【連載】早慶レガッタ直前特集『逆襲』 第8回 内田大介監督

漕艇

 昨年の早慶レガッタ後からの監督就任となった内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)。『One WASEDA』というスローガンを掲げ、ワセダの漕艇部にさまざまな変革をもたらしてきた。この一年間どのような信念で選手を指導し続けたのだろうか。ワセダに足りないものを埋め、新たなステージへ――。絶対に負けられない伝統の一戦を前に、現在の心境を伺った。

※この取材は3月8日に行われたものです。

「部全体のベクトルがしっかり定まってきた」

笑顔を見せつつ選手たちへの熱い思いを語った内田監督

――現在のチームの状態はいかがですか

まず対校エイトについてですね。個人の基本的な漕力や基礎体力は、このオフシーズンを通じて非常に高まっています。それはいろんな指標からきちんと結果が出ていて、正しい方向に来ていると思います。ただ、8人が乗るわけでそれを合わせるのに、いまのところはまだ完全には合い切ってないのかなと。ユニホーミティーと言いますか、合わせることで一人一人持っている力を100パーセント出し切れるところまで来てないと思いますね。それから第二エイトは、基礎漕力は若干対校エイトよりも落ちますけど、8人で漕ぐということについてはかなり良い状態に来ていて、持っているパフォーマンスを十分に発揮できるところまではできているかと思います。女子クォド(女子舵手付きクォドルプル)については、これはメンバーの選考方法からかなりし烈な争いでした。U-23の世界選手権の選考に出る選手が2名おりますけど、その選手たちの2つのポジションは確定していました。あと残りの2つですよね。ここのポジションはかなりし烈な争いのシートレースがありまして、僅差で勝ち抜いた2人が残ったと。たまたまそれが1年生だったのですが、2年生も本当にそこに肉薄していて、誰が乗ってもおかしくないという感じでした。なので、非常に質の高い4人が選ばれました。

――現在はどのような練習をされているのですか

オフシーズンに入ってから、この1月、2月、3月の時期に水上のボリュームのあるトレーニングができる体づくりをしようと。まずはケガをしないということですね。そういう基本的な基礎体力を高めようとトレーニングしてきました。いまは水上トレーニングで非常にボリュームを増やして、一日に何十キロも漕ぐというトレーニングに入っています。

――昨年の早慶レガッタ後からの監督就任となりましたが、この一年間選手の皆さんをご覧になり、どのような部分に成長を感じますか

まず部全体のベクトルがしっかり定まってきたということが言えます。いままでもそうでなかったということはないのですが、よりいっそう何をしたら良いか、そしてそれをどのくらい積み重ねればいいのかということに、個人個人のベクトルがしっかり定まってきました。部全体としても意識の低い選手が少ないし、質の高い練習をしようという意欲的な選手が多くて、良い雰囲気だと思います。

――内田監督はどのような経緯で監督に就任されたのですか

前監督(岡本剛前監督)が、ちょっとご高齢であったり、体調も優れなかったということでバトンタッチを致しました。私は高等学校の指導経験が長かったので、おそらくいまのワセダが基本的なレベルから選手を育てていくというシステムを作っていかなければならないという必要性をみんなが感じていたということで、私に依頼があったのだと思います。私の方針としては『One WASEDA』という理念を出しているのですけれども。この理念は、コーチ、監督、選手については選手の発掘、育成、そして強化。この好循環のサイクルを作っていくと。それからOBですね。同窓会についてはそれを支えていく支援システムを作っていくと。この二つを合わせて『One WASEDA』という理念で、現在みんなが同じベクトルを向いているということですね。

