【連載】早慶レガッタ直前特集『精華の誇り』【第6回】B:藤井拓弥主将

漕艇

 今年度主将として部を率いる藤井拓弥(社4=山梨・吉田)はこれまで主将を務めてきた伊藤大生氏(平31スポ卒=埼玉・南陵)や内田達大(平30スポ卒=現NTT東日本)のような、輝かしい実績を持つ選手ではなかった。それでも周囲からは「お前しかいない」と声を掛けられ、部を託された。そんな藤井の主将としての信念とは。そして、初めて乗った対校エイトで優勝を経験してから1年。新たな立場で迎える、最後の早慶レガッタへ懸ける思いとは。


※この取材は3月5日に行われたものです。

「自分の場合は凡人なので」(藤井)

主将に就任してからこれまでを振り返る藤井

――主将に就任して半年ほどですが、ここまでを振り返っていかがですか

 そうですね、責任だったり、業務であったり、昨年度の主将と寮の部屋が同じだったこともあって、結構大変なんだなっていうことは常々感じていたんですけど、思っていた以上に大変だなと感じています。主将としては実現できているところもあるし、まだまだできていないところもあるかなという感じです。

――思った以上に大変というのは競技面以外の業務的な部分でしょうか

 そうですね、今までの平部員で役職がなかったときは言われたことをやっていればいいじゃないですけど、練習を一生懸命やるだとか、寮生活の暮らしでも例えば炊事係とかをしっかりやっていれば回っていたんですけど。そういうのも上から見て、足りていない部分のアイディアを出したりだとか、実際に実行してみて新しく評価しないといけない部分があったり、常に全体を見渡して気を配らなければならないというのは感じますね。

――実現できているところとできていないところというのは実際にはどういった部分なのでしょうか

 練習内容に関しては自分たちの課題とかを、監督とかコーチと相談して練習メニューを変えて新しく取り組んでみたりできているんですけど、そうは言ってもまだまだできることはあるので。大改革をするとかそういう話ではないんですけど、少しずつ変わってきているので、そういう点で実現できつつあって、まだまだできていないというところですね。少しずつ自分たちの色にしていこうと思っています。

――主将に就任した当時の心境はいかがでしたか

 例年4年生が引退される1ヶ月ぐらい前に次期主将だったり、他の役職を選んで、それを監督、コーチ陣に話して、そこから内々にお話がくるかたちなんですけど。例年はスポーツ推薦で実力トップの人が主将に就くケースが多いんですけど、自分の場合特にそういうことはなくて、凡人と言いますか。そういう部分でみんなが自分に付いてきてくれるのかっていう不安はありましたけど、4年生の先輩方が引退されるときに「お前しかいないと思って選んだから頑張れ」と言われて、頑張んなきゃなっていう決意が固まりましたね。

――「お前しかいない」と声をかけてくれたのは伊藤大前主将などでしょうか

 そうですね、伊藤大生さんはもちろん、前副将の飯尾さん(健太郎、平31教卒=愛媛・今治西)だったりは一緒に船に乗る機会も多かったり、休みの日にご飯を食べに行ったりもしていたので声を掛けてくれました。あとは同じ学部の金子さん(怜生、平31社卒=東京・早大学院)も「主将はお前が一番務まる」って言ってくれて、プレッシャーを感じる部分もありましたけど、とてもうれしかったです。しっかりやり切りたいなという気持ちです。

――今までの主将とは異なるとおっしゃっていましたが、その点について主将に就任して感じる部分はありますか

 今まで自分が見てきた主将の姿っていうのは結果をしっかり出していて、練習に対しても誰よりもシビアで。おととしの主将の内田さんは練習もすごいストイックにやっていて、自分にも他人にも厳しく、結果もしっかり出す方でしたね。前主将の伊藤さん周りに対してはすごく穏やかな方なんですけど、内面はすごく熱くて、結果もしっかりと残していて。そういう方々に比べると自分は実力的にはそこまでは行けていないのが現実なので、今までの主将の皆さんと同じやり方では絶対についてきてくれないというのがあって。人に言われて自分でもそうかなと思っているのは、歴代の主将さんのストイックっていう部分は自分にもあると思います。早大の場合は実力トップの人がいて、大学から始めた未経験の人までいて層が広いんですけど、自分はより平の部員や未経験の人に近い場所にいるなって感じているので、その分その人たちの目線に立って、近くでやっていければいいかなと思います。

