【連載】インカレ直前特集 第1回 小倉佳祐×浅野佑樹

体操

 連載初回を彩るのは、全日本種目別選手権(種目別)の跳馬でことし2連覇を果たした小倉佳祐(スポ3=千葉・習志野)、早大体操部の次なるエースとして期待され、種目別の跳馬で入賞経験を持つ浅野佑樹(スポ2=東京・明星)の二人。両選手にとって跳馬とはどのようなものなのか。そして全日本学生選手権(インカレ)への思いを語っていただいた。

※この取材は7月30日に行われたものです。

全日本2連覇

全日本2連覇への気持ちを語る小倉

――今季の試合を全体的に振り返ってみていかがですか

浅野 いまのところはいい試合ができていないので、インカレではしっかりと自分なりの演技ができたらいいと思っています。

小倉 僕は東インカレ(東日本学生選手権)に出ていないので、試合をやったのが千葉県の国体予選だけでしたが、いい試合ではなかったし、ちゃんと試合したのは種目別の跳馬だけで、毎年同じような感じだなと(笑)。

――今回種目別の跳馬で2連覇されたということで、改めて気持ちを教えてください

小倉 1年生の時に(2連覇を)達成できなくて、今回世界選手権の基準とかもあったのですが、そこは狙わず、2連覇だけを狙いにいったので、素直にうれしかったですね。

――その先輩の姿を見てどう思いましたか

浅野 すごいなと思ったのと同時に、僕もしっかりやっていかなきゃ、と思い、いま必死に頑張っています。

――種目別の決勝で、跳ぶ直前の待ち時間はどのようなことを考えているのですか

小倉 うーん。入りのことを考えて、着地など、その時によりますね。きょねんは後半の最初の演技者だったので、とりあえず立たないとどうしようもない、と思ってそこだけを考えてやっていました。ことしは前の3人が失敗して、立つことができれば大丈夫、余裕があったら着地を狙いにいこうなどいろんなことを考えています。自分でもよく分からないですけどね(笑)。実際のところ何考えているんだろうな、っていう(笑)。

――人生であの瞬間ほど集中することはなかなかないですよね

小倉 僕の場合、集中しているように見えて集中していないことが多いと思いますよ(笑)。

――意外に色々なことを考えたりしているのですか

小倉 1年生の時、ことしは2連覇だし、みんなから応援されている。優勝しないとまずいな、と深く考え込んでしまったら失敗したので、そこからは試合を楽しむことを心掛けて、自分にプレッシャーをかけないようにしています。試合前は他の種目を見に行き、あの人の演技はすごいな、みたいな感じで楽しんでいますよ。試合前普通にゆか見に行ったりしていますし(笑)。ああ、あの人の演技上手だな、とか考えたり。いつも通りやればいいだろ、じゃあ他の人見ようかな、と思っちゃいます。

浅野 さすが、日本一は考えることが違いますね(笑)。

小倉 そんなもんだよ(笑)。

浅野 僕はできないです(笑)。

――浅野さんは、他の選手を見に行ったりしないんですか

浅野 見に行こうとはしているんですけど、結構ガチガチになるタイプなので、緊張して周りのことは見えなくなりますね(笑)。

一瞬にすべてを懸ける

丁寧に質問に答える浅野

――お二人はいつ頃から跳馬が得意になったんですか

小倉 一応中学3年の時からそこそこできるな、という意識はありましたね。そして高1の冬で、高校生はあまりやらない技ができるようになって、そこから自分は跳馬が得意だなと思うようになりました。

浅野 僕はもともと跳馬が好きで、ずっと跳馬は練習するのが楽しいなと思っていて、小学生くらいから比較的6種目の中では好きな種目でした。

――跳馬の魅力はどういうところにあると考えていますか

浅野 一瞬で終わってしまいますが、その一瞬で気持ちをすべてぶつけるのが楽しいです。

小倉 迫力がある、というところが一番の魅力だと思います。あと鉄棒とかも、迫力はありますが1個の技でボンっとやるところが跳馬の魅力だと思います。他の種目だとたくさんの技があって、ここもすごい、あそこもすごい、という感じになってしまいますが、跳馬は本当に1本しかないのでその1本をバシッと決められるじゃないですが。そこが魅力だと思います。説明しづらいですね(笑)。

