全日本大学選手権(インカレ)最終日のこの日、早大からはエイトの順位決定戦と3種目の決勝に出漕した。前日の準決勝で、序盤の出遅れが響き、決勝進出を逃した早大エイト。この日の順位決定戦ではスタートスパートに成功し、リードをつくる。しかし、コンスタントで慶大に出られると、終盤には東北大にもかわされ、3着。総合7位に終わり、「他大学と比べて足りないものもあった事実を認識して、直すべきところはしっかり直して来年勝ってほしい」と徐(銘辰チーフコックス、政経4=カナダ・セントアンドリューズ)は語り、エイトでの優勝は後輩へと託されることとなった。
舵手なしペアが学生日本一に輝いた。決勝に進出したクルーの中で準決勝のタイムは最下位だった早大だが、過去の大会を研究して組んだレースプラン通り、スタートで飛び出し、第1クォーターで頭を取ることに成功。最後は法大に詰められたが、気迫のスパートで突き放し、トップでフィニッシュ。二人は拳を突き上げて喜びを表現し、岸辺で見守る部員たちも歓喜に沸いた。ボートを始めてまだ2年の牟田昇平(商2=兵庫・三田学園)と、高校から競技を始め、今大会で引退となる川田諒(社4=愛媛・松山東)の二人で勝ち取った今回の金メダル。この種目で勝つために、研究や準備を徹底してきたことが実を結んだ。また、今大会が集大成となった川田諒は「母親の前で日本一を取って、それを見せたい」という思いも成就させた。
優勝し、喜びを爆発させる舵手なしペア
男子シングルスカルの決勝にはルーキー阿部光治(スポ1=愛知・猿投農林)が出漕した。前日の準決勝での大接戦で体力を奪われたのか、決勝では他艇に先行を許してしまう。中盤で単独3位に立ったものの、すでに大きく引き離されていた2艇には及ばず。3位に留まったが、メダルを逃した5月の全日本選手権の雪辱を果たした。そして、上級生クルーの舵手付きフォア。強みであるスタートで飛び出しに成功するが、レース前の予想通り、同志社大と立大にかわされる。ラストスパートで粘りを見せたが、差し返すことはできず、3着でのゴールとなった。ゴール後には悔しさをあらわにしたが、「自分たちはしっかりできて、相手が強かった」(髙山格、スポ4=神奈川・横浜商)と、持てる力を出し切り、晴れやかな表情を見せた。
悔しさをあらわにする舵手付きフォア
目標としていたエイトの優勝は逃したが、決勝進出を決めたクルーの数は近年で最も多かった今年のインカレ。3艇がメダルを獲得し、2010年以来、9年ぶりの総合2位に輝いた。「狙ってきたことはぶれずにやってきて、これでよかったのかな」と、好成績を残したクルーが多かった今大会の結果を受け、藤井はこの一年をこう振り返った。最後に栄冠をつかんだ選手、悔やまれる結果に終わった選手。それぞれ多様な思いで引退を迎えたが、後輩に期待する気持ちはみな同じだ。4年生が残したものを受け継ぎ、早大漕艇部はさらなる活躍を見せてくれるだろう。
(記事 加藤千咲、写真 小松純也、石井尚紀)
優勝した舵手なしペア
3位入賞したシングルスカルの阿部
銅メダルを獲得した舵手付きフォア
結果
【総合】
9点 2位
【順位決定戦】
【エイト】
C:徐銘辰チーフコックス(政経4=カナダ・セントアンドリューズ)
S:坂本英皓(スポ4=静岡・浜松北)
7:船越湧太郎(社3=滋賀・膳所)
6:森長佑(スポ1=福井・若狭)
5:田中海靖(スポ3=愛媛・今治西)
4:鈴木利駆(スポ3=静岡・浜松西)
3:中島湧心(スポ1=富山・八尾)
2:越智竣也(スポ1=愛媛・今治西)
B:藤井拓弥主将(社4=山梨・吉田)
6分12秒58 【3着 総合7位】
【決勝】
【舵手なしペア】
S:川田諒(社4=愛媛・松山東)
B:牟田昇平(商2=兵庫・三田学園)
7分25秒62 【1着 総合1位】
【シングルスカル】
阿部光治(スポ1=愛知・猿投農林)
7分27秒10 【3着 総合3位】
【舵手付きフォア】
C:菱谷泰志(スポ3=鳥取・米子東)
S:髙山格(スポ4=神奈川・横浜商)
3:瀧川尚歩(法3=香川・高松)
2:菅原諒馬(商4=東京・早大学院)
B:堀内一輝(スポ4=山梨・富士河口湖)
6分36秒96 【3着 総合3位】
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コメント
【エイト】
B:藤井拓弥主将(社4=山梨・吉田)、S:坂本英皓副将(スポ4=静岡・浜松北)、C:徐銘辰チーフコックス(政経4=カナダ・セントアンドリューズ)
