無念の惨敗で、悲願の完全優勝逃す

漕艇

 隅田川にはやはり魔物がひそんでいた。女子舵手付きクォドルプルは圧巻の24連覇を成し遂げ、第二エイトは劇的な大逆転勝利。対校エイトが勝利すれば、悲願の『完全優勝』が叶うはずだった。しかし2年ぶりの覇権奪回に向け満を持して挑むも、コース延長や新艇をうまく活かしきれず、宿敵・慶大の前になすすべなく完敗。惜しくも5年ぶりの偉業達成はならなかった。

 最初に出艇したのは女子舵手付きクォドルプル。横殴りの雨が降りしきる悪条件の中、連覇を懸けた1000メートルが始まった。他レースでは終盤でバランスを崩し、差をひっくり返される艇が続出。昨年より距離が短縮され、無類の強さを誇る女王ワセダでも1つのミス大きな命取りとなる。だがワセ女にその不安はいらなかった。序盤から圧倒的な力の差を見せ大きなリードを奪う。中盤すこし崩れる場面もあったが、気が付けば慶大に『大差』をつけての圧勝。「いつも以上に5人の力で一つの船を動かせた」とクルーキャップ大石綾美(スポ4=愛知・猿投農林)は振り返った。これで女子部の連勝記録は24となり、隅田川での不敗神話は次世代に継承された。

隅田川でも女王ワセダを証明した女子舵手付きクォドルプル

 5年ぶりの勝利を目指した第二エイト。レース前から拮抗(きっこう)した展開が予想されたこの一戦は、まさにシーソーゲームだった。スタートで先行したワセダは中盤で大きく引き離しにかかるも、慶大に追い上げを許し2艇が一時横並びとなる。その後難なくかわされ最大2艇身差となり、勝負ありかと思われた。『最後には絶対追いつけると思って、気持ちを切らさずに漕いだ』とその時の心境を語ったクルーキャップ杉山史門(スポ4=静岡・沼津東)。その言葉通り、桜橋手前の吾妻橋でギアチェンジに成功し慶大を猛追。桜橋寸前で宿敵を追い抜き、ワセダが先にゴールへ飛び込んだ。杉山は「クルーへの信頼という部分で慶大より勝っていた」と勝因を挙げた。見事に1秒差の接戦を制し、第二エイトは5年ぶりの歓喜に包まれた。

両腕を突き上げて喜びを爆発させた第二エイト

 ワセダの『完全優勝』という大きな期待を背に、伝統の隅田川決戦に挑んだ対校エイト。
「自分たちのやってきたことを常にやり続けよう」(新藤耕平主将、スポ4=山梨・富士河口湖)。そう意気込んで迎えた宿敵との大一番。対校エイトの船出は誰もが予想しえなかった波乱の幕開けだった。ことしの伝統の一戦は、昨年とは全くの別物。距離は3750メートルに延長され、それに伴い新しく生まれたカーブが勝敗を大きく左右する。「スタートから一気に出よう」(高橋拓哉、政経4=東京・早大学院)と、その勝負のカギとなるカーブで先行を狙ったワセダ。しかし不幸にも、序盤リードを奪ったのは慶大だった。宿敵の思わぬ奇襲作戦に、「上手く対処することができなかった」(正垣克敏、スポ3=熊本学園大付)と選手たちの心は完全に乱されていた。その後何とか落ち着きを取り戻そうとギアチェンジを試みるも、なかなか全員の漕ぎは揃わず逆に差を広げられてしまう。その後、第二エイトの大逆転を再現すべく終盤にスパートを仕掛けるが、一向にペースは上がらず。慶大に7艇身差をつけられる歴史的惨敗に終わった。

