【連載】早慶レガッタ直前特集『花信風』 第3回 S:田中海靖 × 3:坂本英皓

漕艇

 早慶レガッタ対校エイト初出場となる坂本英皓(スポ3=静岡・浜松北)と田中海靖(スポ2=愛媛・今治西)。二人とも初出場ということで、早慶レガッタに懸ける思いは人一倍強い。昨季の振り返りから、今季の目標まで幅広く語っていただいた。

※この取材は3月8日に行われたものです。

「対校エイトに乗ることを目指してやってきた」(坂本)

初の早慶戦、対校に乗れることが素直に嬉しいと語る坂本

――最近はどのような練習をしていますか

坂本 ちょっと前までは低い回転数でやっていたんですけど、だんだんレースに向けて、きょうはレースのペース-4くらいまでを試すというか、取り入れてみました。これから徐々に上げていく段階の練習をしています。

――仕上がりはいかがですか

坂本 試合で3750メートル漕ぐので、まだその距離を完璧に通せるレベルではないですけど、回転数を始める入りはいい感じにはまっています。

――コンディションはどうですか

田中 最初のほうはちょっと初めて先輩たちとやるということで漕ぎづらい部分もあったんですけど、雰囲気にも今は慣れてしっかり精神的にも体力的にも良いコンディションで臨めていると思います。

坂本 僕は一個上の先輩方とはやりにくさや緊張感は持ち込んでいません。クルーを組んだときから、すんなり入っていけました。彼(田中)のように緊張して最初は入っていけないというのはなかったんですけど、個人的には一度調子の悪い期間があって今復調してきたという感じです。

――お二人にとって初めての早慶レガッタとなりますが、早慶レガッタに対してはどのような思いがありますか

田中 僕は、去年手伝いとして対岸から見ていたんですけど、その時に先輩たちの勝った時の姿を見たときにすごく鳥肌が立って。その時に来年こそは隅田川で選手として出たいなと思って、この早慶レガッタには強い思いがあります。

坂本 昨年私は第二エイトに選考で落ちて早慶戦に出られませんでした。その時は完全優勝したんですけど、あまり手放しで喜べなかったというか、自分は部に存在する価値があるのかというところまで考えてしまいました。今年こそは絶対に早慶戦は対校(エイト)に乗るというのを目指して一年間やってきたので、対校に乗れたことに関しては良かったと思っています。

――今お話にもありましたが、去年の早慶レガッタはどのような気持ちで見ていましたか

田中 言葉では言いづらいですけど、僕は早慶戦を見たことがなかったので、たくさんの観客がいて、あのような大きな大会である中で、先輩たちもいろいろなプレッシャーがある中で完全優勝を成し遂げたのはすごいなと思いました。

坂本 僕は、自分が選手として完全優勝したわけではなかったので、部員としては嬉しかったですけど、個人的には悔しさが残ったと思います。

――昨季を部として振り返るといかがでしたか

田中 早慶戦後は、完全優勝はしたんですけどインカレ(全日本大学選手権)と全日本(全日本選手権)で、部としてそこまで良い成績が残せなかったなと思います。早慶戦から気持ち的に乗り切らなかった部分も多くあったかなと思います。

坂本 早慶戦を完全優勝したことで勢いに乗れるかなと思っていたのですが、各大会で仕上がり的には上位進出した他のクルーと遜色ないところまで仕上がっていたと思うんですけど、勝者のメンタリティが足りないというか、勝ち癖がないというか。やっぱり決勝の舞台に立てるかどうかは準決勝で決まりますが、そこでなぜか勝てなくて。決勝に上がっても、唯一表彰台に上がれない4位になってしまったり、本番で力を出せなかったり、勝負どころで本来の力を出せなかったのが昨季かなと思います。

――個人としては昨季はいかがですか

田中 僕はいろいろな大会に出させていただきましたが、シーズンの最初のほうは病気とかで皆さまにご迷惑をおかけして自分でも改めなきゃいけないなという思いがありました。シーズンの後半はしっかりそこを改めて、全日本では自分なりには、満足ではないですけどしっかりやりきることができたので、そこは反省を生かせてよかったなと思います。

