【連載】2015年度インカレ開幕特集『舞い上がれ』 第4回 小倉佳祐×高橋一矢

体操

 今回登場するのは共につり輪を得意とするこの二人。跳馬の全日本王者という印象が強いがつり輪も得意とする小倉佳祐(スポ4=千葉・習志野)と高校生のつり輪のタイトルを総なめにしてきた高橋一矢(スポ1=岐阜・中京)。そんな二人につり輪に対する思い、そしてインカレへの意気込みをうかがった。寮の同部屋でもあり、仲のいい二人が繰り広げる絶妙な掛け合いをお楽しみください(笑)!

※この取材は8月11日に行われたものです。

「点数を出さないことには意味がない」(小倉)

小倉

――ここまでの今季の試合を全体的に振り返ってみていかがですか

高橋 トライアル(全日本種目別選手権トライアル)は結構自分の思い通りに演技できて、通過順位も予想通りだったんですけど、種目別(全日本種目別選手権)では自分の最高の演技ができなくて悔しいです。なので、次のインカレで頑張りたいと思います。

小倉 今まで跳馬だけは出てたんですけど、春先から6種目での試合をすることがあまりなかったんです。1~3年生はずっと春にケガをしていて。ことし初めて春先に(6種目)演技した割にはまとまった演技ができているし、東インカレ(東日本学生選手権)の出来はあまり良くなかったんですが、自分的には今シーズン悪くない試合運びが今のところできているので、このまま何事もなくできればいいなと思っています。

――小倉選手はことし、世界選手権日本代表の補欠に選出され、代表合宿にも参加されたと思いますが、他の選手から刺激は受けましたか

小倉 刺激はすごく受けますけど、正直に言うとやりづらかったです。

高橋 自信を持ちましょう?

小倉 うるさいよ(笑)!お前があの場に行ってみろよ(笑)!

高橋 まあ、ガチガチですよね(笑)。

小倉 しかも跳馬があまり練習できていないんです。時期的にはインカレもあるし、跳馬よりも他の種目の強化を優先していました。アジア選手権や世界選手権もありますが、出場できる可能性は低いので自分の中で優先順位を変え、インカレに照準を合わせていました。ロペスハーフ(※跳馬の技。ことしのNHK杯で小倉が日本人で初めてこの技を成功させた)も種目別が終わってから全然練習していないですし、ロペスの着地を止めにいく安定性と他の種目の強化をずっとやっていました。

――日本代表選手でよくお話しする方は

小倉 アジア選手権で結構みんなと話せるようになったんですけど、日体大の長谷川智将と白井健三、(習志野高校の後輩の)萱和磨(順大)ですね。

――アジア選手権に帯同して感じたことはありましたか

小倉 (外国人の選手は)強い選手はいましたけど、改めて日本レベルの高さを感じましたね。(ケガで棄権した)内村航平さん(コナミ)や長谷川が出ていなくても余裕で勝ってるし。強いな、って思います。

――お二人は種目別でつり輪に出場されていましたが、改めて振り返ってみていかがですか

高橋 単純に僕はまだまだ力が足りませんでした。上位の選手と比べて、一個一個の技のキレや安定感っていうのが未熟だったということを改めて思い知らされた試合でしたね。

小倉 謙遜するね(笑)。(昨年高校生の大会でつり輪を)三冠してなかったっけ?

高橋 (三冠)しましたけど、大学生や社会人は違いますよ。高校生とは全然質が違います。厳しい世界だなと実感しましたね。

小倉 代表合宿の時にも種目別での演技のことを指摘されました。力技を終えてからの停滞している時間とか、力技自体のキレだったり、倒立の姿勢とか。全日本個人総合選手権で点数出た方が珍しかったと思いますね。種目別予選に出られただけ良いと思いますけど、決勝に残って点数を出さないことには意味がないので。代表の補欠には入りましたが、代表に入るのだったらつり輪もしっかりやっていかないと、というのはありますね。

――日本人で初めてロペスハーフを決めたNHK杯の大舞台はいかがでしたか

小倉 楽しかったです。あとケガしなくて良かったです。

――手応えはいかがでしたか

小倉 跳馬では名が知られているし、自分の納得のいく演技が一応できたので、NHK杯は、立てて良かったって思うくらいですかね。ね?

高橋 見てないですけどね(笑)。応援に行けなかったんですもん。小倉さんのロペスハーフ、僕まだ一回も見てないですから(笑)!

小倉 ワセダ体操部の男子は誰も見てないっていうね(笑)。

高橋 (NHK杯と種目別決勝の時)僕たちは練習でした(涙)。

――跳馬の全日本王者が身近にいることで刺激を受けることはありますか

高橋 ありますね。

小倉 嘘つけ(笑)!

