【連載】『平成30年度卒業記念特集』第6回 伊藤大生/漕艇

漕艇

思い続けた『挑戦』

 全日本大学選手権(インカレ)や全日本選手権(全日本)で日本一に輝き、U23世界選手権の日本代表にも選出された実力者、伊藤大生(スポ=埼玉・南稜)。今年度は主将を務め、楽しさを忘れずに競技に取り組む姿勢を大切にしながら漕艇部を引っ張ってきた。そんな伊藤大のこれまでの競技人生や主将としてのラストイヤーを振り返る。

 ボートの強豪校である南稜高出身だが、「入学するまで強豪校だと知らなかった」という伊藤大。新しいことを始めたいという思いからボートの世界に足を踏み入れた。そこで1秒1秒タイムを縮めていく楽しさを覚え、次第にボートに夢中になっていった。着実に実力を伸ばしていった伊藤大は、高校2年時の総体で3位、3年時には5位に入賞するなど、その潜在能力の高さをうかがわせた。しかし、高校時代には一度も日本一の座を手にすることができなかった。そこで、早大OGである当時の指導者からの後押しもあり、早大に進学してその目標に挑むことを決意する。

 入部当初に掲げた目標は、高校時代にかなわなかった日本一と日本代表に選出されること。最初の目標を達成したのは、初めてのインカレだった。1、2年生からなる舵手付きペアのクルーは攻めるレースを展開し、上級生が多く出場するインカレで見事優勝をつかみ取った。その直後の全日本にもインカレと同じクルーで挑み、勢いそのままに制覇する。社会人のいる場でも力を発揮し、日本一の称号をつかんだのだった。若いクルーでありながらも全国の舞台で頂点に立つことができたのは、コーチからの一言があったからだった。「最強のチャレンジャーになろう」。このときから伊藤大は常にチャレンジする心を持つことに決め、『挑戦』という言葉を信条に掲げるようになった。

 その後も着々と力を付けていった伊藤大は4年生になると主将に就任する。それまでは自由に練習に取り組んでいたが、主将として部を引っ張らなくてはいけないという責任を感じるようになった。そこで、伊藤大はこれまでの主将とは違った雰囲気でチームをまとめていくことを決断する。歴代の主将は部員に厳しさを求めることが多かったが、伊藤大が最も意識したのは競技を楽しむという姿勢だ。「辛いばかりでは成長は止まってしまうし、楽しくやらなければ続かない」。そのためか部員に声を荒らげたことは一度もなく、周囲からは穏やかな主将と評された。そんな伊藤大はおのおのが課題をつぶしていくことを重要視し、主将として部員一人ひとりに寄り添うことを心がけた。しかしながら、皆が競技を楽しむことができる環境をつくり出すためには多くの努力があった。花形種目であるエイトではクルーリーダーを務め、時に多くの意見が出るクルーの方向性を決めること。主将としては出場種目や目標の異なる部員たちをひとつにすること。チームのために悩み抜いた一年だった。早慶レガッタこそ2年連続となる完全優勝を達成したが、インカレでは決勝に進出したクルーが一つだけにとどまり、全日本はメダルなしに終わるなど、シーズン後半は苦しい戦いとなった。「もう少し厳しさがあっても良かったのかな」。今はそのようにも感じている。それでも、根底にある考えに変化はない。「後輩たちには縛られずにやってほしい」と語る伊藤大は主将が競技を楽しむ環境をつくるという新たな風を漕艇部に吹き込んだはずだ。

最後のインカレにエイトのクルーリーダーとして臨んだ伊藤大(中央)

 また個人では、念願の日本代表に選出され、U23世界選手権に出場し、入部当初の目標を達成した。いくら実力を伸ばしても現状に満足することなく、『挑戦』する心を忘れなかったからこそかなえることができたに違いない。その達成感の大きさから、伊藤大は競技人生に区切りを付けることを選択した。「人生の土台になる一生の宝」。早大での四年間をこう表現する。早大でたくましく成長した経験を胸に、新たな場所でも自身の信じる道を突き進んでいくことだろう。

(記事 加藤千咲、写真 林大貴)