がむしゃらに漕ぎ続け、4年目にして初めて勝ち取った対校エイトのシートの座。藤井英貴副将(スポ4=東京・本郷)は最後までクルーを盛り上げ、鼓舞し続けてきた。最初で最後の大舞台にどのような思いで臨んだのか。伝統の一戦を終え、いまの率直なお気持ちと今後への意気込みなどを熱く語っていただいた。
※この取材は5月3日に行われたものです。
「みんなで勝つという意識」
憧れの早慶レガッタに挑んだ藤井副将
――早慶レガッタから2週間がたちましたが、いまの率直なお気持ちをお聞かせください
普通に自分の早慶レガッタ終わっちゃったなという感じですかね。4年生になると不思議と一つ一つのレースとかに悔いは残らなくて、それまでの3年間とか4年間をどちらかというといま悔やんでいる感じですかね。
――それはどのような部分を悔やんでいらっしゃるのですか
一言で言うと、もう一年早く経験しておけばよかったなとか、もう少し何かできたのではないかなという、レース以前のことを思いますね。
――現在はどのように過ごされていますか
いまは今月末にシングルスカルで大会に出るので、そこに向けて練習をしているというところですね。
――他のクルーの皆さんの様子はいかがですか
対校エイトメンバーは例年になく、今回のことがある意味いいきっかけとなり、日大を倒して日本一になる、という下級生を含めて明確に目標が持てているので、その夏に向けておのおのが課題をつぶしながら、次に向けて練習しているというところですね。
――今回の早慶レガッタの結果についてはどのように受け止めていますか
結果は普通に受け止めていますね。3年間でもっと何かしておけばよかったなとは思うのですが、それは今後の人生に何か生かせればいいかなという感じですね。
――レース前は緊張されましたか
いや、あまりしなかったですね。ただ、第二エイトが負けたというのを見て気は引き締まったのですが、緊張はしなかったですね。わくわくしていました。
――当日はどのような気持ちで臨まれましたか
大きく3つあると思っていて、1つ目はいままで自分を支えてくれた家族や高校のラグビー部の友達とかボート部のサポート含めて、そういう人たちに感謝するということですね。あとそれに加えて最近自分のモチベーションなのですが、2つ目は入部した時の自分の夢と死ぬ間際の自分を裏切りたくないなと。そのために勝ちたいなということがありました。あと最後はやはり後輩がすごくついてきてくれたので、一番はやはり後輩を勝たせたいなということがありました。
――クルーを組んでからいままでで、どのような部分に成長を感じましたか
結果から言うと、みんなで勝つという意識が結構浸透したのかなと思います。前から僕が感じていたワセダの課題なのですが、やはり高校の時に2人乗りなどに乗っていて個の影響する部分が大きく、ある意味個で打破できた選手がいたと思います。でも8人乗りになったときにやはり個で打破できる部分には限界があるので、全員でどうにかしようという意識はクルーとしてものすごく浸透できたのかなと思います。
――当日のレースはどのように展開されましたか
あまり覚えていないのですけど、僕が結構言っていたのは、「一本も慶大より遅いストロークをつくらなければ絶対に勝てる」と言っていて、それができたのかなとは思っています。
――全体のユニホーミティーはいかがでしたか
すごく良かったなと思っています。もちろん夏を見据えて日大どうこうという話になると、まだ甘さであったり、詰めないといけないところはあるのですが、4月の段階で勝つ隅田川というポジションでそれなりのユニホーミティーは出せたのかなというふうには思っています。
――当日の隅田川の波はどう思われましたか
なんか楽しかったですね(笑)。僕は隅田川で漕ぐということが最初で最後だったので、やっと隅田川で漕げているという実感があり、波が高ければ高いほどわくわくしていました。
――波の対策は皆さんで何かしていましたか
テクニカルの面で言うと、オールを水面から高く上げるということをやったのと、コックス陣は水よけみたいなものを付けていて、それが昨年と変えて改良したというところですかね。
「スーパーコールは誰でもできる」
――今回の自分たちの漕ぎをどのように評価しますか
多くのOBの方に言われたのは、ここ5、6年の中では一番良い隅田川の漕ぎをしていた、ということを言われたのですが、それはあくまでも慶大と過去のワセダでの相対的な評価であって、僕たちが比較しなければならないのは日大です。なので、そこを考えたらまだまだなのかなと思います。ただ(日大が)見えてくる立ち位置には来たかなと思いますね。
――今回4番、そして副将としてどのような役割が果たせたと思いますか
とりあえず盛り上げるということに尽きるかなと思います。最近思うのは、ボートにスーパープレーはなくて、そしてスーパースターは一人しかいないですけど、スーパーコールは誰でもできるなって思っていて。やたらめったら叫ぶわけじゃないですけど、藤井がコールするとみんなが変わるみたいなことを意識して常に声は出していましたね。
――何か意識してコールしていたことはありますか
ある意味、長田(敦主将、スポ4=石川・小松明峰)を立てるじゃないですけど、やはり僕を含め、みんな個でばらけちゃうところがあったので、まずは僕が必死で長田についていくからみんなでついていこうという姿勢は常に見せ続けました。
――ゴール直後のお気持ちはいかがでしたか
最高でしたね(笑)。