――最後のインカレが終了しました。今の率直なお気持ちは
藤井 全部やり切ったかなという解放感と、僕個人としては最後の結果があまりよくなかったので悔しいなというのが率直な思いです。
坂本 大会全体を総括して悔しいの一言に尽きると思います。小さいところなんですけど、僅差で破れたのが運命の分かれ目というか。今は自分の結果を受け止めるのが精いっぱいという感じです。
徐 悔しい気持ちももちろんあるんですけど、その反面できたこともちゃんとあって、次につなげられたら次は(後輩たちが)いい結果が期待できると思います。負けたのは悔しいんですけど、今までやろうと思っていたことができた部分もあって、それを前向きに捉えて、次(の世代)につなげたいという気持ちです。
――きょうの順位決定戦ではスタートから先行するかたちとなりました。レース展開を振り返っていかがですか
藤井 準決勝ではスタートで先行されて、そのまま差が詰められずに負けてしまったので、スタートでしっかり出て果敢に攻めていこうということで、スタートをかまして行きました。そこは準決勝からの反省を踏まえられた部分だったので評価できるかなと思います。そこから先がきょうはあまり良くなくて、きのうの準決勝の方がよかったので、うまく(中盤に)つなげられなかったのが課題かなと思います。
坂本 きょうのレース自体は5~8位決定戦で、優勝を目指して最低限のノルマはメダルというところで、最後のチャンスだったのにそれも逃してしまって。5~8位というのは自分の中では正直何位でも変わらないぐらいだったので、きょうのレースだけについて言えば悔しさも残らないくらいダメダメなレースだったと思います。
徐 きのうは2~4クォーターはすごく理想的に詰まっていましたが、最初出られた分を詰め切れなかったのが反省で、きょうのレースはスタートを意識していました。本番しっかり出られたものの、その後は漕ぎが短くなって負けてしまって、その理由は気持ちから来るものもあったかもしれないですが、これが今の自分たちのレベルなのかなと思います。まだ早稲田のエイトがこの段階だという現実を受け止めて、次は改善したいという気持ちでレースを終えました。
――男子部は3種目でメダルを獲得しましたが、同期や後輩の姿についてどのような思いがありますか
藤井 チームづくりというか、狙ってきたことはぶれずにやってきて、これでよかったのかなと思います。部全体で雰囲気がバラバラにならずにまとまっていたので結果が出たのかなと思います。女子については堂々の総合優勝なんですけど、男子についてはもっと詰められるところ、貪欲に求められることがあったかなと感じているので、僕らの代はこれで引退ですが、後輩たちはさらなる成長を期待したいです。
坂本 女子に関してはただただ「おめでとう、よかったね」という気持ちです。男子に関しては目標がエイト優勝、2種目表彰台で、自分たちが優勝できていれば目標を達成できたかもしれないという状況の中で、自分たちは結果を残すことができなくてチームに対して本当に申し訳ないという気持ちがあります。
徐 全体としてメダルを取ったクルーも多いですし、組織全体で見ると満足いく結果をだと思います。3年間、海外交流を通じて(部を)強くしようという意識は持っていたので、その面では満足できると思います。ただ、体力面でもテクニック面でも難しいエイトに関してはまだなのかなという気持ちがあって、その課題を来年しっかり解決できればいいなと思っています。きょうはもっとうまくできれば今回優勝できたのかと言われればそうでない部分もあって、限界は明確にありました。決勝に上がってもメダルを取れたかは正直わからないレベルでした。1年生3人も乗ってますし、他大学と比べて足りないものもあったのでその事実を認識して、直すべきところはしっかり直して来年勝ってほしいなという気持ちです。ただ、今までいろいろやってきたテクニック面に関してはちゃんとできたと感じていて、あとは個人個人の意識や意欲によって結果が出るか出ないかというものだと思います。
――早大漕艇部での四年間を振り返って思うところはありますか