――反省とはどのような部分ですか

田中 僕は、メンタル的に自分を追い込んでしまうので。気持ちの切り替えとかがあまりできなくてマイナスの方向に考えてしまうので、それが病気やケガにつながるのではないかと思いました。シーズンの終わりは前向きに考える気持ちで試合に臨んで、それが反省として生かせたかなという感じです。

――坂本選手はどうですか

坂本 舵手つきフォアで出させてもらったインカレが自分の転機というかターニングポイントになって、インカレで楽しく厳しく練習して自分がどういう漕ぎをすれば勝てるかというところが分かったので、インカレで成長できました。全日本では4年生の先輩とエイトに乗せていただいたんですけど、エイトでは自分の漕ぎをすれば良いだけではないので、また大きく挫折しました。全日本終わりは全日本新人選手権だったんですけど、インカレと全日本新人が同じところは、予選とか準決勝では全体タイムで2番とか3番とかにつけていたんですけど。インカレは2着でファイナルAには上がれなかったんですけど、そのときのタイムが全体で2番で。やはり勝ちきれないというか。また全日本新人で予選ではタイムが2番だったんですけど、いざファイナルを漕いだら4位だった。先ほどチームで言った勝ちきれないことを体現してしまいました。個人としては成長したんですけど、結果を見れば悔しさが一番に出てくるシーズンだったと思います。

――お互いの印象は

田中 僕は坂本さんと同じ部屋で最初の印象は面白い先輩だなって。

坂本 最初はね(笑)。

田中 今も優しくて面白い先輩ですけど、いつも会うたびに話しかけてきてくれたりするのがすごい嬉しくて、接しやすいです。

坂本 ちょっと面倒くさいよね。

一同 (笑)。

田中 返答に困るときはたまにありますけど(笑)、本当にすごい接しやすい先輩です。

坂本 本当に田中海靖君はなんでこんなにいい人なんだろうっていうぐらいいい人で、僕に特別なにかしてくれたわけではないんですけど、性格がすごく優しいというか。例えば人のことを悪く言ったりだとか、陰でおちょくるとかいったことが全くないというか。ノリで「先輩のことを呼び捨てで呼んでみてよ」とかいったときも「いや、僕にはできないです」とか言ったり、あんまり放送できないような言葉とかも「僕は絶対に言えないです」とか(笑)。すごい真面目でいい子なんだなっていつも感じています。

――実際に早慶レガッタに出場すると決まったときの心情はいかがでしたか

田中 僕はまず選ばれたときは素直に嬉しい気持ちと、去年成し遂げた完全優勝をことしももちろん狙って、早慶レガッタの舞台で同じ喜びを味わいたいなっていう気持ちが強くなりました。

坂本 対校エイトに乗るために1年やってきたので素直に嬉しい気持ちはありました。ただ、全日本選手権で思いのほか自分が予定していたよりも早く対校エイトに乗ると目されるポジションに乗ってはいたので、今回早慶レガッタの際に選考にかかったんですけれども、選考のときは「自分は1回乗った身だからここで負けたら面目丸つぶれだな」というぐらい緊張していて。一応それで選考は通過したんですけれども、どちらかというと嬉しさ半分ほっとしたの半分でしたね。それと、去年仮クルーが決まってからクルー変更があったので、そうならないように練習では常にハイパフォーマンスを継続しなければな、という意識もありました。

「自分がストロークとしてリズムを繋げる」(田中)

クルー最年少ながら重要なポジションを任された田中

――田中さんにお伺いします。2年生で唯一の対校エイトのメンバー入りを果たしましたが、その点についてはどう考えていますか

田中 そうですね、最初選ばれたときは嬉しい気持ちもあったんですけれども、その反面、自分がストロークを任されることになって、僕でいいのかっていう気持ちも最初はあって。まだ早慶レガッタを隅田川で漕いだこともないですし、レースの雰囲気とか要所要所のポイントとかをしっかりと把握できていない中で、僕が選ばれて不安と今でも緊張があります。でも、そこをしっかりと後ろの先輩方が最近プレッシャーを感じている僕をいろいろ気遣ってくれて、不安が和らぐような会話をしてくれたりして、今もだいぶ不安な気持ちがありますが、自分がストロークとしてリズムを繋げるんだ、という気持ちで今はやれています。

