ラスト100メートルでの逆転。昨年、中村拓(法3=東京・早大学院)、和田優希(教3=滋賀・膳所)の選出されたワセダの第二エイトは桜橋の大観衆を大いに沸かせた。その裏で対校エイトは7艇身差での歴史的大敗。先輩たちの借りを返すべく3年ぶりの王座奪還へ。隅田川での勝利を知る二人が、対校エイトとして臨む今季の早慶レガッタへの意気込みを語った。
※この取材は3月4日に行われたものです。
昨年の経験を糧に
昨季、劇的勝利を演出した中村
——早慶レガッタの対校エイトのメンバーに選ばれた心境は
和田 うれしいというよりはきょねんから乗ろうと思ってやってきて、ことしやっと乗ることができたので、絶対にこのチャンスをしっかり生かして必死に漕いでやろうという感じですね。らいねん乗ることができる保証はないので、後悔のないようにしたいです。
中村 僕は新人戦(全日本新人選手権)では対校に乗せてもらいましたが、部全体の中での対校エイトは初めてになります。なので本当にうれしい気持ちでいっぱいです。
——その中でオフの日はどのようにお過ごしですか
中村 うーん、いろんなことをします。
和田 なんやそれ(笑)。
中村 例えば和田君と外に出かけたり、あとはDVD見たりとか(笑)。やることといったらそれくらいですかね。
和田 僕もいろんなことをしています(笑)。中村君と買い物にも行きます。でも最近は疲労がたまってきているので、身体を休めるために寝たり、近場でおいしいもの食べたりすることが多いですね。充実したオフを過ごせています。
——お互いの印象は
中村 もうこの通りです。ワセダの元気印です!船に乗っていても普段からも元気です。手より先に口が動いているような感じで…。
和田 せやな悪かったな、治すわ。以後気を付ける。
一同 (笑)
中村 でもやっぱり船に乗ると元気なんですけど、クルーのことをすごく考えていて、雰囲気を盛り上げるために自分から声を出してくれます。一緒に乗っていてすごくやりやすいですし、ムードメーカーという意味でもなくてはならない存在だと思います。
和田 陸でも部内で一番の親友ですし、ね?
中村 うん…(笑)。
和田 違うか(笑)。オフの日もついてまわっているのでうっとうしがられているかもしれませんが、暇なときに僕を楽しませてくれる、愚痴も聞いてくれる、アドバイスもくれる、そんな完璧な存在です。水上ではほぼ負けなしで、頭を使って勝負に出るその勝負勘がずば抜けていると思います。自分はほかのコックスをそんなに気にして見ていないので分かりませんが、いまパッと浮かぶ中では戸田で一番勝負勘のあるコックスかなと思います。的確な指示をしてくれる存在ですね。
——早慶レガッタは注目度が高く、観衆も多い中でのレースとなりますが
中村 観客の数とかはあまり気になりませんでしたが、やはり普段のコースとは違う状況で独特の雰囲気があるので、きょねんは緊張しました。難しかったイメージもありますが、ことしはきょねんの経験もあるので落ち着いてレースに臨むことができると思います。
和田 きょねんはやはりどんなもんなのか分からなかった部分もあったので多少緊張しました。でもきょねん一番盛り上がる桜橋の前で差し切ったということもあって、お客さんが見ているのは緊張というより快感といいますか、また大観衆の前でドヤ顔する感覚が味わいたいです。その快感のために頑張れるという感じもありますね。
——昨年の第二エイトで乗っていた早慶レガッタを振り返っていかがですか
中村 二度と同じレースはできないだろうなと思います。ただ練習から追い込んで頑張ってきた自信はあったので、そういうこともあって最後力を振り絞れたのかなと思います。やってきたことをしっかり出し切れたのかなという感じですね。きょねんは2750メートル漕いでラスト1000メートルという最もきついところで、さらに(レートを)2枚上げするというスパートをかけました。しっかりストロークも上げてリズムをつくってくれましたし、全員でまとまって勝負することもできたので、同じようなレースはできないと思いますけど、やるべきことがしっかりできていたかなとは思います。
和田 うまくは言えませんが、乗ってて熱くなるというか、「きた!」という瞬間があるんですよ。どんどん艇が伸びてきて自分もどんどん上がってきている感覚がボートを始めて以来ダントツで強かったレースでしたね。リズムに乗りだしてから本当にどんどん縮めていくことのできた感覚が強くて、それまでかなり艇身差はあったと思うんですけど、吾妻(あづま)橋付近で本当に艇が伸びはじめて「これはいけるな」という感じがしてきましたね。それまでは負けたかなという感じだったのですが、そこで本当に一気に変わって詰めていくことができたということが印象的なレースでした。高校のころからラストスパートで差して勝つのが得意だったので、かなり燃えるレースでしたね。
中村 あと僕はラストスパートを入れるタイミングをすごく迷いましたね。あまり早すぎても力尽きるし、遅くても追い付けないし。本当はもう少し前から、100メートルか200メートル前からスパートを入れようと思っていましたが、少し早いかなという判断をして吾妻橋で入れることにしました。そこは本当に少しでも選択を誤っていたら、と思うと本当に怖いですね。
和田 さすが戸田一のコックスは違うねー。
中村 そんなんじゃないです(笑)。
