またもや宿敵の前に苦杯を喫する結果となった。先陣を切った女子舵手付きクォドルプルが25連覇を果たし、他のレースでも勝利数を積み重ねた早大。エンジ旋風再来か。そんな予感が隅田川を漂い始めていた。だが決戦となる対校エイトは、序盤に開いた差を埋めることができず完敗。全力で宿敵漕破に挑んだ選手たちの目からは、悔し涙が溢れた。
25連覇を達成し喜びを爆発させる女子舵手付きクォドルプルクルー
「漕いでいる慶大との差を見てほしい」(谷川早紀、スポ4=愛媛・今治西)。女王ワセダとしての威信を懸け、25連覇の偉業達成に挑んだ女子舵手付きクォドルプルクルー。全日本級の大会とは異なり、早慶レガッタはわずか1000メートルで競われる。漕艇界のトップに君臨するワセ女とはいえど、一つのミスが命取りになりかねない。だが、それは杞憂に過ぎなかった。スタート直後から積極的な攻めを見せた早大は、瞬く間に慶大を突き放していく。桜橋を迎えるころにはその差は5艇身まで広がり、宿敵ははるか遠くを漕ぎ進めていた。勢いそのままにゴールへ飛び込み、見事25連覇を達成。あらゆるプレッシャーをはねのけ、その長い歴史に新たな1ページを刻み込んだ。
伝統の一戦に敗れ、肩を落とす対校エイトクルー
そしていよいよ、早慶レガッタのメインレース・対校エイトを迎えた。対校エイトの勝敗は、早慶レガッタの勝敗を決めると言っても過言ではない。先日、戸田ボートコースにて行われた早慶対校競漕大会観漕会では、10秒以上の差をつけ慶大を圧倒。下馬評では絶対的に早大有利とささやかれる中、隅田川での一戦に臨んだ。だが、『隅田の魔物』は今季も早大に襲い掛かる。「スタートの750メートルで頭を取りにいく」と司令塔の中村拓(法3=東京・早大学院)が構想していたように、序盤から大胆な攻めに出るも、思うように宿敵を捉え切れない。勝負どころの両国橋過ぎの大きなカーブでは、インコースを利用し一気に追い抜きたいところであったが、ここでもわずかに慶大のリードは続く。予想もしなかった展開に焦りが生まれ始めた早大は、安定した漕ぎを続ける慶大を詰めることができない。大きく崩す場面も見られ、2艇身の先行を許し言問橋を通過する。必死のスパートで追漕するも、大観衆の待つ桜橋に先に姿を現したのは慶大。夢の王座奪還まで、あと1 1/4艇身。ガッツポーズを見せるライバルを横目に、13年ぶりの3連敗という残酷な現実を突き付けられた。
わずか4秒、されど4秒。勝者と敗者しか存在しない、それが早慶レガッタ。大差であろうときん差であろうと、敗北に変わりはない。レース後、慶大の山本尚典主将が「いままで生きてきた中で最高の気分」と語ったのに対し、青松載剛主将(スポ4=京都・東舞鶴)は「隅田川は最悪な思い出の場所」と悲痛な思いを述べた。この4秒の持つ重さは計り知れない。練習はした、覚悟も決めていた。では何が足りなかったのか。荒波を乗り越え栄冠を手にするために、慶大常勝の時代を食い止めるために、もう一度自らを見つめ直す時期が訪れているのかもしれない。
(記事 細矢大帆、写真 土屋佳織、加藤千暁)
★第二エイトが沈没で延期
排水作業をする部員一同
14時に予定されていた第二エイトのレースであったが、まさかの事態が起こった。コースで練習をしていた早大の艇に波が襲い掛かり、なすすべなく沈没。選手と艇は急遽桜橋の船台まで運ばれ、両校の部員たちは艇から水を取り除いた。試合では敵であっても、一致団結し排水作業を進めるその姿には、両校の伝統の深さが感じられる。レースの運営には多くの人の力が必須。裏方たちの活躍が顕著に見られた瞬間だった。結局第二エイトは中止となってしまったものの、レース続行に尽力した部員たちは大観衆を魅了したに違いない。なお、第二エイトのレースは4月26日(土)に戸田ボートコースで行われることが決定した。
結果
