「最後に感情を爆発させられるほど、インカレにかけてみたい」。熱い思いを語ったのは男子ダブルスカルのストロークの中川大誠(スポ2=東京・小松川)だ。対してバウに乗るのは男子部の新入生では唯一インカレに出場する岩松賢仁(スポ1=熊本学園大付)。1年生ながら落ち着いた物腰からは冷静さが伺える。『熱烈』と『冷静』。一見して正反対の二人だが、優勝にかける強い思いは変わらない。そんな新進気鋭のコンビの実態に迫った。
※この取材は8月2日に行われたものです。なお本対談公開直前にクルー変更があり、中川選手は男子舵手付きフォアの2番で出場されます。ご了承ください。
新進気鋭のコンビ
安定した実力を持つ中川。部員からの信頼は厚い
――お二人が同じクルーになるのは初めてではないですよね
中川 そうですね。戸田レガッタでも一緒でした。
――戸田レガッタの時はエイトでしたが、今回はダブルスカルとのことでコミュニケーションをとる機会なども増えたのではないでしょうか
中川 元々寮の部屋が同じなので。コミュニケーション自体は少なくなかったです。むしろ他の1年生とか2年生よりも多いかなって感じです。
――寮は1、2年生が同じ部屋なんですか
中川 そうです。今4部屋あって、僕らは同じ部屋です。
――同じ部屋のメンバーで遊びに行かれたりとかはするんですか
中川 なんかしたっけ。そういえばしてないね。
岩松 してないですね(笑)。
中川 なんか企画します(笑)。
――お二人でクルーを組んでからはどれくらいですか
中川 7月の頭くらいに乗り始めたので、1カ月くらいですかね。ただ2週間前くらいに岩松が膝をけがして、今乗ってないんですよね。週末からまた乗れるかな、という感じです。
――では最近はあまり二人での練習はできていないということですか
中川 そうですね。彼は今足を使わない練習をしてて、僕はシングルスカルに乗ってます。
――岩松選手は初のインカレとなりますが、出場が決まった時はどう思いましたか
岩松 インカレのクルー選考で、エルゴのタイムの基準がありまして。その基準タイムを切れたのが1年生では僕だけだったんです。でもエルゴのタイムってそこまで重視されてはなくて、どうなるだろうなぁと思いながら待ってました。中川さんは長年漕いでらっしゃってすごい上手な選手で、吸収できることが多いなぁと思っていたので、決まった時はそんなにプレッシャーに押しつぶされそうな感じではなかったです。自分のレベルを中川さんのところまでしっかり上げて、やるべきことをちゃんとやっていけば順位が出るんじゃないかなとは思ってます。
――では今すごく緊張しているという感じではないのですね
岩松 まぁまだインカレまで1カ月あるのもあると思うんですけど。1週間前とかになったら緊張するかもしれないんですけど、この後合宿も控えているので、そこでどれだけ仕上がるかという感じです。
――中川選手は昨年に続いて二度目のインカレですが、昨年の自分と今の自分を比べてみてどうですか
中川 あんまり去年と変わってないのかなって。フィジカル的な部分はやったので成長してると思うんですけど、そんなにレースの場数が多かったわけではないですし、ポジションも去年と一緒なので。でも去年は1年生だったので、立場は変わりました。去年は言われた通りに頑張って漕げばよかったんですけど、今年は(岩松が)1年生で僕の方が学年は上なので、考えながら漕がなきゃいけないところも少なからずあるなと思います。あと、ボートへの価値観は変わりましたね。
――価値観とは具体的には
中川 今まではただうまく、速く漕ぐというように考えてたんですけど、今回は1年生と乗っているので、クルー全体を俯瞰して見るというか。自分だけでじゃなくて、やっぱりクルーがいてのクルーボートなので。例えば今のクルーの課題はどこにある、だとか全体を見られるようになったと思います。
――ちなみに今のクルーの課題はどういう点なんでしょうか
中川 (岩松が)けがをする前の話なんですけど。フィニッシュできれいに抜き上げて、フェザーの高さをきちんととっていればバランスがとれるので、それでエントリーをトップで入れるところです。船の動かし始めのポイントを合わせることが僕は最も重要なポイントだと思っていて、今はそこが弱いのでそこをテーマにしてやってます。
――これまでのクルーを見ても中川選手はストロークを漕がれることが多いですが、そこについて監督コーチ陣から何か言われていることはありますか
中川 うーん、キャラ的なものなんですかね。
岩松 ストロークとかバウとかは結構固定されますよね。
中川 そうそう、ストロークやってる人はストロークばっかりだし、バウの人もバウばっかりのことが多いので。まぁでも、他のポジションよりはストロークの適性の方が高いのかなって自己分析して思います。
――適正とはレートを上げられる点などでしょうか
中川 レートもそうですし、あとは駆け引きとかはできるかなと思ってます。
――岩松選手はご自分の強みをどういう点だと考えていますか