必死に慶大との差を縮めようとする対校エイト

 「一つ一つのミスがこの差を生んだ」(新藤主将)と語るように、先行しようという気持ちが空回りしミスを犯すという悪循環に陥っていた。宿敵に突き付けられた『敗北』の二文字。ゴール直後、慶大の勝利を祝福する歓声とともに、隅田川には叫び声が鳴り響いていた。両手で頭を抱えたり、水面に手を打ち付けたりする選手たち。伝統の一戦で自分たちの力を最大限に発揮できなかったことに対しての悔しさがにじみ出ていた。

惨敗を喫しうなだれる選手たち

 ことしがラストイヤーとなる佐藤琢(創理4=東京・早大学院)は「しっかり負けた理由を分析して、前を向いてやっていきたい」と既に先を見据えている。対校の選手たちの中には誰一人として下を向いている選手はいない。今シーズン男子部が掲げる目標はエイトでインカレ優勝。再び8本のオールを握り、学生ナンバーワンの称号へ――。「やるべきことをしっかり考えてリスタートしたい」(新藤主将)。その熱き戦いはもう始まっている。

 (記事 新田祐介、写真 辛嶋寛文、末永響子、荒巻美奈、)

結果

【対校女子舵手付きクォドルプル】(C:大泉 S:山根 3:大石 2:望月 B:土屋)

優勝  早大  4分02秒57

準優勝 慶大  4分31秒20(大差)

【第二エイト】(C:中村 S:角南 7:小坂 6:鈴木 5:白濱 4:森下 3:杉山 2:長山B:和田)

優勝  早大  13分32秒45

準優勝 慶大  13分33秒53(1/3艇身)

【対校エイト】(C:高橋 S:長田 7:新藤 6:山下 5:青松 4:佐藤 3:正垣 2:田崎 B:江原)

優勝  慶大  13分53秒68

準優勝 早大  14分17秒37(7艇身)

コメント

クルーキャップ:大石綾美(スポ4=愛知・猿投農林)

――24連覇おめでとうございます!率直な気持ちをお聞かせください

そうですね。本当にいまはほっとしているというところですね。嬉しいです。

――最後の早慶戦でしたが、スタート地点ではどのようなお気持ちでしたか

私にとっては初めての隅田川だったので、絶対に優勝したいという気持ちで(スタートラインに)立たせてもらいました。

――勝因はどんなところだったと思いますか

いつも以上に5人の力で一つの船を動かせたことかなと思います。

――今シーズンに向けて意気込みは

冬にしっかり練習が積めているので、シーズンが始まって力を出すだけだと思っています。いまいい流れで女子はきているので、全員で一丸となってやっていければと思います。

クルーキャップ:杉山史門(スポ4=静岡・沼津東)

――いまの心境は

勝つことができて嬉しいというのと、対校エイトが負けてしまって完全優勝ができなかったという部分で悔しいというのと…。何とも言えない気持ちですね。

――第二エイトは5年ぶりの勝利でしたが

4連敗しているうちの2回に自分が乗っていたので、それを自分の代で挽回できたというのはすごく嬉しいです。

――序盤は接戦となりましたが

競るレースになるという展開は予想していたので、競り勝っていこうという風に思っていました。

――中盤最大2艇身差をつけられてしまいましたが、そのときの心境は

最後には絶対追いつけると思って、気持ちを切らさずに漕いでいました。

――差をつけられていたところから逆転に持ちこめた理由は

吾妻橋のところでスピードがあがったときに自分は勝ちを確信していました。向こうもこっちも4年生が多くて意地と意地のぶつかり合いになって、ケイオーも手強いクルーだったんですけど、クルーへの信頼という部分で自分たちの方が勝っていたのかなと思います。

――実況で言われていた必殺技とは

『ファイヤースパート』といって、自分たちで名前をつけて(気持ちやレートを)あげるタイミングやあげ方を揃えるようにしました。特別な感じがあるので、気持ちの入るスパートができるかなと思って。今日もばっちり決まりました。

――最後に今季に向けての意気込みを

対校がケイオーに負けてしまいましたが、昨年とは違って第二エイトが勝って。昨年は2つとも負けてインカレが3位で、ことしはきょねんと比べて(第二エイトが勝ったことで)少し勢いはついたかなと思うので、インカレ優勝を目指して頑張りたいと思います。

