無観客、そして試合形式の変更など、例年とは異なるかたちで行われた今年の早慶定期戦。制限はあったものの、全日本学生選手権(インカレ)など多くの大会が中止を余儀なくされてきた選手たちにとって、待ちに待った大会だっただろう。今年は慶大日吉記念館で行われ、改装されてから初めてのこけら落としとなった。熱い戦いが繰り広げられる中、男子が7-5、女子が4-0という結果を収め、今年も勝利を飾った。
この日、4試合と出場選手最多の試合をこなしたのは、川本寛樹主務(文構4=埼玉・早大本庄)だ。最初に出場したダブルスでは、今年度入部した荒島一太郎(人1=愛知・豊橋東)とのペア。1年生と4年生という学年の離れたペアであったが、アドバイスをしながら戦略を立て、相手に食らいつく。この試合では敗北したものの、積極的に声をかけあい、下級生を引っ張る姿が見られた。続くシングルス、ダブルスでは見事勝利。そして最終戦は慶応の主将・佃啓介との試合に臨んだ。「自分のやってきたことを出そう」という思いで挑んだという川本は、この日4試合目ながら全力のプレーを見せ、激しい打ち合いを展開。両者互いに声を出し、闘志を燃やす。コートの外からは部員らがエールを送り、21-13、21-9とストレート勝ち。試合が終わるとガッツポーズを見せ、現役最後の試合を勝利で締めくくった。
相手の球を返す川本
女子ではシングルス、ダブルスに加え、トリプルスというかたちでの試合が行われた。ここに登場したのは、この日初めての出場となった吾妻咲弥女子主将(スポ4=福島・富岡)。吾妻に加え、鈴木ゆうき(社3=宮城・聖ウルスラ学院英智)、佐原穂香(人2=近大和歌山)という3学年に渡るメンバーで試合に臨んだ。練習で取り入れることがあるものの、公式戦では出場経験のないというトリプルス。3人でコートを守るため、速い展開が続く場面がみられたが、お互いにカバーしあい、早稲田で培われた見事なチームワークを見せつけた。最後はスマッシュの打ち合いで相手のミスを誘い、21-10、21―11と圧巻の勝利。「楽しくできたので良かった」と振り返る吾妻は、最優秀選手賞にも選出され、最後の早慶定期戦を晴れやかな表情で終えた。
笑顔でコートに立つ吾妻
吾妻、そして今回出場しなかった小野寺雅之主将(スポ4=埼玉栄)は12月に全日本総合選手権を控えているが、今大会を最後に早慶両校ともに多くの4年生が引退する。2019年のインカレは、台風による団体戦の中止。さらに今年はコロナ禍により、インカレをはじめとした多くの大会が中止となった。インカレでのアベック優勝を目指していた4年生にとって、その目標を奪われたことは辛いことであったに違いない。それでも今年の1年間を乗り越えることができたのは、仲間の存在があったからだ。川本、吾妻はともに部員に対して『尊重』という言葉を口にした。「同期に恵まれていた」(川本)と振り返ることができるのは、この尊重しあえる関係があったからなのだろう。今年叶わなかったインカレアベック優勝。この目標は今後のチーム早稲田に託された。早慶定期戦を終え、それぞれがまた新たな目標へと歩み始める。
(記事 渡邉彩織、写真 横澤輝、山本小晴)
試合後に撮影された集合写真
結果
▽男子団体
早大〇7-5慶大
▽女子団体
早大〇4-0慶大
コメント
吾妻咲弥女子主将(スポ4=福島・富岡)
――早慶定期戦にはどのような気持ちで臨みましたか
今年は公式戦が一つもなくて、実際に私はこの大会は引退試合にはならないので、久しぶりの大会という感じもしながら、コロナの中であんまり練習できていないという中で、例年とは違った感じで臨んだ試合だったかなと思います。
――トリプルスでの出場でしたが今までに経験したことはありますか
たまに遊びというか練習では取り入れることがあるのですが、公式戦では初めてですね。
――難しかった点は
練習していないので、戦略も何もなくて難しかったですね。でも楽しくできたので良かったのかなと思います。
――ほとんどの大会が中止されましたが、今年1年を振り返って
去年優勝しておきたかったという思いが1番にありますね。でも就活もありコロナもあり、今までにない環境に置かれて気付けたこともたくさんあったので、良かったところもあるのではないかと思います。
――女子主将という立場で大変だった点は
ほとんど大会とかがなかったので、大変な時期はあまりなかったですね。後輩も話あってくれて助けられながら、同期もすごく尊重しあってくれる2人なので、まわりにすごく恵まれたのと感じます。
――今後のチームに期待することは