――自身の漕ぎの強みはどこにあると思いますか

田中 背はそんなに高くないじゃないですか。手足の長さを生かした長い漕ぎが自分の強みかなと思っています。

――逆にご自身の課題はどこにあると思いますか

田中 結構練習の中でもそうなんですけど、少し自分の中でリズムとか漕ぎとかが崩れてしまうとそのままずるずる長い間引きずってしまうので、そこをしっかり、崩れても自分の漕ぎを持ち直してキープできるようになることが課題かなと思います。

――その点については具体的にどのように改善していきたいと思っていますか

田中 そこはもう練習の中でしっかりと意識と感覚でやっていくしかないので、練習あるのみかなと思います。

――坂本さんにお伺いします。1年生のときより2年生のときの方が大きく成長したように思えますが、自分ではどうお考えですか

坂本 個人的に、1年生のときに早慶戦で悔しい思いをしたから2年生では対校メンバー入りを目指して頑張ろうと言いつつも、だからと言って前主将の内田さん(達大、平30スポ卒=山梨・吉田)みたいに必死で練習するということではなくて、1年生のときよりも自分が向き合う日々の練習でどのように頭の中で目指す自分への組み立てをしながら、ここの練習ではここを意識しながらということを考えるようになったのが1年生のときに比べて大きく飛躍できた要因なのかな、という風に思っています。

――坂本さんはご自身の漕ぎの強みはどこにあると思いますか

坂本 さっきこの人(田中)のストロングポイントを聞いて笑ったのが、自分も全く一緒なんですよね(笑)。

一同 (笑)。

坂本 自分は身長も高いんですけれども、手足も長いので、その長さを生かした大きくてしなやかな漕ぎというのはいつも意識して取り組んでいるので、それが体現できているのであれば、それが強みになるのかなと思います。

――手足が長いというのはボートを漕ぐ上では有利となるのですか

坂本 そうですね。単純にグリップの対角線にブレードがあるじゃないですか。腕と足が長いと自分の体の圧縮と解放の距離が長くなって体が動く距離が長くなるので、その分反対側のブレードが動く距離も長くなるので、手足が短くて身長が低い人とその逆の人が全く同じ動きをしたときには、大きくて手足の長い人の方が水面に力を伝えている距離が長くなるので、その分速くなるというのはあります。

――坂本さんが考えているご自身の課題はありますか

坂本 自分はまだパワーと心臓の強さとかで成長の余地があるので、まだまだ体の部分で強くなっていけると感じています。

――先程「勝ち癖がない」とおっしゃっていましたが、その部分はどう改善していきたいですか

坂本 今対校エイトで練習していて、常に調子がいいときの漕ぎができているわけではないので、調子がいい日もあれば悪い日もあるので。そこがある意味クルーの課題でもあると思うんですけど、常に状況に応じたベストの漕ぎができるようにならないと。相手に妨害されるスポーツではないので、その分自分たちが常にベストを出せるようにしておかないと。相手は強いので、自分たちが調子がいいときは勝てるけど、ちょっと環境が変わってくると勝てないとなると通用しないのかなと思っています。

――ご自身の早慶レガッタにおけるシートの役割はどのようなものであると考えていますか

田中 僕はストロークでリズムをつくるポジションなので、しっかりそのリズムを持続させることと、レースの中でのポイントポイントでしっかりレートを上げたりキープしたりということを把握した上で、いいリズムをつくっていくことが重要かなと思っています。

坂本 対校エイトは4年生が多くて、今自分は3年生とはいえ割と年下な方にいるので、下からの突き上げというか、盛り上げということも意識しながら変なことを言ったり。今日も練習の最後で「ラスト1周元気100パーセントでいきましょう」とか言ったり(笑)。そういう雰囲気の部分でも貢献したいと思っています。漕ぎに関して言えば、僕は後ろから3番目のポジションで、結構前にも後ろにも声が通りやすい場所に座っているので、前から田中がつくり出したいいリズムが伝わってくるので、それを後ろの2人までつなぎ続けるのと、真ん中の4人はエンジンのポジションなのでパワーを3750メートル出し続ける。みんながしんどいところで自分たちが頑張って田中とか飯尾さん(健太郎副将、教4=愛媛・今治西)を助けることを意識して漕ぎたいと思っています。

