【連載】令和2年度卒業記念特集 第7回 藤田彩也香・安井咲智/漕艇女子

漕艇

Progress with Crew

 藤田彩也香(スポ=東京・小松川)と安井咲智(スポ=東京・小松川)の小松川コンビが卒業する。実に高校から7年間にわたり切磋琢磨してきた2人は、3度の全国大学選手権(インカレ)優勝を達成。今年度は藤田が主将、安井が副将を務め、コロナ禍に直面した部をまとめてきた。2人が歩んできたキセキをここに。

 数々の記録、記憶に残るレースをしてきた藤田・安井だが、その中でも特に熱かったレースが2つある。まずは、2年生で迎えたインカレだ。安井はリベンジ、藤田にとっては初めての出場となった、舵手つきクォドルプル。この時、クルーを統率するコックスを務めたのは、同じ小松川の大先輩、澤田夏実(平31スポ卒=東京・小松川)だった。2人の漕艇人生の先駆者である澤田先輩に「金メダルをかけさせたい」(安井)と、より気合が入っていた。
その舵手つきクォドルプルは、インカレ総合優勝のかかった絶対に負けられないレースとなった。だが中盤までリードを許す展開に。残り250m。コックスの澤田から、今までに聞いたことのないコールがかかった。このコールで、藤田・安井らクルーの真の力が目を覚ます。「船が一気に進んだ。」(安井)ぐんぐんと差を縮め、、、結果は、0.41秒差の劇的大勝利。澤田先輩への恩返し、そして総合優勝の座を取り返した、最高の勝利となった。

3年生のインカレでも舵手付きクォドルプルで優勝を果たした

  そして4年生でのインカレ、舵手なしクォドルプルも忘れられないレースとなった。20年度はコロナ禍に見舞われ多くの困難があった。それでも、1年ぶりの試合となった全日本選手権は社会人を相手にする中、舵手なしクォドルプルで3位に入賞。それから2週間後のインカレで、藤田・安井は舵手なしクォドルプルで最後のレースを迎えていた。
だが風の影響もあり、安井がリズムを生み出せずプラン通りのレース運びができない。残り500mになっても他大にリードを許していた。このまま終わってしまうのかーー。いや、2年生でのインカレも最終局面でひっくり返し優勝した。だからこそ「最後まで諦めなければ勝てる自信があった」(藤田)。一番後ろに座る藤田、宇野聡恵(スポ3=大分・日田)から必死のコールがかかる。「このコールがかかった瞬間って全員が出さなきゃいけない瞬間だ」と、一番前で漕ぐ安井もクルー全員の気迫を背中で感じた。気持ちが完全に一致。スピードが一気に変わる。ラスト200mで追いつき、、、わずか0.15秒差で優勝を勝ち取ったのだった。

インカレを終え笑顔の舵手なしクォドルプル

 「コールをはじめ、自分がどうしようもない時に真正面からぶつかってくれた。一番本音で話してくれるのが藤田だった。」(安井)「安井がいなかったらそこまで自分の成長はなかった。最後の一年は特に副将として自分の足りない部分をかなり補ってくれていた。」(藤田)と語るように、お互い支え合いながら早大漕艇部の看板を背負った2人周りに「緊張しないタイプです」と言っていた安井だが、「レース前に安井があくびをしていれば緊張している」(藤田)というように、7年共にすることで気付く一面もあったそうだ。さらに、ここで出会えた仲間だったからこそ「楽しく一生懸命ボートができた」(藤田)と早大漕艇部での4年間を振り返る。

 競技を引退し、これからは社会人となる藤田・安井。「多くの人と喜び合えるようにリーダーシップを発揮したい」(藤田)「かなえたいことを一緒にかなえてあげられるような人になりたい」(安井)という抱負を胸に、新たな船出を迎える。次の船でも“みんなで1つの目標に向かって進んで行く“ 藤田・安井らが掲げたスローガンProgress with Crew をこれからもーー。

(記事 樋本岳、写真 小松純也氏、早大漕艇部提供)