【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第23回 大澤佳純/馬術

馬術

努力の日々

 昨年、全慶応義塾対全早稲田定期戦(早慶戦)で完全優勝を果たした早大馬術部。3年ぶりに雪辱を果たして全種目完封という劇的な勝利を手にした。それは主将として部員を率いた大澤佳純(教=神奈川・桐蔭学園)なくしては成しえなかった。最高の引退試合で競技生活に幕を閉じた大澤に迫る――。

 馬術を始めたのは小学5年生の時。既に馬術を始めていた兄に「負けたくない」と興味を持ったのがきっかけだった。それから中高時代は少年団で週末に馬術を練習する日々。そうして馬術を続けていく中で馬術部の強い早大に入学することを決意する。強さはもちろん、学生が主体で活動しているため、実力のある先輩から直に教えてもらえるという早大馬術部の特色にも魅力を感じたという。

引退試合となる早慶戦でワセダを勝利へと導いた大澤

 ワセダでの4年間は、まさに努力し続けた4年間と言える。入部した当初は自分の実力を付けて部に貢献したいと考えていた。1つ上の先輩である畠山聖(平27スポ卒)にさまざまな試合に連れて行ってもらうことでトップレベルを肌で感じ、1年生からたくさんの大会経験を積んで充実した競技生活を送る。「どの試合でも『よかった』と思える試合はなかった。常に自分の弱さや詰めの甘さを振り返っていた」と語るように自分に厳しく部活に打ち込んでいた。

 その意識が少し変わったのは主将になった時だった。「経験者と未経験者がライバルのような関係になってほしい」。馬術競技を大学から始めた未経験者と、大学入学以前から続けている経験者の間に意識格差が生まれてしまいがちな部の雰囲気を変えたいと思ったのだ。部員みんなが馬術部に貢献してほしい。しかし、その道のりは険しいものだった。「人対人は、馬対人よりも難しい」と語った大澤。主将としての1年はたくさんの苦労を要した。その中で大澤が出した答えはやはり、まず自分が頑張ることだった。自分が周りの部員の目標になれるように、誠意をもって馬に接すること。そうでなければ指示を出す相手にも納得してもらえない。主将として、言葉だけでなく背中でも語るという筋の通った姿勢がうかがえる。そして、もう1つ大澤が主将として心がけていたことがある。努力した分だけ報われるという環境をつくることだ。具体的には未経験者の部員が出場することのできる試合を費用が出せる限り増やして、部員全員の意識を高めた。「未経験者の中から全日本(学生選手権)に出られるような選手が出てほしい」。大澤はそう願っている。

 理想の馬術部のため、常に考え行動した大澤。それを支えていたのは、入部当初からあった、誰よりも努力しようという信念だった。真摯(しんし)に馬に、そして人に向き合ったその姿は、まさにリーダーの鑑だ。そしてその姿勢は新主将である北原侑一郎(教3=東京・早稲田)に託される。あえて未経験者を主将に選んだその真意には、この1年間の大澤の主将としての姿勢にも通ずるものがあった。「一番周りを見て人を動かせる人が誰かと考えた時に、北原だった」。大澤の熱い思いは、新体制となった馬術部にも受け継がれていく。

(記事 吉田安祐香、写真 稲満美也)