浅野 でも、やっていて楽しいですね。

小倉 え、そう?(笑)。跳馬をやっているときは、楽しい!という感じはないな(笑)。

浅野 確かに、佳祐さん、跳馬をやっていて楽しいってあまり言わないですもんね。

小倉 何だろう。本当は他の種目の方が自分的には好きなんです。たまたま跳馬が得意で、みんなからすごいと言われるけど、好きだから得意なわけではないです(笑)。どちらかというとゆかの方が好きで力を入れていたのですが、ゆかのひねりの動きが得意になって、それでたまたま跳馬がはまったという感じです。

――跳馬が得意な人ってどういうところが他の人と違いますか

浅野 一般的に見たら足が速い人は、余裕で跳んでいる感じはしますね。全日本クラスになると、だいたい足が速い人ばかりですね。

――確かに、足が速いと助走とかも違ってきますね

小倉 でも全速じゃないんですよ、跳馬は。7割くらいで走って、ロイター板をちゃんと踏んで蹴れたらいいという感じで、足が速い人は7割とかでも速くなるからそれだけ力が変えられるけど、僕はもともと全力は速くないので、本当に合わせにいってるという感じですね。足だったら浅野のほうが速いですよ。迫力がある(笑)。

浅野 ドタドタドタって(笑)。

――練習中とかお互いにアドバイスしあったりするんですか

浅野 僕は結構佳祐さんに聞きにいきますね。ここはどうでしたか、みたいな感じで。ただ、やっている技が違うということもあって、なかなかかみ合わないこともあるんですが、参考になることもいっぱいあります。

――どういったアドバイスをされるんですか

小倉 そんなするっけ?(笑)

浅野 いまの入りはどうだったか、とかは見てもらった方がよく分かるので聞きにいきます。

小倉 基本的にロイター板を蹴ってから、跳馬台につくときのことぐらいしか言わないですね。あとはなるようになれという感じで(笑)。距離や高さなどは、自分よりあると思うので。入りがうまくなれば、ドリックスだけでなくロペスも跳べるだろうし、自分より足が速いので、もっとうまくなると思います。

浅野 入りが苦手で、全然できないんですけど。

――ロペスなど新しい技に挑戦したりしないのですか

浅野 練習では挑戦することもあるんですが、コーチからまだ危ないから、温存してくれという感じで止められていて。たまにやると、怒られちゃうんですけど(笑)。

――今後試合で使う可能性はありますか

浅野 はい。もちろん!使っていきたいな、と思います。

――尊敬している選手はいますか

小倉 尊敬とは違うけど、憧れの選手はことし世界選手権代表に選ばれた順天堂大の野々村笙吾かな。クラブが一緒だったので、高校は別なんですけれどずっと一緒にやってきて、見ていて本当にうまいな、と思います。憧れですね。

浅野 ドラグレスクは大好きです。

小倉 そこまでいっちゃう?(笑)。

浅野 誰々のこの瞬間に見た技がかっこいい、とかはあるんですけど、人として考えるとそうなっちゃいますね(笑)。というよりも、僕は1人にあまり決めないですね。たくさんの人の良いところを集めていきたいタイプです。なので崇拝っていう感じの人はいないですね。でもやっぱり、ドラグレスクは好きですね(笑)。

――跳馬にドラグレスという技があると思いますが、その技をやってみたりしないんですか

浅野 やりたいです。やりたいですけど、命が何個あっても足りないですね(笑)。

苦難を超えてインカレへ

仲の良さがうかがえた小倉と浅野(左)

――ずっと体操を続けてきた中で、何かターニングポイントなどはありましたか

浅野 中1の時に手首をけがして、手術しなければならなくなり、そこから手術まではすぐだったんですけど、リハビリで3年間使ってしまって、中3まで体操できない期間があったので、そこで手を使わないことをしなくてはいけなくて。具体的に言うとゆかのトランポリンバージョンみたいなものをずっとやっていました。楽しくはなかったんですが、結果的に今ゆかや跳馬である空中感覚はトランポリンで培ったんじゃないかな、と思っています。精神的にはつらかったです。毎日10時間くらい電気を当てて、アイシングも1日4回くらい行っていました。仲間がいたので絶対に続けなければいけない、という感じでやっていましたね。