――目指す主将像はございますか

 具体的に誰とかはないんですけど、おととしの内田さんの体制の時にすごい高い目標を持ってストイックにやっていて。僕はそこについていきたくて一生懸命やっていたんですけど、上の人間が熱くなりすぎても下が実力とかを考えたときに同じ熱量で全ての面をボート競技に捧げられるかっていうと、どうしても温度差は生じてしまうんですよね。そこは僕が平部員でいたときに感じていましたし、逆にそういうところを伊藤さんは見ていて、穏やかに、下の人も見つつやっていたんですけど。あまりおっとりやってもそれはそれでまとまりに欠けてしまう部分もあって。そこの加減ってすごく難しいんですけど、穏やかにみんなをまとめつつも、何か一つに向けて、うちの部の場合は日本一を狙うということに向けて取り組む必要があるのかなと思います。普段はみんな仲良くやっているんですけど、そこだけにはものすごくシビアに取り組んで、けん引できるようにしていきたいなと思っています。

――その点は現在試行錯誤中というところでしょうか

 そうですね。自分一人だったら勝手にガンガン追い込めるんですけど、それを人にやらせるっていうときに、ときには厳しく言わなければいけなくて。そこでちゃんと厳しく言うことってなかなか精神的に負担になるんですけど、そういうときに厳しく言えるようにならないといけないなと感じています。自分のことだけでなくて、部全体のことを見るのは大変ですし、まだまだ足りていないなと思っています。

――現在の部の雰囲気はいかがでしょうか

 良いのか悪いのかはわからないんですけど、ガツンとものを言うというか、強くものを言う人っていうのがあんまりいないんですよ。それが良いかどうかはわからないんですけど、頭ごなしに言われることもたまにあって、そういうことはなくなっているので。後輩たちがのびのびとできる風通しの良さっていうのはあるんじゃないかなと思います。それが行き過ぎてみんなが好き勝手やるようではいけないので、ちゃんと上下関係はあるんですけど、仲良くできていると思います。

――同期の4年生の意識の変化は感じますか

 下に見られているっていう意識は我々同期の動きを変えているなと思います。僕らがいい加減にやっていれば、周りもそのくらいでいいんだと思ってしまうので、当然のことなんですけど、甘える気持ちというのがなくなっているなというのは感じます。おかしいなと思ったことに対しては自分が悪者になっても言わなければならないということに関しては全員意識が出てきたのかなと思います。嫌われるのが嫌だから注意しないようにしようというのが去年まではちょっとあった気がするんですけど、そういうわけにもいかなくなってきたので、変わってきたなという感じはしていますね。

――主将に就任して、後輩に対しての見方が変わったことはありますか

 特別何かが変わったっていうのはないですね。ただ、他の部員も成長しなければいけないというところで、今までは例えばトレーニングのスコアがあまり上がっていない後輩に対しては「あんまり上がってなかったね」みたいな感じだったり、「どうすればいいですか」って言われたら少しアドバイスをする程度だったんですけど、主将となると、頑張っているのに伸び悩んでいる選手に対して「どうすればこの選手の努力が実になるのかな」っていうこともしっかり考えないといけなくて。それをトレーニング計画に落とし込むというところは結構気を配って見られるようになってきたかなと思います。

――漕艇部にはマネジャーやトレーナーなどのサポートの部員も在籍していますが、そういった部員に対しての意識の変化はございますか

 マネジャー、トレーナーに関しては前々から頭が上がらないなって思っていたんですけど。我々がなに不自由なく部活動で練習して漕げるのはマネジャーさんたちがご飯を作ってくれて、練習に行く時も安全に行けるようにモータボートを動かしていてくれたりだとか、お金のことに関しても、自分たちがなにも考えなくていいように動いてくれていて。頭が上がらないという気持ちに関しては主将という役職に就いてからはより強くなりましたね。やっぱり意思決定をして何か部の方針だったりを決めなければいけないときに、意思決定をする人たちが事務の会計とかをしていたらいつまで経っても意思決定ができないので、そういうところを専務でしっかりやってくれていて。自分たちが動きやすいようにサポートしていただいているので、本当に助かっています。ありがたく思っています。

