【連載】春季早慶戦直前特集 『ONE』 第12回 印出太一主将

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 21年秋、23年秋と優勝の懸かった早慶戦を落とし、早大に入学して以来、いまだに東京六大学リーグ戦(リーグ戦)優勝経験のない印出太一主将(スポ4=愛知・中京大中京)。2度も賜杯奪還を阻んだ宿敵との一戦に対する思いは人一倍強い。今度こそ7季ぶりの頂点を目指し、3度目の正直となるか。リベンジに燃える背番号「10」の早慶戦に懸ける思いに迫る。

※この取材は5月23日にオンラインで行われたものです。

とにかく慶応をたたきつぶす

――ここまでの春季リーグ戦を振り返っていかがですか

 順調に来ているというのが一番大きなところではあると思います。勝ち点4っていうのはこれ以上ない結果ですし、課題であった3戦目のところについても克服して、立大戦、明大戦とものにしていますし。全体として、このリーグ戦の中でチームとしての力を上げながら、粘り強く早稲田の野球ができているかなとは感じています。

――一番印象に残っている試合はなんですか

 どれもかなり接戦でしたが、やっぱり明治の3戦目と法政の1戦目ですね。明治はこれまでなかなか倒しきれなかったですし、明治との試合で勝ち越していればっていうようなリーグ戦も多くありました。そんな中でエースの樹(伊藤、スポ3=宮城・仙台育英)があそこまで頑張ってくれて、結果的には5ー0っていうスコアになりましたけど、かなり終盤までしんどい試合でしたが、なんとかそこを勝ち切ったっていうのは、リーグ戦を戦っていく中でもすごい大きな印象でした。法政の1戦目に関してもあそこを落としてしまうと、篠木健太郎投手(4年)、それから吉鶴翔瑛投手(4年)を擁する法政大学から勝ち点を挙げることは簡単ではないので、1戦目をなんとしても取りたいなと思っていた中、あまりいい展開ではなかったですけど、前田健伸(商3=大阪桐蔭)の力もあって、篠木から1勝目を取れたっていうのはすごく個人としてはかなり大きな1勝だったと思いますし、早慶戦に向かう上でも、優勝のためにもすごく印象に残っています。

――打撃3部門で上位の活躍を見せていますが、ご自身の打撃についてはいかがですか

 三冠王を目標にやってきた中で、まずまずな結果は残っているかなとは思いますが、やっぱり優勝しなきゃ意味がないと自分は思うので。早慶戦で打てるかどうかが結局最後のところは大事だと思いますし、個人の目標もありますけど慶応になんとしてもリベンジするというこれまでやられてきた思いを全てぶつけたいっていう思いがあるので、これまでの成績は多少良かったですけど、そんなのは早慶戦では全く関係ないです。そこはフラットだと僕は思っているので、もうとにかく慶応をたたきつぶすっていう気持ちだけです。数字に関してはあんまり気にしてないです。

――リーグトップタイの16打点を記録していますが、チャンスの場面で意識していることはありますか

 チャンスの場面は相手からしたらピンチの場面ということで、相手はなんとかしてバッターを抑えようと思って、バッテリーで配球を組み立てたり、ポジショニングをして対策したりしてくると思います。逆に打つ方の自分がチャンスなのに追い込まれたような気持ちでいては元も子もないと思っています。ここで打たなきゃとか、ここで打てば試合を楽に進められるから絶対打たなければいけないっていう、自分で自分を追い込むような気持ちになってしまうと、せっかくのチャンスなのに自分で自分をピンチに追い込んでいるような感じがするので、とにかくチャンスの場面では視野を広めること、何をすべきなのか、何が一番最悪なのか、どれは避けなきゃいけないのかっていうのを冷静に頭の中で整理して、それを実行するためにピッチャーと対峙(たいじ)しています。

――本塁打数もリーグトップタイですが、一発を狙う場面はありますか

 長打が欲しい場面もありますが、あんまり長打を狙いすぎると、六大学のピッチャーはそんなに甘くないので、大味なバッティングをしてしまうと、やっぱりいい打撃はできないですし、結果も残らないので。自分の中ではコンパクトに自分のスイングを振り抜くっていうことをとにかく意識しています。なので、あんまり大きいのを狙うことは自分はあまり思わないようにしています。

――昨年はご自身にとっても悔しい年になりましたが、今季の活躍から気づいた昨年との変化はありますか

 昨年も同じ4番を打たせていただきましたが、打点の部分でなかなか活躍できませんでした。4番が(走者をを)帰すことがチームとしては望んでいるかたちなので、自分の仕事がどれだけできているかっていうのは、打率、打点、ホームランどれも大事ですけど、やっぱり打点のところにしっかり出てくると思うので、その点に関しては昨年に比べてチームのために打撃をできているかなと思います。

仲間に感謝

――今季の投手陣の活躍は捕手としてどう映っていますか

 ピッチャーの活躍がこれまでのリーグ戦で大きいですし、ロースコアの試合をものにするためにもピッチャーの粘りが必要不可欠なので、エースの伊藤樹を中心にここまでよく粘って投げてくれていると思います。他には後ろで投げる安田(虎汰郎、スポ1=東京・日大三)や香西(一希、スポ2=福岡・九州国際大付)ら辺が中心になりますけど、自分の与えられた意味、与えられた仕事をマウンドで必ず実行するんだっていう気持ちがボールから伝わってきますし、それに自分もリードで応えたいなと、そういったいい関係がバッテリー間の中で築けている結果かなと思います。

