係なくお互いの意見を交換し合うという環境にあると思うので、それがガチガチの上下関係で固められたところよりプラスに働いているのかなと思います。
石川 一紗は頼りになるなというのは結構あって、自分も不安を抱えながらやっているタイプなので、ありがたい存在ですね。優蘭は可愛いんですよね。愛嬌があって。例えばOBの先輩と意見がそぐわなくて落ち込んだ時の緩和剤です(笑)。
永田 必死にやっていても、転んでたり。ピリついたときにやるんですよ。伏せたりジャンプしたりするメニューで一人だけつぶれてて、笑っちゃう。緩和剤です。
猪越 変な話、ちゃんと空手を部活でやるのが初めてで。技術的に追い付けない面もあるんですけど、鈍くさいんですよ。
――同期の永田選手と猪越選手の間柄はいかがですか
永田 練習では自分が意見を言うことが多いです。
石川 先生と弟子みたい。
猪越 先輩、後輩だとたまに思われるよね。空手に関しては全部彼女に依存して教えてもらっている感じなんです。
永田 空手に直結することでなくても、トレーニングや体の使い方、考え方。「これを直さなきゃだめだよ」ではなく、「直すためにこれをしなきゃだめだよ」という過程を教えています。そうすれば考えるようになるじゃないですか。でもそれ以外は・・・。
猪越 ポンコツなとこあるからね。空手に関しては何回も同じこと言われちゃうのが怖かったけど、最近はちょっとずつできるようになってきて、もっと教えてもらって上手になりたいなとモチベ―ションになっているので、同期にいい影響を受けています。
永田 練習外はそんなことないです。私が「ばかだな~」って言われる側です。逆転します。(空手以外では)そんな感じで良かったって言われます。
猪越 空手も上手で普段の生活もしっかりしてたら本当に怖いので(笑)。
永田 普段しっかりしてないみたいじゃん(笑)。
猪越 しっかりしてるけど、ギャップというか、抜けてるところがあります。気付いてないの?
永田 うん。
永田 でも基本真面目なこと言わないよね。空手では真面目に話しますけど。
猪越 彼女すごいラーメンが好きで。「ラーメン食べいこう」ってすぐ誘われます。
永田 自分の影響で好きになりましたね。
猪越 ラーメン全然好きじゃなかったのに、誘ってくるから(笑)。染まっています。
永田 これといったエピソードはないですけど、私生活、特に食べ物が似てきたよね。
――お三方、居住形態も違うと聞きました
石川 一人暮らしです。自分朝ごはんが食べられなくて、ずっと二食だったんですよ。でもいろんな人の影響を受けて朝ごはんを食べるようになりました。それから朝昼晩と同じ量を食べていたらすごく食費がかかってしまって。お金を気にして食べ物を惜しんでいたので、一人暮らしはそこが大変です。空手をやっている間はしっかりご飯を食べようと思っていて、軽いと力も出ないし、スピードやキレばかりになってしまうので。プロテインを飲んで筋トレをして、体重を増やすようにお金をそっちに使うように最近はしていますね。
猪越 実家です。すごい食べるので、食費がすごいことにあるかなと思ったんですけど、朝バイトがあると6時に家を出て、部活が終わって帰るのが23時。朝昼晩と外で食べないとじゃないですか。だから朝用のおにぎりと昼用のお弁当と夜用のおにぎりを全部持ってきてます。
石川 夜帰ってからも食べてるんでしょ?
