昨今の感染症拡大の影響で、自動車部が参加予定だった多くの大会が中止を余儀なくされた。そのような状況の中、早大自動車部は大学モータースポーツを盛り上げようと、全国の学生に呼びかけ「全日本学生eモータースポーツ選手権」を開催した。他大学の自動車部員らも多く参戦し、早大自動車部からは、Aリーグに綠川壹丸(基理4=東京・早実)、Bリーグに最上佳樹(社2=東京・攻玉社)が出場し、綠川5位、最上4位という結果となった。コロナ禍で注目度を増すモータースポーツの概要や展望とともに、初戦となった今大会を振り返る。
eスポーツとはエレクトロニックスポーツの略称であり、電子機器を用いたゲームによるスポーツ競技のことを指す。eスポーツには格闘ゲームやシューティングゲーム、トレーデイングカードゲームなど、幅広いジャンルが存在するが、eモータースポーツは他のeスポーツとは違った一面を持つ。それはバーチャルと現実の車の操作性が非常に似ているという点だ。eモータースポーツでは、ハンドルコントローラーや専用のペダルシフトを用いて行うため、現実のドライビングと極めて類似した技術が要求される。そのため、eモータースポーツの選手が現実のプロレーシングドライバーに転身する事例もあるようだ。また、eモータースポーツのゲームは実際のレーシングドライバーのトレーニングとして広く用いられているが、コロナ禍でスポーツイベントが制限されるようになった現在、トレーニングの域を超えて世界的に現実のレースをバーチャルで行おうとする動きが加速している。その事例の1つが「バーチャル・ル・マン24時間レース」だ。世界最高峰の自動車レースである「ル・マン24時間レース」は、新型コロナウィルスの影響で開催延期となった。そのような中、本来予定されていた開催日に合わせて、プロレーシングドランバーたちがオンライン上で公式レースを繰り広げた。このように、eモータースポーツはモータースポーツの大きな柱の1つとして確立され始めているのである。
早大自動車部主催で「全日本学生eモータースポーツ選手権」が開催
早大自動車部は感染症拡大の影響で、部活動の活動自粛、さらにはほとんどの学生連盟主催の大会の中止を余儀なくされた。その状況下で、練習に参加できない部員が自宅で練習ができるよう、eモータースポーツをする会が設けられていたという。こうしたことを踏まえ、「この状況で開催できる大会はないか」と考え、本大会を主催する運びとなった。綠川はeスポーツの魅力の1つとして、「全世界の人と戦える」ことと語る。活動自粛が余儀なくされている中、日本全国の大学自動車部が再び集まり、個人参戦を含め全15グループ25選手による盛り上がりを見せた大会となった。
記念すべき第1戦コースとして選ばれたのは、日本を代表する国際サーキットの1つである鈴鹿サーキット。予選でのタイムによって決勝のスタートグリップが決まり、決勝では1周5.8キロあるロングコースを15周走る。さらに今回のレースでは、タイヤの摩耗や燃料の消費などもレース設定として加わるなど、ドライビングテクニックとともにレース戦略を組み立てることも求められた。初戦のAリーグ、レース予選では、綠川が13人中4位と高順位でグリッドを獲得。そして迎えたAリーグ決勝、シグナルが青に点灯すると綠川は好スタートを切り、一時首位に。しかし、後続車からの猛烈な追い上げと2周目のヘアピンカーブでのスリップにより、9位に後退してしまう。それでも相手のミスやペナルティが目立つようになると、安定的な走行で幾度も熱いデットヒートを繰り広げた綠川は、5位まで順位を上げてレースを終えた。続くBリーグでは、2年生の最上がステアリングを握ることに。予選セッションでは、ほとんどの車両が2分10秒を切るベストタイムを出す、ハイレベルな戦いとなり、最上は決勝では7番手ポジションからのスタートとなった。eモータースポーツの経験値が少なく「最下位も覚悟していた」というが、決勝では「比較的集中力を保って走り切れた」と安堵の声。序盤から混戦となったが、最上は安定的な走りで4位まで順位を押し上げ、フィニッシュラインを越えた。
安定的な走りで怒涛の追い上げを見せた綠川
今回のeモータースポーツの試合を終えた最上は、実戦で活かすことのできる、技術面での新たな発見ができたと振り返る。また、綠川は「レースを見た人が車や自動車部に興味を持ってくれるようになったら嬉しい」と語った。新しい日常の始まりにふさわしい、今後につながる試合となった今大会。現実に近いレースの中で、する側と見る側の双方が楽しめるというeモータースポーツの魅力に気付き、可能な範囲内で活動に励む。早大自動車部のその姿勢は、大学自動車部全体を活気づけるものとなった。「最終的にはリアル(実車)とバーチャル(eスポーツ)の融合という、自動車部にしかできない唯一無二の大会になるよう努めたい」と綠川。次戦は10月4日に行われる予定であり、さらに白熱した試合をみること間違いなしだ。