――昨年度全体を振り返っていかがですか

 軽量級(全日本軽量級選手権)ぐらいまでは個人的にもいい感じに来ていて、インカレ(全日本大学選手権)ぐらいまでもかなり良かったのかなと思います。インカレの時も個人的なところで言えば技術と体力がシンクロしているというか、頭で考えていることと体があっている印象はあったんですけど、やっぱり個人が良くてもチームで勝てないといいますか。去年のインカレはエイトで出させてもらったんですけど、やっぱりエイトだと8人の漕手と1人のコックスの9人で考えていることと体の動きが合わないと船がうまく動かなくて。早慶レガッタ、軽量級と積み上げてきたものがインカレ、全日本(選手権)まで積み上げ切ることができなくて。僕個人としては尻すぼみな感覚は残っていました。

――インカレでの結果というのはどう受け止めていますか

 インカレに関しては早慶戦で積み上げたものに加えて、クロアチア遠征に行ったりだとか、クロアチアのコーチを招聘して、いろんなノウハウを積み上げてきて。それがいいかたちで、これからもっと良くなるぞっていうところで、早慶戦に出ていないメンバーにも共有しようと軽量級で一旦他のクルーに分散したんですよね。そこからインカレで元のクルー戻ってきて、より高いところに持って行こうという意識で取り組んでいたんですけど、おのおので統一しきれなかった部分がありました。軌道修正してポイントを絞ってやっていこうって全日本(全日本選手権)に臨んだんですけど、結局時間足らずになってしまって。その点は去年の反省点ですね。

――現状の課題を挙げるとすればどういった部分ですか

 新体制になってからなんですけど、他大とかメダルをたくさん取っている他のチームに比べて、身体的能力のばらつきっていうのは結構大きいんですよね。トップアスリート推薦で入ってきている人もいれば、未経験から始めた人もいて、高校時代の実績はないけどボート競技が好きで大学でもやっている人もいるので。今まではトップ層、ミドル層が主力だったんですけど、4年生が抜けたときにトップ層が一気に少なくなったんですよね。なのでミドル層や、下の層をいかに底上げして、トップクラスのチームと戦えるようにするかというのは昨年からの課題で。全体の身体能力の底上げというのは新体制になって真っ先に取り組んでいる課題ですね。

――冬の期間は試合がない時期が続きましたが、身体能力の部分を重点的に取り組んできたのですか

 年が明けてからは早慶レガッタに向けて水上でボートに乗る練習も始めたんですけど、年が開けるまで前はとにかく徹底的にフィジカルの底上げのために時間を使おうって言って。寒い時期の朝練のときに「寒いなー、眠いなー」ってネガティブな気持ちでボートに乗るんだったら、暖かいところで徹底的に体力を上げたほうが絶対に効率がいいだろうと思って、11月、12月は陸上のトレーニングをひたすらやっていました。身体能力のトレーニングスコアは全体的に上がったので、それは効果があったかなと。最初は去年よりも全然低くてちょっと焦りもあったんですけど、今は去年の同時期の平均タイムよりも少し上回っていたので、そこから落とさずに、もっと向上させて右肩上がりにいければいいなと思います。

――ボートの乗っての練習でもフィジカルの向上は感じますか

 水上で特別船が速く動いているという感覚はないんですけど、仮で決まっている対校エイトの話をすると、平均身長は高いので、ダイナミックな動きができているというか、去年と比べてパワフルに動けていると思います。去年は比較的体が大きくなくて、テクニックで戦うクルーだったんですけど。今年はテクニックではなくてパワーが特徴のクルーなので、そこにテクニックがつけばいいところまでいけるんじゃないかという手応えはありますね。