――やめたいと思わなかったんですか

浅野 やめたいというか続けていていいのかな、という風に考えていました。団体のメンバーには、中学校の大会だと4人必要で、そこに入れてもらっていて。ケガでできない種目があるのにこんな僕がやっていてもいいのかな、とずっと悩んでいましたね。

小倉 中学校の時はクラブの練習がつらかったのと、一緒にやっていた野々村がどんどんうまくなって自分との差が開いていくので、これは努力しないとどうしようもないと思い中学までは続けて高校ではやめようと思っていました。ですが、クラブのコーチから続けたらどうかと言われて、野々村と別の高校に行くことで何かが変わるかな、というのもあったし先生に怒られることも少なくなるだろうと思い、高校まで続けることにしました。そこで違う先生に変わって、そこの先生との相性が良く、そこでどんどん伸びていくことができて、いまに至る感じです。いまとなっては、やめなくて良かったと思っています。

――インカレまで1カ月を切っていますがどのようなことを考えていますか

小倉 いまのところ団体に入っているので、失敗しないでチームに貢献できるようにするのと、毎年跳馬にしか残っていないので、ことしは個人で残りつつ、できればU-21日本代表を狙っていきたいと思います。

浅野 僕も団体のメンバーに入っているので、しっかり貢献できるようにミスをしないで、さらに質もしっかり高めて、具体的には84.2を取れればいいな、と思っています。

――とても具体的ですね(笑)

浅野 そうですね(笑)。その点数がぎりぎりU-21日本代表に入るんじゃないかな、と思っている点数でもあり、決勝に残って戦うには最低それくらいはないと話にならないと思っていて、そこは一つの目標点として、しっかりと取れるように頑張っていきたいと思います。

――インカレが終わったらやりたいこととかはありますか

浅野 とりあえず国体の関東ブロックがありますからね。そこに焦点を合わせ直します。そこでは新しい技に挑戦しちゃおうかな、と思っています。

小倉 それで予選落ちとかするなよ(笑)。僕はとりあえず、体を休めないとやっていけないので、きちんと練習はしつつ、自分の疲労回復をメインに、オフシーズンはやっていこうと思っています。

――インカレに向けた練習状況や、調子の上がり具合はいかがですか

浅野 最近調子が悪くて、いま技を抜くかとかも結構考えていたりしています。技を抜くことは試合直前でもできるので、いまは練習はやっているんですが、自信がつかないのでちょっときついな、という感じです。1か月切っているいまの状況では良いコンディションとはとても言えないですが、ここからしっかり調整して頑張りたいです。

小倉 最近はミスをしないで、チームの中では点数を取っているので、結構いい方だと思います。技を抜いているっていうのもあるんですけど、その分気持ちに余裕ができている、というのもあります。団体のあん馬は失敗できないからね(笑)。

浅野 申し訳ないっす(笑)。

小倉 でも、浅野はけがでできないあん馬以外は点数を取ってくれるので、いまは調子が悪いですが、インカレまでに間に合わせてくれないとチームとしても結構困ります(笑)。

浅野 プレッシャーが…(笑)。

――お二人とも、様々な状況の中での試合だと思いますが、最後にインカレの向けての意気込みをお願いします

浅野 ミスがないように徹底した演技をこころがけて、完成度を高めることで、しっかりと団体に貢献したいと思います。

小倉ことしのインカレは、昨年のリベンジということで、ミスのない演技と個人で決勝出場、U-21日本代表に入ることを目標としています。跳馬の3連覇はおまけという感じです。そこを考えたらまた失敗するかもしれないので。自分は無難で失敗のない演技をすることを心掛けて臨みたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 中村ちひろ)

最後はツーショットを頂きました

◆小倉佳祐(おぐら・けいすけ)(※写真右)

1993(平5)年12月27日生まれ。157センチ、52キロ。千葉・習志野高出身。スポーツ科学部3年。種目別では雪辱を果たし2連覇を達成しました。これからは跳馬だけでなく全体の種目でレベルを上げ、世界で戦えるように努力していくそうです。

◆浅野佑樹(あさの・ゆうき)(※写真左)

1994(平6)年11月24日。164センチ、62キロ。東京・明星高出身。スポーツ科学部2年。誰よりも声を出し、チームの士気を高めている浅野選手。インカレでもチームを盛り上げ、個人、団体ともに力を出し切れるように頑張ってください!