【特集】部員4名でも「自分たちにできることを」山岳部新主将対談

山岳

 この春、高い技術力を持った3名が卒業し、現役部員3名と入部予定の新入生1名の新体制となった早大山岳部。少数精鋭のチームを率いるのは、唯一の3年生である岩波健(法3=東京・芝)主将だ。この時期に3年生が最高学年となる部活はほとんどなく、その分不安やプレッシャーも人一倍大きいと思われる。しかし岩波主将は、この部員構成だからこそ「2年計画ができる。自分たちにもできることがある」と前を向いた。1920年に創部された歴史ある早大山岳部を後世につなげるため、時に先輩やOBの力も借りながら新たな歴史をつくりあげていく。それでも部員が多いに越したことはない。経験は問わず、「ちょっとでも山に興味があって、山に一生懸命になれる人」なら誰でも大歓迎だという。山岳部の良いところは「自分で目標を定められるところ」。もちろん部として目指す場所もあるが、ハイレベルかつ全員が同じ方向を向くという体制より、様々な目標を持ったメンバーが集まる部でありたいというのが岩波主将の考えだ。『正解もルールもなく、無限の可能性が広がる大自然のど真ん中で、誰にも真似できない君だけの4年間を描きませんか?(山岳部インスタグラムより引用)』

※この取材は4月18日に行われたものです。

「自分がどこまでできるか試してみたい」

現役メンバー3名とOBの真道虎太郎(令5政経卒)。左から2番目が岩波

――本日はよろしくお願いします。まず、岩波さんの中高時代の部活を教えてください

 山岳部でやっていました。

――山岳を始めたきっかけは何だったのでしょう

 中学のときは何となく始めました。今もなんですけど鉄道が好きで、そういうところに入りたくて、でも中学にそんな部活がなかったんですよ。それで(他のことを)何かやりたいなと思って。野球とかサッカーって小学校からやっている人がやるケースが多くて、実はサッカーはやっていたんですけどそんなにうまくなかったし、またやりたいなとも思わなかったので、他に新しく始められるものはないかなと思って山岳部に入りました。中高一貫校だったので、高校2年生までやって引退して大学受験が終わって、「山楽しかったし大学でも入ろうかな」という感じでここに入りました。

――もともと自然が好きというわけでもなかったのですか

 そうですね。山で一番いいのは下の世界での嫌なことを忘れられるところだと思うので。特段アウトドア派というわけではなくて、どちらかと言えばインドア派です(笑)

――最初の登山で衝撃的だったことなどありますか

 大学はレベルが高いなと思いましたね。(中高とは)全然違います。荷物の重さとか、必要な技術とかはやっぱり違っていて。中高は誰でもできるようなことって言ったらあれですけど、そこまでレベルの高いことはやらずに、山を楽しむことに主眼を置いていますが、大学の山岳部の性質は山を『極める』方に主眼を置いていて、必ずしも楽しいわけではないので…

――では高校生のときは雪山とかは行っていなかったのですか

 あんまり本格的なところは行ったことがなかったですね。触りくらいはしたことはあったんですけど

――1週間こもりっきりということは

 なかったですね。

――そうなんですね。では岩波さんが思う山岳の面白さはどんなところでしょう

 仲間との出会いというのはありますね。あとは山の性質上、競争するようなところではないので、目標を自分自身で設定できるということはいいところかなと思います。例えば野球やサッカーだと大会の優勝とかが目標になってくると思うんですけど、山岳は自分で「こういうことがやりたいんだ」という目標を定めてそれを実行することができるというところが魅力かなと思います。

――今までいろんな山を登ってきて、「山岳やっていてよかったな」と思った瞬間はありますか

 登っている最中は苦しいことが多くて、登り終わって山頂に行ったときはもちろんですけど、一番うれしいのは山を下りてきて、下りた後に自分が登っていた山を見るのが好きですね。こういうところを登ってきたのか、と思うのが結構好きです。

――他の方に聞いても、登頂したときよりも下山したときの方が好きという方が多い印象があります

 山っていうのは、登りより下りの方が危ないんですよ。急な坂を想像してもらえたらわかるんですけど、登るのと下りるのどっちが怖いかって言ったら下るほうじゃないですか。山は事故とかも下りで起きることが多いので、特に厳しい山になればなるほど、山頂に着いたからといってあまり油断はできないんですよね。

――なるほど、ありがとうございます。次に、山岳を経て身についた力などあれば教えてください

 精神力は強くなると思いますね。こんな山ですごい経験をしたんだから、学校でちょっとくらい嫌なことあっても大丈夫かなと思えるようになるとか、そういうメンタル強化にはなると思います。