――クロアチア遠征のお話がありましたが、クロアチアの方と交流して得られるものというのは何かありますか

 3年ぐらい前のオフシーズンにクロアチアとのつながりができて、遠征とかも行くようになりました。クロアチアはボートの強豪国なので、そこのノウハウを学ぼうっていうことで。毎年少人数で行って、ある程度吸収しているつもりではあるんですけど、全部はわかりきっていなくて。年々時間をかけて吸収をしてきて、昨年の9月に自分たちもクロアチアに行かせていただいて、現地で船に乗せてもらったりして。そこで世界の人たちはこういう考えで漕いでいるんだなっていう理屈がわかってから、世界レベルのボートの試合とかも見るようになって、だんだん理屈とかもわかってきて。世界的に有名なコーチや、内田監督(大介、昭54教卒=長野・岡谷南)が言っている指導の本質が自分たちのボートの動きにリンクしてくると言いますか、感覚の理論のすり合わせはだんだんできてきたんじゃないかなと思います。僕自身もそうですし、僕らの代の何人かもそういう感覚を持ち始めていると思うので、そういう点で行くごとに収穫はありますね。

――クロアチアの方との交流は部にとっては大きいと

 大きいですね。主に技術面で、どうやったらボートが速く動くのか、どうやったら効率よく船を漕ぎ切ることができるのかということについての考え方がだんだん自分たちの身になってきているという感覚はすごくあります。大きい額が動いているので、簡単な話ではないんですけど、支援していただいているOBの方や大学の方には頭が上がらないですね。結果でそれをお返しできるのが一番いいんですけど、まだ結果が出ていないので苦しいところではあるんですけど(笑)。確実に成果は出てきていると思います。

――ご自身の競技における強みや特徴などはございますか

 僕は特別に何かできることってあまりないんですよね。同期の中でも身長も一番小さいので。手足が長い方がこの競技は有利なんですけど手足も短くて、体格的には何も有利なところはなくて。身体能力も別に高いわけではないので、何か水の上に出て速さに還元できることってあまりないんですよね。なのでフィジカルの面では船に乗っていて自分に乗っていることがマイナスに働かないようにすることぐらいしかないと思うんですよ。ただ持久力に対しては少し自信があって、みんなが本当にしんどい時とかに「ほら行くよ、頑張るよ!」みたいなことは結構言えるんですよね。「お前しゃべりすぎだ」、「力入れて漕いでないだろ」って時々言われるんですけど(笑)、どこまで行っても声は出せるので、そこは強みだと思っていて。そういう部分はおととしぐらいからずっと意識して取り組んでいて、今年は仮でバウっていうポジションに決まっているんですけど、自分たちが見ている側からすれば一番後ろにいるので、一番後ろからクルーの士気を高め続けるという部分では少し自信があります。

――目指す選手像などはございますか

 難しいですね・・・(笑)。あまり考えたことはなかったですけど、やっぱり「お前が乗っていなかったらだめだったよ」って言われる存在になりたいというか。去年うれしかったのが、2番というポジションで出たときに、OBの方に「お前の2番は良かったよ。2番はお前にしかできないよ、最高の2番だよ」って言われたことで。それを乗っている人間から言われたらもっとうれしいと思うので、「お前が乗っていたから勝てた」って言われるような選手になれればなと思います。

――ご自身で、競技をやる上で大事にしていることはありますか

 限界まで追い込むことと言いますか、限界まで行ってそこを乗り越えようとすることに関してはすごくこだわっているなと思います。

――その点はご自身が強みに挙げた持久力という部分にもつながっているのでしょうか

 やっぱり精神論じゃないんですけど、ボートってすごく地味でしんどいスポーツなので、自分に負けそうになることって多々あるんですよ。そういうときに無意識に体が動いて、本当に勝ちたいという信念が勝つときって、敵に勝つんじゃなくて、自分の中の限界に勝てるかどうかなんですよ。なので限界を迎えるまで追い込むこと、妥協をしないことにはこだわっています。練習のメニューを考えるときもメニューの減量をすべきなのか考えることもありますけど、そこで減らすものって耐えられないものなのかって考えると、そこを乗り越えられれば自信にもつながるし、そこを削ったことで後で泣くことになるのであればそのときに歯を食いしまった方が良くないか、ということは常に感じています。