1年生からやってきて、インカレアベックというのが、特に自分が主将の年にアベックしたかったという思いがあるので、それを叶えて欲しいと思います。
――全日本総合選手権への意気込みをお願いします
今年初めての大会でもあり、バドミントン17年間の締めの試合でもありということもあり、自分の中で特別な大会です。最後の大会で、今までは必要のないことも考えていたなという思いもあるので、最後は単純に楽しめたらいいなと思います。
川本寛樹主務(文構4=埼玉・早大本庄)
――最後の早慶定期戦となりましたが、今のお気持ちはいかがですか
最後、小野寺がいなかったのは残念でしたが、その分多くの試合ができて、いっぱいチャンスがもらうことができました。最後の機会でこんなにいっぱい試合ができるとは思っていなかったので、足がもげてもやりきろうという思いでした。最後の試合の途中は、これで終わりかと思って、ラストイレブン過ぎてから泣きそうになりながらやっていたのですが、最後まで笑顔で思い切ってやろうというのは、やりきれてよかったですね。自分のやってきたことを出そうという思いでやって、やり切れたので自分としては悔いなく終われたと思います。
――4試合出場という経験は
1日で4試合は大学入ってからは1回もないですね。ちょっときついかなと思っていたのですが、気合で乗り切りました。最後はもう体力ないですね。
――今年1年間を振り返って
僕が入学した最初の年に小野寺も試合に出ていて、そこでインカレに優勝していて、翌年も優勝しているんですよね。それで去年台風で潰れてそこで3連覇とぎれて、今年も試合ができなくて。僕は1年と2年の時の光景のように、インカレで最後優勝して、まさ(小野寺)とかが胴上げされているのを見たかったのですが、それが叶わなかったのは非常に残念というのが正直なところですね。ですが、できなかったことをその間に部員みんなが各自でトレーニングをやるだとか、みんな意識を高く持てていたので、バドミントン以外のところに目を向けるいい機会になったのではないかと思います。やっぱり試合ができないのは、練習の成果を発揮する場がなくて残念でしたが、各々がやりたいことを見つけてやるというのはできていたと思うので、そこはバドミントン以外で成長につながっているのかなと思います。
――主務としての役割を振り返って
そこが1番泣きそうになっちゃいますよね(笑)。まぁしんどかったですね。主務になっていろんなことが重なって、何もできなくなってしまったことがありました。そこで後輩、同期が僕の様子がおかしいと気付いて支えてくれて。主務の仕事としてはやり切ることは簡単だったのですが、そこで支えてもらってなかったら部活からフェードアウトしていたくらいの感じだったので、そこを乗り越えたのは、人間的な成長もそこにはあったのかなと思います。主務の仕事を通していろんな人と関わる機会は他の部員より圧倒的に多くて、いろんな関係各所とやりとりすることがあったので、これから社会人になったときにすごく役立つ部分があるのかなと思います。すごくいい経験にはなったのかなと思います。
――仲間の存在は大きかったですか
そうですね。特に同期の存在は大きかったですね。僕の代は特別少なくて、僕とまさとさやちゃん3人で、入学当初は3人しかいないという不安はありました。でもお互いを尊重して一回は受け入れてというのが、言ってはないのですがお互いに分かっていて。僕ら一回も喧嘩とかしたことないんですよね。その面では特に同期に恵まれていたなと感じます。
――今後のチームに期待することは
今後、コロナ禍が収束してくれると思うので、今途切れている(インカレ)2連覇を継続して3連覇、4連覇とやってほしいというところですね。あとは僕らの代は早稲田らしさというか、お互いが割とみんな自由なのでそこを抑圧するとかではなく、大事に各々がやりたいことを尊重してもらいたいです。僕らのキーワードが尊重というところなので、そこはなくさずに、それぞれが良いと思うものを発信して、積極的に意見を出してほしいと思いますね。ぶつかって反発してもいいと思うのですが、そこでくじけずに、早稲田らしくそれぞれ自由に、そして一回は受け入れて尊重しながら、部の雰囲気作りなどをしていってくれればと思います。そこで結果が出れば1番ですが、そういったことができることを期待しますね。僕らはそれができたつもりではいるので、いいところは継続して自分が思うようにやってくれればきっと結果もついてくると思うので、早稲田らしく尊重を大事にやってほしいです。