【連載】早慶レガッタ直前特集『精華の誇り』【最終回】内田大介監督

漕艇

 最終回に登場するのは早大を率いる内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)だ。昨年は内田監督の下、早慶レガッタで2年連続のとなる完全優勝を果たした早大。3連覇を目指す今年のクルーの特徴や早慶レガッタへの意気込みを伺った。

※この取材は3月13日に行われたものです。

「雰囲気はとてもいい」

――現在はどのような練習をされていますか

 今は低いレートで基本的なトレーニングをやっています。これからだんだんレートを上げていきます。

――各クルーの雰囲気は

 そうですね、雰囲気はとてもいいと思います。昨年はどうしたら早く漕げるのか悩みながらやっていたんですけど、今年はかなり明確になってきているのでモチベーションも高くて、選手自身が目標に向かって明確にトレーニングできています。ただ、ちょっとけが人が多くてメンバーを変えたりしているので、そこはちょっと心配です。

――昨シーズンを総括していただけますか

 女子に関しては早慶戦は問題なく勝てたし、女子のスイープ種目が昨年からインカレ(全日本大学選手権)でも採用になったので、そちらにうまくつなげていきたかったんですけど、結果はちょっとメダルには届かなかったですね。だけど、スカル種目に関してはかなりいいかたちで仕上がりました。男子に関してはスイープ種目がメインなんですけど、今狙っているテクニックがあって、それはあまり日本では行われていないスタイルなんですね。それをクロアチアで3年前に指導を受けて、一言で言うと『小さい、力の劣っている人間がパワフルなローイングのできる人間に勝てる技術』なんですけど、それを習得するのがすごく難しくて…3年間試行錯誤してきました。男子は昨年はその過程だったので、いろんなところに迷いとか間違った理解があって、インカレは今一つ結果が出なかったかなというところですね。

――現在はその技術が習得できつつあるということでしょうか

 そうですね、もやっとしたものがはっきり見えてきている段階ですね。

――今お話にも出てきたように、昨シーズンはクロアチア遠征が行われていましたが、その効果は大きいものですか

 昨年は早慶戦の時にコーチの指示通り漕げて、最終的にはいい仕上がりになりました。慶応の方がはるかに力がありましたけど、結果的には勝つことができました。ただ、その後もやもやしたものがはっきりわからずに終わっちゃったので、クロアチアの効果というものは3年かかって今年何とか出せればいいなというところです。

――漕艇部についてお聞きします。早大には経験者と未経験者の両方が入部していますが、特に未経験者を育成するにあたって何か心がけていることはありますか

 『教え合いシステム』というのをやっています。究極の目標は誰がどのポジションに乗っても同じように漕げるというのが目標で、メンバーを固定せずにトレーニングはやっています。そういう効果もあって、高校時代全く未経験の人間もかなり速いペースで技術を習得してはきています。今年の対校エイトの中に瀧川くん(尚歩、法3=香川・高松)がいて、彼は野球出身ですけど3年生で対校エイトに未経験者が乗るというのはそうないことなので、『教え合いシステム』というかたちは今後も続けていく予定です。

――マネジャーやトレーナーは部にとってどのような存在でしょうか

 もう彼らなしでは勝てないなと思いますね。以前も部員に言ったんですが、マネジャーと面談すると、自己肯定感が少ないんです。「僕たち、私たちは部の力になっていないんじゃないか」という不安があったりとか自己肯定感を持てなくてそれを部員の前で紹介して、「とにかくマネジャーのサポートがなかったら日々の練習すらできないんだから、ものすごく大きな貢献をしているよ」という話をして、マネジャーにもできるだけ選手と色々な話ができるようにご飯も一緒に食べたり、あるいは学年で横のつながりをつくることも普段からやっていますね。以前はマネジャーさんはどこかで何かをしている人というとらえ方でしたが、最近は明確に戦力のひとつだと選手は自覚しています。

「試行錯誤の結果を出したい」

各クルーの状態について答える内田監督

――早慶レガッタについてお聞きします。昨年は2年連続となる完全優勝を達成されましたが、勝因は何だとお考えですか

 男子の対校、セカンドのエイトに関しては先ほど言った、力で勝負するんじゃなくて滑らかにオールを動かしてリズムで加速していくという技術が最後の最後である程度習得できたので、そこに尽きると思います。女子も技術的な部分もあると思いますけど、フィジカル面ですよね。体力的な差で勝てたかなと思います。