――慶大よりも先に桜橋を通過する時に観衆の姿を見ていかがでしたか
やはり横は見られなかったのですが、やっと勝ったな、という感じでしたね。ずっとワセダは負けていたじゃないですか。レジェンドじゃないですけど、よっしゃ、みたいな感じでしたね。
――その後の判定を聞いてからのお気持ちはどのようなものでしたか
正直、人生って残酷だなと思いましたね。負けるなら、素直に負けたかったです。僕は言ってしまえば、世界三大早慶戦の早慶レガッタがあるからこの部に入ってもっと言うとワセダに入学して、最初で最後の隅田川のレースでこんな気持ち悪い終わり方あるのかなって。報われないなとずっと思っていました。
――レース後の記者会見で慶大の吉田航主将が「実力的には負け」とおっしゃっていましたが、そのことに関してはどのように思われていますか
実力的には勝っていたかなというところはあります。しかしさっきの話になりますが、僕の3年間の後悔というか。言問橋で1艇身半(差)じゃなくて、5艇身出ている実力があればおそらくあのかじを取らなくて良かったと思うんですよ。まあ中村(拓、法4=東京・早大学院)はどんな状況であろうとあのコースを取ったと言うと思いますが、僕らが仮に5艇身とか10艇身とか(慶大よりも前に)出ていたら、そんなコース取りをたぶん彼はしなかったと思うので、そこの5艇身、10艇身をつけられなかったということに関しては、実力がなかったのかなと思いますけどね。
――その後、クルーの皆さんとは何かお話されましたか
特に深い話はしてないですけど、みんな口にしていたのは「(今後見据える先は)日大だね」ってところでしたね。
――内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)からは何かお話はありましたか
お前たちはよくやったと。やはりコース取りの指示とかは監督やコーチ陣の指示じゃないですけど、攻めろという指示があったからお前たちは何も悪くなくてベストパフォーマンスは出してくれたということで、責任を取らなければいけないのは自分たちだということはおっしゃっていました。
――それまでの内田監督のご指導はいかがでしたか
まったく不満はないですね。本当にいまの自分のモチベーションは後輩たちをもっと成長させたいというのと、内田監督を勝たせたいということが自分の中ですごくあるので。何も不満はないですね、感謝しかないです。
――早慶レガッタという大会は藤井選手にとってどのような大会になりましたか
たぶん死ぬ時に後悔する人生の瞬間ビッグ3に入るだろうなって。それを糧に今後の人生に何か使えればいいかなとは思いますけど。まあでもたぶん死ぬ時にちらっとは思うだろうなって(笑)。
――ビッグ3とおっしゃっていましたが、いままでに何か大きな出来事はあったのでしょうか
いや、今後何があるか分からないじゃないですか(笑)。離婚しちゃったとか子供がぐれちゃったとか(笑)。いままで何かあった訳じゃないですけど、いままでの中でほぼ一番の衝撃だったと思います。
四年間の集大成を見せる
例え話を交え具体的に語ってくださった
――これから夏に向けて、どのように取り組んでいきたいですか
個人としては、四年間の集大成じゃないですけど何かしらのかたちとか成果を残せればいいなと思っていて。まあでも副将として、良いかたちで引き継がせてあげたいなということをすごく思いますね。
――ここまでの練習と当日のレースを振り返り、何か修正点や課題などは見つかりましたか
個人として細かいところはいっぱいあるのですが、日大を考えたときに俺は戦力になれていないなということを正直思ってしまいましたね。練習で日大と練習試合をして、その時一応勝ちました。いままでは長田や石田くん(良知、スポ2=滋賀・彦根東)とかにおんぶに抱っこでついていけば勝てたのですが、俺が日大と1対1で倒せない限り、俺は足手まといの存在なんだろうなっていうことを少し思ってしまったので、もっと自分として実力アップしなければいけないなと思いましたね。クルーの課題は、やはり貪欲に個々が艇速というところにフォーカスした方がいいのかなと。やはりみんな逃げ道をつくってしまっていて。例えば、俺はウエートが上がるからとか、俺は艇を進ませるのがうまいからとか。そういうことじゃなくて、どれだけ日大と比べて結果的に速く艇を進められているのかというところから、もっと逃げないでちゃんと向き合わないといけないのかなと、ちょっと思いましたね。
――最後に今後の目標と意気込みをお願いします
ちょっとレベルが低いかもしれないですけど、まずはもう一度対校エイトの4番ないしはどこかのシートに座るというのが最初の目標です。ある意味僕がそこに乗れれば、その先に日本一というのが本当に見えてくると思うので。それは僕のレベルが高いからではなくて、いま必死にもがいている後輩たちや同期がいて、その中でそのシートを取れれば実力が付いているということだと思います。まずは対校のシートを取って、その先で日大を倒していきたいと思います。あとはもっと後輩たちをうまく成長させてあげたいなということをすごく思いますね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 須藤絵莉、写真 井上陽介)
◆藤井英貴(ふじい・ひでき)
1993年(平5)6月29日生まれのB型。身長178センチ、体重74キロ。東京・本郷高出身。スポーツ科学部4年。2014年度成績:第83回早慶レガッタ第二エイト2位、第92回全日本選手権M4-6位