猪越 (笑)。朝昼晩持ってきて、学校でチョコ買って(笑)。チョコ代は譲れないです。家族の生活リズムがバラバラなので、家にあるものをテキトーに詰めてきてます。
石川 すげえな・・・。
永田 自分は田無紺碧寮で、体育会の寮なんで、普段の夕食のバランスがいいんですよ。ご飯と汁物とサラダとメインのおかず、ヨーグルトやデザートがあって、ジュースがついて。結構バランスがいいですけど、カロリーコントロール外難しくて。去年それで大変で自炊も結構してました。日曜日は夕食が出ないんで、友達同士で食材を買って一緒につくって食べるという。寮ならではのことですね。二人部屋で、ゴルフ部の清水(日奈、スポ2=栃木・宇都宮文星女)と一緒です。その子とはオフが重なったら朝までカラオケとか行きます。他にも寮生は男女問わず仲がいいので、遊びに行くことはよくありますね。
――寮となると、他の体育会部員から刺激をもらうことも多いのですか
永田 それはかなりあります。競技が違っても、気持ちや考え方は似ている部分があるので。頑張りや言葉に励まされたり。負けた時のモチベーションや勝つための考え方を共有できるのはありがたいと思います。
――高校生活も三者三様だったと思います
永田 ソフトボールに明け暮れていました。ソフトボール部員だったんですけど、空手部には入らず。ソフトボール部自分でつくったんですよ。新しいことを始める楽しさを知りましたし、まとめることの難しさも知りました。初心者が入ってくることも多かったので、ゼロからのスタートの人を短期間でどれだけ伸ばすかにやりがいがありました。空手は個人で練習していて、それは週1か週2くらいで。茨城から大きい大会の1、2カ月前から東京の飯田橋にある総本部に週1で通っていました。
――水城高というとスポーツだけではなく勉強にも力を入れているイメージがありますが
永田 そうですね。スポーツクラスではなく、先生も熱心なクラスにいました。空手も応援してくれるし、ずっとワセダを目指していて、そこに空手の成績を使えるということで、推薦の対策もすごく協力してくれて。体育の先生、国語の先生が小論文を見てくれたり、先生たちのサポートが良かったと感じてます。
猪越 自分は本条高等学院の出身なんですけど、空手自体はずっと地元の道場でやっていて。そこは学連の試合に出るというより伝統を重んじる道場で、趣味程度にやっていました。本庄高等学院に入る前は勉強が一番という生活をしてきて、本庄高等学院に入ってからは書道部と英会話の部活に入っていました。空手は週2回くらい空いた時間に体を動かせればいいかなくらいでした。大学で空手部に入るつもりは全然なくて、ワセダの空手部ってすごいな、という憧れで、本当に入るのを迷っていたんですけど、先生や親に相談したら「道場にずっといたんだから通用するレベルじゃない」と言われたんですけど、憧れが強くて。同期の佐川(商2=埼玉・早大本庄)が同じ本庄高等学院出身なので、佐川経由で連絡してもらって、見学に行きました。その時にみらい先輩を見て「めっちゃかわいい先輩がめっちゃ上手」と思って、「この人に形を教わりたい!」と。去年の主将(末廣哲彦、平29スポ卒=東京・世田谷学園)もかっこよくて、入りました。本当ですよ!
永田 写真で見て、自分も思いました!