――逆に大変なところは

 大変なことばっかりですよ。特に今は人数が3人しかいないので、1人あたりの荷物の重さがどうしても重くなってしまうというのと…

――何キロくらいですか

 最近は35くらい、40まではいかないくらいですね。荷物は重い、長い、苦しい、危ない。危険なことも辛いことも本当にたくさんあります。

――途中で帰りたくなったりしますか

 帰りたくなるというよりかは、ここで生き残らなきゃという思いが。自分がリーダーになってからは合宿を成功させないといけないなという使命感もありつつ、大丈夫かなと思うことも正直あるんですけど、せめぎ合いですね。帰りたいという思いは1年生の最初の方に置いてきました(笑)帰れるのは計画を遂行させたときか、どうしようもなくなったときで、疲れたから帰りますは絶対無理だなと。

――それでも山に向かう理由は

 自分がどこまでできるか試してみたいというのと、今山岳部は3人しかいなくて、端から見たらすごい困難な時期だと思うんですけど…実は山岳部には学生連合という組織がありまして、早稲田もそこにいるんですね。自分もそこに委員として行って、他大の山岳部の人たちと交流するとこれが普通なんですよ、大学の山岳部は。私と同級生とか、場合によっては1個上・1個下の人たちが頑張っているんですね。それを見たら、俺も頑張らないといけないなという気持ちが沸いてくるので。苦しいのは私だけではないですし、1人じゃないと思うと辛いことがあっても頑張れるなと。

――その学生連合の集まりはかなり多いのですか

 1か月に1回くらいあってみんなで集まるので、そこで情報を交換したりします。

――「どの山を登った」とかですか

 そんな感じですね。

――技術的なことも

 いや、だいたい大学の山岳部はどこも伝統のあるところが多いので独自というか、形態自体は全然違うんですけど、「どこ行く」っていう目標を話します。あとは山岳部って早稲田だけで行かないといけないわけでもないので、「行きたいルートがあるけどここ(部内)の人とは趣味嗜好が合わないな」っていうときだと、他大の部員さんと一緒に行きますみたいなことをやっている先輩もいますし。そういう大学を超えた繋がりがあります。

――そうやって他大学と関わる中で、早稲田のよさはどんなところにあると感じますか

 去年までは8人いたので、自力で、学生だけで山行ができるというのは早稲田の強みだったんですけど、今はそんなこともないです(笑)ぶっちゃけて言えば山岳部でスキーをやるのは早稲田くらいっていう違いはあるんですけど、そこはあまり私的には強みとまでは思ってなくて。他大学との大きな違いといえばそこなんですけど…訳もないけど自分の山岳部が好きだからやっているというところが大きいです。

――以前、OBからの指導も手厚いということを伺ったのですが、他大と比べて知識量や技術力が優っているということは

 確かにOBの層は豊富ですね。特に今はピカ1の人が集まっていると思うので。でもそれは他の大学にも言えることで、歴史が長い山岳部というとだいたい輝かしい功績を残した代がどこの山岳部にもいるので。結構似ているんですよね、どこの山岳部も。

――あまり特色はない感じですか

 でも早稲田って、あまり自分たちでは自覚がないですけど結構尖っているというか、特色のある山岳部らしいですね(笑)

――尖っているというのは

 尖っているというか、独特らしいです。それはこっちとしては自覚がないですけど、よく言われます。

――どういうところなんでしょう

 技術は大学によって微妙に違うんですけど、早稲田は他大よりもだいぶ違うらしくて。例えばロープの畳み方とか、テントの固定の仕方とか色々あります。1回研修会で明治、慶應、一橋の人と登ったことがあるんですけど、その時も彼らがやっているのを見て全然違うな、と。早稲田流~って馬鹿にされたりします(笑)(その3大学は)系統は似ているんですけど、早稲田は圧倒的に違います。

――この前卒業された先輩方とも交流はありますか

 おととい会ってきました。今部員が少ないので、山行に来てもらったりアドバイスもらったり。真道(虎太郎、令5政経卒)さんは私が1年生の時のリーダーで、小池(崇仁、令5商卒)さんはその1個下で。コーチ・監督は他にもいらっしゃるんですけどあまり一緒に行ったことがなくて、私たちの実情を一番はっきり把握してくれているのは真道さん、小池さんなのでいつも頼りにさせてもらっています。

新入部員募集中!「山に一生懸命になれる人」経験は不問

2年計画を立て、積雪期の剱岳に登ることが目標だと話した

――この前も、先輩方と沖縄にクライミングしに行っていましたよね!続いて、岩波さんの主将としての意気込みを聞かせてください

 今3人しかいないんですけど、みんなで力を合わせて後悔ないように、3人でできることをやっていきたいですね。歴史と伝統があるので、周りから見たらしょぼいことかもしれないんですけど、自分たちにできることをしっかりやって後の世代に繋げたいなと思います。この部を終わらせないためにも頑張ろうと思っています。

