【連載】第84回早慶レガッタ事後特集 第7回 中村拓

漕艇

 宿敵相手に快勝したかと思われたが、異例の失格判定を突き付けられた対校エイト。一歩も譲らない攻めのレースでクルーを鼓舞し続けたのはコックスの中村拓(法4=東京・早大学院)だった。ゴール後に味わった歓喜と判定を言い渡された時の絶望感。この耐えがたい現実と中村はどのように向き合っていくのだろうか。自身の思いと今後についてを語っていただいた。

※この取材は5月2日に行われたものです。

「反省が大きい」

自身最後の早慶レガッタを振り返る中村

――早慶レガッタから2週間が経ち、現在はどのように過ごされていますか

 もう夏に向けて切り替えて、いまは軽量級(全日本選手権選手権)という大会が目の前に控えているので、それに向けてもう一度基礎的なところから積み上げているという段階です。

――早慶レガッタを終え、率直な感想をお聞かせください

 手応えを感じた部分があった反面、個人的な反省が半分。なかなか複雑な感想です。

――今回の結果についてはどのように思われていますか

 レース自体は良いレースができたと思っているので、その点は良かったなと思えます。ですが、結果はこういう結果になってしまったので、やはり艇を動かす僕のポジション的には反省が大きいというか、結果的にこうなってしまったのは僕の責任が大きいなというふうにすごく重く感じています。

――その後の他のクルーの皆さんの様子はいかがでしたか

 なかなか悔しい部分もあったと思うのですが、いまはもうだいぶ切り替えてやっています。みんなも手応え感じた部分もあったみたいなので、その良い部分は引き続き伸ばしていき、もっと詰められる部分は詰めていけるような感じで冷静にやってくれているとは思います。

――レース前は緊張されましたか

 あまり緊張はしなかったですかね、きょねんとかに比べると。プレッシャーはかなりあったのですが、緊張はしなかったですね。結構良い状態だったと思います。すごくみんなを信じて、あとはやるだけかなというような感じだったので。

――当日に内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)から何か声を掛けられたりしましたか

 あまり細かい話はなかったかなと思いますね。あまり覚えてないのですが、いままでやってきたことをしっかり出して、というような感じだったと思います。

――当日のレースプランは

 スタートは(慶大よりも1艇身前に)出ている状態だったので、前半をしっかり出たかたちで余裕を持って相手を見ながらやっていくというのがプランでありました。スタートで雰囲気にのまれてしまわないかということがポイントだったと思うのですが、そこもうまく越えて。コンディションもわりと荒れていたとは思うのですが、良いかたちでレースに入れて、展開もすごく良かったと思います。相手を見ながら、そして途中の橋とか勝負どころでもしっかりとまとまれたと思います。プラン通りにわりとうまくレース運びができたと思っています。

――当日はどのようなことを意識して声掛けをしていましたか

 やはり雰囲気がいつもと違うので、なるべくいつもと同じような漕ぎができるように、かつ、普段よりも冷静に漕げるように自分がいろんな状況を言ったりだとか細かく指摘したりだとかしていました。自分がとにかく冷静にコールするように、ということを意識していましたね。そうすればクルーも冷静に漕げると思ったので、そういうことを意識してコールしていました。

――当日の隅田川の波はいかがでしたか

 アップの所がすごく荒れていて予想していたよりも波が小さくなかったので、ちょっと驚いた部分もありました。アップは臨機応変に対応して、スタートもうまく決まったので、そこからは自分たちのリズムで良い感じにできたかなと思いますね。

――スタートでは慶大がうまく着けずに何度かやり直ししていましたが、ワセダクルーへの影響は何かありましたか

 ちょっと長いな、くらいじゃないですかね。僕はわりと波があって着けるのに時間が掛かるだろうなとは思って早めに着けていました。慶大が遅れちゃった分は体冷えたりとかはあったかもしれないですけど、ちゃんと落ち着いてレースに入るという意味においては先に準備していた分、よくできたかなとは感じましたね。

――当日のユニホーミティーはいかがでしたか

 あまりやばいなと思うようなポイントはなかったと自分では思っています。やはり途中途中、ずれるところもあったのですが、そこは想定内だったので、そこをうまくつぶしていけばいいと思っていたので。(クルーが)うまくコールにも反応してくれて、少しずつ微調整しながらも、全体的には良いユニホーミティーでした。きょねんよりは少なくとも全然良いユニホーミティーでできたのではないかなと思います。

「全員で一つになって漕ぐ」

――昨年から変えた点はありましたか

 大きいのは監督が代わって、すごく一個一個基礎から徹底的に積み上げてきた部分があって、わりと全員が同じイメージで練習ができたのかなということがあります。クルーで意識的にやったのは、ミーティングとかでちゃんとイメージというのを常々確認していました。ちゃんと言語化して、みんなが同じ言葉で一つにまとまれるような作業を丁寧にやっていました。あと、水上に出る前のアップとかでも、基礎的なところを確認したりとかして。そういう一個一個が最終的なユニホーミティーにつながったかなと思いますね。

――ご自身のコックスとしてのかじの切り方でポイントとなった点はどこでしたか

 特に前半というか吾妻橋越えるまでは良い感じでできていたと思います。あそこ越えてからですかね。ちょっと吾妻橋で(艇が)膨らんで、そこから修正が入るようになって、自分の中でのラダーワークが少しぶれちゃったかなと。ちょっと難しいのですが、ポイントとなったのは吾妻橋以降だと思います。

――当日の慶大の漕ぎの印象はいかがでしたか

 いつものようなまとまりがない感じで、ちょっとバシャバシャ漕いでいるかなという印象でしたね。ただ、レースになってどうなるかということは最後まで分からなかったので、あまり慶大のことは意識していなかったです。ですが、やはり例年に比べるとバタバタ漕いでいるなと見ていて思いました。