【女子舵手付きクォドルプル】
早大(C:亀本咲季子(人2=埼玉・浦和一女)、S:土屋愛(スポ3=新潟・阿賀黎明)、3:谷川早紀(スポ4=愛媛・今治西)、2:佐藤紫生乃(スポ2=宮城・塩釜)、B:望月みづほ(スポ4=埼玉・大宮))
3分44秒21【優勝、5艇身差】
【対校エイト】
早大(C:中村拓(法3=東京・早大学院)、S:竹内友哉(スポ2=愛媛・今治西)、7:青松載剛(スポ4=京都・東舞鶴)、6:田﨑佑磨(スポ4=茨城・潮来)、5:是澤祐輔(スポ2=愛媛・宇和島東)、4:長田敦(スポ3=石川・小松明峰)、3:角南友基(スポ3=岡山・関西)、2:小林大河(国教4=東京・早実)、B:和田優希(教3=滋賀・膳所))
11分16秒53【2位、1 1/4艇身差】
コメント
7:青松載剛主将(スポ4=京都・東舞鶴)
——きょうの敗因と反省点を
やはりスタートで並ぶことができなかったことが大きいです。ワセダがインコースだったので、両国橋の大きなカーブのところで並ぶか抜かしておきたかったのですが、その時点で少し出られたままの展開になってしまいました。おそらくみんなの中にも焦る気持ちとかが出てきて、崩れてしまったといいますか、本来の持ち味を出せなかったんだと思います。
——静水でできることが隅田でできないという展開が2年間続いていましたが、その辺りの改善等は
戸田の観漕会のときは1000メートルで出し切るだけでしたが、3750メートルのレースの中で、きょうは距離にも差にも焦りがあったかなと。もっともっと普段の練習のように思い切っていかなければいけなかったですね。ケイオーの対校を隅田で相手にしているということもあって、思い切りいけなかったかなと。そこが一番の原因であって、特に静水とラフコンディションでやることを変えるのではなくて、思い切ってできればまた結果は変わったのかなと思います。
——どのような漕ぎを意識して練習してきましたか
ワセダは水中からリズムをつくるイメージを持っています。水中の強さと漕ぎの長さがあればリズムが生まれるということを信念に置いています。
——青松主将にとって隅田川とはどのような場所ですか
簡単に言えば最悪な思い出の場所というか、結果的にそうなってしまいました。毎年誰かしら「隅田には魔物がいる」とか言っていて、正直僕はそういう表現は好きじゃありませんが、やっぱりこうなると何かあるのかなという気はしました。
——全日本大学選手権(インカレ)、全日本選手権(全日本)に向けて
僕自身、1年生の早慶レガッタからずっと対校に乗せてもらっていて、優勝したのは全日本新人選手権くらいしかありません。インカレも全日本も(隅田川での)早慶戦も軽量級(全日本軽量級選手権)もお花見レガッタも全部悔しい思いをしてきました。まだ悔しい思いしかしていなくて、全く金メダルを取れていません。ことしはその悔しさをバネに金メダルを取りたいと思います。
C:中村拓(法3=東京・早大学院)
——今回の敗戦をどのように受け止めていますか
素直にやはり隅田川にケイオーに勝つ練習というのが不足していたと思います。練習でやったことを発揮することもそうですし、一つ一つの準備が足りず、総合的に劣っていたのかなと思います。
——その中で特に足りなかったものは
今回の大きな敗因はスタートからあると思います。スタートの750メートルで頭を取りにいくプランで考えていましたが、そこでオーバー気味に入ってしまいました。水面が荒れていることもあって、自分たちのできる最大限の艇速、艇の伸び、艇の進ませ方を披露しきれなかったですね。レートは出ましたが、艇を進めるという点ではいま一つでした。
——今後に向けて
いまはちょっと切り替えられませんが、次出る大会では絶対に勝ちたいです。個人的には隅田の借りは隅田で返さなければと思っているので、また頑張りたいと思います。