――現在は春休みですが、ボート漬けの日々といったところですか

 そうですね、基本的にはボートのことしか考えていないですね(笑)。同期は就活の時期でもあるので、時間ができたら就活をやってという感じです。

――では今は忙しくて、オフの日などもあまりないと

 そうですね、オフの日は就活をしていますし(笑)。あんまり遊びに出かけたりということは、本気で羽を伸ばしてっていうことはできていないですね。

――今年は大会が続きますが、なかなかゆっくりできる機会は少なくなるのでしょうか

 そうですね。時々リフレッシュできそうなときはリフレッシュしないと絶対にパンクしちゃうんで、部全体で日程を組んだりすることもあるんですけど、どこかで休みというかリフレッシュの時間はつくろうかなと思います。うまくパンクしないようにはしていきたいですね(笑)。

――藤井主将はどのようにリフレッシュをしていますか

 本当に疲れていて、どうにかモチベーションを上げようというときにはとにかく思いっきり寝ます。思いっきりだらだらするのが自分の中ではいちばんのリフレッシュですね。あまりどこかへ出かける人もうちの部には多いんですけど、自分の場合出かけると疲れるので(笑)。好きなだけ寝て、好きなもの食べてっていうのが一番のリフレッシュです。

――部全体でオフの日をつくるとお話しされていましたが、具体的にはどういったものでしょうか

 長期的に見れば早慶レガッタだったり、全日本が終わったあとにオフがあるんですけど。あとはちょっと話をしているのが、早慶レガッタまでの間に、チームの士気を上げるためにどこかでバーベキューをしようかっていう話をしています。

――新入部員はもう部で練習をしているのでしょうか

 スポーツ推薦やトップアスリート推薦で入ってきた子たちと、あと自己推薦の子とはしていますね。あと一部の入学が決まっていて、「もうボートを漕ぎたいんです」って言うモチベーションの高い子は3月のうちから来て、そんなにハードな練習はしていないんですけど、高校で部活を引退してから期間が空いているので、体慣らしの期間ということでボートを漕いでいます。

――主将から見て、新入部員の印象はいかがですか

 いやー、粒ぞろいだと思いますよ、本当に。自分なんかより身体能力で言ったらよっぽど上の子たちなので、いつ抜かれるんじゃないかってヒヤヒヤしているんですけど(笑)。

――トップアスリート推薦の選手も3人入学されますね

 そうですね。U19の日本代表だったりもするので、いい刺激になってくれることを期待していますし、僕ら含めて2、3、4年生は「絶対に抜かれないぞ」っていう気持ちを持って取り組んでいけるような存在になってくれると思います。

「その一日のために、ばかみたいに努力している」(藤井)

主将として挑む早慶レガッタへの意気込みを話す藤井

――早慶レガッタについてのお話に移りたいと思います。昨年対校エイトに初めて乗って優勝なさいましたが、当時の率直な気持ちというのはいかがでしたか

 僕は2年生の時に第二エイトで出場させてもらったんですけど、その時は漕いでいる最中すごくしんどかったのを覚えていて。それで勝ったときに、「今までのしんどさが報われてよかった」ってすごくうれしかったんですけど。対校エイトもそういう感覚なのかなって思って去年乗ったんですけど、やっぱり対校エイトと第二エイトって背負っているものの大きさっていうのが全然違うなと思いました。そんなことがあってはいけないんですけど、仮に第二エイトが負けたとしても対校エイトが勝ってくれれば『終わり良ければすべて良し』じゃないですけど、対校エイトの勝ち負けが部の勝ち負けっていうところは正直あると思うんですよね。なので、去年対校エイトに乗せていただいたときは背負っているものの大きさっていうのは感じましたし、第二エイトの時も勝って「おめでとう、おめでとう」って言われたんですけど、対校エイトの時は本当に自分の事のように喜んでくれる人がよりたくさんいて。本当に「これは絶対に負けられないんだな」という思いはしましたね。

――ほっとした部分が大きかったのでしょうか

 そうですね。ほっとした気持ちもありましたし、でもやっぱり勝って嬉しいという気持ちは強かったですね。早慶レガッタに関して言えば、早大と慶大のためだけにものすごい人とお金が動いて、観客も正直全日本やインカレとは比べ物にならないくらい見に来てくれるので、本当に主役を張っているわけじゃないですか。その中で勝てる快感っていうんですかね、それは他にはないものだと思います。勝てば一躍その日はヒーローなので。

