現体制で迎える最高峰の舞台である全日本学生馬術大会(全日本)。今年は多くの方面で異例続きといえる年だったが、ほとんどが屋外かつ接近戦がない馬術も例外ではなかった。一時は開催すら危ぶまれた今大会に、早大からは5組が出場。中でも障害馬術競技(障害)と総合馬術競技(総合)では団体を組んでの出場となった。最後の全日本となる4年生が躍動し、障害と馬場で個人入賞を果たした。
まさかの展開となった。競技初日に行われた障害に4度目の出場となった山下大輝副将(スポ4=宮城・東北)は、年ごとに成績を上げ去年は3位入賞も果たしていた。今年こそは優勝と意気込んで臨んだ第1回走行だったが、最終障害を落下させてしまい、減点0の人馬が進出できるジャンプオフへの道が早くも途絶えてしまう。その後、10組の出場者が総減点0で第1走行を終え、失敗が許されない第2走行へ。1年生にして出場を果たした鶴見汐花(スポ1=栃木・佐野日大中教校)や2年生ながらも関東学生で同種目の覇者となった吉田光佑(スポ2・東福岡)がチームを勢いづける。山下もその勢いに乗り、減点0、タイム63.57秒と追い上げを見せた。一方、他大学では減点が相次ぎ、終わってみれば2回の走行を総減点0で終えたのは優勝者の永合(関西大)ただ一人。ジャンプオフは行われず、総減点や走行タイムによって山下が2位に浮上した。山下自身も「ラッキーだった」と振り返る予想外の猛追を見せ、4度目の大舞台で全国2位という輝かしい成績を残した。
ウィニングランで笑顔を見せる山下副将と稲嵐
冷たい雨が降る中で迎えた競技二日目には馬場馬術競技(馬場)が行われ、武井梧右主将(スポ4=東京・東農大一)と吉田が個人で出場した。今年に入ってペアを組んだロッキーロイヤルとの演技を、「大きなミスもなく馬のいいところを少しは引き出せた」と振り返った武井は得点率63.116をたたき出し、見事7位入賞。自身の持つ記録も更新した。馬場、クロスカントリー、障害の三種目で競われる総合馬術競技(総合)は団体を組んでの出場となった。馬場を終えた競技2日目終了時点で、早大の暫定順位は3位。今年で3年目となった山下と稲太郎のペアは、馬が暴れるのを人が「競技に合わせた精神状態に持っていく」ことを長く課題としていたが、今回は「乗っていても危なげなかったし、ペアとして安定感が出てきた」と手ごたえを感じていた。クロスカントリーでは山下が、障害では加えて絹川隆彦(文構4=静岡・韮山)も減点0で完走し、総合は団体成績7位で今年の全日本は幕を下ろした。
馬場で7位入賞を果たした武井主将(写真はジョルジオ・アルマーニとの障害)
武井主将が率いる現チームでの最後の試合である早慶戦までは残り約1週間。4年生はこの試合をもって引退となるが、それぞれの担当馬はそのまま下級生へと引き継がれていく。試合で成績を上げることに加え、馬をなるべくいい状態で次の選手へ引き継ぎたいという思いを口にする選手が見られるのも馬術という競技ならでは。様々な性格や特徴を持つ馬と丁寧に向き合うことで築いてきた信頼関係は、これからの早大馬術部にとっても大きな力となるだろう。
記事 伊藤可菜、写真 坂田実咲、伊藤可菜
結果
全日本学生章典障害馬術競技大会
▽第一回走行
絹川・ゾビオン 2反抗E
鶴見・ガレスター タイム71.16 総減点4
山下・稲嵐 タイム61.47 総減点4
武井・ジョルジオ・アルマーニ タイム72.78 総減点1
吉田・プリンチペスコ タイム94.86 総減点22
▽第二回走行
絹川・ゾビオン タイム68.92 総減点4
鶴見・ガレスター タイム69.91 総減点4
山下・稲嵐 タイム63.57 総減点0
武井・ジョルジオ・アルマーニ タイム74.33 総減点13
吉田・プリンチペスコ タイム69.17 総減点0
▽個人
2位 山下・稲嵐
19位 鶴見・ガレスター
32位 武井・ジョルジオ・アルマーニ
39位 吉田・プリンチペスコ
▽団体
優勝 日本大学
2位 関西大学
3位 同志社大学
6位 早稲田大学
全日本学生章典馬場馬術競技大会
▽個人
7位 武井・ロッキーロイヤル 得点率63.116
21位 吉田・カプチーノA 得点率58.539
全日本学生章典総合馬術競技大会
▽馬場馬術競技
吉田・ビビアンリスト 総得点率61.73 馬場減点38.3
山下・稲太郎 総得点率47.81 馬場減点52.2
絹川・アイシングラー 総得点率59.65 馬場減点40.4
武井・稲翼 総得点率57.89 馬場減点42.1
▽クロスカントリー競技
吉田・ビビアンリスト タイム4分09秒 総減点20.0
山下・稲太郎 タイム3分53秒 総減点0.0
絹川・アイシングラー タイム4分40秒 総減点51.2
武井・稲翼 落馬E
▽障害馬術競技
絹川・アイシングラー タイム61,43 総減点0.0
吉田・ビビアンリスト タイム75.56 総減点22.8
山下・稲太郎 タイム58.47 総減点0.0
▽個人
20位 山下・稲太郎
35位 吉田・ビビアンリスト
37位 絹川・アイシングラー
▽団体
優勝 日本大学
2位 明治大学
3位 専修大学
7位 早稲田大学
コメント
武井梧右主将(スポ4=東京・東農大一)
――今回部で掲げていた目標を教えてください