——昨シーズンを振り返って点数をつけるとしたら何点になりますか
中村 75点ですね。昨シーズンは個人的には早慶レガッタ、インカレ(全日本大学選手権)、新人戦で優勝することができてクルーとしての結果は良かったのかなと思います。でも個人としての反省としては、もっともっと船の上でも影響力を出して艇速に自分の力を反映したいですね。もっとできるかなというのが率直な感想なので、その点に関してはまだ満足していないです。
和田 ちょっと厳しいですけど40点ですね。目標として早慶レガッタと新人戦は勝つことができたと。でもインカレ、全日本(全日本選手権)、軽量級(全日本軽量級選手権)を考えたときに船の息切れした感じが正直伝わってきましたね。特にインカレはありました。ことしこそ日大を抑えられるだろうという感じもありましたが、それができたのは前半の1000メートルだけで。結局後半で大きく出られてしまうこともありました。シーズン通して考えたときに半分くらいのレースで勝っているので、それだけ見るなら50点くらいでもいいのかもしれません。でも拓も言っていたんですけど、自分の力を反映させるということを考えると、ただ周りを盛り上げるだけでなく、船に乗っている以上その船を動かすことが一番大事なことであって。そういう意味できょねんの自分は力がないまま乗っていたのかなというふうに思います。実際シーズンが終わってからものすごい不調が訪れて、自分がどのような漕ぎをすれば良かったのか分かっていなかったことも分かったので、きょねんを振り返るならば40点かなと思いますね。そのおかげでいま頑張れるというのもありますけどね。
「ワセダの総合力が集結したクルー」
常に明るく受け答えに応じる和田
——オフシーズンの冬にはどのような練習を積んできましたか
和田 最初は陸トレがメインでしたね。ダッシュとかから入って…。あとはあれだ、60分エルゴ。
中村 そうだね。オフシーズンに毎年恒例でやっている60分エルゴというものがあります。普段はエルゴ(漕力を陸で測定するマシン)をそんなにロングで漕ぐことはないんですけど、それを毎週入れて漕ぎ込むことをメインにやってきました。ことしはそれ以外にもいろいろやったよね?
和田 いや、やっていること自体は例年とそんなに変わってないですけど、金曜日に行われていたTT(タイムトライアル)がシングルスカルで行われなくなったのは大きな違いですね。ことしからはクルー単位になりました。うまい人と乗ってそのノウハウや技術の指導を行ってもらうというかたちでした。
中村 あとシーズン中はみんな同じサイドで漕ぎ続けていますが、冬はその逆のサイドで長い期間漕いでいましたね。自分の正規のサイドにも技術的にいい面も取り入れられますし、リフレッシュの意味も兼ねてやっていました。
——中村選手は早慶レガッタ、インカレ、新人戦と多くのタイトルを獲得してきましたが、クルーの司令塔として何か意識していることはありますか
中村 まず僕がクルーに乗って大切にすることは雰囲気ですね。雰囲気だけ良くても勝てるわけではないんですけど、それがベースとなって技術面の積み重ねができると僕は考えています。そういう意味では早慶戦のクルーもインカレのクルーも新人戦のクルーもすごい雰囲気良くできたと思います。ただだらしなくなるのではなくて、しっかり言うことは言って常にプラスにプラスにやっていこうという雰囲気が全体にありました。あとインカレの時にすごく感じたことがあって、舵手付きペアという人数の少ない種目で僕は乗っていましたが、「ここでいくぞ!」というところで一気に変えられたときはその後もすごく艇が伸びましたね。僕ら3人はそれがすごく強みで、早慶レガッタの時もラスト1000メートルで一気に艇を伸ばすこともできていたので、勝負どころで全員で全力でまとまってスピードを上げられるクルーは強いというのは確かだと思いますね。
——早慶レガッタに向けて何か特別な練習はされていますか
中村 やはり隅田練ですね。荒川から往復で約46キロ漕ぐメニューです。隅田川に着いたら早慶レガッタのコースを漕いで、また帰りもメニューをやりながら帰ってくるというかなりエグい内容になっていますね(笑)。
和田 きついっすほんとに。
中村 早朝3時に起きて4時半には岸を蹴りだしていますね。なかなかハードですが、途中で一度岸に上がって休んでみんなで温かいものを食べたりもしているので楽しみもあります(笑)。漕手はきつい部分が大きいと思うんですけど、僕は好きです、隅田練。
和田 いや俺も好きだよ、きついけど。遠足…拷問のまじった遠足ですね(笑)。
——その中で見えてきた課題等ありますか
中村 まだ(隅田川には)1回しか行っていないので何とも言えませんが、まずはもっとユニホーミティーを高めていきたいです。波がある中で多少崩すのは想定内なので、その中で大きな崩しをなくして常に刻み続けるような、流れを崩さないような漕ぎをするためにもユニホーミティーの完成度を上げたいです。あとはリラックスすることですね。
和田 長田(敦、スポ3=石川・小松明峰)も言っていたことですけど、波があるのでそこをうまく対応しようと考えてしまいがちです。いま拓が言ってたまとまりと、波がある分しっかり漕げる範囲は少ないですけどそこを強く押して漕ぐことが本当に大切なことです。1回目の練習ではそれができなかったかなというのが正直あります。うまく漕ぐことはもちろん大事なんですけど、まずはしっかり水中で力を出す。しっかり強く押す。そこからみんなでまとまって一定に刻み続けることができれば勝てると思います。
