【連載】『奪還』への船路 【第2回】辛島瑞加女子主将

漕艇

 学生ボート界で不動の地位を築くワセダの女子部、通称『ワセ女』。今季その主将に抜てきされた辛島瑞加(スポ4=東京・富士見)は、大学からボートを始めたという異色の経歴の持ち主だ。惜しくも早慶レガッタ出場はかなわなかったが、歴代の主将とは異なるバックグラウンドを持つ辛島は、いま何を考え、今後どのようにチームを引っ張っていくのか。

※この取材は3月14日に行われたものです。

「楽しんで上を狙う」

一つ一つの質問に丁寧に答える辛島女子主将

――女子主将に就任されたということですが、まずはその経緯を教えてください

私はボート未経験で入部したんですけど、未経験の人が主将をやるというのは初めてのことだそうです。昨年インカレ(全日本大学選手権)で全種目制覇を狙っていたんですが一つ落としてしまって、どうしたら全種目制覇が可能になるかということを考えたときに、私が入部して下のところから上に上がってきた勢いとか新しい考え方や視点を使って制覇を成し遂げたいという思いが監督たちにあったみたいで、そういう部分を期待していただいて主将になりました。

――ボートは未経験だったということですが、なぜワセダの漕艇部に入部したのですか

大学には水球の競技歴を使って入って来ていて、水球部に入るという手もあったんですけど、水球は高校のときにベスト4までで、結局1位にはなれなくて。水球では自分の限界を感じてしまって、でも部活はやりたいっていう気持ちはあったので、大学から始めてなおかつ1位を狙えるのはどこかって考えたときにボート部っていうのがありました。それに、見学に来てすごく良い集団だなって思って。一人一人を大切にしているというのを感じて、そういうところの仲間になりたいなと思って、ボート部への入部を決めました。

――小さい頃からボート競技をやっている他の選手を主将としてまとめていくことに対して、プレッシャーはありますか

それはもちろんあります。11月から就任したんですが、最初の2カ月くらいはプレッシャーと戦うのがすごく大変で。みんなの見本になるような姿を見せなきゃいけないっていうプレッシャーがあったんですけど、やっぱり自分のできることをやろうっていうふうに考えて。いまは主将を楽しもうと考えています。自分のモットーの中に、楽しんで上を狙うというのがあるので。楽しんで主将をやった方が後輩たちもついてきてくれると思いますし。

――主将をやる上で支えになっているものはありますか

同期の支えというのは大きいです。私の学年は同期が多いんですけど、同期が何でも相談してと言ってくれて。

――ことしの4年生はどんな学年ですか

男子も女子もすごく仲が良いと思います。女子に関して言えば、数は力なりという言葉がありますが本当にその通りだと思っていて、誰かができていないところを誰かが補ってあげるというふうにしていつも最善の状態を保てていると思います。

――新体制になって部の雰囲気はいかがですか

練習自体はきつくなったんですけど、その練習もみんなで声を掛け合って楽しんでやるという雰囲気づくりはできているなと思います。

――練習を楽しむということを意識されているのですね

そうですね。練習って、決められたらやらなきゃいけないじゃないですか。どうせやるなら効果的に楽しく練習したいですし。楽しいっていうのは笑顔でとかそういうことじゃなくて、きついけどうまくできたから楽しいとか、そういうことですね。ただ楽しいっていうんじゃなくて。

――部として良い雰囲気をつくるために心掛けていることはありますか

オンオフの切り替えはきちんとするようにしていて、オフのときは後輩と仲良く話したりとか、上下関係はあるんですけど近い距離になれるようにしたりっていうのは心掛けています。

「これからが伸びる時」

――いままでで一番印象深かった試合は何ですか

昨年の夏、インカレのクォド(女子舵手付きクォドルプル)で優勝したときの試合ですね。

――どんなところが印象に残っていますか

2週間前にいきなりクルーを変更して不安を抱えた中での練習であり、試合でした。他大は2カ月前くらいから組んでいるクルーもある中で自分たちは2週間で仕上げなきゃいけなくて。でも、お互いがお互いのために助けてあげるというか、一人一人が信頼し合ってこの人のためなら頑張れるっていう雰囲気がクルーの中にあったので、すごく楽しかったですし、負ける気もしませんでした。信頼関係ってこういうふうに築いていくんだなっていうのを学んだ試合でした。

――ボート未経験のところからスタートしてインカレ優勝を果たすほどに成長できた要因は、どこにあると考えていますか

ワセ女自体のレベルがすごく高いので、普通のことをしていても他大に比べてレベルの高いことをやっていると思います。そういう環境にいられるからというのもありますし、あと自分はインカレに絶対出るって決めたら、その目標をやり遂げるという強い気持ちを持っていつも臨んでいるので、そういうことの積み重ねが結果として表れたと思います。