猪越 志田未来に似てます。
石川 それめっちゃ言われる(笑)。
猪越 やっぱ似てますよね!『みらい』って名前だし志田未来なのかなと思って。名前は未来だけど苗字違うな、苗字変わったのかなみたいな(笑)。
石川 自分は360日くらいずっと空手してました。今は・・・結構廃れてきてます。高校時代に比べれば練習量も減ったし指導者もいないので、そういう面では苦難というか悩み事が多くて。自分も含めてもっと上達していかなければならない人たちばっかりなのに、教えてくれる人がいないというのが高校の時との一番の差で。そこが大学は違うのかなともったら、ワセダくらいらしくて。他の大学はコーチがついてるんですけど、ワセダは自分たちで考えて自分たちでやっていく。本当に自主性がないとやっていけない、と痛感しているところです。あとは工業高校クラスに女子が一人とか男子校みたいな環境だったので、大学に入ってか男女の比率が同じで。女子の友達をつくることの方が自分は緊張してしまって苦手でした。だから同期もですけど、この二人ともうまく話せるか仲良くできるかすごく不安でした。
永田 お互い気を使ってる感はありましたよね。それがなくなってきました。
――それぞれ違った生活を送っていたようですが、早大入学の経緯を教えていただけますか
猪越 自分は一番初めに知った大学が早稲田大学で、小学校の3、4年生くらいですかね。最初は『早稲田』って読めないじゃないですか。それで親に「ワセダだよ」って教えてもらって初めて知った大学がワセダでした。レベルの高い大学に入れたら良いなとは思っていたんです。高校受験でも本当は県立高校を狙うコースにいたんですけど、塾の先生からお声掛けをいただいて。それを機に高校からワセダに入ってしまうという選択があるのだなと知りました。本庄高等学院の要綱とかを見ているとSGH(スーパーグローバルハイスクール)での英語の交流なども気になるなと思って、ほかの高校に行ったとしても大学はワセダを受けるから、高校で入っちゃおうかなと思って、それで今ここにいます。
永田 自分は小学生の時にあるアスレチックトレーナーの方と出会って、その時にアスレチックトレーナーになりたいと思いました。「留学するの?」と聞かれて、まだ考えてなかったんですけど、「日本で一流になるにはワセダか筑波だよ」と言われた時から目指そうと思いました。自己推薦で空手を使っての入学だったんですけど、空手を使おうとは思ってなくて。実際に入ってもちろん空手を一生懸命やっているんですけど、今は学部の方でトレーナーコースでトレーナーとして海外に行くことも考えているし、自分のやりたいことをしてちゃんとしたトレーナーになりたいので、そういうゼミにも入りました。環境って大事だと思うんですよ。同じところを目指す人がいるだけで、自分も上を目指そうと思えるし、諦めかけたときでも周りにそういう人がいれば頑張ろうと思えるし。大変かもしれないけど、専門の先生がいるゼミにも入ったので。そこは捨てられないというか、
石川 自分はまず大学受験は考えてなかったんですけど、空手をやっていたら空手の先生方に「受験してみないか」って言われて。自分の高校は9割が就職するので、よく分からなくて本当にする気なかったんですけど、たまたま同期に空手で帝京に行くやつがいて、自分もやってみるかくらいでスポ科と社学に絞って受けることにしました。8月くらいまでずっと大会があったので、2カ月で仕上げて一応社学に引っ掛かりました(笑)。学校としては90年で二人目みたいな。表彰もされました。本当はスポ科に行きたかったけど、社学に引っ掛かったことに意味があると思って、ゼミの活動にも熱心にやっています。空手だけではなくそういう面でもワセダを活用していこうと動いています。
「組手と形で尊重し合えている」(猪越)
対談中も笑顔の絶えない猪越
――ことしのチームは
永田 去年より形と組手で分かれることが多いですね。お互いのことはあまり分からないけど、お互い頑張ってるから応援し合う。
猪越 尊重し合えているのはあるよね。
石川 去年は組手にも形をやってた人もいたということで組手からも形に干渉があって、一体感があったかな。指導者がいない分ありがたかったです。
永田 「任せるよ」って感じですね。形は形で自由にお互い試行錯誤して。
猪越 試合前になると組手の広いマットの方を空けていただいて、みんなで見てくれるので、良いかなと思います。