——コックスとバウというそれぞれ艇の端に位置するポジションですが、全体について意識していることはありますか
中村 僕は唯一全員の動きを見ることができるので、常に船の動きが良くなるためにはどうしたらいいかということを考えてコールを入れたりしていますね。あまり一人一人に言っても仕方なくて、全体としてまとまることが大切な競技なので、全体を意識して話すようにしています。例えばある選手が良くなくてもその1人に言うのではなくて、みんなで良くするために全体に発信するようにしていますね。
和田 雰囲気的な面では僕も一番後ろにいるので発信することはできるんですけど、やはり艇の動きが良くなると雰囲気が良くなって、うまくいかないとみんなイライラしてくるという事実はあります。その悪い時に「何でやらないんだ」じゃなくて「もっとこうしていこう」というようなポジティブな発言で、拓がコールしていることを基本に声を掛けていければいいかなと思っています。あとは漕手として一番後ろから強いバックアップを出せるように、しっかり勝負どころは出し切るくらいの勢いでやっていきたいです。一番後ろからのバックアップは本当に大事になってくるので、乗艇中一番意識してやっていることです。
——ことしのクルーの特徴は
中村 勢いがあるクルーですね。一人一人からすごくやってやろうという気持ちが伝わってくるので、(雰囲気、リズムが)乗ってくるとすごく強くなれるクルーだと思います。ただ乗れないと自分たちのトップパフォーマンスができないと思うので、ユニホーミティーも含めていい方向に向けられるようにしたいですね。
和田 まとまりが出ればもっと強くますね。各々の力はあるので、それを発揮すべきときに発揮できれば勢いづくとは思いますが、まだちょっとコントロールしきれていないかなと。攻めたいときに一気に出す感じをもっと突き詰めていければ、本当に理想的な強いクルーになっていけると思います。学年も各学年からバランス良く乗っているので、まさにワセダの総合力が集結したクルーだといえますね。
——いまのところ雰囲気はいかがですか
中村 悪い雰囲気ではないと思うんですけど、まだまだ全体として言い合って自分の意見を出していってもっともっと良くなっていく必要があると思いますね。
和田 もっと向上しようと取り組んでいくことが大切だと思います。どうしても悪い面ばかりに目がいきがちなので、先ほども言いましたが「できない」ではなくて「もっとああしようこうしよう」と前向きに話し合えるクルーになれればいい方向に進んでいくと思います。いまは雰囲気を盛り上げていこうというところで、自然に盛り上がっていっている感覚はあまりないかなと感じますね。うまく乗り切っていない感じはあるので、各々の前向きな発言やコールで盛り上げていければいいかなという感じはします。
完全勝利でリベンジを
取材中にも仲の良さがうかがえた二人
——理想的なレースプランは
中村 ことしは(コース構造の関係でケイオーに)出られた状態からスタートするので、早く横に並ぶことが一つのキーポイントになってくると考えています。並んでしまえば、敵からすれば追い付かれたという感覚が強くなるので、心理的に優位に立てます。なるべく早く無駄なく力を使い切らずに並んで、そこからは自分たちのインコースの方が有利になるので最短距離で進んでいこうと思います。コンスタントに入ってからはしっかり(ケイオーを)離して、最後もきついところでみんなでまとまって出ると。これが僕の考える理想的なプランですね。
和田 スタートで出られている分はどこかで差さないと勝てないわけで、どこかしっかり勝負するというところで並んで、出て、離してというところまで一気に勝負つけていきたいですね。桜橋のゴール手前あたりではリードした状態で入ってきて、歓声を浴びると。きょねんとは違った状態で歓声を浴びたいですね。
中村 相手を見ながら桜橋を通過できるといいね。
和田 余裕を持って「俺たちは帰ってきたぞ、ワセダのみんな!」というような、安心して応援していただけるような展開にしたいですね。
中村 理想的だね、それは。
——ケイオーにはどのような印象を持っていますか
中村 毎年あまり情報が入ってこないので、何とも言えませんが…。毎度のことながら強敵だなとは思います。特に川ではうまく艇を進めてくるので、決して楽な戦いにはならないのは確かです。自分たちのやるべきことをしっかりやれば勝てる相手だとは思いますが、油断や慢心などといった少しでもマイナスの要素が出ればやられてしまうような相手ですね。
和田 やはり川ではめちゃくちゃ強いというのは印象に残っていることですね。予想なんですけど、ジャパンの強化合宿に参加していたようなメンバーも乗ってくると思うので、侮っていたら完敗するだろうなというくらいの怖さはあります。でも全然勝てない相手ではないですし、変に敵を想像するよりはひたすら強く漕ぎ進めていくことが大事かなと思います。
——ケイオーの選手との交流はあまりありませんか
中村 学年ごとにたまにありますけど、そんなにはないですね。
——青松主将(載剛、スポ4=京都・東舞鶴)はどのような主将ですか
中村 かっこいい!