高橋 嘘ではないですよ(笑)!小倉さんは自分にストイックで、つり輪の力技の補強も人よりやる方なんです。すでに強いのにさらにやるんですよね。僕も見習って、少しでも近づけたらなと。

小倉 さっきから棒読みだよ(笑)?

高橋 頭の中でいい言葉を見つけようとしてるんです(笑)!でもそうやって自分に厳しく練習する姿勢は見習っていきたいなと思いますね。

――小倉選手はロペスハーフをインカレで跳ぶ予定はありますか

小倉 ないです。インカレはロペス一本でいきます。今後機会があればロペスハーフを使おうと思いますが、まだ団体戦で使うレベルではないです。

高橋 ケガが怖いですもんね。

小倉 ケガもそうですし、ロペスハーフは失敗する可能性が高くて、ロペスで安全策をとった方がいいと思うので。チームとして自分がしっかりやらなきゃいけないことはやっていきたいと思います。

――東インカレで演技する先輩を見て何か感じたことはありましたか

高橋 一番思ったのは、チームの中に自分がいないことが悔しいってことです。そのときに、インカレでは絶対団体メンバーに入ってチームの中で演技して結果を残せたらいいなと思いました。

――大学生の試合の雰囲気は見ていていかがですか

高橋 高校の時も応援がすごいチームはあったのですが、大学の試合はその比にならないくらいの声量だったり、ピリっとした雰囲気がありました。高校の時とは違った環境になるので、自分の中で試合に向けての心意気や気持ちの作り方を変えていかなきゃいけないと感じました。

――東インカレでは団体4位でした。改めて振り返ってみていかがですか

小倉 内容はあまり良くなかったです。良かったのは藤原(昇平主将、スポ4=埼玉栄)くらいですかね。自分と岸本(邦秀、スポ3=兵庫・市尼崎)、近藤(宏紀、スポ2=福井・鯖江)、竹中(貴一、スポ2=福井・鯖江)はもっと点数を取っていかないといけないのにミスをしたので点数が伸びませんでした。このままでは勝てないな、と思いましたね。

――そのときのチームの雰囲気はいかがでしたか

小倉 盛り上がっている感じではなかったですね。全員がまとまっている感じがあまり感じられなかったです。チームでやるからには一つにならないと勝てないと思うので、インカレまであと少ししかないですけど、藤原を中心に一つになれたらいいなと思いますね。

――お二人が思うつり輪の魅力を教えてください

高橋 めっちゃかっこいいこと言いましょうか。「静と動の調和」です。

小倉 うるせーよ(笑)!それテレビでよく紹介されてるやつだよ(笑)!

高橋 そうです(笑)。

小倉 日本人ではあまりいませんが、振動技から力技がぴたりと止まるところが魅力じゃないですかね。

高橋 だから、「動と静の調和」。

小倉 それ言いたいだけだろ(笑)!

一同 (笑)。

――高橋選手は今までのインタビューからもつり輪への自信がうかがえました。その自信の根拠はどこからきているのでしょうか

小倉 三冠(笑)?

高橋 実績もあるんですけど、高校生活全体で(つり輪の)トレーニングに力を入れていたので、その練習量ですかね。他と比べたことがないから分からないけど、日本で一番トレーニングしてるんじゃないかなって。練習量では負けないっていう、思い込みといえば思い込みですけど、そういうのが結果につながっているのだと思います。

――つり輪の練習では、どのようなところを意識していますか

高橋 力技の姿勢ですかね。体操を初めて見た人でも、変な格好をして力技をしている人と、山室光史さん(コナミ)のように完璧な姿勢で演技している人の違いはすぐ分かるじゃないですか。パッと見て、「あ、この人強いな」と思われるような演技をしたいと思っています。小倉さんはどうですか。もしかして僕、全部言っちゃった(笑)?

小倉 演技後半の力技の意識しかしてないです、ずっと。あとは、倒立の姿勢が悪すぎるので、直したいと思って練習をしているんですけど、成果はなかなか表れないです。力技の姿勢は、高橋が言ってくれたのでいいかな(笑)。

――練習中はお互いにアドバイスをしますか

高橋 僕が中水平をちゃんとした姿勢で止まれるようになったのは、小倉さんに教えてもらったというのが大きいです。トライアル前に色々教えてもらいました。

小倉 そのせいで僕は(点数で)負けたんだけどね。

高橋 そのおかげで、小倉さんに勝たせていただきました(笑)。恩を仇で返す、という(笑)。

――具体的にどのようなアドバイスを受けたのですか

高橋 今までは腕の力だけで輪を押さえていて、パワーだけでやろうとしていたのですが、ちょっとした手の握り方だったり、力の入れ方を変えるだけで楽になって姿勢も変わってきたので、そういうところですかね。

