【連載】早慶レガッタ直前特集『ONE』対校エイト:船木豪太主将×川野柊

漕艇

 ここからは対校エイトに出漕予定の選手にインタビューしていく。まず登場するは、チームを牽引する船木豪太主将(スポ4=静岡・浜松北)と川野柊(法4=東京・早大学院)。川野はC(コックス)、船木はB(バウ)として、対校エイトを艇の前後から支えている。そんな対抗エイトの柱である4年生二人に、対抗エイトについて詳しく伺った。

※この取材は3月24日にオンラインで行われたものです。

責任感を持つようになった

船木は主将を務めている

――船木選手が主将に就任されてから、5ヶ月ほどが経過しています。この期間で意識にどのような変化がありましたか

船木 今まで下級生であった頃は先輩が練習メニューの立案であったり、どのように運営していくかについて考えてくれていました。いざ自分が運営する立場になった時に一番変わったことは、自分がまず見本となるような、後輩に示しがつくような行動を取らないといけないと感じるようになったことです。挨拶1つ取ったにしても、そうした基本的なところは絶対に疎かにしてはいけないと責任感はより一層強まった気がしています。競技面においても、僕はそれほど積極的にクルーを盛り上げるといいますか、引っ張るような感じではなかったです。ですが主将となって、どのクルーに乗っていても、こういう風にやっていこうと自分から示さないといけない立場になったことも大きな変化かなと感じています。

――川野選手もチーフコックスに就任されたことで何か意識の変化等はありましたか

川野 僕は正直特に変化はなくて。早稲田大学漕艇部は選手1人1人の自立というか個性を重んじながら、それぞれが自立してやるということを目標の1つにもしています。やはり、コックス自体の人数が少ないというのもありますし主将に比べたら業務がそんなにあるわけではないのですが、変わったところで言えば責任を持つようになりました。ちゃんと後輩の責任を取れるかどうかというところは意識してやっています。

――チームをまとめる立場になったお二人から見て新チームの雰囲気をどのように感じていますか

川野 コロナ禍ということで寮からの外出はなるべく控えるようにということで1年間やってきました。ストレスがかかることもあると思うのですが、僕からすると寮の中で生活する時間が増えたことで、部員同士がより密にコミュニケーションを取るようになったと感じています。より一層の団結感というか、例年以上にお互いに先輩、後輩、男女関係なくコミュニケーション取れていると感じます。

川野 新チームになってからというわけではないのですが、ここ最近はすごくボートに真面目な選手が増えたかなという印象があります。特に今年の新チームは今まで所属していた中で、一番ボートに真面目というかボート馬鹿が多いなと感じています。1人1人がボート好きで、本当にボートについて考えている時間が長いなという選手が多いのでその点はかなり楽しみに感じています。

――特に、ボート好きだなぁと感じる選手はどなたですか

川野 三浦くん(三浦武蔵、商3=山梨・吉田)とかはボート大好きで、ずっとボートの動画を見ていたりとかしていて(笑)。阿部くん(阿部光治、スポ3=愛知・猿投農林高)も日本代表候補者なのですが、ずっとストイックに海外の動画を見ていたり、ボートが本当に好きだなぁという印象があります。

自分だけが頑張っても艇は進まない

対校エイトのコックスを務める川野

――川野さんの務めるコックスとは、どういった役割を果たすポジションになりますか

川野 コックスの役割としてはボートの方向をコントロールしながら、漕いでる選手たちにどういったポイントで練習をするかということや、どういったところを合わせて船をより進めていくかを指示します。時には選手のモチベーションアップにつながるような鼓舞をしながら0.1秒でもボートを前に進めるためのポジションとなります。特に早慶戦では3750mと距離が長いので、どれだけ選手がポジティブに集中力を発揮できるかというところにフォーカスして、練習をしています。

――コックスとして普段はどのようなことを意識して練習をされていますか

川野 特に僕が乗っている対校エイトの漕手は上手な選手が多いです。ただ逆に個性が強い選手もいるので、その個性を殺さないためにも、ダメなものはダメと言わずに、とにかく褒めることを意識してやっています。