和田 神っすね!とにかく強くて速くてうまい!
中村 背中で引っ張るタイプの主将ですね。頭が上がらないです。
和田 中でもやっぱり努力家という言葉がしっくりきますね。いつ見ても体のケアやトレーニングをしている印象が強いです。まず自分がやってそれを踏まえてチームを引っ張っていこうという姿勢がすごく見られますね。
——昨年対校エイトが7艇身差で敗れる瞬間を見ていたと思いますが、その時の心境はいかがでしたか
中村 その時はやっぱりあぜんとしましたね。7艇身というのは力的に考えてもあまり考えられない艇身差なので、何だったんだろうという感じはしましたね。ただ大敗という結果には変わりないので、僕はきょねんセカンド(第二エイト)で勝ちましたが、ことしは昨年敗れた人たちの分も勝ってリベンジしてやろうと思います。
和田 7艇身ってぴんとこないくらい信じられないような大差なんですよ。普通に漕いで7艇身というのはやっぱりおかしいと思って、大きく腹切りをしたのか、シートが途中で外れたのか、いろいろなパターンを考えたんですけどそのようなことはなかったと後から聞きました。こんなことはアスリートとして言いたくありませんが、きょねんは『稲麗』という新しい艇を対校は使ったのでそれが少しは要因にあったかなと。慣れていなかったりとか感覚が違ったりとか。勝ったか負けたかは別として、あそこまでの大敗となってしまったのはその影響も否定はできないと思いますね。
——リベンジとなる早慶レガッタへ意気込みをお願いします
中村 やはり勝ちたいという気持ちしかありません。個人的には隅田川での早慶レガッタは高校時代からの憧れでした。きょねんも第二エイトとして隅田川で戦いましたが、観衆も多いということもあって乗っててすごく気持ちいいものだったので、しっかり勝ってみんなで喜びを分かち合いたいなと思います!
和田 もちろんワセダとしても連敗をこれ以上伸ばすわけにはいかないので、絶対に勝ちたいです。あとはきょねんもセカンドで戦っていますが、ケイオーに大阪にいた高校時から切磋琢磨(せっさたくま)しあってきた人がいて、ことしはおそらく対校で出場してくると思います。いままでは何度も戦って勝ち続けてきたので、ここで負けをつくるわけにはいきません。今回も勝って、ワセダとしても勝ってシーズン最初の試合から勢いをつけて、夏日本一を狙っていけるようにやっていきたいと思います。
中村 狙うは完全勝利、それだけですね。
——ありがとうございました!
(取材・編集 細矢大帆、写真 末永響子)
◆中村拓(なかむら・たく)(※写真左)
1994(平6)年3月28日生まれのO型。175センチ、55キロ。東京・早大学院高出身。法学部3年。ポジションは対校エイトのコックス。中村選手の部内一だと誇る点は「栄養の足りてなさ」。コックスも過酷な減量生活を送っています。早慶レガッタ後はお腹いっぱいにおいしいものを堪能してくださいね!
◆和田優希(わだ・ゆうき)(※写真右)
1993年(平5)7月24日生まれのA型。172センチ、67キロ。滋賀・膳所高出身。教育学部理学科生物学専修3年。ポジションは対校エイトのバウ。試合前のリラックス方法を「激しい音楽を聴いて、人目につかないところで発狂して暴れること」と語った和田選手。耳をすませば、隅田川に轟く和田選手の雄叫びがあなたにも届くかもしれません!