小倉 僕は、最後の降り技を(高橋に)教えてもらいました。高橋のルドルフはワセダの中で天下一品なので、僕だけじゃなくて他の部員も参考にしています。

――先輩にもよくアドバイスしているのですね

高橋 先輩といってもチームメイトなので、お互い強くなっていかなきゃいけない関係ですし、その辺りの遠慮はなるべくしないようにしています。自分が持っている知識や技術はできる限り教えて、全員で強くなれたらいいなと思っています。

「起爆剤のような存在になれたら」(高橋)

高橋

――高橋選手は入学されてから少し経ちましたが大学生活には慣れましたか

高橋 はい、もう慣れましたね。

――高校と大学での練習の違いなどは感じていますか

高橋 高校の時は監督が、こういう風にしたいから、こういう練習をして、こういう演技をしなさい、という感じで組み立てられたかたちの練習だったり演技をしていたんですけど、大学では自由というか、良い意味で自己責任というか、自分で考えて組み立てて練習する感じですね。当然コーチや監督の意図もあるけど。かなり自分らしく体操ができているんじゃないかなって思います。

――小倉選手から見たことしの1年生の印象はいかがですか

小倉 まあ個性的ですよね。真面目なやつがいたり、真面目なようでふざけてるやつがいたり。

高橋 単なるバカって言いたいの?

小倉 いや、そこまでは言ってないって(笑)。

一同 (笑)。

――逆に高橋選手から見た上級生の印象はいかがですか

高橋 みんなとにかく優しいですね、全員が全員。良い意味で上下関係があまり厳しくないというか、関わりやすいし、練習中とかもアドバイスを聞きやすいですし、みんな頼れる良い先輩ですね。

――体操部内でライバルはいらっしゃいますか

高橋 そうですね…。僕は今自分が取れる点数と同じくらいの選手が3、4人いるので、その人たちには負けないようにしたいと思っていますね。

小倉 あんまりライバル心は持っていないですね。一人はレベルがすごく高いし、自分と同じようなレベルとそれより下の人もいますが、その人たちは自分が持ってないものを持っているし、その人たちにはなくて自分にあるものもあります。自分と同じタイプがあまりいなくて、戦い方が違うと思うので、ライバルというよりはみんなで高め合う感じですね。

――他大学で意識している選手はいますか

小倉 あまり意識しないかな。

高橋 同期がやっぱり強いので。健三(白井健三、日体大)だったり、和磨(萱和磨、順大)だったり、航(谷川航、順大)とか千葉健太(順大)とかはやっぱり強いので。なんとか彼らに追いつきたいなっていう思いでやっています。

小倉 俺ら大体一緒だよね。同学年に手が届かない選手が多いっていう感じだから。

高橋 届きますよ。

小倉 うるせーよ(笑)。

高橋 僕は届きます。

小倉 頑張って。

高橋 頑張ります。

小倉 常に負けてるけど。

高橋 まあ、こっからっすよ。まだまだ先はあるから!

小倉 そんなねーよ。

高橋 うん(笑)。まあ3年か。なんとか大逆転できるように頑張ります!

――趣味などはありますか

高橋 趣味体操、特技体操みたいな男ですから。

一同 おおー!

高橋 作りたいなとは思うんですけどね。高校の時も体操ばっかりで。

小倉 趣味って感じでもないですがふらっと食べに行くことはあります。

――体操部で流行っていることはありますか

高橋 恋仲(フジテレビ)がアツいです。きのうも岸本さんと叫びながら見てましたね。

「粘って粘って通し切る」(小倉)

笑いが絶えないトークが繰り広げられた

――インカレが直前に迫っていますが、お二人のコンディションはいかがですか

小倉 二人ともよろしくはないですね(笑)。

高橋 事実をお伝えすると、きのうちょっとやっちゃって。でも、大丈夫です!元々ヘルニアを持っていてごまかしながらここまでやってきたのですが、きのうまた脚に力が入らなくなっちゃって。でも、きっと大丈夫です!

小倉 何を根拠に(笑)。

高橋 あした注射を打って、きっと治るから大丈夫!インカレは、その辺りは心配せずに応援してもらえたらなと思っています。

小倉 僕は試合や合宿が詰まっていたので、ずっと疲れていて。アジア選手権から帰ってきた翌日の練習は死んでたね(笑)。

高橋 平行棒で頭から落ちてましたね。本当に死んだかと思った…(笑)。

小倉 意外と生きてたね(笑)。

高橋 良かったです。

――現在のチームの雰囲気はいかがですか

小倉 団体メンバーが決まっていない割には雰囲気はいいと思います。

高橋 雰囲気はいいです!楽しいです!