藤井 トータルで見れば楽しかったですけど、やっぱりずっとしんどいはしんどかったなと思いますね。僕個人としてはなかなか成績も出なかったですし、いつか成績を出してやるんだともがいている時期がほどんどでそういうところがきつかったですけど、きつい中で自分やチームの成長を感じて、ちょっとずつではあっても前に進んでいる感覚があったのは、努力をしてきてよかったなと。ボートは他のスポーツと比べて種目数も多いですし、1回に出る人数も多いので勝てるチャンスはあると思うんですけど、そうは言っても優勝できるのは1チームしかないので、勝てない人は日の目を浴びることができないんですけど、自分がやってきたことが身になっている感覚があったので、その面では楽しかったと感じています。
坂本 自分自身、推薦で取ってもらったわけではなくて、全国でメダルを取りたいなと思って入って、高校時代と比べたら成長することができて、その分早くエイトに乗ることもできたんですけど、エイトという難しい世界の中で最後まで目標だったメダルを取ることもできず、悔やんでも悔やみきれないくらい悔しいなと思います。きょう同期が優勝したりメダルを取ったりしていて、総合的にみんなが活躍できる代で副将をやれてよかったという思いです。
徐 四年間、31歳の留学生としては身に余るくらいの信頼を頂いて、任せてくださって、それに応えるためにやってきたものの最後までレースで目で見える結果を残すことができなかったのは個人的には本当に申し訳ないですし、悔しい気持ちです。ただ、その過程において学んだことは本当に多くて、本当にやってよかったなと思っています。結果を残せなかったのは心にずっと残りそうなので、今後もサポートしていきたいですし、悔しい分社会人でこの経験を生かして、社会では勝利したいと思います。
――ここまで一緒にやってきた同期や後輩に伝えたいことはありますか
藤井 自分はこの1年主将というポジションをやらせてもらって、迷いながらやってきて正直何かをやれたというのは全然ないんですけど、そういう中で付いてきてくれてサポートしてくれた同期、後輩には感謝してもしきれないなと。きょうの結果もみんなが頑張ってくれて、個人の結果としては悔しいばかりなんですけど、みんなが喜んでいる姿を見て少し救われて。総合成績も、優勝ではなかったんですけど上位で、これは近年なかったことなので、みんなに支えられてここまでやってこられてよかったと感じます。みなさんに感謝でいっぱいです。
坂本 特にエイトの後輩には自分たち三人が六人を引っ張るみたいな構図だったんですけど、いろいろ不満もあっただろう中で付いてきてくれて、本当に最後までわがままを聞いてくれてありがとうという気持ちが強いです。後輩には頼むことしかできないんですけど、ボートはエイトだけじゃないので、それぞれの場所で輝いてオンリーワンを目指してほしいなと思います。
徐 先輩、同期、後輩には本当に感謝の気持ちです。部活はしてきたんですけど、他の部員のようにはできなかったことも多くて、そういう中でもみんなが信頼してくれたから今までやり続けることができました。ポジションのせいかわからないんですけど、みんな「優秀」と言ってくれて認めてくれたんですけど、自分がそれにふさわしい人間だったのかなというと、自分的にはそうではなくて。(船に)乗ることに関しては徹底的に頑張ったんですけど、それ以外はできなかったこともあったので、みんな「すごいすごい」と言ってくれるんですけど、本当にすごいのは真面目に部でやることをやり続けられている後輩、先輩、同期です。みんな真面目で誠実な人々なので自分自身にもっと自信を持ってもいいのかなと思います。信頼してくれてありがとうという気持ちです。
【舵手付きフォア】
S:髙山格(スポ4=神奈川・横浜商)、2:菅原諒馬(商4=東京・早大学院)、B:堀内一輝(スポ4=山梨・富士河口湖)
――お疲れ様でした。レース終了後の率直な感想を教えてください
菅原 燃え尽きましたね。
髙山 まあ自分たちはしっかりできて、相手が強かったです。
堀内 同じですね。相手が強かったです。
――レース終了直後は感情をあらわにされる場面がありましたが、悔しさの現れでしょうか
菅原 悔しさというよりかは、どちらかというとこれで競技生活が終わりなので、こみ上げてくるものがあったんだと思います。
髙山 素直に勝ちたかったので、それができなかったという悔しさですかね。
堀内 同じく勝ちたかったからですね。その後悔があったので、少し感情的になったと思います。
――3位という結果はどのように捉えていますか
菅原 もちろん優勝を目指してやってきたので、そこは悔いが残るといえば残るんですけど、ただやることはやってきたのでその点には悔いはないです。