当初は障害の団体での優勝と、三種目総合で3位以内に入るという目標を立てていました。
――部の成績を振り返っていかがですか
やはり目標を達成できなかったのは残念に思います。でも障害だったり馬場だったりで個人で入賞できたところもあったので、その時点でのベストはみんな出せたのではないかと思います。
――個人では馬場で入賞しました。当初から入賞は狙っていましたか
もちろん狙ってはいました。でも今までは必ず競技中にミスをして大幅な減点があったりして、馬のポテンシャルはあるんですけれど成績に結び付けられていなかったので、今回は大きなミスもなく馬のいいところを少しは引き出せたのかなと思っていて、それが競技成績に結び付いたと思っています。
――関東学生の時にはペアを組みたてという印象でしたが
関東(学生)の試合から何回か競技会に出たりOGさんなどにもご指導をいただいたりして、どうやってロッキーロイヤルに乗ればいいかという部分が少しずつですけれどわかってきたかなと、そういう実感があって今回臨めました。
――早慶戦に向けて一言お願いします
部活全体としては、今4連敗してしまっているんですけれど今年は本当に人馬ともに勝てる組みあわせが揃ってきていると思うので、今年は勝たなくちゃいけない試合だと思っています。個人としては障害と馬場の2種目に出る予定なんですけれど、馬場では個人でしっかり優勝して早稲田の勝利に貢献出来たらいいと思っていて、障害も能力のある馬なのでとりあえずジャンプオフに残って同期の山下とかと競えるようなところに立てればいいかなと思っています。
山下大輝副将(スポ4=宮城・東北)
――今回の大会の目標を教えて下さい
障害と総合の2種目で出るので、馬のレベルを考慮して考えた時に障害は優勝で、総合は入賞という目標でやっていました。
――障害を振り返っていかがですか
今日のパターンはよくあるパターンで、2走行で競う場合に1走行目で1個落として、2走行目で満点というのはしょっちゅうやっていることでした。一回目でいかに満点で帰ってくるかということがポイントで、それができれば2回目も大丈夫という感じでした。内容はあんまり良くなかったですけど、馬が助けてくれた部分も多かったです。最終障害を落としたんですけど最終を落とすと思ってなかったのでそれは少し悔しいです。
――2位という結果についてはいかがですか
もちろん嬉しいですけどびっくりしました。1走行目で今年は例年よりも高さが低いので2走行とも減点0がいっぱいいると予想していました。1走行目で減点4だったら入賞の可能性はあるけどかなり下の方じゃないかというのが僕含めみんなの感覚だったので、2位になると思っていなくてすごくびっくりしました。ラッキーだったと思います。
――総合ではクロスカントリーと障害で減点0でした
馬場が終わった時点では下から何番目って感じだったんですけれど、でもそれはいつもそうで、あとの二つを(減点)0で帰ってきてごぼう抜きするっていうのがいつもの僕と稲太郎のスタイルになっていて、うまくいけばギリギリ入賞っていうレベルなんですけれど。だから僕と稲太郎にとっては障害とクロスカントリーで(減点)0で戻ってくるのはマストで求められる部分なので、それはできたので良かったと思います。どちらも危なげなく帰ってこれたし、内容も雰囲気も結構よかったので、それは満足しているし、いい終わり方だったなと思っています。
――総合の稲太郎とのペアとしての完成度はいかがですか
馬場の完成度でいうと0パーセント(笑)。ですけど障害とクロスカントリ―のみでいえばここ最近毎回やるたびによくなってるし、クロスカントリーも馬がうわあってなってそれを(障害がある方へ)向けて跳ぶっていうやり方で何とかクリアしていたのが、もうちょっと馬が冷静になって、僕自身も見ている人が言っていたのも、安心して見れる走行だった。乗っていても危なげなかったし、ペアとして安定感が出てきたなと思っています。
――長くペアを組んでいる馬だと思いますが、どんどん完成度が高くなっていった印象ですか
完成度は高くなっていると思います。でも結局僕はもうすぐ引退していなくなって、後輩に馬をバトンタッチするわけなので、そういう意味でも馬の状態は良くなっているからいいバトンとして渡せるかなと思っています。
――早慶戦にむけて一言お願いします
全日本の結果を見ると慶応より早稲田の方が良かったりして、普通にやれば絶対に勝てると思うんですね。だから普通にやって勝つ、という目標です。
吉田光佑(スポ2・東福岡)
――今回(障害)はどのような目標で挑まれましたか
団体も個人も優勝する予定で来たのですが、うまくはいかなかったです。
――第一走行では減点が多かった印象でしたが
第一走行はやはり、自分が緊張してしまっていつもの馬のポテンシャルを引き出せなくてああいう結果になってしまって本当に申し訳ないです。
――第二走行では減点なしでしたが、気持ちの切り替えなどありましたか
第二走行では気持ちが吹っ切れて緊張もなく力も抜けてたので、それが結果に繋がったのだと思います。
――去年も同大会に出場されました。去年に比べて、ご自身で変わった部分や成長したと思われる部分はありましたか
去年も同じような結果だったのでやっぱり成長してないなと思いました。また、来年に向けて一年しっかり練習したいと思います。