――正式なメンバーはいつ決まるのですか

小倉 会場練習の日(19日)に監督会議があるのでそこで決まります。ここまで決まらないのは異例ですね。インカレ1か月前くらいには例年決まっていました。

――昨年のインカレは小倉選手にとってどのような大会でしたか

小倉 守りにいったので全体でのミスが一個しかなかったのですが、逆にそれしか点数が取れなかったっていう捉え方もできるのかなって今なら思うんです。順大や日体大は守りにいっても点数が取れますが、守りにいって3位に入れないっていうのは、自分たちは攻めていかないと3位にはたどりつかないのだと思います。

――最後のインカレとなりますが、特別な思いはありますか

小倉 そんなにないかな。いつも通りです。

高橋 ええっ(笑)!

小倉 だってさ、そこに思い詰めてもしょうがないでしょ?

高橋 そうですね。いつも通りやりましょう(笑)!

小倉 いつも通り、楽しくやるだけです。藤原と1年生からずっと団体で戦ってきて、最後の最後で二人で3位取れたらな、と思いますね。

――高橋選手は大学生として初めて出場する団体戦ですが、心境を教えてください

高橋 不安は当然あります。大学での試合は僕が一番経験がないので、先輩方の足を引っ張ってしまうんじゃないかな、という心配もあります。でも逆に、昨年惜しくも3位に入れなかったところに僕が入って、起爆剤のような存在になれたらいいなと思っています。

――今は特にどのようなところに力を入れて練習していますか

小倉 あん馬と平行棒です。全体での安定性が異常なほど低いので。藤原が一番安定して通していて、他のメンバーは調子次第という感じです。個人的には、跳馬はいつも通りやって、平行棒をどうやって乗り切るかっていうのがポイントです。鉄棒はいつも通りやる、ゆかはなるべく着地まで止めにいく。あん馬は1、2年生で苦い思いをしているし昨年はDスコア(技術点)を落としたんですけど、ことしはきちんと上げても調子がいいのでこのままできたらな、と思っていて。つり輪は種目別から難度を落としているのでEスコア(出来栄え点)をしっかり上げていくって感じですね。

高橋 安定感ですね。絶対に失敗しないということが前提であって、その上で着地は必ず止めるとか、平行棒で手をずらさないとか、あん馬で足を擦らないとか、細かいところまで意識して減点されないようにしたいです。

――団体戦ではどのようにチームに貢献していきたいと考えていますか

小倉 自分はEスコアが稼げる選手でもないので、雰囲気を悪くしないように粘り強く、粘って粘って通し切り、次につなげることを意識していきたいです。

高橋 自分ができる最高の演技をして後ろの人が気持ちよく演技できるようにすればチームの雰囲気も自然と上がってくると思います。ただ楽しいだけで終わっても意味がないので、結果が残せたらいいなと思います。

――お二人の演技のアピールポイントを教えてください

小倉 粘り強いところです。

高橋 自分がこだわりを持っているつま先とか着地とかを意識して練習してきたので、そこを見てもらえればいいかなと思います。

小倉 アピールポイントはローチェとゴゴラーゼでしょ?

高橋 あ!アピールポイント、ゴゴラーゼだ!あと、つり輪の着地はうまく止めるので見ていてください!

――最後に、インカレへの意気込みをお願いします

小倉 最後だから、という感じじゃなくて、ずっと練習してきたことを本番で出すのと、ワセダの一員として目指してきた団体3位の目標を達成したいと思います。

高橋 絶対条件として団体3位に入る、ということです。その上でU-21日本代表に入ったり、つり輪は種目別でいいところまでいけると思っているので狙っていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 大浦帆乃佳、大森葵)

笑顔がはじけるツーショット!

◆小倉佳祐(おぐら・けいすけ)(※写真右)

1993年(平5)12月27日生まれ。身長158センチ、体重54キロ。千葉・習志野高出身。スポーツ科学部4年。寮の同部屋でもある高橋選手と絶妙な掛け合いを見せてくださった小倉選手。お二人の仲の良さがうかがえる対談に、早スポ部員も笑いが絶えませんでした。最後となるインカレでは、日本代表合宿などを経験し一回りも二回りも大きくなった姿に注目です!

◆高橋一矢(たかはし・かずや)(※写真左)

1996年(平8)10月9日生まれ。身長158センチ、体重53キロ。岐阜・中京高出身。スポーツ科学部1年。世界で活躍している同世代の選手たちがライバルだという高橋選手。「大逆転できるよう頑張ります」と力強く答えてくださいました。インカレでもルーキーらしい若い力でワセダを団体3位へと導いてくれるはず。今後の活躍にも目が離せません!