――メディア等でも多く取り上げられますよね

 そうですね。一生にこんなことないんじゃないかっていうぐらいチヤホヤされるので(笑)。

――今年度は主将として臨むことになりますが、昨年度と比べてプレッシャーや心境は変わりますか

 去年も対校エイトで出ていたんですけど平部員だったので、言い方は悪いですけど、対校エイトが勝たなきゃいけないんで、とにかく対校エイトのことだけ考えていればよかったんですよ。今年はそういうわけにはいかなくて。第二エイトも勝たなければいけないし、女子エイトももちろん勝たないといけないし。その先には全日本やインカレのことを照準に入れなければならないし、広く、長いスパンで見なければいけないというところはすごく大きいですし、やっぱり勝つも負けるもすべての責任は主将である自分を含めたリーダーたちの責任なので。そこに対する重圧というのはすごく感じています。

――ここまで2連覇中で迎える早慶レガッタですが、連覇に対するプレッシャーは感じていますか

 個人的にはここまで2連覇していて、『二度あることは三度ある』じゃないですけど、3連覇をしたいという思いはあります。ただ、おととし勝って、昨年勝って、部全体として慢心とはではいかないですけど、「いけるだろう」っていう考えがないことはないと思うんですよね。そこはあなどってはいけないというか、決して慶大にはいろいろなデータの上でも勝っているわけではないので、そこはもう徹底的に意識付けをしていかなければいけないなと感じています。

――お話にも少しありましたが、今年の慶大の印象というのはいかがですか

 昨年とそこまでは変わっていないんですけど、体の大きさや身体能力っていうのは慶大の方が優っていると思っています。(早大の)対校エイトに限って言えば、今年がガタイが良いやつが多いので、ガタイだけで言えばそんなに遜色はないのかなとは思いますけど、第二エイトとかは向こうの方が大きいんじゃないかなと思います。正確なデータはないんですけど、そういう印象は受けていますね。あと、慶大は練習の量も結構ボリューム多くやっているので、そういう部分では自分たちが絶対に勝てると声を大にして言える自信は正直なところまだまだないですね。ただ、自分たちが今やっている練習の狙いだったり、この冬に取り組んできた身体能力の強化は絶対に間違ってはいないし、確実に積み重なっているので、これをしっかりやっていけば勝てるのではないかなという自信はあります。

――今年の対校エイトの特徴は体格が良いこととおっしゃいましたが、具体的な強みとしては

 ガタイがいい人が一人乗っているだけではボートって進まないんですよ。片側にしかオール付いていないですし。なので一人が大きくて力が強くても、反対側の人がそうでなければ船は曲がっていってしまうし、タイミングも合わないと船が動かないんですけど。今年はまとまって背が高いというのは強みとしてあると思います。クルーの特色としてはすごくまとまりが取れていることだと思います。みんなが好き勝手なことを言っていたりだとか、意見がまとまらないことって全然ないんですよ。クルーの中で自分が指揮を取ったりはするんですけど、「きょうはこういうことやってみよう」って提案したりしてもクルーでまとまって取り組めますし、話し合いをするにしてもちゃんと落とし所を付けて議論できているので、統一感っていうのはあると思います。

――統一感というのは藤井主将が意識的に取り組んでいることなのでしょうか

 いや、それはクルー一人一人から出てきているものだと思います。対校エイトに限っての話ですけど、今年は新4年生が多く乗っていることもあって、勝手を知っている人と乗っているので、すごく意思の疎通ができています。誰がどういうことをやろうとしているのかも言葉を交わさずともわかっていますし、指摘するところも的を得ていることが多くてすぐに修正できるので。そういう部分のコミュニケーションが円滑に取れて、一つにまとまっているというのはすごく強いかなと思います。

――ポジションが2番からバウに変わった、役割として変わる部分はありますか

 2番とバウは『バウペア』って呼ばれるんですけど、役割としてはそんなに大きく変わらないんですけど。船の揺れを一番大きく受けるところなので、ある程度揺れている中でもしっかりと漕がなければいけなくて。テクニック的にだいぶ難しい部分ではあります。それプラス、前に座っている人の動きも見えるので、誰の動きがずれているとかを指摘をする、誰かがへばってきたらと思ったら士気を上げるような声掛けをすることは重要な役割だと思います。声を掛けることに関しては下級生の頃からずっとバウペアに乗っているので慣れているんですけど、席は一つしか違わないとはいえ、バウに下がると漕ぎ味的にはだいぶ漕ぎづらくなったので、技術面はバウの方がより難しいかなと思います。