髙山 今自分たちがやれることをやってこの結果なので、まあ受け入れるしかないのかなと。あと高校生のときから3位が多いので、ラストイヤーは3位で終わるんだなという感じですね(笑)。
堀内 3位と4位の差を考えたときに、メダルという物が残ったという点についてはかなり良かったと思います。あとは後輩二人(C:菱谷泰志、スポ3=鳥取・米子東、3:瀧川尚歩、法3=香川・高松)が残っているので、そこで1位を取ってくれればまた(雪辱を)果たせると思います。
――準決勝を終えてからはどのような準備をされましたか
菅原 きょうに全てを懸けるための準備だけですね。
髙山 基本的にやれることとしては、自分たちの内側の精神的な部分がメインになるので、勝ちにいく心積もりをつくっていくという感じですね。
堀内 全く一緒です。
――実際のレース展開はいかがでしたか
菅原 あらかた予想通りでしたね。
堀内 同志社大に差されるだろうなと。
髙山 そういう展開になることは予想されていたので、そこで差されてしまったのは仕方なくはないですが、やはりそうなってしまったなという感じです。
――大学最後のレースとなりましたが、何か特別な思いはありましたか
菅原 あまり変にラストラストと思ってはなくて。あくまで普段通り漕ぐだけですし、あくまで日本一を取るためのレースだと、そこは結構シンプルに考えていました。
髙山 最後というのはあるんですけど、菅原が言った通り自分たちが勝ちたいからやる、というのを一番にやっていました。
堀内 それに加えて、後輩の考え方や次につながるものがあればと考えていました。
――四年間の大学生活を振り返っていかがしたか
菅原 いろいろありすぎて。
堀内 地獄。
菅原 失うものもありましたけど、得るものも多かったなと。失うものが少し多すぎたというのはありましたけど(笑)。まあでもやり切れることができました。
髙山 振り返ったら美化されるみたいなことがあると思うんですけど、そんなに美化されずにやっぱつらかったんだよな、というのは素直に思います(笑)。ちゃんとつらかったし、ちゃんとしんどい時間が長かったんですけど、それもまあそれだったんじゃないかなと。それを受け入れられるくらいのマインドにはなったのかなと思います。
堀内 もうやりたくないですけど、心は明らかに広くなりました(笑)。
――今まで一緒に生活してきた同期の4年生に一言お願いします
菅原 「お疲れ」じゃない?(笑)
堀内 うん。「お疲れさん」っていうね。
髙山 一緒に住んでいるので今更何かいうこともないんですよね。また集まろうくらいの感じですね。
――最後に後輩に伝えたいこと、期待したいことをお願いしますた
堀内 外逃げはするな。
髙山( 笑)。
菅原 しない方がいいね。あとは勝ちたいならもう素直に打ち込めということですね。
髙山 勝ってくれというのが一番ですね。勝ったら気持ちいいスポーツなので。
堀内 一般的な漕ぎをしてほしいと思います。特徴をつぶすことは難しいと思いますが、難しいことをどんどん積み重ねていってほしいなと思います。
【舵手なしペア】
S:川田諒(社4=愛媛・松山東)
――優勝された今のお気持ちはいかがですか
自分としては高校時代にボートを始めて、高校で辞めるという選択肢もあったんですけど、母親が全国大会を地方でも見に来てくれていて、高校のラストレースの国体で準決勝で敗退してしまって、母親の前でボロ泣きしたというのが、自分の中ですごく心残りとしてありました。入部当初に4年間の抱負みたいなものとして部のブログにも書いたんですけど、母親の前で日本一を取って、それを見せたいなと、それが親孝行になるかなというのはずっと思っていて、去年は敗者復活戦で沈没という不甲斐ない結果に終わってしまって、今年こそは来てくれると分かっていたので、自分の思いを一つ遂げることができましたし、人生の中でも母親の前で日本一になれる人は限られているので、ラッキーだったなと思います。七年間頑張ってきて、最後こういうかたちで終えられて良かったなという感じです。
――胸元には金メダルが光っていますね
ひびは入っていないんですけど、さっき落としたんですけどね(笑)。こんな物掛けたことなくて、立教の女の子がいて、対岸で勝ったよと3回くらいぴょんぴょんして大喜びしていたら一気に首が軽くなって、えっと思って見たらひもまでしかなくて、あれと思ってぱっと見たらメダルが芝生を転がっていて、「金って落ちるんや」と言ったら周りにいた明治の父兄さんが笑ってました(笑)。メダルとひもをつなぐ輪っかのところに土が詰まっちゃったので、コースの水で洗いました(笑)。