クルーキャップ:新藤耕平(スポ4=山梨・富士河口湖)

――レース後の率直な感想を

もちろん悔しいという思いでいっぱいです。

――レース前にどんなことに気を付けて臨んだか

自分たちのやってきたことを常にやり続けようと。それをレースで表現しようということは言いました。

――7艇身差をつけられたことに関しては

単純に自分たちが弱いから負けてしまった。レースを観戦していた皆さんもそう思ったのではないかと思います。

――気温が低く川の状態も悪かったが、どういう調整をしたか

レース前の調整はものすごくいいものが出ていた。それをレースでやれば間違いなく勝てるなという意識はあったと思います。要するにそれができなかったということです。

――序盤で慶大に出られて焦りがあったのでは

意外と落ち着いてはいましたが、一つ一つのミスがこの差を生んだのだと思います。

――記者会見では既に全日本大学選手権(インカレ)のことを話されていましたが、今後の意気込みを

僕たちと慶大がしっかりインカレの決勝に立たないと、この早慶レガッタの戦いはボートごっこと言われてしまう。現時点で慶大より自分たちの方が弱い。この7艇身差を夏までに縮めて追いついて追い越すために、やるべきことをしっかり考えてリスタートしたいと思います。

C:高橋拓哉(政経4=東京・早大学院)

――きょうのレースを振り返って

スタートから一気に出ようと思っていました。中間辺りの蔵前橋でリードを奪っておきたかったんですが、ずるずるといってしまいました。自分が勝負所を見極めることができなかったと思います。焦りなどはなく、勝てる力はあっただけに7艇身の差をつけられたのは率直に悔しいです。

4:正垣克敏(スポ3=熊本学園大付)

――いまの率直な感想をお願いします

スタートは勝負できたと思ったんですけど、後半どんどん慶大が迫ってきて追い抜かれた時に全員揃ってスピードを出すことができませんでした。攻めきれなかったことが敗因かなと思います。

――レースプランは何かありましたか

やはり距離が長いので、スタートで頑張ろうと言っていました。スタート地点も僕たちの方が前だったので、ずっと慶大を見ながら、要所要所で力を合わせて前半で勝負を決めて、終盤は落ち着いて行こうというレースプランでした。ですが、早い段階で追いつかれてしまったので、上手く対処することができませんでしたね。

3:佐藤琢(創理4=東京・早大学院)

――大差をつけられての敗戦となりましたが、今の率直なお気持ちを

終わってしまいましたね。悔しいです。

――漕いでいて感じたことは

ケイオーが見えなかったです。7艇身も開いていたとはという感じで。今は何で負けたのか分からないです。

――差を広げられて焦りはありましたか

ボートが見えなかったですからね。

――この敗戦をどう生かしたいですか

もう次の早慶戦はないですよね。とりあえず早慶戦は今回で終わりなので、来年、自分たちの意志を受け継いだ後輩たちが成し遂げてくれると信じています。意外とそれも結構うれしいらしいので。それを信じて、自分たち自身はまた夏に向けて、もう一度立て直して、しっかり分析したいです。勝ちに不思議あり、負けに不思議なし。負けるのには必ず理由があるので、しっかりそこの分析をして、後ろばっかりは向いてられないので、前を向いてやっていきたいです。まだことしは終わりじゃないので、やります。

2:田崎佑磨(スポ3=茨城・潮来)

――きょうの感想は

簡単に勝たせてもらえない。早慶戦なんで悔しさもひとしおです。普通の大会と違って、一本しかない対抗戦ですし。

――敗因としては

まだまだ分析できてないですね。これから分析してこれからに活かします。

――来年最終学年としての早慶戦に向けて

自分の同期たちは一ヶ月前から代替わりに向けて準備してきています。間違いなく、良い組織ができます。らいねんは絶対に、何が何でも必ず勝ちます!