――けが人がいらっしゃるということで、今年のクルーはまだ確定していないということでしょうか

 対校エイトは田中(海靖、スポ3=愛媛・今治西)が今U23の決勝(U23日本代表最終選考レース)が終わるまでJARA(日本ボート協会)の方でキャンプに出ているので、田中が戻ってくれば対校はそれでフルメンバーでいけると思っています。セカンドの方は今年なかなか体力のあるメンバーがいなくて、3番の加藤(聖也、スポ2=愛知・豊田北)が肋骨を痛めていてかなり重症なので、そこのところは変えざるを得ないかなというところです。でも最終的な判断は3月30日あたりです。

――女子に関してはいかがですか

 女子は木下(弥桜女子主将、スポ4=和歌山北)が腰痛があって、回復はしてきているのであと1週間くらい休めば大丈夫かなと思います。それと、女子の場合はU23の決勝に3人残っているので、3月の月末の週から非常に急ピッチで仕上げないといけないですね。それで、慶応さんの方は今一生懸命練習されているので、侮れないなと思います。エイトのレースって強いやつが8人乗れば勝てるかというとそういうものじゃないので、やっぱり8人が合わないと勝てないので、そこは絶対油断しないようにしていますね。

――今年の対校エイトの強みは

 フィジカル面では慶応とどっちもどっちかなという感じですが、技術的には我々が狙っているものが出せれば上回れるかなと思います。だけど、慶応も決して悪くないので、今のところ五分五分ですかね。

――第二エイトの強みは

 第二エイトは完全に慶応の方が上回っています。でもむしろ力がない分あまり力まないで漕ぐので、時々対校エイトと同じくらいのスピード出してくるので、テクニックの面では少し第二は自信があるかなと思いますね。でもフィジカル面でかなり大きい差があるので、厳しい戦いかなと思います。

――女子エイトについてはいかがですか

 仕上げの期間が短いので、どこまで仕上げられるかですね。8人のストロークを合わせてなおかつ長いストロークでハイレートが出せるところまでいけばぶっちぎりで勝てると思いますけど、(リズムが)合わないでレートが上がらないということになれば、慶応にも分があるかなというかんじです。距離も短いので高いレートで最初から飛び出せればという感じです。そこは決してうちに分があるとは思っていないです。

――藤井拓弥主将(社4=山梨・吉田)は監督から見てどのような印象ですか

 非常にクレバーで冷静でいい主将だと思います。部全体のキャプテンとしても、対校エイトのクルーリーダーとしても近年になく落ち着いて全体をまとめられているかなと思いますね。色々なタイプのリーダーがいますけど、良く引っ張っていると思いますね。

――女子の木下主将についてはいかがですか

 寡黙だけど背中を見せていく感じはしますね。結構背中を見せて頑張っているんで無理しちゃうかなと思うんですけど。まあそれでけがをしちゃったんですけど。後輩の尻をたたくというよりは寡黙に引っ張っていくところがいいかなと思いますね。

――対校エイトクルーはどのように選考されましたか

 ローイングエルゴメーターという漕力を測定できる機械があるんですけど、その何回かのスコアと水上の技術的な評価でベースのクルーを組んで、今様子を見ています。

――対校エイトのコックスは昨年対校を経験した徐銘辰選手(政経4=カナダ・セントアンドリューズ)がいる中で、菱谷選手(泰志、スポ3=鳥取・米子東)の起用となりましたが、その経緯は

 コックスの評価を部員全員にさせたんですね。評価の順でいくと徐、菱谷の順だったんですけど、クロアチアのコーチとのトランスレートを彼(徐)はずっと3年間やってきて、我々が狙っているものについて僕以上に知識を蓄えているので、早慶戦までは徐にトランスレート兼コーチとして対校エイトとセカンドを見てもらう。早慶戦でベースをつくって、全日本(全日本選手権)につなげるという目標があるので、ジン(徐)には早慶戦まではベースづくりをしっかりやってもらって、全日本でエイトのコックスをやってもらいたい。だから、育成のところは彼に懸かっているというところですね。