――具体的な目標などありますか

 春山が最後なので、ここに行きたいんだ!という目標を立てて、それに向かって努力するという感じでやっています。今の構成って2年生と3年生なので、2年計画が立てられるんじゃないかという話をしていて。大学山岳部が憧れる山として剱岳という山があるので、最後はこれに雪が積もっているときに登りたいんだという憧れはみんな持っていて、それを達成するために2年間かけて頑張ろうという話はしています。

――確かに、4年生がいないからこそできることですね。

 そうなんです。自分たちにもできることがあるんじゃないかなと。

――新入生に向けても一言いただきたくて。途中入部は可能ですか

 何でもありです。

――どういう人に入ってほしいとか、どういう人が向いているんじゃないかとか、あればお願いします

 向き不向きはそんなにないと思っています、基本的に。何か一生懸命やりたいんだという人には来てほしいんですけど、個人的には…先ほどの話にもつながるんですが、山って目標が1つじゃなくていいと思っていて、私の理想としてみんなが同じ方向を向いているような山岳部よりかは、少し視線がばらけていた方が全体としてはまとまりがあるんじゃないかなと思います。山岳部はヒマラヤ志向の人じゃないと、とかハイレベルな人が入ると思われがちなんですけど、ちょっとでも山に興味があるとかそれくらいでいいと思います。やっていくうちに自分の好きなことが見つかると思うので、女子部員でもいいです。さすがに男子ばっかりで入りづらいと思いますが(笑)

――女子部員も歓迎ということで

 女子部員が1人、というのが問題なのであって、ワンゲルさんみたいにたくさんいたら問題はないと思うんですが、その土俵という意味でも鎌形(祐花、法3=千葉・市川)には残ってほしかったですね※。でも今それを言ってもしょうがないので。本当に女子部員でもいいと思います。私は男子なのでわかりませんが、想像を絶する辛さなんだとは思いますが、いろんな部員に入ってきてほしいです。でも最初に目標とか言われても難しいと思うので、山を一生懸命やりたいという人なら。今までの経験はどうでもいいので、山を一生懸命やれる人に来てもらえたらなと思います。

――現役3人、新入生1人の早大山岳部の雰囲気はどんな感じですか

 後輩は2人いるんですけど、あまり後輩という感じはしなくてフレンドリーにやっています。

――厳しい上下関係は

 全然。もはや上下関係はあるのかなという(笑)古いOBから「こんな感じなのか!」って驚かれますね。山岳部は幅が広いので、70歳くらいOBの方としゃべったり飲みに行ったりするんですけど、今はこんな感じだから…当時は先輩が白って言ったら黒いものも白っていう時代、先輩に意見するなんでとんでもないという時代だったので。そういう時代の人から見ると今はもう驚きらしいです。

――でも合宿のときは先輩から怒号が飛ぶと聞いたのですが

 私が1年生のときは怒鳴られていました。でも私は後輩を怒鳴ったことはないです。塾のバイトをしていると、人を怒鳴るという行為にすごい抵抗が。あとは私の考え的に、伝統通りに怒鳴ってできるようになるかと言われたらそこは疑問に思うので、私は基本的に感情を出して怒らないようにしていますね。

――岩波さんの性格は

 争いごととか、雰囲気を悪くすることは好きでないですね。3人しかいないので1人だけ先輩面したらカッコ悪いじゃないですか。というのもあって、同期だと思って接してもらって、でも一応私が1年上なので適切なアドバイスはしつつ、あまり強要はしないようにしています。これがいいことなのかは私もまだわからないですけど、安全のためというならオーソリティーを使って黙らせる方がいいという意見もあると思うんですけど、まずは私のやり方でやってみようかなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 槌田花、写真 山岳部提供)

◆岩波健(いわなみ・たけし)

2002(平14)年6月18日生まれ。175センチ。東京・芝高校出身。法学部3年。2年生の頃から部の広報を任され、弊会の要望にも常に迅速に対応してくださる敏腕クライマー。これからは主将として後輩を束ねつつ、互いに協力しながら目標の山へ挑みます!

※鎌形さんは1年生の頃から、唯一の女子部員として男子部員とともに数多くの厳しい山行に取り組んできましたが、3年生に上がるタイミングで退部されました。体力などはどうしても男女差が生まれてしまいますし、女子部員が1人しかいないという孤独感のようなものもあったと思います。それでも山を愛し、過酷な環境を何度も乗り越えてきた鎌形さんには尊敬しかありません。これからの鎌形さんの新たな道も、早稲田スポーツは応援しています!本当にお疲れ様でした。