岩松 自分はどっちかというとバウとか後ろの方に乗ることが多くて。この前の東日本(東日本選手権)では例外的にストロークに乗りましたけど、そんなに自分の漕ぎを貫き通すことが得意ではないので、上手な方の漕ぎに波長を合わせて、その波長を増幅できるように心がけてやってます。高校の時もクォード(クォドルプル)の2番とかによく乗っていたので、前の人に合わせてドライブを出すという点については慣れてるつもりです。まぁ大学と高校とでボートのイメージが違うので、一筋縄ではいかないんですけど、ストロークと同調して力を増幅できるように頑張っていきたいと思います。
――大学と高校とで違うとの話でしたが、具体的にはどのような点が違うのですか
岩松 大学生と高校生では体のつくりも違って。年齢は1、2年位しか変わらないんですけど、練習の量とかウエイトのやり方とかも違うので、筋肉の量とかが変わってきます。僕自身も大学に入ってからかなり体感部分に強さが付いてきたと思ってて。高校の時は細かったんですけど、今はドラム缶みたいになっちゃって(笑)。あとは、漕ぎのスタイルも高校とは違います。新しい知識が増えました。
――ウエイトの量も増えたということですね
岩松 そうですね。僕は高校からウエイトは一応やっていたんですけど、その時はとりあえずやる、みたいな感じで。大学ではちゃんとトレーニングの理論に基づいて、教授の方が作ってくれたメニューを、トレーナーさんについてもらってやるので、効率的に無駄の少ないトレーニングができていると思います。
――膝のケガで漕げないここ2週間はそのようなウエイトをしていたのですか
岩松 そうです。主に上半身と、あと膝を曲げることができないので、太ももの筋肉とかも動かせなくて。その周りの(足の)筋肉を動かして、少しでも筋肉の萎縮を抑えられるようにやってました。上半身はできることが多いので、けがする前よりもプラスアルファでできてると思うんですけど、下半身は徐々に負荷をかけられるようにはなってきてるんですけど、やはり復帰してから苦戦するとは思ってます。そこは覚悟して追い込まないといけないと思います。
――反対に中川選手はこの2週間、シングルスカルでの練習はどのように行われましたか
中川 自分1人だけの世界になるので、自分の漕ぎと向き合う時間が増えたのかなと。クルーボートだとどうしても全体の課題とかも気になってしまうので、自分の漕ぎに集中できないこともあるんですけど。そういう意味ではシングルスカルで自分の漕ぎに集中して、課題に向き合えてるかなと。今はフィニッシュが課題なんですけど、そこを直すために時間を多く割けたかなと思います。
――お二人で別々のトレーニングをしていたということですが、その間はミーティングを増やしたりはされましたか
中川 ミーティングは特に…各自でできることを積み上げていって、合体した時にうまくいくっしょ!という感じですね(笑)。
――クルーとしての仕上がりはいかがですか
中川 うーん、漕げてないので仕上がってない部分も多いんですけど…バランスはきれいにとれてて、後ろ周りもすぐに課題は解決したんですけど、エントリーがあまりうまくいってないかなという感じです。動かし始めのタイミングですね。船も軽いので、そこをなるべく速く速くという感じに狙っていってます。詰められる部分はかなりあるって感じです。その課題の解決具合がインカレの結果につながってくるのかなと思います。
――では夏の練習ではどういう点を意識して漕いでいくおつもりですか
中川 クルーとして狙っていくべきは今言ったエントリーをトップで狙っていって、切り返しのスピードを限りなく速くして、なるべく止まらないようにするところです。あと個人的には岩松が合わせやすいように、ずっと同じような漕ぎをできればなと思います。
岩松 エントリーの部分の鈍さは自分でもわかっているので。なかなかすぐ改善できなくて混乱することもあったんですけど、この期間で一旦切り替えて、頭の中でイメージして臨めればなと思います。あと僕は足がだいぶ弱っていると思うので、しっかり足の力を戻せるように、あとけがも再発するかもしれないのでその状態も見つつ、できるところまでやれればなと思います。
勝手知ったる間柄
――ここで、競技面に限らずお互いの他己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか
中川 俺からやった方がやりやすいよね(笑)。まぁ、競技については今彼が自分でも言っていた通りかなと思うので、特に付け加えていうことは無いんですけど。日常生活に関しては結構いろいろあって。面白いんですよ、こいつ。
岩松 (笑)。
中川 まず、イヤホンオタクなんですよ。すごい音響に関してうるさくて。僕はそういうの気にしないのでイヤホンも安い奴を買ってきて聞いてるんですけど。岩松は(イヤホンを)いっぱい持ってて。「これはいくらしたんですよ!」とか教えてくれるんですけど、いまいちすごさがわからなくて(笑)。あと休みの日とかも店に行って視聴するらしくて。すごい好きみたいです。
岩松 そうなんですよね。高校の時からイヤホンが好きで。色々通販で買ったりとかしてたんですけど。僕は地元が熊本なんですけど、今よく行く専門店みたいなところには高校の時は通えなかったんですね。こっちに来てからは実物を見て聴いて買えるようになったので。もうこれは行くしかないと、暇なときはよく行ってます(笑)。