――川野選手がコックスというポジションを選んだきっかけや理由を教えてください

川野 僕は高校からコックスをやっていたので、自然と大学でもコックスをやろうということになりました。高校時はあまり部活を頑張ろうという感じではなく、一番コックスが楽そうなポジションだからということで選択しました(笑)。ただ、自分の中で魅力的に感じるところもあって、どんどんボートにのめり込み、気づけば今も続けているという感じになっています。最初の動機としてはあまり良くないものですね(笑)。

――川野選手をのめり込ませたコックスの魅力とはどのようなものでしょうか

川野 自分だけが頑張っても船は進まないのがコックスです。自分に力があっても進むわけではないですし、1人だけに声がけをしても進むわけではないです。しかし、選手一人一人の思いをつなげられた時や、自分が分析していたことが選手に発信できたりすると、選手がまとまり船も速くなります。そういう終わりがない目標に向かって進むところという点が、魅力的に感じています。

――続いて船木選手に伺っていきます。出場予定のポジションであるB(バウ)とはどのような役割を果たしているのかポイントについて教えてください

船木 ボート競技は進行方向において漕手は後ろを向きに座って漕いでいます。コックスとバウというポジションは唯一クルーの中で全体を見渡せるポジションです。ですので練習の時もレースの時も、みんなが漕いでいるところを視覚的に見てフィードバックを後ろからすることが一番の役割だと思っています。また、一番後ろから「いけるぞー」と鼓舞することでクルーのまとまりも出ると思うので、単に技術的なことではなくクルーの全体のモチベーションを、練習の時もレースの辛いところでも積極的に後ろから声を出して盛り上げていくことが役割だと思っています。

――バウとして練習をしていく中で大変なことや課題などは何かありますか

船木 バウというポジションは唯一漕手の中では全体を見渡せるということなのですが、逆に言えば自分は誰からも見られていないポジションとなります。コックスはバウの漕ぎを見ることができるのですが、エイトになると進行方向に対して一番先頭に乗っているのはバウで一番後方に乗っているのがコックスになるので一番見にくい感じになってしまいます。そのため、どうしても他人からの指摘というものをもらえなくて、唯一マネージャーが撮ってくれていたビデオを見ながら自分の漕ぎを確認するぐらいしかできません。漕いでいる時のリアルタイムで、外からコーチが指摘してくれることももちろんあるのですが、なかなかもらいづらい状況です。自分で本当に気をつけて意識して練習していかないと、いつの間にか変な癖がついてしまっていたりするので、そこがバウの難しいところかなと実感しています。

誰にでも可能性が秘められている

――新歓や早慶レガッタの広報についてお伺いします。まず新歓についてです。例年以上に新歓に力を入れていると伺いましたが、お二人から新入生に伝えたいことはありますか

船木 ボート競技は日本だとまだマイナーな競技で、知らない人が多いと思います。ただボート競技は大学生から始めても日本一になる人もいるし、世界で活躍する人もいます。オリンピック選手の中にも、大学からボートを始めたという人がいるほど可能性が秘められているので、今までと違うスポーツをやってみたいという人や大学から活躍できるスポーツを探している人がいたら、強くオススメしたいです。

川野 ボートはすごく素朴なスポーツで、同じ動作をずっとしているんですよ。野球に例えるとバッティングを永遠にしているみたいな。素朴が故に、ちょっと不器用であったり、いろんなスポーツにチャレンジしたけどうまくいかなかったという人でも、がむしゃらに不器用な努力でも花咲くスポーツです。どんなバックグラウンドがあっても、自分が頑張れば面白いと感じられるスポーツなので、そんな経験をしてみたい方がいれば体験に来て欲しいです。

――初心者から始める方はどのくらいいますか

船木 学年によってバラバラなんですけど、各学年に1人は絶対いますね。新3年生の代は多くて6、7人います。全体で10人はいます。

――早慶レガッタの様々な広報活動をされていますが、特にどのようなことを広く知って欲しいですか

川野 ボートは奇妙な形をしているんですけど、日が昇る早朝に練習することもあって、写真映えするスポーツだなと思います。ぜひ、いい写真を使っていただいて、惹きつけていただきたいです。