――昨年までのレースはどのようにご覧になっていましたか

私の外から眺めていたワセダのクルーというのはですね、男子については質の高い選手が集まってはいるけれども、先ほども申し上げたように、どこを目指していくかということがばらばらだったように感じます。そこがトレーニング、テクニカルな部分で、もうちょっと導いてやればもっともっと上位を狙えるチームになるのではないかなということを感じていましたので、外から眺めている時にはそこがもったいないと感じていました。女子に関しましては、一時、ワセダの女子が女子の大学ボート界を総なめしていた時代もあるのですけれども、徐々に他の大学の入試システムや選手の獲得が進むにつれて、分散してきました。ワセダの女子も昨年までは、高校時代の貯金で頑張っていたということもあるのですが、この一年で1年生がすごく成長しまして。それも高校時代に世界選手権に行っていなかった選手がトップクラスのレベルまで来ていますので、女子に関してはワセダで育った選手がこれから活躍していくだろうなということが、昨年とことしでの差別化かなと思います。

――長田敦主将(スポ4=石川・小松明峰)と土屋愛女子主将(スポ4=新潟・阿賀黎明)の印象は

長田君はですね、自己の漕力、それからメンタルは素晴らしいものを持っています。それに加えて、ここに来て主将になってから、チームスポーツとしてどうやればチーム全体のレベルが上がっていくかというところをよく考えていて、そこは大きな成長だと思っています。それから土屋主将についても同じですね。非常に素晴らしく、世界選手権に出てもおかしくない選手ですけれども、個人の課題だけではなくて、ワセダの女子を育てるための方策というのをいろいろ考えてくれていますね。その辺が二人とも大きな成長だと思います。

「大きな脅威」

――ことしの慶大の印象はいかがですか

慶大は現在、部員数から言うと、特に男子はワセダの倍近く選手がいて、マンパワーから言うと相当高いものがあります。さらに、その中で競い合いをしているのが、非常に大きな脅威ですね。そこでいくとことしワセダは人数が少ないので、競い合いがないわけではないのですが、質がどうしても慶大の方が高いと。その分だけ慶大の方が強いし、よく研究しているし、個々に努力しているのではないかなと感じています。

――そのような慶大を相手に、現在のワセダに必要なものは何だと思いますか

慶大は聞くところによると、いまのマンパワーによる競り合い、プラス業務委託でコーチを雇って指導していただいているということを聞いています。しかしながらワセダはまだそういうシステムではないので、いま部員たちに言っているのは、『育て合い』ということですね。つまり、スキルの高い選手がスキルの低い選手に対して、助言をしていくということです。いままであまりそういうことがここ数年ではなかったようですが、とにかくそれをやらない限りは、フルタイムのそういうコーチにはとてもかなわないので、常にスキルの高い選手が低い選手に対して教えていくということをかなりやってきていまして、そういう意味でもレベルが上がってきているということがあります。まあそれが慶大への対抗策ですかね。

――ことしのレースのポイントとなるところはどこでしょうか

レースの面から言うと、やはり先行して中盤までの厩(うまや)橋あたりまで、頭を抑えていれば勝てるかなというように思っていますので、瞬発力プラス持久力と。まあ当たり前のことですけど、そこを強化していきたいです。いまは特に後半のスタミナが持つように、長いボリュームのあるトレーニングをしているのですけど、これからだんだんレースになるにつれて、スピード持久力的なスピードをメインにしたトレーニングに入っていこうと思っています。女子に関しましては1000メートルなので、先行逃げ切りというダイナミックな展開にしていきたいと思っています。

――レースの中でキーマンとなる選手は

対校エイトだとやはりストロークで一番リズムをつくっていく長田主将ですね。それに他の7人がどう合わせて付いていくかというところ。それともう一つはかじですね。隅田川はカーブしていますので、先行していてもカーブの曲がり方で逆に先行されてしまいますので、そういう意味でコックスの中村(拓、法4=東京・早大学院)がキーマンになってくると思いますね。第二エイトについても同じで、ストロークの角南(友基、スポ4=岡山・関西)ですね。彼もし烈なシート争いの中で第二エイトに回ったのですが、彼のつくるリズムというのは非常に漕ぎやすいリズムですので、そこに他の選手たちがどれくらい食らい付いていくかというところですね。それとコックスの藤川(和暉、法3=東京・早稲田)は、昨年第二エイトでスタート前に沈没してしまったということで思いもあるでしょうから。藤川のコックスとしてのかじの切り方がポイントになってくるかなと思います。女子の方に関しては、やはり土屋でしょうかね。いまのところ土屋がストロークというポジションでいくつもりですけど、土屋、榊原(春奈、スポ4=愛知・旭ヶ丘)というまさにオリンピックレベルの選手がどれだけ1年生を引っ張っていけるかというところだと思います。