永田 練習は分かれても、どこかでつながるようにしてくれています。お互いを見合ったり、組手の試合の前になると打ち込みをしている周りを形のメンバーが囲んで盛り上げてやっていたり。主将(末廣祥彦、スポ4=東京・世田谷学園)も「組手も形を見て意見を言えるように」と言っていて、意見を言えるってちゃんと見て知ろうとしないと言えないじゃないですか。そういうところで部として一つになるまとまりをつくってもらっています。
――ことしも夏合宿がありましたが、いかがでしたか
永田 成長の場でしたね。
猪越 『観空小(カンクウショウ)』自体が挑戦だったので、合宿でみっちり形をやって、不安だったんですけど、どうにかかたちにして「使えるぞ、使おう」と合宿でできたので。
石川 とりあえずやるしかなかったので、『観空小(カンクウショウ)』に慣れようということで好きにやらせてもらっていたので、自分たちに必要な練習をできた時期であって、その時期としても適正な練習ができたと思っています。だから関東(大学選手権)が良かったというわけではないんですけど、仕上げ方としてはいい順を踏んだかなというところですね。そういう意味で合宿はすごく良かったと思います。
永田 形に集中できましたよね。
石川 変に上から言われたり罵声が飛んだりはなく、「本当に自分でやるしかないんだよ」という自己責任なので結構難しいですけど、やんないと自分は成長できない。やったら成長できる。その二択だったので、差が出る合宿だったかなと思います。
――練習量としてもハードだったのでしょうか
石川 そうですね。詰まってました。 4部練でしたし、内容が濃かったです。
永田 練習、食べる、寝る、練習、食べる、寝る、練習、食べる、寝る・・・。これを一週間繰り返していました。
猪越 しんどいね。一年で一番長い一週間でしたね。
永田 よく寝たよね。お昼寝が多かったです。
石川 次の練習に支障が出ないように。疲れてない状態で次の練習に向かうことはなかったですけど、ある程度休めようと。
永田 雰囲気が大事なので、その面では自己管理しないとですね。そのためにいろいろ持っていきました。筋肉痛を取るためのローラーやサプリメントも。
猪越 代ごとにお風呂に入るんですけど、お風呂でマッサージしてくれまいた。スポ科なんで筋肉に詳しいんですよ。
永田 筋肉痛やケガをなるべくなくすためにね。
猪越 筋肉痛は本当に動けないのを実感して。マッサージした次の日は疲労が少なかったので、マッサージの重要性が分かりました。
――夏合宿から伝統の『ジオン』に代えて『カンクウショウ』へ取り組んだ理由というのは
永田 みらい先輩が高校からやってる形です。
石川 ちょっとやってみようかとやってみたら案外大変だったんですけど。
猪越 学連でやってる人は松濤館だと『ジオン』や『エンピ』が多いので。
石川 その中で埋もれないようにやってみようという感じで。短くて合いやすいし。
――今までやってきたものを捨て、新しいものを始める怖さはありましたか
石川 全くないです。違う形をやることによってできる形が増えることになるとプラス思考でいました。去年は去年で『ジオン』から次行ってみようと。挑戦ですね。
「やり切った全日本にできたら」(永田)
全日本への意気込みを語る永田
――そうして『観空小(カンクウショウ)』で挑戦した関東大学選手権の形は振り返っていかがでしたか
石川 思ったより映えなかったですね。体調が悪いとかではないんですけど、周りの状況をそこまで把握してなかったというか。強いのは分かっていたんですけど、それだけ自分たちと差があるのかという研究をしていなくて。
永田 悪い形ではなくて、自分たちが目指している形はできたんですけど、目指したところが違ったなと。そこのギャップが。ゴールが違いました。自分たちの目標は達成できたんですけど、その目標が違ったから評価が下がってしまった。全日本までは自分たちの形の目標を変えていこうかなとやっているところです。
石川 分かっている人がいるのといないのとではね。自分たちの中でもそれが分かっているのであればまた違うと思います。
猪越 団体形だからタイミングはもちろん合わせなきゃいけなくて、技の面を意識することによってタイミングがちょっとずれることが心配だったんですけど、当日コートに立ったら自分的にはベストを尽くせたかなと思っています。
――昨年は惜しくも全日本出場を逃す結果となりましたが、演武後は涙を浮かべていました。昨年の方が「やり切った」という感じだったのでしょうか
石川 そうですね。去年の方が出来は良くて。
