これぞエース! 伊藤樹が10回完封で全日本初戦突破に導く/大商大戦

野球

全日本大学野球選手権 6月11日 東京ドーム

TEAM 10
早 大
大商大
(早)○伊藤樹-印出
◇(二塁打)田村 (三塁打)なし (本塁打)なし

 東京六大学春季リーグ戦(リーグ戦)を7季ぶりに制し、歓喜に沸いた週末から1週間余り。賜杯奪還の余韻が冷めやらぬ中、全日本大学選手権が幕を開けた。東京六大学の代表として挑む早大は、9年ぶり15回目の出場となった。前回出場以来の日本一へ、『強い早稲田』を証明するべく初戦に臨んだ。シードとして2回戦からの登場となった早大の相手は、前日に完封勝利を挙げていた大商大。エース・伊藤樹(スポ3=宮城・仙台育英)を据えたこの一戦は、両先発の粘投により延長タイブレークに突入した。なかなか得点に結びつかないもどかしい展開だったが、延長10回に梅村大和(教4=東京・早実)の犠飛で1点を先制すると、その裏も続投した伊藤樹が1人で投げ切り1-0で勝利。大会初戦を辛勝した早大は、3回戦に駒を進めた。

 平日の開催にも関わらず、多くの観客で埋め尽くされた早大応援席。大きな期待を背に受けながら、先発マウンドには伊藤樹が上がった。この日は初回こそ3人で抑えたものの、ボールが先行する場面が目立ち、その後は走者を背負いながらの投球が続く。2回は先頭の中前安打と暴投で1死二塁のピンチを招くも、後続を内野ゴロに打ち取ってなんとか切り抜けた。バットに当てさせない本来の圧倒的な投球とはいかなかったが、要所を締めてスコアボードに0を並べていった。援護したい打線は4回、先頭の吉納翼副将(スポ4=愛知・東邦)が中前安打を放ちチャンスメイク。しかし、続く印出太一主将(スポ4=愛知・中京大中京)、前田健伸(商3=大阪桐蔭)、小澤周平(スポ3=群馬・健大高崎)がいずれも2球目以内で凡打に倒れて得点には至らず。序盤は好機らしい好機がほとんどなく、7回までに2桁三振を喫する淡白な攻撃が続く。相手先発の前に三振の山を築かれ、手も足も出ないといった格好だった。

4回に安打を放った吉納副将

 粘投していた伊藤樹は6回、先頭の二塁への打ち取った当たりが内野安打になると、犠打と犠飛で2死三塁のピンチを背負う。打席には4番・渡部聖弥(4年)を迎えたが、臆することなく直球を投げ込むと、最後は詰まらせて二飛に。エースの堂々たるマウンドさばきが響いたか、8回には先頭の田村康介(商3=東京・早大学院)がこの試合初めての長打となる右中間への二塁打を放つ。先制点を待ち望む球場のボルテージが一気に上がったが、尾瀬雄大(スポ3=東京・帝京)、山縣秀(商4=東京・早大学院)、吉納副将の上位打線が倒れてまたもや無得点に。両校ともに決め手を欠く展開で、どちらに転ぶか分からない状況が続いた。少しのミスが命取りになる中で、試合の流れを手繰り寄せるプレーも生まれた。8回、大商大の攻撃で遊撃手の左へのゴロに山縣が追いついて反転スローを見せるも、一塁手・田村がボールをこぼしてしまう。嫌な走者を背負ったが、さらに盗塁を試みたところで印出主将が強肩を鳴らしてタッチアウト。そして再び9回、安打で出塁を許して送られた代走がスタートを切ってきたが、またしても印出主将の好送球でアウトに。チームを勇気づける主将のプレーに、場内も大歓声に包まれた。

ピンチを抑え、ほえる伊藤樹

 数ある好機をつかみきれず、無得点で9回の攻撃を終えた両校。大会規定により、無死一、二塁からのタイブレーク制による延長戦に突入した。先攻の早大はできる限り多くの得点が欲しい状況。途中出場の寺尾拳聖(人2=長野・佐久長聖)はバントの構えを見せたが、追い込まれてからバスターで合わせると、打球はワンバウンドで一塁手の頭上を越えて右前へ。無死満塁の好機となって迎えた打者は、守備から出場していた梅村。鳴り響くコンバットマーチを耳にして振り抜いた打球は、右中間深くまで運ぶ飛球に。飛距離は十分、三塁走者の俊足・松江一輝(人3=神奈川・桐光学園)が悠々生還し、ついに早大が先制のホームを踏んだ。一気に追加点までつかみたいところだったが、尾瀬の四球で再び満塁まで攻め立てたところまで。1点をリードして10回の裏に臨んだ。マウンドには、初回から腕を振り続ける伊藤樹が続投。相手は犠打を試みたが、衰えを見せない球威に押されて連続ファウル。3球目が転がると、印出主将が処理して三塁封殺に。再三の好守でピンチを救った。しかし、続く打者には犠打を決められ、2死二、三塁と一打逆転サヨナラのピンチを背負う。それでも、粘り強く投球を続けた伊藤樹。最後も左飛に打ち取り、絶好調とは言えない中でも本塁を踏ませず、10回を118球で4安打7奪三振に抑え込んでみせた。

先制の犠飛を放った梅村

 伊藤樹のこれぞエースと言わんばかりの投球で、苦しみながらも勝利をつかみ取った早大。リーグ戦では圧倒的な勝利を重ねていったが、初戦の緊張感もあってか、この日は序盤から投打がうまくかみ合わない印象を受けた。それでも、最後は勝ち切るのが強いチームの証。日本一を目指す上で、負けたら終わりのトーナメントでは1敗も許されない試合が続くが、『強い早稲田』を知らしめるにはふさわしい舞台だろう。9年ぶりの頂点への道のりは、まだ始まったばかりだ。

(記事 西村侑也、写真 近藤翔太)

伊藤樹(スポ3=宮城・仙台育英)

ーー今日の試合を振り返っていかがですか

1-0の試合を勝てて一安心です。 僕自身完封できたんですけど、本当に勝ててよかったなと思います。

ーー10回完封勝利を収めましたが、ご自身の投球を振り返っていかがですか

早打ちしてくる打者が多かったので、テンポ良く投げれて良かったなと思います。

ーー走者を背負いながらも粘りの投球が続きましたが、投球時に意識していたことはどのようなことですか

0-0の展開だったので、とにかく0に抑えることが大事でした。ランナーを溜めてもホームにだけは返さないようにというのを一番重きをおいて投げてました。

ーートーナメントの大会で次回の登板間隔が短いですが、そこに関してはいかがですか

疲労の方は結構リーグ戦(東京六大学リーグ戦)からあるのですが、あと3試合で少しオフになるので、気合と気持ちで投げたいなと思います。

ーー最後に3回戦の意気込みの方お願いします

九州産業大と仙台大の勝者になりますが、どちらのチームも力があるので、それに負けずに早稲田らしい野球で準決勝までいければなと思います。