――恩師と語っていた高校の先生にはご連絡されましたか
勝って30分後に表彰式だったんですけど、とりあえず部屋に戻って、スマホをすぐ立ち上げてラインで電話をしました。「先生、優勝しましたよ!」と言ったら、「お、すご!」と言われて、「じゃあ表彰式に行ってきます!」、「楽しんで!」というコンパクトな感じで19秒くらい話しました。親と高校時代の恩師に優勝報告をすぐにしたかったので、電話だったんですけど報告ができて良かったです。
――対談から1カ月ほどありましたが、B:牟田昇平選手(商2=兵庫・三田学園)とのクルーメークはいかがでしたか
ペアに乗るときに大事にしていたことが、自分が1年生のときの4年生と3年生の石阪さん(友貴氏、平29政経卒)と東さん(駿佑氏、平30政経卒)のペアが話していた、「ペアはいいときと悪いときの感覚がそろっていないといいペアではない」という点でした。自分もペアに乗るのであればそういうペアにしたいと思っていて、自分がいいと思っているのに昇平が良くないと思っていたり、昇平がいいと思っているのに自分は良くないと思っていても、簡単に流してしまうことがミーティングとかでも多かったんですけど、昇平が「きょうは川田さんに言われてたここを意識して、練習の終盤ではできてきたかなと思うので、そこが良かったです」と練習の感想を言ったら、「いや違うよ。最後までできていなかった、あれはできたうちには入らないよ」と自分はちゃんと言うようにして、それを積み重ねていく中で自分の感覚と昇平のズレはだいぶなくなってきました。特に8月なんかは、「もっとできたので、もうちょっとやらないとなと思います」と昇平が言ったら、「もっとやってください。今のじゃ駄目ですよ」というフィードバックも増えたりして、昇平も上達して感覚も鋭くなって、いいバウに育ったなと思います。
――予選と準決勝は危なげなく勝ち上がりました
ここ5、6年くらいのAファイナルのタイムを全部出して、逆風っぽいタイムとか、順風っぽいタイムは弾いて、だいたい優勝タイムが7分フラットくらいで、優勝しているクルーが第1クオーター(Q)に何秒くらいで入って、第2、3Qでどういうタイムの推移を経て最終的に7分を出しているのかを自分たちで出しました。あとはYouTubeに動画が上がっているので、それを見てアプリでレートを取って、結構突っ込んでいるなというのが正直な感想としてあって、勝っているクルーは第1Qを取られてまくるというのがそんなになくて、第1Qを取ってそのまま逃げ切るというのがボートの鉄則がペアにも当てはまるなと感じていました。となるとこれもまた石阪さんと東さんのペアになるんですけど、あの二人が1分39秒で2016のインカレ決勝の第1Qを入っていて、一橋が1分37秒で入って、水をあけられてかけてそこから一橋が逃げて逃げてというレースがありました。自分の中では石阪さんと東さんは速いペアというイメージがあったので、1分39秒でもAファイナルは勝つことができないというのは昇平にも言い聞かせて、1分39秒を最低でも出して、Aファイナルで頭を取るためのレースを予選、準決勝からやろうと準備をしてきました。準決勝は日大がかなり突っ込んできたので、第1Qを取ることはできなかったんですけど、練習からだいぶオーバーペースといいますか、第1Qを取る練習を早稲田の中でもかなりやってきたと思うので、そういういい部分が出たのが予選、準決勝ですかね。
――決勝は第1Qから先行して勝利を収めました
ずっとオーバーペースで入る練習をしていたんですけど、Aファイナルはそれでは出られないと話していました。今の自分たちの当たり前はオーバーペースだけど、自分たちの感覚でもオーバーペースで入って、とにかく前半から仕掛けて、後半は気持ちで付いてこいというプラン通りのレースができました。
――これで引退となりますが、対談の時に仰っていたように寂しさが残りますか
変わらず寂しいです。あした漕艇部の全員が入っているラインを退会して、引っ越しもやるんですけど、実感がないというのが正直なところです。ただ、後輩たちが好きなので、後輩たちが上手になるのであれば、自分は教えるのが下手な方ではないと思っているので、手伝いに来てあげたいなと思います。