――早慶レガッタが行われる隅田川は波が高く、距離も長いですが、そこへ向けての特別な練習は何かしていますか

 基本的な漕ぎの本質と言いますか、スタイルを大きく変える必要はないのかなと思っています。昨年も実際に落ち着いた水面のところと荒れた水面のところで何か大きく変えたことはないので。ただ波が高いとオールが取られてしまうので、オールを高く上げるとか、そういった小手先の技術は必要になってくるので、そこに対しての練習は必要かなと思っています。

――早慶レガッタまで1ヶ月ほどですが、現在の心境としてはいかがですか

 まだまだ技術的な課題とかもありますし、部全体の早慶レガッタに向けたボルテージの高まりはまだ完成していない、発展途上だなという感じはしています。ただちょうど残り40日ほどで、ピークに持っていけないかと言われればそんなことはなくて、絶対にそこは突き詰められるところなので、そこは残り1ヶ月でどこまで高められるかっていうのは怖さ半分、期待半分というところではあります。日が経るにつれてプレッシャーというのは感じていますね。

――今季最初の試合となりますが、早慶レガッタはどういったものにしたいですか

 対校エイトはもちろん、第二エイトも、女子エイトも完全優勝で3連覇したいと思っています。シーズンのいい滑り出しにしたいなと思っていますし、ここで勝てるか勝てないかは今後の自信に大きくつながると思うので、勝って1ヶ月後の全日本にうまくつないでいきたいなと思っています。

――早大のキーマンに挙げるとすればどなたになりますか

 難しいところではあるんですけど、ストロークで仮に決まっている坂本(英晧、スポ4=静岡・浜松北)は大事なポジションかなとは思いますね。ストロークサイドとバウサイドっていうオールの向きがあって、基本的に今まで早大はストロークサイドに乗っている選手が先頭に座るかたちだったんですけど、今年はそれを逆にして、バウサイドの坂本がストロークになっているんですよね。そういう経験を本人はあまりしたことがないので、本人はいつも「不安だ、不安だ」って言っているんですけど(笑)。彼が練習を重ねるごとに良くなっているので、彼がいいリズムを刻んで後ろの人間が大きくのびのび漕いでっていうところと、リズムを刻むには後ろの人間からのバックアップがないと難しいので、彼をうまく漕がせていいリズムを維持していくことが今年の一つにキーになるかなと思います。あとは今4番に座っている瀧川(尚歩、法3=香川・高松)とかですかね。彼は去年インカレで2位に入賞したんですけど、未経験で大学から始めた人間で。やっぱり未経験の人でも対校エイトで、部の看板を背負えるところに乗れるんだぞっていうのは、いろいろな人のモチベーションにもつながりますし、彼自身の大きな自信にもつながると思います。彼はガタイも良くてパワフルなところが持ち味なので、そこを生かしてくれることを期待しています。

――早慶レガッタの見どころを挙げるとすればどんなところでしょうか

 他の大会だと試合のイメージが強いんですけど、早慶レガッタはある種催し物まではいかないですけど、お祭りみたいなものなので。大会を見に来られるお客さんには競技面じゃなくて、そういう雰囲気をすごく楽しんでいただきたいなと思います。早大と慶大だけでなんですけど、大学生がその一日だけのためにバカみたいに努力して(笑)、時間と手間をかけてきているその熱量を感じていただければなと思いますね。

――最後に、早慶レガッタへ懸ける意気込みをお願いします

 大会の日に何か特別なことはできないと思うので、練習から地道に積み上げてきたものを本番で花開かせられるように、頑張っていきたいと思います!

――ありがとうございました!

(取材・編集 林大貴)

◆藤井拓弥(ふじい・たくや)

1998(平10)年1月14日生まれ。身長172センチ、体重70キロ。山梨・吉田高出身。社会科学部4年。早慶レガッタの見どころについて、「大学生がその一日のためにばかみたいに努力して、時間と手間をかけてきているその熱意を感じてほしい」と藤井選手。若き精鋭たちの魂のぶつかり合いが今年も隅田川を魅了します!