連載3回目は、早大体操部の副将を務め、ことしが最後の全日本学生選手権(インカレ)となる嶋津尚弥(スポ4=和歌山・田辺工)と早大体操部としては数少ない一般受験での入学である山岸拓十(スポ3=福井・鯖江)のお二人。境遇が違う両選手にインカレへの思いをうかがいました。
※この取材は7月29日に行われたものです。
「チームを引っ張る」(嶋津)
インカレに向け闘志を燃やす嶋津と山岸(左)
――まずインカレに向けて意気込みをお願いします
嶋津 チームで目標としている団体3位を狙えるように必死で練習しています。個人では2日目に決勝進出するというのが大前提で、一つでも順位を上げたいです。また、種目別であん馬とつり輪では入賞したいです。
山岸 個人の試合が団体の前にあるので、審判にことしのワセダは強いぞというイメージを見せたいです。また、自分の目標としている点数を達成したいです。
――きょねんとことしでモチベーションに変化はありますか
嶋津 最上級生なので気を引き締めてチームを引っ張っていきたいです。
山岸 上級生になったので、今までは先輩についていくという感じでしたが、ことしはチームをけん引する意識でやっていきます。
――演技や難易度に変更点はありますか
嶋津 つり輪の降りをC難度からD難度に変更しました。平行棒では新しい技を取り入れました。以前入っていた技を抜いて、技術点としては変わっていないのですが、失敗せずにできるのではないかなと思います。
山岸 跳馬の技を一回ひねりから二回ひねりに変更しました。難易度も上がるのでぜひ成功させたいです。
――緊張しやすいタイプですか
嶋津 はい。体に力が入って硬くなってしまうので、リラックスできるようにしています。ふざけた話をして気を紛らわせて楽しく試合ができるように心がけています。
――集中力を高める方法は
山岸 演技で手を上げる直前に自分のする演技のポイントを確認してイメージトレーニングをしています。
――日頃から体調管理の面で気をつけていることは
嶋津 毎日、朝7時に起きて夜12時に寝るというルーティーンを心がけています。
山岸 食欲がないときでもきちんと食べるようにはしています。寮に住んでいるので、栄養を考えてもらっています。
――寮生活で大変なことはありますか
嶋津 大変だと感じたことはないです。常にまわりに誰かいるので楽しい空間に過ごせています。
――一人になりたい時間などはありませんか
山岸 それは考えたことがないです。試合前もみんなでワイワイしていた方が好きです。
――誰と同部屋なのですか
嶋津 松田(祐太、スポ3=埼玉栄)です。松田はきれい好きなので、ゴミを捨てていなくても勝手に捨ててくれます(笑)
山岸 同期の藤原(昇平、スポ3=埼玉栄)です。特にストレスにはなりません。
――得意としている種目の魅力は
嶋津 あん馬ではあまり失敗しないタイプです。落ちそうになっても少し粘ればすぐに元に戻せる、という安定感があん馬の魅力だと思います。
山岸 平行棒には倒立をする場面が多くあって、一つ技をするたびに倒立が入ります。そこが魅力ですね。自分は姿勢がきれいな方なので、きれいな倒立をアピールできたらいいなと思います。普段から姿勢には気をつけています。
――苦手な種目はありますか
嶋津 床や跳馬などの脚力を使う種目が苦手です。脚力はあるのですが、ひねりの感覚がなく、空中だとどこにいるのかわからなくなってしまいます。みんな三回ひねりをやってくる中、自分は二回ひねりで、できて二回半です。
山岸 自分は力がない方なので、つり輪が苦手です。つり輪はほとんどが力で決まります。
――刺激を受ける選手は
嶋津 小学生の時から一緒に練習してきた、順天堂大学の、昨年のインカレで日本代表にも選ばれた同期の柴田(快輝)です。大学は別々ですが、同じ環境で練習してきたので、そこで頑張っている姿に刺激を受けます。
山岸 中学生の途中から高校生まで一緒に練習してきた、日体大の岡順平選手です。ナショナル選手に入って世界で活躍するような選手なので、見習って頑張っていきたいです。
――体操以外のスポーツには興味はありますか
嶋津 スポーツ全般をよく見ます。広く浅くという感じです。
山岸 体を動かすことが好きなので、大学の実技の授業は楽しいです。今まで取った中ではバスケットボールの授業がおもしろかったです。
――体操と学業の両立はしていますか
嶋津 自分の中では必死に頑張っています。
山岸 割とできていると思います。
――今回のテストはどうでしたか
嶋津 英語がとにかく苦手で、自信はないです。
山岸 上々でした(笑)。3年になってテストの数が減り、1つのテストにかけることのできる時間が増えました。
「学業と部活動の両立がしたい」(山岸)
ワセダへの思いを語る山岸
――スポーツ推薦の人が多い中、一般受験で部に対応するのは大変でしたか
山岸 スポーツ推薦の人は入部してからあいさつをするのですが、自分の場合は高校の先生が土屋監督(純、昭61年教卒=県長野)にお話して下さり、3月から練習に参加させてもらっていたので、スムーズに部活に慣れることができました。
――一般受験の苦悩はありましたか
山岸 自分はセンター試験を受けたのですが、周りがスポーツ推薦だったので、焦りや不安はありました。
――ワセダを志した理由を教えてください
嶋津 インターハイが終わって、土屋監督から連絡があり、ワセダに行くことを決意しました。
山岸 どうせ勉強で入るのだったら、学業と部活動を両立できる大学が良いと思ったので。
――ワセダの良いところは
嶋津 ワセダは体操をする環境が良く、少数ながらみんなで考えてやっているので、刺激し合えます。
