【連載】第83回早慶レガッタ事後特集 第1回 B:和田優希

漕艇

 昨年の早慶レガッタには第二エイトに乗り劇的逆転劇に貢献した和田優希(教3=滋賀・膳所)。その後は対校エイトのバウを任されるようになり、チームをけん引する存在になった。惜しくもことしは早慶レガッタで慶大に敗れたが、経験豊富で理論派でもある和田選手に、今後の早大が進むべき道を伺った。

※この取材は5月2日に行われたものです。

「いまでも悔しい」

身振り手振りを加え、丁寧に話をする和田

――早慶レガッタから日がたちますが、いま振り返ってどのような気持ちをお持ちですか

悔しい気持ちを持っています。負ける気がしなかったですし、なぜ負けたのかもいまだに明確には分かりません。レースはスタートで一度追い付きました。慶大が前からのスタートだったので、本当ならそのまま一気に行きたかったのですが、 逆に引き離されてしまいました。そしてどんどん離されてしまい、間に合いませんでした。最初はプラン通りだったのですが、それが最後まではプラン通りとはいかず、どこかでおかしくなってしまったということが、自分の中で納得できないところです。

――敗戦後、ミーティングなどではどのようなやり取りが行われましたか

コーチ陣からは、早大に比べて慶大の方が水とけんかをしていないという話がありました。短くサクサク漕いでいる分、オールを水に入れたときに止まっている時間が少ないということです。早大は一本一本長く長くという漕ぎをしていますが、それだとロスが長くオールを水に入れたときに止めているので、その分慶大が前に出ていってしまったという指摘をしていただきました。やはり自分も敗因としてはそれぐらいしか思い浮かびません。実力的な大差もないのに、なぜ中盤で差が広がってしまったかということを考えると、これが原因なのかなと思います。

――それを受けてクルーではどのような話し合いを行ったのでしょうか

一番メインとなったことは、オールを入れる前のところでロスがあり、水を入れる時間が長くなると距離が長くなるにつれてズレが生じてしまいます。また一回一回艇が止まる分重くなってしまいますし、最後まで軽いリズムでまとまって一貫して漕ぐというのが厳しくなってしまいます。まして川など荒れている会場ならば、コース仕様で練習している早大にはマイナスに作用してしまっています。それを聞いても、クルーで話し合ってどちらかを取りたいという思いが芽生えました。どちらかというのは夏の(戸田ボートコースで行われる)全日本学生選手権(インカレ)や全日本選手権(全日本)と早慶レガッタのことです。早大は早慶レガッタも大切ですが、夏のインカレで優勝することが一番大事です。夏のインカレや全日本を捨てて、完全な隅田川仕様の漕ぎ方に変えてしまうと夏が厳しくなってしまいます。そこで難しいですが、夏を見据えながらの漕ぎ方で、それをもっとスキルアップして慶大に勝つしかないと思います。慶大の漕ぎ方をやろうと思えば早大もできると思いますが、夏には全くつながらず、早大の伝統が崩壊してしまうと思います。兼ね合いは難しいですが、自分的には早大の漕ぎのスタンスをやっていく中で、通過点となる隅田川でも揺らがないだけのスキルを身に付けたいです。

――青松載剛主将(スポ4=京都・東舞鶴)がレース直後の会見で、慶大を追う展開でクルー全体に焦りがあったと振り返っていました

序盤で慶大に追い付きかけたところで一気に行きたかったのですが、逆にエンジンがかかり切らず慶大に前に出られてしまいました。そこで焦ってしまい無駄に大きくシャカシャカしてしまったのは事実です。終盤になってレートを上げました。客観視していた人にはあんなにレートを上げても無駄だったと言われましたが、結果として詰まっていました。気持ちの面で崩れたところを終盤以降で立て直してラストにつなげることはできたと思います。ただしそのエンジンのかかり始めが遅かったです。途中まではこの差なら昨年の第二エイトレースのように逆転ができると思っていました。昨年ほどのがむしゃらさやアグレッシブさが後半の1000メートルで出せていれば勝てていたかもしれません。しかし今回はそれが出たのが残り500メートルくらいからでした。さすがにそれでは勝つのは難しいです。その時、ことしはやられたなという思いでゴール手前を漕いでいたと思います。

