今年2月に行われたバンクーバーW杯。歓喜の輪の中心にいたのは、加納虹輝(スポ4=山口・岩国工)。海外の舞台でも安定したパフォーマンスを見せ、シニアでは自身初となる世界大会での優勝を果たした。さらに快進撃は続く。3月に行われたブエノスアイレスW杯では、団体のメンバーとしてチームの勝利に大きく貢献。決勝でも最後周りといった重役をこなし、日本勢では初となる団体優勝の偉業を成し遂げた。次々に結果を残し、日本を代表する選手にまでなった加納。世界ランキングは6位にまで上がり、来年に迫った東京五輪のメダルも期待されている。今回の取材ではこれまでの世界大会の振り返りと、6月に行われるアジア選手権、そしてオリンピックについての展望を伺った。
※この取材は5月29日に行われたものです。
想像以上の躍進
――オリンピックの出場権争いが始まりましたが、今をどのような気持ちで過ごしていますか
まだ始まったばかりなのですが、2つ大会が終わってなかなか上手くいっていない状態で、これから行われるアジア選手権と世界選手権が1年の中で一番重要なので、そこに向けて全力でやっていこうという気持ちです。
――ここまでの歩みは、早大入学時点で想像できていましたか
全くついていなかったです。
――想定外でしたか
はい(笑)。
――どの大会辺りから実力が付いてきたと感じていましたか
大学1年の1月にシニアのW杯に出て、そこで3位に入賞して。3位入賞した2週間後にジュニア(U20)のW杯があったんですけど、そこでも優勝して、その辺りから力ついてきたなと感じました。
――今年2月のバンクーバーW杯個人で優勝しましたが、大会を振り返っていただけますか
その日は特別調子が良かったわけではなかったんですけど、一戦一戦集中できていて。ベスト8ではその時の世界ランキング3位の選手に競った中で勝てて、そこで勝てたのが大きかったのかなという感じです。そのあとの準決勝と決勝はポンポンと勝てたので、トータルで見たら持っていたのかなという感じです。
――今年3月のブエノスアイレスW杯団体で優勝できた要因はどこにあったと思いますか
団結が取れていたというのと、4人全員の調子が悪くなくむしろ良くて、全員が次につなげられていたというのが勝因ですかね。
――決勝戦の最後周りを任せられていたと思うのですが、緊張しませんでしたか
最近、最後周りを基本的に任されているので、特に緊張はなかったです。その前から最後周りをずっとやってきていたので、慣れてはいたので。
――団体エペ優勝は日本勢初の快挙でしたが、周りの反響はいかがでしたか
多くの方に「おめでとう」と連絡をもらったりだとか、直接言ってもらったりだとか。あとは男子エペは日本は勝てないと言われてきた中での団体戦での優勝だったということがあって。団体戦で優勝するということはチーム、国としてのレベルが高いということにつながってくると思うので、日本の男子エペのチームはレベルが上がってきたなという反響がありましたね。
――パワー、スピードといった武器は、今も加納選手のフェンシングの軸になっているのでしょうか
そうですね。特にスピードに関しては、身長がない分スピードで補っていく必要があるのでそこは磨き続けていますし、パワーについても外人選手に負けないように磨き続けているので。そこはいまだに負けてないかなと思っています。
――2年前の特集では戦術を課題に挙げていましたが、今はどうでしょうか
僕は経験がない方なのですが、最近だいぶ戦術を理解することができるようになってきていて。それを実践するのはなかなか難しいんですけど、頭の中では理解して、実践しようと試みてはいます。
――同じく2年前の特集で「団体のメンバーにはまだ入れない」と語っていたと思います。今は団体の中心として活躍されていると思うのですが、どう考えていますか
団体戦と個人戦は全然別のものだと考えていて、個人戦が強いから、勝てるからといって団体戦で活躍できるとは限らなくて。団体戦の戦い方も分かってきて、団体戦では貢献できているかなと思います。
取材に応じる加納
世界と向き合う中で
――普段はフェンシング以外で何をされていますか
大学の課題をやったり、男子エペはチームで行動することが多くて、ご飯に行くときも、スーパーとかもみんなで行きます。みんなでゲームをするときもありますし、遠征は必ずニンテンドースイッチを持っていきます(笑)。合宿中も毎日練習というわけではなくて、たまにはオフもあるので、そこで外に遊びに行ったりもします。1時間位かけて町の中心街に行ったりだとか、あとはゲームをしていますね。
――今までの海外遠征で印象に残っている国はありますか