――イヤホンを多数持っているということですが、気分ごとに使い分けるということでしょうか
岩松 そうですそうです。例えば…気分でお茶と水とコーラって飲み分けるじゃないですか。そんな感じです(笑)。
――では今度は岩松選手から見た中川選手のお話をお願いします
岩松 競技的には中川選手は天才肌的なところがあって、自分もそのレベルにならないとなと思うことが多々あります。
中川 またそうやって…。
――とのことですが、いかがですか
中川 これ機嫌取りですよね(笑)。こいつ人の機嫌取るの上手なんですよ。そのくせ彼女の機嫌だけ取れないんですよね。いつも電話でケンカしてます。
岩松 いやいやいや…(笑)。本当ですって。
――中川選手の日常生活については
岩松 中川さんは電車に乗るのが好きみたいで。今愛知でボートのインターハイがやってるんですけど。そこに月曜日のオフで行く人が何人かいて。新幹線で行く人が大半だったんですけど、中川さんは夜行列車で愛知に行かれて。夜行列車に乗るついでにインターハイ見てきたみたいな感じでしたよね(笑)。
中川 (笑)。電車は乗る時はよく乗ります。青春18きっぷってあるじゃないですか。前に学校帰りに温泉に入りたいなと思って、同期のやつを一人巻き込んで熱海まで温泉入りに行ったんですよね。電車で。楽しかったです。
冷静に、熱烈に
岩松にとって初めてのインカレ。緊張はないようだ
――ではインカレの話に戻ります。まずはこれまでの大会を振り返っていかがですか
中川 僕は早慶戦には出なかったので。出られなかった人で戸田レガッタに出たんですけど、その時は割と伸び伸びとやっていたので、今までのレースを振り返って勢いは合ったのかなと思います。技術的な課題を勢いでカバーするっていうか(笑)。でもインカレはそれでは駄目なので。ちゃんと根拠のある自信を持てるようにしたいと思います。
岩松 僕は高校の時は大きな大会って遠征することが多かったんですけど。大体大きい大会ってここ(戸田)であって。景色が変わらないっていうか、寝る布団も同じだし、アップする場所も使う船も同じで、練習とあまり変わってない感じがするのが、僕としてはすごくよかったです。練習と変わらず勝手が分かっている感じで漕げるので。コーチにもよく言われて僕が心に留めてる言葉に、「試合は練習でやったことをやるだけ」というのがあって。練習でやったことを本番では120%出すなんてことは大体できないので、練習でやった通りにやるというのが大事だなぁと思ってます。そういう点でも会場が同じなのはよかったですね。
――部全体としてのインカレの目標はなんですか
中川 あ、それは後ろに貼ってあります。(「8+優勝、全種目最終日進出&メダル1つ以上」の張り紙を指さす)監督の方針で目標はいつも見えてた方がいいだろうとのことで、張り出してるんですよね。
――ではこのクルーでの目標はメダルということになるんでしょうか
中川 まぁメダルじゃなくて器(トロフィー)持って帰ってきてもいいのかなって。それくらいの狙いでやらないと、優勝狙いのクルーがいっぱいいるわけで、それを取れなかった人がメダルになっちゃうわけですから。やはり優勝狙いなのかなと。
――お二人が意識している他大はどこですか
中川 どこが速いっけ。
岩松 うーん、僕もこの前来たばっかりなので…一応毎年一定の強さを示してる日大は筆頭候補なのかなと思ってます。あと最近ガンガン来てるのが仙台大ですかね。その二つかなと思います。
――最後にインカレに向けての意気込みをお願いします
岩松 やることをやって、落ち着いて勝つという気持ちでやっていきます。
中川 彼は落ち着いて勝つとのことなので、僕は発狂しながら勝ちたいと思います(笑)。まぁ最終的に勢いがものを言うところはあると思うので。あと1、2年生でのクルーということですから、フレッシュにというか。最後に感情を爆発させられるくらい、インカレにかけてみたいなと思ってます。
――ありがとうございました!
(取材・編集 坂巻晃乃介)
若いクルーで優勝を狙います!
◆中川大誠(なかがわ・たいせい)(※写真左)
1999年(平11)3月8日生まれ。身長175センチ、体重70キロ。東京・小松川高出身。スポーツ科学部2年。ポジションはダブルスカルのストローク(対談当時)。先日行われた総体の観戦のために、愛知まで夜行列車で行ったという中川選手。いつか丸一日のオフを使って電車でどこまで行けるかの限界に挑戦してみたいと宣言していました!
◆岩松賢仁(いわまつ・けんと)(※写真右)
1999年(平11)5月29日生まれ。身長175センチ、体重73キロ。熊本学園大付高出身。スポーツ科学部1年。ポジションはダブルスカルのバウ。高校時代からイヤホンにはまっているという岩松選手。時間ができるとイヤホンの専門店に出かけていくのが趣味なんだとか。その専門店で色々なイヤホンを視聴していて、気付けば2時間が過ぎていたというエピソードもあるそうです!