(記事 風間元樹、写真 部員提供)
結果
▽Aリーグ
5位 綠川 33分28秒913
▽Bリーグ
4位 最上 33分25秒470
コメント
綠川壹丸(基理4=東京・早実)
――今回このような大会を主催したきっかけは
新型コロナウイルスの拡大により、学連戦のほとんどが中止になる中で、この状況で開催できる大会はないかと考え、eモータースポーツの大会を開催する運びとなりました。もともと感染症の拡大により、実際の車で練習に参加できない部員が、自宅でできる練習としてグランツーリスモ(eモータースポーツのゲーム)をするという会があったため、そこから話が広がり開催することになりました。
――eモータースポーツの魅力は何ですか
自宅で気軽に始めることができ、お金がかからないことです。運転操作の基礎が学べ、実写に近いグラフィックではレースを体験出来ることも魅力です。また、現実では簡単に乗れない車に乗ることが出来たり、全世界の人と戦えることは、eモータースポーツならではだと思います。運転免許が要らないので誰でもレースに参加出来るという点も魅力的だと思います。
――かなり混戦したレースでしたが、レースを振り返ってみていかがでしたか
かなり白熱したバトルをすることができました。学連戦では、タイムトライアル方式のため単走となりますが、今回は混走でレースをするというものだったので、接近戦で相手との駆け引きができ楽しかったです。また、学連戦と同じく大学の名前を背負って戦うことができ、スタート前は学連戦と同じような緊張感がありました。
――今回学んだことを今後どのように生かしていきたいですか
今回の大会は、レースをし、それを配信するという、レースをする側と見る側の両方面に向けた大会でした。見せることを意識するのは初めてのことだったので苦戦しました。今後も、走る側も見る側も楽しい大会を目指して頑張りたいと思っています。また、レースを見た人が車や自動車部に興味を持ってくれるようになったら嬉しいです。最終的にはリアル(実車)とバーチャル(eスポーツ)の融合という、自動車部にしかできない唯一無二の大会になるよう努めたいと考えています。
最上佳樹(社2=東京・攻玉社)
――混戦の中、8位スタートから4位まで順位をあげることができましたが、率直に振り返っていかがでしたか
自分はゲーム内のランクを見る限り大会参加者の中でも1番と言っていいほどほとんどグランツーリスモをやっていない初心者でした。本番直前にABのブロック分けの方法が予選タイムによる上位リーグ・下位リーグ方式から完全ランダムに変わったこともあり最下位も覚悟していました。しかし、本番前日に綠川さんの走りを直接見せてもらい、そこでタイムを上げる走り方を学ぶことができました。主催が自分たちで、レギュレーションを作成したのも自分たちだったため、他大と比べて練習量が多く、戦略も十分に練れていました。そのためレース中に順位を上げられたのだと思います。自分が普段やっている学連の競技は1人で1〜2分間走るだけのタイムアタックですが、レースは10人以上の相手と一緒に30分以上走り続けないといけない。必要とされる集中力が少し違ったため終わった時にはものすごく疲れていました。
――レースを振り返って、良かった点、悪かった点についてそれぞれ何かありますか
良かった点はコースアウトやスピンで自滅をしなかったこと。今までの練習ではノーミスで走り切れたことが一度もなかったのですが、今回は比較的集中力を保って走り切れました。
悪かった点はレース中のバトルが絶望的に下手だったこと。後ろの選手にコーナーで抜かれそうになってもうまくラインを譲ることができずに押し出してしまったり、コーナーで無理なオーバーテイクを狙って追突してしまうシーンがありました。
――今回学んだことを今後どのように生かしたいですか
今回グランツーリスモをやって勉強になったことは、あえてアクセルを抜くことで車を曲げることの重要性です。今までジムカーナしかやったことの無かった自分は、アクセルは踏んだもの勝ち、少しでも長い時間アクセルを踏んでタイヤを限界まで使った方が速いと考えていましたが、今回綠川さんや他の早い人の走りを見てそうではない場面もあると知ることができました。全日本ジムカーナは鈴鹿南でのコースジムカーナなので、こうした走り方がタイム短縮に繋がるのかもしれないですね。