――漕艇部での四年間を振り返っていかがですか
コーチとか、下級生の時の上級生の方がきょういらしてて、掛けてもらえる言葉の中で、自分は下級生の頃に一切活躍できなくて、3年生になっても早慶戦にも出してもらえていなくて、半ば反抗していてやらかして坊主になったりしたこともあった、というのがありました。「それでは部にはいられないよ」というトップダウンの退部勧告をされた時期もあって、苦しい時期も人に比べたらあった中で、続けてきた自分にはお礼を言いたいですね。辞めないにしても、トレーナーであったり、マネジャーになることを考えてしまう時期もなくはなかったんですけど、いつか絶対に母親の前で日本一を取るとずっと思っていたので、2、3年生の時の自分に感謝を言いたいです。
――後輩の皆さんにはどのような思いがありますか
勝つのも負けるのも自分次第というのは伝えたいですね。ミーティングでクルーが発表されて、諦めなければ漕歴2年の牟田昇平と優勝する可能性はゼロではないなとクルーを組んだその日に思って、第1Q、第2Q、第3Q、第4Qはこのタイムで、トータルで7分を切るという話をしました。昇平もぴんときていないけど、付いてきてくれて、2カ月タイムを出すことを大事にしてやってきて、早稲田の中で一番準備をできたなという自信もありました。というのも、ペアのレースが8時くらいで起きるのが4時半くらいになるので、練習が7時や8時といった遅い時間であっても、レースの1週間前から5時に起きて、二人で5時に起きたことを確認し合って、そのまま散歩に行って目を覚まして、ストレッチをして、朝練まで2時間あっても寝ないで、起きてから3、4時間たっている状態にリズムを早めに変えられるように準備をしました。食べる物も気を付けて、昇平がやるかやらないか分からなかったので、これで勝てたら安いもんやと思いながら、自分が腸内環境を整える物やビタミンCやクエン酸を取ることができる物を買ってきて、飲んでいるか確認したかったので、ミーティングで一緒に飲んだりして、自分の中で油断をせずに準備できた部分がありました。あとは、先輩が出してくれた予選と準決勝の各艇のタイムカーブの違いなんかを見て、他の大学はきのうまでのタイムを見て大丈夫かなと思ったんですけど、法政は最後まで勝負になるなと思っていました。予選、準決勝は1600メートルからスパートというプランだったんですけど、一応1400メートルからスパートが入るかもしれないという話をしていて、でも自分の中ではそれは少し油断かなと思って、1400メートルより前にスパートをする可能性もあるなと思って、一応きょうの朝のアップに行く前に昨年のインカレの男子舵手なしペアで一橋が1位になったビデオを見ながら、1250メートルからスパートが入ったときに、ダブルスパートだけではなくて、トリプルスパートも入るということを確認しました。結局法政がきてしまったので、1300メートルからいくしかなくなった中で、1400メートルからスパートに入るイメージしかなければ、昇平の中で100メートルも早いとなってしまうんですけど、1250メートルからいくこともあるというメンタルの面での準備ができていたと思います。第1Q出た方がいいか出ない方がいいかで言ったら、出た方がいいのでそれに尽きますし、早起きも1週間前からしなくても良い中で自分から昇平に言っていたので、やるしかないなと思えましたし、そういう意味で勝ちに近づく方を選べるかは自分次第なので、後輩には勝ちにこだわって、どんなクルーになっても自分次第で優勝は手繰り寄せられるよと言いたいなと思います。
――同期の皆さんにはどのようなことを伝えたいですか
さっきも言ったように、退部勧告をされて辞めさせられるのかとなった時に、同期と1個下の後輩がいなければ辞めていたと思います。その時は8人部屋で、同期と1個下の後輩と一緒に暮らしていて、部屋から1歩パブリックスペースに出たら丸坊主で大反省でしょぼんとしていたんですけど、部屋に戻って自分がへこんでいたりしたら、「元気出せよ」と言ってくれて、先輩に会うのが怖くて部屋を出たくなかった時は食べ物を買ってきてくれて、ここまで続けられたのは同期のおかげかなと思っています。今まで朝飯も晩飯も一緒で、風呂も一緒に入ってきた同期と、あした引っ越して月に1回会うか会わないかになってしまうというのが率直に寂しいなと思うので、せっかく変なところで4年間過ごしたので今後も仲良くやっていけたらうれしいなと思います。