――ことし『隅田見聞』というものをされていましたね

今回初めての試みで、選手によく隅田川を知ってもらおうと。例えば、この橋が来れば何メートルだとか、このカーブの後のカーブはどのようになっているのかなとか。選手によく理解してもらおうということでやりました。これは私の経験でも、漕手というのはひたすら一生懸命に漕いでいるわけで、どのくらいの橋まで来れば何メートルで、カーブがあるとかも、漕手は後ろ向きでわからないので、そんなことをじっくり見せたいということで、先輩たちにお願いして支援してもらいました。

――そこで選手の皆さんが得たものは何でしょうか

やはりモチベーションが高くなったと思います。ここでレースをするのだという場所をよく見られたので。それからコックスはその『隅田見聞』に加えて、川の詳細な地図をOBの方が作ってくれたので、それと合わせてかなりラダーワークのイメージトレーニングができてきたのではないかと思います。

――ご自身もワセダの漕艇部時代、早慶レガッタに出場された経験がありますが、先輩として何かアドバイスはありますか

私が主将の時がですね、17年ぶりに隅田川に早慶戦が戻った時なんですね。昭和53年ですけれども、距離が6000メートルで復活第一戦を隅田川で行った時のキャプテンが私です。その時はかなり川の波がボートに入らないように波よけを工夫したりしたのですが、結果的に波が入ってしまいまして、大差で負けたという苦い経験があります。やはり選手にアドバイスするとすれば、うねりや波のラフなコンディションの中でもきちんと基本的なローイングができるところまで高めておかなければならないと。そういう経験があって、いま長いトレーニングを心掛けていますけどね。

――昨年、慶大の漕ぎにはまとまりがあって川ではそのような漕ぎ方が強いかもしれないというお話を伺ったのですが、ことし漕ぎ方の面で変えていくことはありますか

ワセダの昨年の敗因の一つとしては、キャッチがかなり大きく戻っていて、大きく前には出るけれども、実際に水の中にオールが入って艇の推進力となっていく長さというのが非常に短かった。なので、当然スピードというのは加速する距離によって決まってきますので、当然長いストローク、だけれども有効なストローク。戻らないで、水をしっかりつかまえて押している時間と距離を長くする。これを心掛けようと思っています。

「早慶戦全種目制覇」

クルーと共に勝利を目指す

――ことしの早慶レガッタの目標は

これは部員が目標を立てまして、『早慶戦全種目制覇』という共有した目標ですので、それが実現できるように我々指導陣も後押しをしていきたいと思っています。

――最後に読者の皆さんに向けて早慶レガッタへの意気込みをお願いします

早慶戦はぜひここで、いままでの連敗の雪辱をしたいと思っています。その雪辱は単に、対慶大だけではなくて、そのロードマップが日本一に向かっての延長戦であるということを狙っていきたいので、この早慶戦で良い流れを作って、夏のインカレ(全日本大学選手権)、全日本(全日本選手権)に向かって気持ちを盛り上げていきたいと思っています!

――ありがとうございました!

(取材・編集 須藤絵莉、写真 土屋佳織)

◆内田大介(うちだ・だいすけ)

1956(昭31)年6月19日生まれ。長野・岡谷南高出身。早稲田大学教育学部卒。卒業後は主に高校生のボート指導に携わり、世界ジュニアやインターハイ、国体などで好成績を残す選手を多数輩出。在学時には4年時に漕艇部主将を務めた。未経験者の指導経験も豊富で、今後ワセダから世界へ羽ばたく選手の育成にも気合は十分。選手からの信頼も厚く、第2の父親と慕われるほど。熱い思いを胸に必ずやワセダを『日本一』へと導いてくれることでしょう。