――今回のレースはスパートのかかりが遅かったということですね

もっと前の、せめて吾妻橋(あづまばし)からスパートをかけなければいけませんでした。総合的に見て最後に力を出し切ろうと思ったら、慶大より早大の方が出せると思います。早大はやろうと思えば執念でスパート勝負は絶対に勝てるはずです。なので吾妻橋までで並べれば勝てるので、吾妻橋がゴールくらいの気持ちでレースプランを組んでも良いのではないかと自分は考え、反省会でクルーにもそういった話をしました。吾妻橋からの勝負は早大の方が体が動くと思いますし、逆にそこで並んでいると慶大は連覇を止められてしまうという重圧も重なり焦るはずです。スプリント勝負では早大の方が早いのは慶大も分かっているはずです。なめているわけではありませんが、吾妻橋までで出し切るくらいのつもりで、それ以降は気持ちで勝ちたいと思います。

――和田選手は昨年の第二エイトレースで慶大に劇的な展開で大逆転勝利をしていますが、今回のレース中にその記憶は蘇りましたか

差については昨年の方が開いていました。吾妻橋手前の追い上げのところで、昨年のことを思い出してまだいけると思っていましたし、昨年もいけたしいまエンジンをかけるように声を出しました。昨年は角南友基(スポ3=岡山・関西)を中心にレートが一気に上がりましたが、今回はそれがありませんでした。スローペースでレートが上がっていきました。練習の時から上げるポイントのときは一気に上げるというのがどうも苦手で課題でした。できていたときもありましたが、ラフコンディションではうまくできず本番で生かせないものでした。

「慶大に勝つためだけの漕ぎ方はしない」

――隅田川で慶大に勝つために、慶大を習って隅田川仕様の漕ぎ方に変えることをしないのですか

慶大の漕ぎ方というのは独特で、見れば妙な漕ぎ方をしているというのは周りの戸田のみんなも思っているくらい特徴的な漕ぎ方をしています。それをやっても艇は進んでいないというか、オールが滑っています。確かに水と反発はしていませんが、オールはどんどん流れてしまいます。しかし艇はそんなに早いスピードは出ませんが、スーっと滑っていく印象を受けます。おそらくそれが隅田川ではマイナス要因にならずに滑って行って良いのでしょう。もしそれを早大がまねをしても夏の戦いにむしろマイナスになってしまうと思います。

――早大の漕ぎ方のままで隅田川に対応する方法はありますか

早大の漕ぎで隅田川でも対応しようと思うのであれば、水をしっかりつかむということを意識する必要があります。前でオールを鋭く入れて水をつかんで、水しぶきを上げずにつかみ切って一枚で(ブレードの上端と水面がぴったり合った状態で)押すという漕ぎ方のサイクルを止まらずに滑らかに動かすことを完璧にできれば、隅田川でもしっかり艇が進むはずです。そしたら慶大の漕ぎにも対応できると思います。

――隅田川はラフコンディションやカーブによる障害がある中で水しぶきを上げない漕ぎは難しいのではないでしょうか

それをいま重点的な課題として取り組んでいます。自分もまだまだ下手なのでコースでも水しぶきが上がります。イメージはコーチ陣が丁寧に教えてくれるのでつかみつつあります。いまは我慢して継続的に挑戦していくことが大切だなと思います。いままではかなりフリーな学生主体で取り組んできたので、いろいろな地方から集まった学生たちがそれぞれいろいろな漕ぎ方で漕いでいました。基礎の部分が甘かったので、いまはそれをしっかり詰めている段階です。それをうまくいかなくても繰り返し努力してやっていくしかありません。いまはその時期だと思います。早ければ今夏にもその成果が実るかもしれないですし、遅くてもらいねんには身に付けたいです。