個人的にハンガリーや、フランスは結構好きです。食べ物がおいしいというのと、観光地でもあるので。フェンシングの試合は町の中心街に近いところで行なわれるので、フランスだったらパリとかハンガリーだったらブダペストだったり。町の中心街に行って軽く観光したりというのが多いです。ハンガリーとフランスは特に印象に残っていますね。でも何回も行っているというのもあって。毎年同じ場所で大会が行われていて、フランスは3、4回行っているので、それだけ行けば印象にも残りますよね(笑)。
――ここ最近、フェンシング協会が日本代表の選考に、英語の基準を設けましたが、海外で言葉で苦労された経験はありますか
英語がそもそも通じない国に行くこともあったりするので、そういう時は本当に大変です。携帯があるので、グーグル翻訳を使ってなんとかなるんですけど、なかなか理解されないときもあって。タクシーのおじさんとか理解されないときがあるので、そういう時苦労していますね。
――今までの大学生活で印象に残っていることは何ですか
うーん…。印象に残っていることはないかもしれないですね(笑)。フェンシングも学生の大会にほとんど出ていないので…。特にはないかもしれないです(笑)。
――これから大学生としてやりたいことはありますか
自動車免許を取りたいです。今年の夏に取ろうかなと思っているんですけど、7月に世界選手権が終わって、そのあと1か月半ぐらいオフシーズンに入るので、そこで自動車免許を取りに行こうかなと考えています。
――早大の男子エペがリーグ戦で優勝しました。やはり早大の選手の活躍は刺激を受けますか
はい。遠征中でしたけどもリアルタイムで結果を聞いていて、結構気にしていましたし、大学の大会で優勝したことはとても刺激になりました。1、2年生もメンバーに入って、活躍してくれたというのはすごく刺激になったので、自分も頑張ろうかなと思っています。
『金メダル』のために
――アジア選手権が近づいていますが、どのようなイメージがありますか
前回のアジア選手権は3位だったんですけど、すごく自分の中ではいい印象を持っていて、実力を発揮できればメダルは獲得できるかなという気持ちですね。
――アジアとそのほかの海外の選手では、対策やプレースタイルを変えたりはしますか
アジア、ヨーロッパというよりかは、大きくプレースタイルを変えるということはないですけど、この選手にはこの技が効くというのはあるので、個人個人に合わせてプレーすることはありますね。
――アジア選手権の目標は
もちろん金メダルです。
――個人も団体もですか
はい、個人も団体もです。
――続いてオリンピックの質問になります。個人は世界ランキング6位ですが、この現状をどう捉えていますか
世界選手権のポイントがかなり大きいので、7月の世界選手権が世界ランキングに関して重要になってくるかなと思っていて。アジア選手権も重要なんですけど、特に世界選手権が重要と考えていますね。
――団体がオリンピックに出るためには、今後何が重要になってくると思いますか
アジア選手権、世界選手権で勝ってランキングを上げて韓国を抜かすということと、あとW杯で最低でもベスト8以上に入って、安定した成績を残すことがオリンピックにつながるかなと思っています。
――個人としての課題は何だと考えていますか
立ち上がりですね。ランキングベスト16に入ると、2日目のベスト64からのスタートになるんですけど、初日の予選を勝ち抜いた選手と当たるんですよね。ベスト64に上がってきた選手は前の日に試合をしてきているので、かなりいい状態で来るんですけど、こっちは1試合目なので、体はもちろんウォーミングアップで暖めるんですけど、心がまだ暖まっていない状態で試合に臨むので、そこで負けてしまうことがあります。もちろん64に残る人は強い選手しか残っていないんですけど、そこで立ち上がり集中して相手選手を翻弄(ほんろう)するということが課題ですね。
――今後重要になってくるのはやはり世界選手権でしょうか
はい。
――世界選手権の目標もやはりメダルですか
はい。まだ日本の男子エペは世界選手権でメダルを取ったことがないので、日本人初となる個人、団体共にメダル獲得というのが目標です。
――最後に、オリンピックの目標はどこに置いていますか
東京オリンピックでは個人、団体共に金メダルを獲得するということが、ここ2年での最大の目標です。
――ありがとうございました!
目標である「金メダル獲得」と書いていただきました!
(取材・編集 小原央 写真 青柳香穂)
◆加納虹輝(かのう・こうき)
1997(平9)年12月19日生まれ。173センチ。岩国工高出身。スポーツ科学部4年。男子エペ世界ランキング6位(2019年6月12日現在)。早朝から行われた今取材でしたが、自身の目標をはっきりと答えてくださいました。今週に迫ったアジア選手権で目指すは金メダル。千葉の地で躍動する加納選手に期待です!