山岸 ワセダの体操部は他大に比べて一般受験の人も多く、違った環境を持つ学生が集まってみんなで体操をする、というのが魅力です。
――新入生を迎えられて、部の雰囲気はいかがですか
嶋津 雰囲気を盛り上げてくれて、やんちゃなんですけど(笑)。元気な新入生が入って、部がちょっと明るくなったかな、と思います。
山岸 スポーツ推薦で入った2人が自分と同じ高校から来たので、負けたくない、と思う面で刺激を受けます。
――部員全体で遊びに行くことはありますか
嶋津 年に1回くらいです。きょねんは全員で川に行ってバーベキューをしました。
――お互いの印象は
嶋津 自分の髪はめちゃめちゃまっすぐなので、彼の髪はふさふさしていてうらやましいです。
山岸 うらやましいっていうのは初めて聞きましたね(笑)。
嶋津 割といつも思っています(笑)。
――お二人ではどういった話をしますか
嶋津 共通している技は、こうした方がいいんじゃないか、などと話しています。
山岸 練習中も世間話をしたりしてます。
――体操の練習の雰囲気は明るいですか
嶋津 日によって様々ですが、練習が3日間続いたりすると、疲れているので雰囲気が暗くなることはあります。ですが基本は明るく楽しくできるように心がけています。
山岸 できるだけ声を出すようにしています。最近では試合を想定して練習しています。みんな緊張感を持ってメリハリをつけてやっていると思います。
「全種目終わるまで気を抜かずに」(嶋津)
最上級生としてインカレに臨む嶋津
――話を変えますが、体操を始めたきっかけは
嶋津 自分が小5のときに二つ上の兄が中学校の体操部に入部し、ジュニアの練習についていっていたら、入るつもりはなかったのですが気が付いたら入っていました(笑)。
山岸 小1のときに、町内のラジオ体操に行ったときに、同じ町内の体操クラブの先生が公園の鉄棒で逆上がりを教えてくれて。できるようになったのがうれしくて、数日後から体操クラブに通うようになりました。
――ご自身のターニングポイントは
嶋津 一番大きな心境の変化は、インカレ直前に大腿骨を骨折したときです。必死にリハビリをして治して、また体操ができるという喜びを感じました。ケガをする前と比べ、もっと気合いを入れてやらなければ、という思いが強くなりました。
山岸 自分はワセダに入ったことがターニングポイントです。高校は推薦で入ったので、続けて行くのが当たり前だったのですが、大学では自分がやりたいと思って体操をやっているし、大学の部活としてやっている、というように考えが変わりました。
――やめようと思ったことはありますか
嶋津 中学校に入るあたりにやめようと思いましたが踏みとどまりました。兄も必死に頑張っているのを見ていたので、踏みとどまることができました。
山岸 高校のときは生活的につらかったです。朝練も朝早くからあったので。手首のケガをして練習が出来なくなった時期もあり、つらかったですね。
――印象に残っている大会はありますか
嶋津 昨年の全日本団体選手権では3年生で4種目に出場したのですが、そのうち3種目大きな失敗をしてしまい、予選落ちの原因ともなりチームに迷惑をかけてしまって悔しかったので印象に残っています。
山岸 大学に入って初めて出させていただいた大会である、1年のときのインカレです。試合筋といって、本番では普段より調子が上がると言われているので、自分は1年のときは練習でよく失敗をしていたのですが、インカレでは試合筋で成功するだろう、と思っていました。でも、結果はボロボロで。それから、練習でできていないことは本番でもできないのだ、ということを身を持って感じました。
――これまでを振り返っていただきましたが、インカレへ向けて一言、お願いします
嶋津 大学生として最後の試合なので、後悔のないようにチームとの協力ができたらいいかな、と思います。演技では失敗することもあるとは思いますが、全種目終わるまで気を抜かずに終えることができたらいいなと思います。
山岸 練習も数える程しかありませんが、一日一日の練習でできる限りのことをして、ケガには注意して、気持ち良く終えたいです。
――最後にご自身の座右の銘を教えてください
嶋津 「臥薪嘗胆」です。これはいつも土屋監督がおっしゃっている言葉です。自分としては、試合で悔しい結果が残ったとしても、その気持ちを忘れずに次の試合につなげる。そしてこれからも体操を続けていくかは分からないですが、その気持ちは社会に出ても役に立つ、という意味だと解釈しています。
山岸 「泣いて終わる」です。本当に一生懸命練習をやってきた人しか、試合の結果が良かったとしても悪かったとしても涙を流せないので、その涙を流せるくらい一生懸命練習しろ、という意味です。でも、この言葉は馬場コーチ(亮輔、平18年人卒=埼玉栄)がおっしゃっていたので、まねになってしまうので、「賢い体操」にします(笑)。
――ありがとうございました!
(取材・編集 寺脇知佳)
座右の銘を色紙に記しツーショット
◆嶋津尚弥(しまづ・なおや)(※写真左)
1992(平4)年11月20日生まれ。162センチ、58キロ。和歌山・田辺工高出身。スポーツ科学部4年。最後のインカレということもあり、意気込みは並大抵ではありません。その気持ちを起爆剤にインカレでは存分に力を発揮してください!
◆山岸拓十(やまぎし・たくと)(※写真右)
1994(平6)年2月6日生まれ。168センチ、58キロ。福井・鯖江高出身。スポーツ科学部3年。一言一言言葉を選んで話しているところが印象的でした。大舞台で泣いて終われるように日々体操に取り組んでいるそうです。