船木 今年は残念ながら無観客での開催なのですが、一生懸命マネージャーを中心に、早慶レガッタを盛り上げようとTwitterやInstagram、TikTokもやっているので、少しでもそれをみてくれると嬉しいですし、本番もライブ配信を見ていただきたいです。

強みは個のこだわり

荒川で練習する対校エイト

――対校エイトの中心になるお二人に対校エイトについて詳しく伺っていきます。今年の対校エイトの強みと課題は、どのような点でしょうか

船木 強みは何と言っても、個のこだわりですかね。対校エイトに乗っているメンバーはそれぞれ自分の哲学、信念を持っています。クルーは結局一つにまとまらないといけないですが、それを規制するような形でまとめるのではなく、それぞれのいい所を拾い最終的にそれが一つにまとまればより大きな力になると思っています。練習も監督がメニューをつくってくださいますが、(メンバーが)「プラスでこういうことをした方がいいんじゃないですか」って言ってくれるんですね。それを聞いて、「そういう目的だったらやった方がいいね」と実際に練習に取り入れることもあります。水上の練習以外でもクルーで集まって練習のビデオを見ながらお互いに意見を出し、高め合っていることが強みだと思っています。一方で課題点は、対校エイトはコックス含めて9人ですが、そのうち最上級生が僕と川野の2人しかいないんです。昨年中止になって、3年生以下は隅田川で漕いだ経験がない選手です。普段の(練習している)戸田ボートコースとはコンディションが違って、波が大きく漕ぎにくいコンディションの中でやらないといけないので、初めて経験する人がいかに対策し、漕ぎ切ることができるかが課題となっています。そのためにも、普段から少しコンディションが悪い中でも安定した漕ぎができるようにやっています。

川野 強みは、船木も言ったように個のこだわりが強いので、勝利への執念というよりは、ボートを一番速く進めるんだという気持ちが強いところです。自分は、1位になるためには相手に勝つためにはどうするかという世界しか見えていなかったんですが、「俺たちが最速になる、もっと高いところを目指す」と高いモチベーションを持って取り組めていることが強みです。逆に課題は、隅田川の経験が浅いクルーなので、今のところ波への対処が課題かなと思っています。隅田川は結構波があるので、いかに高い波の中でも平常心でいつも通りの漕ぎができるかというところが課題です。

――船木主将は、早慶レガッタ前回大会で第二エイトとして出場されていますが、その経験を踏まえて周囲にはどのようなことを伝えていますか

船木 2年前のレースは今思い出しても悔しくなるくらい、慶大に離されて負けてしまいました。レースが終わった後、クルーのミーティングで一人一言ずつ話さなくてはならなかったのですが、あまりにも悔しくて、、、自分が不甲斐なく何も言えなかったということを今でも覚えています。レースは勝った瞬間にやっと満足していい、ホッと一息ついていいのかなと思います。どれだけクルーの仕上がりが良くて勝てると思っていても、絶対に油断してはならないと感じます。一昨年もあれほど差をつけられて負けるとは練習中では思っていなくて。どこか気の緩みがあったのかなとすごく反省しています。現在対校エイトは順調にブラッシュアップしてここまでこれていますが、だからこそ基本のところを忠実に。これくらいで大丈夫だと思わずに、万全に準備して狙っていくというのはクルー全体にも言っていますし、自分にも言い聞かせてやっています。

――本番までどのように準備されていきますか

船木 本番まで隅田練習という実際に隅田川で練習するのが全部で3回あり、そのうち2回は実施しました。2回の中でたくさん課題が見つかっています。4月3日に最後の隅田川での練習を予定しているので、そこまでに本番と同じような漕ぎで3750㍍通せるための練習をやっていこうと考えています。3回目でも課題は出ると思いますが、最後の2週間でその課題をなるべく潰して本番臨んでいけたらと思います。

川野 高い波、漕ぎにくいコンディションへの対策として一番大切なのが、いかに基本に忠実にできるかだと思います。応用を利かせるのではなくて、いかに基本に忠実にボートの原則から外れずにやっていけるかというところで反復練習をして再現性を高めていくのが良いかなと思っています。