――輝かしい実績を残しながらもことしの早慶戦への出場はかないませんでした。その発表を聞いたときはどんなお気持ちでしたか

選考での自分の速さを見て結果はなんとなく分かってしまっていたので、発表される時にはそれなりの覚悟をしていましたけど、やっぱり主将なのに乗れないという情けなさや競技生活をしていて乗りたかったという思いはありますね。

――選考期間の体の状態や調子はいかがでしたか

ちょっと体調を崩してしまって、良い調整はできなかったんですけど、でも先ほども言ったように自分ならやり遂げられると信じてやっていました。不安になってしまうとそれが漕ぎに出てしまうので、できると自分に思い込ませてずっと調整をしていました。

――その中で得たものは何かありますか

よく4年生で『集大成』という言葉を使う人がいるんですけど、私は未経験で入ったというのもありますし、これからが伸びる時だと思っています。高校生で始めた人だとしたら4年目というと大学1年生にあたる年で、一気にぐんと伸びるときですし、自分はまだまだ伸びる可能性があると信じて、練習をやっていかなきゃいけないなと思いました。

――いまはどのような練習をなさっているのですか

 いまはセカンドのクォドで組んで、そこでクルーリーダーも自分でやりたいと言ってやっています。選考から落ちて気持ちを切り替えなきゃいけないということもありましたし、私自身責任があった方がみんなの前でもちゃんとしていられるというか、周りから見られているという自覚が芽生えて練習にも貪欲な姿勢で臨めるので。いま早慶戦の対校に乗っているクルーが速いというのはみんなが認めるところであって、インカレ全種目制覇できるかどうかっていうのはセカンドがどのくらい成長できるかということにかかっているので、私たちは逆に重要な立場であるなと思います。

――ことしのセカンドはいかがですか

私は3年連続でセカンドに乗っているんですけど、いままでで一番速いです。みんな上に行こうっていう気持ちがあるので、すごく良いと思います。

――インカレ全種目制覇に向けて手応えは

冬に練習量を増やした成果が最近見え始めていて、自信はあります。いままでは女子だからっていうので少し練習量を抑えたりもしていたんですけど、もう全く男子と一緒で。部全体としても練習量は上がったので、それにみんなで必死に食らいついてという感じです。

――練習量を増やしたのはどのような考えからですか

主将に抜てきされたときに、監督やコーチ陣の方から、男子も女子もいままでと同じことをしていては駄目だということで、まずはフィジカルを強化して、そこから技術を上乗せしていかなければいけないということを言われて。冬はオフシーズンなのですが、フィジカル、体力面の強化のために必然的に練習量は多くなりましたね。

――いままでと同じことをしていては駄目だというお話がありましたが、昨年はそれだけ悔しい思いもされたということでしょうか

やっぱり全ての試合で勝てているわけではないので。私自身勝ったのはインカレだけですし、軽量級(全日本軽量級選手権)も2位だったので。やっぱり1位じゃなきゃ勝ったという気はしないですね。

「ワセダの誇りを意識して」

今季は主将として女王ワセダをけん引する

――主将として、これからどんな1年を過ごしたいですか

一つは、部員と距離の近い主将でありたいです。あと、私自身試合に出られない時期もあったので、全員が輝けるというか、それぞれの強みを伸ばせる環境づくりをしていきたいなと思います。そしてやはり勝つことですね。

――以前の取材の際に「理想のワセ女の漕ぎをしたい」とおっしゃっていましたが、現時点で『理想のワセ女の漕ぎ』とはどのようなものだと考えていますか

以前は、目指す先輩方の漕ぎを見て『理想のワセ女の漕ぎ』というふうに言っていたのですが、いまは、最低限守らないといけない漕ぎにプラスして個人個人に合った漕ぎをするべきだなと思っています。例えば私はすごく体が小さいので、他の人と同じ漕ぎ方では絶対に負けてしまうんです。私であれば身長が低いというマイナスポイントを逆にプラスに持っていくにはどうすればいいかを考え、最低限の漕ぎ方にそれを上乗せして理想の漕ぎ方をつくる。それを一人一人がやっていくことがベストなのかなと思います。

――部としての今季の目標を教えてください

早慶戦優勝、そしてインカレは全種目優勝。全日本選手権もクォドはきょねんに引き続き優勝して他のクルーもメダルを獲ることです。

――高い目標を達成するために、今後どのように練習に取り組んでいきたいですか

私たちが負けると対外的にも「ワセダが負けた」と思われたり、ずっと連覇しているとそういうプレッシャーがあるのは仕方のないことだと思います。でも、そういうプレッシャーが原動力になるという面もあるので、ワセダの誇りや伝統を全員が意識して日々過ごすことが大切だと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 末永響子、写真 加藤千暁)

◆辛島瑞加(からしま・みか)

1993年(平5)1月3日生まれのA型。158センチ、50キロ。スポーツ科学部4年。東京・富士見高出身。オフの日はなるべく外に出掛けるようにしているという辛島選手。「寝ている時間がもったいないので日が出ているうちは活動しています」とおっしゃっていました。いつでもエネルギッシュな新主将の活躍に期待です!