――坂本英皓選手(スポ4=静岡・浜松北)をストロークに任命した意図をお聞かせください

 坂本は非常にリズムがいいんですよ。クロアチアのキャップの時にも向こうのメダリストと一緒に実際に乗ってもらって、そのリズムを経験してきているんですね。それを経験したのは藤井と坂本だけなんですけど、彼はもともととても器用なので、うまくそのリズムを再現できているということでリズムをつくるストロークへ起用したということです。

――第二エイトで川田翔悟(基理4=東京・早大学院)選手をクルーキャップに任命された理由は何かありますか

 昨年のセカンドも経験していて、本当は対校に乗りたかったし僕も乗せてあげたかったけど、残念ながら選考で漏れてしまったんですね。でもその悔しさをモチベーションにしてもらうのと、昨年の経験をフルに生かして後輩を引っ張っていってもらいたい。そういう目的ですね。

――女子はU23世界選手権にも出場された米川志保選手(平31スポ卒=現トヨタ自動車)などの選手が卒業されましたが、その影響は大きいのでしょうか

 不安がないと言えば嘘になりますけど、下が確実に育っていますしね。新4年生は人数が少ないんですけど確実にテクニックの面でもフィジカル面でも上がってきてるし、新3年生の層が厚いので、今年のインカレに向けても昨年を上回れるかなと思います。

――改めて今年の慶応の印象は

 対校エイトは力量もテクニックもあるので、これは接戦だなと思います。たくさん練習していますね。それからセカンドも対校とあまり差がないように見えているので、セカンドは厳しいレースになるかなと思いますね。あと女子も練習量が非常に豊富ですね。うち(早大)もやってないわけではないですけど、エイトの練習に関してはなかなかメンバーがそろわないので、そういう点では侮れないですね。

――今年の早慶レガッタでのキーマンを挙げるとしたらどなたですか

 対校エイトだと、瀧川、菅原(諒馬、商4=東京・早大学院)ですかね。真ん中のでかい二人です。初の対校戦ということと、技術的にまだ未熟なのでその二人がかなり漕げるようになってくれるとかなり安定感が出てきますね。セカンドエイトは新2年生でしょうね。まだ力量的には劣っているので、彼らが技術的にも体力的にももう少しアップしてくれれば、セカンドエイトは慶応と肩を並べられるかなと思います。女子エイトはストロークペアですね。さっき言ったように(女子エイト全員で)乗れる回数が少ないので、その2人がいいリズムをつくってくれて後ろがついてこられればそんなに心配はないですね。そこがうまくいかないとバラバラになるので、そのストロークペアの二人がキーマンかなと思います。

――早慶レガッタで勝利のポイントとなる点はありますか

 コンディションでしょうね。

――それは川の状態ということですか

 そうですね、ラフウォーターになると、どっちが勝つかわからない賭けみたいなものですね。3年前に沈没しちゃったんですけど、あれくらいひどくなると生き残りになっちゃって、もうレースはわからないですね。ですからその対策は十二分にしているんですけど、できればカームな穏やかなコースでやりたいなと思いますね。

――隅田川で漕ぐ対策は具体的にどのようなことをされていますか

 技術的には基本とは変わらないですけど、ラフウォーターになった時に、ボートの中に水が入らないようにする工夫と、入った場合にその水をいかに出すかという。そこはオックスフォード大やケンブリッジ大からだいぶ学びましたので、いろんなウォーターポンプを自作したり、波がいかに入らないようにするかというガードの工夫はこの2年間相当しました。そこがポイントですかね。

――最後に、早慶レガッタへの意気込みをお聞かせください

 男子は力量的に慶応さんの方が少し上回っているかもしれませんけど、ぜひ今まで積み重ねてきた3年間の試行錯誤の結果を出したいなと思います。それが意気込みですね。狙っているローイングスタイルを出せれば勝てる。それがそのあとの全日本にもつながるんだろうから、とにかくそれを出したい。勝敗はそのあとですね。女子は練習量の少ない分、短い期間できっちり仕上げて確実にまず1勝をものにして、全日本、インカレにつなげていくレースにしたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 加藤千咲)

◆内田大介(うちだ・だいすけ)

1956(昭31)年6月19日生まれ。長野・岡谷南高出身。早稲田大学教育学部卒。色紙には『三年間追い求めた「解」で勝つ』と書いてくださいました。漕艇部は3年前からクロアチアとの交流が始まり、漕ぎの技術を革新しました。新たな漕法は今、完成を迎えつつあるそうです。早慶レガッタでは選手たちがその成果を発揮してくれることでしょう!