――先ほど、「対校エイトは順調に仕上がってきている」というお話がありましたが、どのような点でそのように感じられますか

船木 隅田川を制するにはレートという1分間に何回漕ぐかが大事で、そのレートをいかに高い数値でキープできるかというのが一つ鍵になっていると思います。現在の対校エイトは、1回目の隅田川の練習ではこのレートで漕げるように頑張ってみよう、2回目の練習ではこのレートでという目標を立ててやったのですが、おおむね2回ともその目標をクリアできています。それは例年に比べても高い想定というか、1回目の隅田川の練習では去年そこまで出ていなかったようなレートをあえて目標にしたのですが、しっかりとハイレートで漕ぎ通すことができました。そこはうちのクルーの強みでもあるし、うまく仕上がってきている部分なのかなと思います。

川野 慢心はしてはいけないのですが、シンプルにスピードが出ている点で順調さを感じています。もう一点は、僕は7年間ボートをやってきた中で、練習の調子が上下してしまい良い成長曲線が描けないことがあったのですが、今回のクルーに関しては、全員がかなり高い集中力でポジティブに取り組めています。毎日、一歩一歩確実に階段を登るかのように成長曲線が描けているので、その点ではかなり順調かなと思います。これからも成長できるクルーなのかなと感じています。

昨年の中止を乗り越えてーー

――第90回早慶レガッタに込める思いを教えてください

船木 昨年第89回早慶レガッタが新型コロナウィルスの影響で中止になってしまいました。当時4年生の先輩方は集大成としてやっていたので、僕自身も中止と聞いた時は行き場のない悔しさを感じましたが、4年生はもっともっと悔しかったと思います。第90回が何とかコロナ禍でも開催できるように今進めてくれているので、開催できることに感謝しています。それと同時に、昨年レースができなかった先輩の前で恥ずかしいレースはできないです。何が何でも先輩たちの思いも含めて勝ちにいくという気持ちでやっています。

川野 僕は中高が早大学院だったので、大学まで合わせると10年間エンジ色に染まって生きてきました。人生のほぼ半分を早稲田で過ごしてきたことになります。早稲田への思い入れが強いと同時に、慶應に勝ちたいという思いも10年分あります。高校時代に早慶レガッタの高校部門に出させていただいたんですが、その時は実力が足らず、コテンパンにやられてしまいました。大学に入って初の対校レースということで、ようやく借りを返せる時が来たという感じです。早稲田としての誇りを持って慶應を倒します。

――では最後に意気込みをお願いします!

川野 僕自身4年前(早慶レガッタの高校部門出場時)に負けた借りを返すという意味を含め、慶應を圧倒したいので、これからの早稲田のためにも今年の早慶レガッタは圧勝して終えたいと思います。

船木 昨年レースができなかった先輩への思いももちろんですが、コロナ禍で例年以上に開催運営が難しい中で一生懸命少しでも多くの人に早慶レガッタに興味を持ってもらおうとマネージャーが頑張っているのが伝わっています。だからこそ恩返しと言ったら格好つける感じになってしまいますが、いいレースをして勝利することが彼らにとっても1番嬉しいことだと思うので、頑張ります!

――ありがとうございました!

(取材・編集 樋本岳 高橋さくら 後藤泉稀 写真 早大漕艇部提供)

◆船木豪太(ふなき・ごうた)(※写真右)

1999(平11)年10月20日生まれ。174センチ、78キロ。静岡・浜松北高出身。スポーツ科学部4年。クルーの柱である船木主将。一昨年の早慶レガッタで味わった悔しさが一つの原動力になっているといいます。昨年レースできなかった先輩への思いや大会運営に奮闘するスタッフ陣への感謝を込めて、頼れる主将が覇者・早稲田に導きます!

◆川野柊(かわの・しゅう)

1999(平11)年12月24日生まれ。169センチ、55キロ。東京・早大学院高出身。法学部4年。基本に忠実になることが大事だと、勝利へ必要なことを冷静に分析する川野選手。早稲田を背負って10年目の男がその集大成として、慶應を圧倒してくれるでしょう。映える写真は任せてください!