――早慶レガッタにおいて、クルーの目標はもちろん勝利だと思いますが、個人的な目標はありますか

田中 僕はまだ2年生で、ことしの早慶レガッタが終わってもあと2年近くあるので、ここでしっかり勝利を収めて、いい経験を積んで去年のようにならないように、早慶レガッタでしっかりと勢いをつくってシーズンにつなげていきたいと個人的には思っています。

坂本 そうですね、個人的な目標はこの早慶レガッタに向けた厳しい練習を積んで、その後にある基礎漕力測定で個人の漕力の測定ができるんですけど、その測定で飛躍的なタイムの向上を狙っています。

――今のクルーの雰囲気はいかがですか

田中 結構、雰囲気はいいものがあって…

坂本 嘘みたいに言うなよ(笑)。

一同 (笑)。

田中 坂本さんとかもしっかりクルーが練習の中で迷ったりしている中で、そういう言葉をかけてくださっているので、雰囲気も上がってきて練習も全員が気持ちをポジティブに持ったままできているのかなと感じています。

坂本 僕は去年の全日本のときは今まで部を支えてきた、インカレとかでも優勝してきた先輩方と一緒に乗っていて。そのときのエイトと比較してみると、飛び抜けた存在というか、絶対的な存在がいない分、やりやすくなったのかなと。今はおそらく全員が言いたいことを言えているのかなというのがあって。全日本選手権の時とかも自分が言えることがあっても言えなかったことがあって。自分も悪いんですけど。今は全体的にクルーを改善しようという声を先輩後輩関わらず言いやすい雰囲気なのかなと感じています。

――これから早慶レガッタまでの間、どう言った部分を中心に調整していきたいと思っていますか

田中 今の課題としては、坂本さんもおっしゃっていたんですけれど、練習の中でいいときもあれば悪いときもあるので、そこをしっかりと埋めて、練習の中で常にベストの漕ぎができるように。波が立っていても、風が吹いていても、どんな環境でもベストが出せるように練習の中でつくりあげていければいいかなと思っています。

坂本 田中も言ったとおり、練習の中でいいときと悪いときの差をどんどん減らしていって。そういう意味では第二エイトの方が練習の中で常にいい動きができているように感じているので、自分たちも見習って。いい漕ぎができているときに、自分たちがなぜいい漕ぎができているかをしっかり研究をして、もし悪い流れになりそうなときでも、コックスのジン(徐銘辰、政経3=カナダ・St.Andrew‘s highschool)のコールでまとまっていいところまで持っていくというのを繰り返していければいいのかなと思います。

――最後に、早慶レガッタへの意気込みをお願いします

田中 まずは何としても完全優勝を狙っていきたいと思っていますし、個人としてもしっかりこれがいい経験になるように、練習においても試合においても、自分が出せる最高のパフォーマンスが常に出せるように取り組んでいきたいと思います。

坂本 試合があしたというわけではないので、けがとかもあるかもしれないので、まずはしっかりと出場ができるように。パフォーマンスでもコンディショニングでもいいかたちで試合当日を迎えられればいいなっていうのと、出場するとなれば、僕は去年の分も取り返さなければならないので出場できることに感謝して、周りに感謝してしっかりと実力を出し切って、部の誇りと威信のために3750メートル漕ぎ通したいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 下長根沙羅、林大貴)

初めての早慶戦、それぞれの意気込みを色紙に書いていただきました

◆坂本英皓(さかもと・ひであき)(※写真右)

1997(平9)年11月4日生まれ。183センチ、72キロ。静岡・浜松北高出身。スポーツ科学部3年。ポジションは対校エイトの3番。対談中は終始熱く競技と早慶レガッタへの思いを語ってくださいました。つかの間のオフは、最近では外出することが多いという坂本選手。最近は東京スカイツリーに行ったそうです!

◆田中海靖(たなか・かいせい)(※写真左)

1998(平10)年10月27日生まれ。178センチ、73キロ。愛媛・今治西高出身。スポーツ科学部2年。ポジションは対校エイトのストローク。終始落ち着いた雰囲気で語ってくれた田中選手。オフの日は同じ部屋の山田候太選手(商2=東京・早大学院)と遊びに行くことが多いそうで、最近は美術館に現代アートを見に行ったそう。