――漕ぎ方の基礎を全員で見つめ直すことの意義は何ですか

基礎の部分をつくり上げれば早大の総合力や良い意味での個性がさらに出せて速くなると思います。いまはまだ基礎が緩いので川などであおられるとすぐにバラバラになってしまうというのがあると思います。

――ここ数年の隅田川での敗因は、ラフコンディションによって早大の隠れたもろさが露呈されてしまったということですか

そうだと思います。レース本番は想定外の荒れ模様に対応できなかったのも一つの敗因ではあると思います。

――早大が目指す理想の漕ぎを果たすために必要な練習は何ですか

ずっと課題にしてきたにもかかわらずできていない、オールのエントリーの精度を上げていくことをチーム一丸でやっていきたいです。いままでは学生主体で取り組んできましたが、監督が代わってからは監督自身が組織力でまとめてくれるので、自分たちはそれに従っていくだけです。学生が考えることも大切ですが、ある程度チームとしての方針が必要です。エントリーの精度が上がれば全体的な漕ぎの精度も上がるはずです。さらに加えると基礎体力の面では一橋大に劣ります。体力面も補いつつ技術面の練習をしたいです。

――和田選手は早大では貴重な隅田川での勝利を経験している選手であり、らいねんはその経験を伝える大切な役割があると思います

それはプレッシャーですね。昨年にあって、ことしなかったものはアグレッシブさです。対校エイトであるがためにうまく漕ぎたいということをどうしても思ってしまいます。第二エイトのときは単純にがむしゃらに漕いでいました。なのでもっとチャレンジャーとしてやっていきたいと思います。常識的には考えられない長い距離を早いレートで漕ぐことができた昨年のラストスパートの要因はメンタル、気持ちだと思います。そのような限界以上の力を発揮するためのメンタルやレースプランを厳しめに設定し、それがまたできたときには勝てると思います。勝って桜橋で浴びる歓声がとにかく気持ち良いものだということを伝えていきたいです。

――次回の対校エイトは慶大より前のスタートとなりますが、レースプランはどうなりそうですか

基本的には変わらないと思います。前半勝負で前に出て、有利なコース取りをすることが大切です。そして中盤までに差を広げるということが目標だと思います。最悪でも吾妻橋で並んで、その時早大はエンジンがかかった状態でいる必要があると思います。

「課題は前から水を押せていなかったこと」

バウというポジションから、冷静にクルーを分析した

――早慶レガッタでの悔しい思いをまずは今夏のインカレにぶつけると思いますが、いま何をモチベーションにしていますか

自分を奮い立たせるのは悔しさがメインです。ことしは夏のインカレで銅メダルではなく金メダルが欲しいです。早慶レガッタには家族や親戚が滋賀県から初めて東京に出てきてレースを見に来たのに勝つことができませんでした。早く勝って家族にその報告をしたいです。それもモチベーションになっています。

――インカレでは絶対王者・日大に勝つイメージで挑むことはできますか

挑みます。もう勝ちたいです。昨年も絶対に勝てると思いましたが3位だったので厳しいのは分かっています。昨年の課題は早慶レガッタと同様に前から水を押せていなかったことです。500メートルのスプリントでは早大が一番速かったので、2000メートルでも勝てるようにしたいです。課題があっての3位だったので、期間は短くても改善して変えていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 佐藤裕樹、写真 田島光一郎)

◆和田優希(わだ・ゆうき)

1993年(平5)7月24日生まれのA型。172センチ、67キロ。滋賀・膳所高出身。教育学部理学科生物学専修3年。2013年度成績:第82回早慶レガッタ第二エイト優勝、第35回全日本軽量級選手権M8+5位、第40回全日本大学選手権M8+3位、第54回全日本新人選手権M8+優勝