負けられない戦い――。勝負の世界ではよく聞く言葉だが、紛れもなく、今回の戦いはその一つだった。勝てば残留、負ければ降格。崖っぷちの戦いに挑んだ早大は1部2部入替戦で慶大と対戦。1立目は同中に始まり、4立目終了時点で1中差と戦いはし烈を極めた。しかし、両者共に一歩も譲らない激しい戦いを制したのは慶大。敗れた早大は3年ぶりの2部リーグ降格が決まった。
東京都学生連盟リーグ戦(リーグ戦)を全敗で終えた早大は、2部リーグ1位校・慶大との入れ替え戦に臨むことになった。3年前に当時の1部校、慶大を倒して1部リーグ昇格を決めて以来、毎年入替戦では慶大と戦ってきた。過去2回の入替戦では早大が勝利し1部校の座を死守してきたが、今年の慶大は一味違う。8月に全日本学生選手権(インカレ)決勝トーナメントで早大を下すとそのままインカレ優勝。リーグ戦においても的中率で早大を上回るなど、好調を維持していた。試合会場には両校の選手、部員、監督のみならず、OB、OGの方々も応援に駆けつけ、これまでにない緊張感の中、試合が始まる。1立目、早大26中―慶大26中と、全くの同中を記録すると両者はさらにヒートアップ。2立目で早大壱ノ立が4人中3人、弐ノ立は2人が皆中を出し、あわせて29中という過去最高の立ち上がりを見せる。慶大も負けじと30中を叩き出し、早大55中―慶大56中と1中差を追いかける展開になった。
最後までチームを引っ張り、支えた牧山千莉主将(スポ4=千葉)
続く3立目では再び両校共に同じ的中を出したため差は変わらず、迎えた4立目。ここで慶大の24中に対して早大は26中を出し、ついに早大が逆転。手に汗握る1中差の駆け引きは、最終立へと託された。しかし、1部リーグの座奪還を目指す慶大の執念はすさまじく、早大はプレッシャーに押し負けてしまう。壱ノ立が9中、弐ノ立が11中と全体が崩れてしまった早大。最後は慶大に突き放されて結果は早大126中―慶大134中。入替戦敗北と2部リーグへの降格が決まった。
最後は大前としてその背中を見せた西原剛志(スポ4=東京・城北)
「先輩方が1部校として築き上げてきてくれた伝統を自分たちの代で崩してしまったというのは、非常に悔しく、申し訳ない」(牧山)。牧山をはじめとする4年生はこれで引退となる。思えば辛く苦しい戦いの連続だった。練習では出来ていたはずのことが本番では出来ない。6月に行われた全国選抜大会では予選落ちも経験した。リーグ戦が始まってからも勝負どころで崩れ、自ら勝利を手放すシーンもあった。それでも「とても楽しかった」(牧山)と、前向きな言葉で締めくくった牧山。同じくチームを去る西原も「早稲田の良さはチームの一体感。それは自分たちが抜けても続いていく良さだと思う」と後輩の活躍に期待を寄せる。再び1部校の座に返り咲くために。チャレンジャーとしての新しい日々がこれから始まるのだ。
(記事 菊元洋佑、写真 岡すなを)
※掲載が遅くなり、申し訳ありません
結果
壱ノ立
大前 千葉智広(先理2=東京・早大学院) 20射19中
弐的 村上史哉(法2=熊本) 20射12中
落前 大澤暢(創理1=東京・早実) 20射15中
落 黄揚翔平(法4=神奈川・山手学院) 20射17中
弐ノ立
大前 西原 20射14中
弐的 村岡晃輔(文構1=群馬・高崎) 20射13中
落前 宮川晃弥(スポ2=茨城・清真学園) 20射17中
落 牧山 20射19中
コメント
牧山千莉主将(スポ4=千葉)
――今日は終盤までほぼ的中差がつかない試合となりました
的中は見ていなかったので分からなかったのですが、実力的にはほぼ同じで、僅差の試合になるとは思っていたので、1本1本の積み重ねが大切になる試合だと思って引いていました。
――今日に向けて、部内ではどのような声掛けをされていましたか
リーグ戦で実力通りの結果が出せていなかったので、まずは自分たちの弓を引いて、やるべきことをやって勝とうということを声掛けして、意識させてきました。
――2部リーグ降格という結果をどのように受け止めていますか
2部降格ということで、先輩方が1部校として築き上げてきてくれた伝統を自分たちの代で崩してしまったというのは、非常に悔しく、申し訳ないものだと思っています。
――慶大とはどのような相手ですか
本当にずっと当たってきて、大学同士として一番近しい相手でもあるので、一番のライバルだと思っています。
――一年を通じて苦しい試合が多かったと思います。振り返ってみていかがですか。