――1艇身差を保ち続けて漕いでいくということはクルーの皆さんにとって、気持ちとしては楽に漕げたのでしょうか

 そうですね。だいぶ違ったと思いますね。相手が見えている分、余裕があるのかなという漕ぎ方だったので、もうちょっとスタートとかで詰めることができても、また違った展開になっていたのかなと思いますね。スタートの入りからも良い感じで入れたので。相手との距離感もそうですし、自分たちのリズムもそうですし。そういう意味でも、漕手たちは漕ぎやすかったとは思いますね。

――コックスとしてスタートからゴールまで見ていて、漕手の皆さんの様子をどのようにご覧になっていましたか

 本当に良い感じにやっていましたね。集中していましたし、全員で一つになって漕ぐということがすごく伝わってきましたし。わりと本番になると、気持ち的に舞い上がって(漕ぎ方が)バタバタなるということがなくはなかったのですが、そこをずっと言って修正してきたので、結果的に本番でもバタつくことなく落ち着いて漕げていたので、すごく良い漕ぎをしていたと思います。

――今回のレースをどう評価されますか

 ユニホーミティーに関してはすごく良かったかなと思いますね。ここ例年と比べるとかなり違っていたかなと思いますね。その上でやはりまとまるだけじゃなくて、一本一本のレンジの長さにこだわってやってくることができたので良かったです。ただ、これを2000(メートル)で、このユニホーミティーを表現したり、よりスピードレースになってくることを考えると、もっともっと詰めていかなければならないと思います。2000(メートル)の分、競った展開とかは増えてくると思うので、そういうところで出るような勝負強さというのはもっと高めていく必要があるかなと思います。

――ゴール直後のお気持ちは

 もう良いレースできたなっていう感じでしたね。いや本当に気持ちよかったですね。

――その後、判定を聞いてからはいかがでしたか

 何も考えられなかったですね。自分がやっぱりコックスなので。何も考えられなかったというか、頭真っ白という感じで。とにかく結局自分がかじを切っていたわけで、自分がコースをつくっていたので、結果として失格というのは自分が全部壊してしまったなというか、あの時は真っ白でしたね。

――その後クルーの皆さんとはどのような話をされましたか

 僕はやはりみんなにはとにかく、自分が結果としてレースを壊してしまったというところですごく責任を感じている、ということを話しました。みんなとしては自分たちが良いレースをできたという実感があったので、次に切り替えましょうというか、ポジティブな言葉をクルーのみんなからは掛けてもらいました。そういう部分ではすごく救われたというか、良いクルーに恵まれたなと思いましたね。

――内田監督からは何かお話はありましたか

 やはり漕ぎはすごく良かったし、良いレースをしていたということで、今回の結果を悲観せずにと。僕自身に関しても、責任は監督やコーチ陣にあるということを監督がおっしゃって、それに従ったお前のかじは正しかったぞ、というふうな声掛けをしてもらったので、そういう意味でもすごく救われた気はしました。まあでも難しいですね。自分としては反省しなければならない部分は少なからずあったのかなとは思います。

「忘れたくても忘れられない大会」

気持ちを新たに再始動する

――コックスとしてここまでクルーの皆さんをまとめてこられて、クルーの皆さんの変化や成長は感じられましたか

 わりと今回のクルーはあまり浮き沈みがなく、順調に良くなっているということは見てとれました。最初はみんな硬さがあったり、緊張があったメンバーもいたとは思うのですが。でもどんどん声出しをしてくれて、一つになろうという気持ちも見られましたし、すごく一人一人が成長していくというのを感じられて、すごく良い期間だったかなとは感じられますね。

――高校時代も含めここまで4回、早慶レガッタに出場されていますが、早慶レガッタという大会は中村選手にとってどのような大会になりましたか

 忘れたくても忘れられない大会。良い思いも悪い思いもしましたね。(おととしの)第二エイトの劇的な勝利にしても、きょねんの微妙なかたちで負けたレースも、ことしの微妙なかたちで終わったレースも、全部がすごく印象強いですね。(対校エイトで)勝ちたかったですけどね。まあ一生忘れることはないかなと思います。

――観漕会では勝利を挙げ、早慶レガッタ当日も記者会見で慶大の吉田航主将が「実力的には負け」とおっしゃっていましたが、このことについてはどう思われていますか

 何をもって実力というのか分からないですけど、漕ぎに関して言えばやはり自分たちの方が良い漕ぎはしたのかなという自負はありますね。でも何をもって実力と言うかは難しいですね。

――このクルーの成長は今後につながると思いますか

 そうですね。やはりクルーづくりという面でも、すごく自分にとっても手応えがありましたし、きょねんに比べたらだいぶポジティブな面は増えました。それが結果にも出たということで、手応えはかなりつかめたので、そういう意味では良かった部分もあるかなとは思います。夏につなげることができる部分もあると思います。

――今後の目標と意気込みをお願いします

 僕は軽量級に出ないことになったので、次は夏のインカレ(全日本大学選手権)と全日本(選手権)があって、まずインカレに向けてもう勝つしかないと思っているので、自分の思いを晴らすためにもそれに向けて全力でやって、本気で勝ちにいくっていうところですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 須藤絵莉、写真 渡部歩美)

◆中村拓(なかむら・たく)

1994年(平6)3月28日生まれのO型。身長175センチ、体重55キロ。東京・早大学院高出身。法学部4年。2014年度成績:第83回早慶レガッタ対校エイト2位、第41回全日本大学選手権M8+3位、第92回全日本選手権M8+7位