永田 ことしは期待してましたよね。去年より自分たちの中でまとまりあった分、「いけるかな」というのがあったんですけど、去年は本当にギリギリで臨んで当日に一番いい形が打てました。今回も必死さはあったんですけど、追い込まれてる感がありましたね、去年は。
石川 ちょっと余裕があったかもしれないね。形を変えて順を追ってやってきて、前よりいい感じに進んでいることに満足していたなって。
満足しちゃったんだよ。周りも言ってくださって、それはそれで良かったんですけど・・・。
永田 終わった瞬間、「マジか・・・」ってなりました。全然点数上がらないし。
石川 期待しちゃったのかな。途中で満足しちゃいけないと学びました(笑)。
永田 あと、全日本が決まったの気が付かなくて、上位4位までだと思ってたんですよ。点数が出て段階で負けたと思ったんですけど、最後名前呼ばれて「え」って。
猪越 とりあえず返事して一歩前に出て、「なんで呼ばれたんだろう」と。
永田 そこから来る若干のうれしさ。
猪越 不完全燃焼。
石川 そう、不完全燃焼だよ。去年はやり切った感あったよね。
永田 去年はことし2位の駒大と同点でした。でもことし引き離されたんで、悔しいですね。勝負は全日本です。
――全日本後は部にとって大切な早慶戦も控えていますが、こちらはいかがですか
石川 早慶戦は組手が主になってきて、「自分たちが戦おうぞ!」とはそこまでならないんですけど、チームで戦うのが早慶戦のモットーであるので、そこも全日本が終わった後も気を抜かずに。形の演武もあるので、それも向こうには負けないように取り組んでいきたいと思います。
永田 そこ大事ですね。
石川 そこで気が抜けたら組手メンに恥ずかしいからね。
永田 勝負ではないですけど、ワセダの形を相手にもOBにも分かってほしいですし、OBが「良かった」と誇らしげに言っている姿が見たいです。
猪越 全日本のレギュラーではない人も今早慶戦の13人を争ってバチバチやっているのを見て、組手のモチベーションは上がっているなと思います。そんな中、自分たちは全日本に出て満足せず、一週間後に慶大に形を見せつけていきたいと思います。
――それでは、悔いの残った関東大学選手権を受け、気持ちは全日本大学選手権へ向いていますね
永田 関東でダメな部分は分かりましたし、全日本につながる位置に入れたのは良かったです。「もう次は全日本だね」という気持ちになれましたし、関東の経験を踏み台にして、やり切った全日本にできたらいいと思います。
猪越 関東は最低ラインじゃないですけど、ここまでできればいいというかたちで終えて、今は全日本に向けて細かい形を合わせているんですけど、合う部分は増えていると感じます。授業の関係で三人で練習できる時間が短いというのもあるんですけど、一日一日の練習を大切に。日々確実にできることは確実に増えていると思うので、最低ラインからどんどん肉付けして頑張っていきたいと思います。
石川 ことしの大会も最後になるので。このメンバーで形が打てるとは分からないというのもあるので、ことし中にやらなくてはいけないのが11月19日(全日本大学選手権)で、そこで出し切らないと合宿の「良かったね」もなくなります。そういう面では頑張らなければならない目標ですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 郡司幸耀)
皆さんが『大切にしていること』を書いていただきました!
◆石川みらい(いしかわ・みらい)(※写真中央)
1996年(平8)10月8日生まれ。154センチ。群馬・前橋工高出身。社会科学部3年。休みの日の楽しみは、「目覚まし時計を気にせずに寝られること」。後輩二人からも「分かる~」と激しく同意されていました。夏合宿でもたっぷり睡眠をとっていたということで、練習の疲れは相当のものなんでしょうね。
◆猪越優蘭(いのこし・うらん)(※写真右)
1998年(平10)3月27日生まれ。153センチ。埼玉・早大本庄高出身。政治経済学部2年。猪越選手はアルバイトが大好き。日曜日も朝から出勤するほどです。お金をもらうだけでなく、「仕事を通して後輩の育成ができる」とアルバイトの極意を語ってくれました。
◆永田一紗(ながた・かずさ)(※写真左)
1998年(平10)2月20日生まれ。160センチ。茨城・水城高出身。スポーツ科学部2年。対談中は三人の中でも最もよく話してくれた永田選手。形の話、勉強の話、将来の話…。何についても熱く語る姿が印象的でした。