昨年まで先輩方がチームを引っ張ってくれていて、その先輩方が抜けた穴があったのでまずは選手層を厚くしていかないと思っていたのですが、なかなかうまくいかずに苦労しました。最後の方は後輩たちも頑張ってくれて、チームとしては団結したものになったのかなと思います。
――これで引退となりますが、4年間の大学弓道生活を振り返っていかがですか
1年生の時から楽な試合は1試合もなかったので、毎試合毎試合緊張した中で引いていたのですが、とても楽しかったです。
――来年度の弓道部にメッセージをお願いします
今日非常に悔しい結果を味わったわけなので、この悔しさをばねにして、来年以降1部の座に戻って来られるように、全員が一丸となって頑張ってほしいと思います。
西原剛志(スポ4=東京・城北)
――今日の試合を振り返って
自分にとっては最後の試合になるので、悔いの残らないようにやろうという気持ちで臨んではいたんですが、やはりいざ本番になると緊張してしまったりだとか、なかなかパフォーマンスを出せなかったりと、四年間ずっと課題にしていたものがそのまま試合に出たのかなと思いました。
――今季を通じて、苦しい試合が多かったと思いますが振り返って
やはり僕の代は牧山がずっと引っ張っていたような学年で、それについてこられる人が本当に少なかったし、自分も控えにはいるんですが、牧山のように常に活躍し続けることはできなかったので、彼の代の支柱としてサポートすることが、選手としてできなかったなと思う面もありましたし、苦しい戦いも多かったなと思います。なので、最後まで力を出し切れなかった自分というのが、牧山に対して申し訳ないという思いはあります。
――主要な大会ではメンバーとして出場されていましたが、早大とはどのようなチームだったでしょうか
チームとしての意識はきちんと持てていたのかなというのは自分自身感じています。いい意味でチームが一体感をもって高的中を出すこともあれば、逆に流されてしまって悪くなってしまうこともあるので、チームとしてのまとまりは強かったのですが、そこにまた課題もあったのかなと思います。
――これで引退となりますが、心境を教えてください
中学生の時からずっと続けてきたのですが、終わってみるとまだ終わったという実感がなくて、この結果をどう受け止めたらいいかまだ分からない部分もあるので、それは今後人生の課題じゃないですけど、どうして今日の試合こういう結果だったのかというのは自分の本性というか本質みたいなものが出たので、それは人生的な意味で今後の課題なのかなと思っています。
――今後、弓道は続けるのでしょうか
中高とお世話になった母校もありますし、この大学でも先輩方にお世話になってきたので、恩返しというわけではないですが、顔を出すなどして関わっていけたらなと思いますし、競技者としても続けていきたいなと思っています。
――弓道とはご自身にとってどのような存在ですか
人生の半分を過ごしてきたので、自分にとっては欠かせないものだし、形は変わっても今後一生関わっていくものなのかなと思っています。
――来年度の弓道部にメッセージをお願いします
この早稲田の良さはチームの一体感だし、それは自分たちが抜けても続いていく良さだと思うので、みんなでこの感じた悔しさを出来るだけ忘れないように、そしてチームで一丸となって前に進んでほしいなと思っています。
千葉智広(先理2=東京・早大学院)
――終盤まで差がつかない試合になりました。今日の試合を振り返っていかがですか
最後までずっと緊張感を保ったまま、その緊張のおかげで同じ射を意識して打てたので良い試合だったと思います。
――最後の立で明暗を分けたものは何でしたか
最近の試合では最初はあまり良くなくてそこからどんどん調子が上がっていくという感じだったのですが、今回は最初が良くてそのまま良い形で続けられていて、そこまでよかったのですが、最後失敗して結果126中でいつもと同じような的中になってしわ寄せが来たという感じですね。
――今季、全体的に早大を振り返ってどうですか
個人個人でとても力はあったと思うのですが、チームで引いていく流れというものにとらわれすぎて、自分らしい射をできなかったと思います。
――4年生は今日で引退ですが何かメッセージはありますか
特にはないのですが、4年生に言いたいというよりも、自分の中では自分が皆中して送り出したかったなという気持ちがあります。
――来季は3年生となり、部の中核を担う立場になると思います。何か目標はありますか
今回のリーグ戦で自分の弱点というものが1試合に1本抜いてしまっているということなので、来季そこを詰め切って上級生としての姿を見せられたらなと思います。