――明大3回戦では伊藤樹投手が11回完封勝利を収めましたが、捕手として受けていて普段と違ったところや特に良かったところはありましたか

 樹自身もやっぱり明治には悔しい思いをしている試合が多くて、明治への気持ちは強かったと思います。ボールを捕っている中で、自分が最後まで投げきるんだ、なんとしてもチームを勝たせるんだ、絶対に点をやらないんだっていう気持ちはすごくボール越しに伝わってきました。そういったエースの強い気持ちというか覚悟を投球で見せたことによって、ちょっと時間はかかりましたけど、11回にビックイニングを作って逃げ切ることができたので、そこは樹の気持ちがチームのみんなに伝わった瞬間だったと思います。

――明大2回戦から法大1回戦まで33イニング連続無失点、チーム防御率もリーグトップですが、ご自身のリードを振り返っていかがですか

 投げるのはピッチャーなので、自分は最善の策をピッチャーに提供することしかできないですけど、その中で構えの工夫だったりとか、自チームのピッチャーの癖だったり、傾向だったり、そういったものを踏まえて相手のデータやバッターボックス内で感じたこと全てを含めて、メリット、デメリットを算出してサインを出しています。でも結局はそれにピッチャーが応えてくれないと、自分のリード、配球は完成してこないので、自分のリードがいいというよりも、ピッチャーがそれに応えてくれている結果だと思いますし、それが直接的に防御率につながっていると思います。

――投手が本調子ではない試合もあったと思いますが、そういった場面ではどういったことに気をつけていますか

 中継ぎはすぐ替えることができますし、不調な場面もあんまりなかったです。危ない展開もありましたけど、自分自身の中では大丈夫だと思っていました。ただ先発のところで今日はちょっと絶好調の時に比べてかなり落ちるなとか、それは自分が受けていて一番感じていますが、その中でも先発ピッチャーの役割は試合の半分以上を作っていくっていうのがノルマとしてあるので、監督さんも6、7回までは先発として中継ぎに渡してあげなきゃいけないという風におっしゃっていますので、そこはもう自分のサインでピッチャーを引っ張っていきます。ランナー出したとしても、多少点を取られたとしても、最小失点で切り抜けさせるっていうのも大事ですし、ピッチャー自身も調子が悪いのは投げていて感じているので。だからこそ悪い時にどうするかっていうのを常にベンチで話し合うとか、たまにマウンドにタイムをかけにいくんですけど、そういった時にも何をしなきゃいけないのかっていうのを、見失わないようにっていうのを大事にして、それを一つずつこなしていけば、そんなに大量点を取られるような投手陣ではないと思うので、そこを大事にしています。

――普段冷静に淡々とプレーしている印象ですが、法大2回戦の追加点となった内野安打を放った時には塁上で喜びを爆発させていましたが、あの時の打席を振り返ってください

 尾瀬(雄大、スポ3=東京・帝京)が塁に出て、山縣(秀、商3=東京・早大学院)が送って、早稲田としては一番得点が欲しい場面でした。さらに吉納(翼副将、スポ4=愛知・東邦)がセカンドゴロで進塁打でなんとか三塁まで送ってくれましたし、形なんか自分はどうでもよかったので、とにかく次の1点が喉から手が出るほど欲しかったです。ピッチャーを助けるためにも、自分が配球する上でもここしかないっていう場面だったので、綺麗なヒットとかそんなのはもうどうでもよかったので、ボールに食らいついていく意識で打席に入っていった中で、いいところにボールが飛んで結果的にタイムリー内野安打になりました。それもやっぱり三塁までつないでくれないとなかったものなので、そこは本当に仲間に感謝しています。

あの悔しさを1日も忘れたことはない

――新体制始動時から組織力を大事していますが、今のチームの雰囲気はいかがですか

 新チーム立ち上げから組織力を大事にしてやってきて、さらにリーグ戦の中でも終盤の粘りだったり終盤の逆転だったり試合を通して組織力が強くなっている部分は非常に感じます。チーム全体で隙なく粘って勝てるっていうのは、組織力がなければできないものなので、そういった面では課題に挙げてずっと取り組んできた意味があったかなと感じています。

――早大にリーグ優勝経験者がいない中、昨秋優勝を果たした慶大にどのように戦っていきますか

 やっぱり昨年の悔しさというのが一番大きいです。慶応の胴上げは何度も目の前で見せられているので、あの悔しさを1日も忘れたことはないですし、絶対にやり返してやるんだという思いで新チーム立ち上げから苦しい練習を乗り越えてきました。自分としては同級生、下級生のみんなに優勝の経験を味わってもらって卒業したいという思いもありますし、やっぱり今早稲田は低迷しているので、それを打ち破るためには中途半端なことはできないというつもりでやってきたので、新チーム立ち上げからの集大成、1つの区切りとして、必ず慶応に勝つつもりで全員必死に準備しています。

――以前のインタビューで意識する投手として外丸東眞投手(慶大3年)を挙げていましたが、外丸投手への対策はいかがですか

 やっぱり(外丸投手は)安定していますし、試合を作れるすごくいいピッチャーで昨年1年通して早稲田はやられていますし、対策としては甘いボールは来ないので、じゃあどうやって打っていくのかっていうところをチームで話し合って工夫して取り組んでいるところです。でも甘いボールは来ないとは言いましたけど、やっぱり何百球投げるうちに1、2球は絶対来るので、その1球を仕留める練習をこれまでずっと大事にしてやってきたので、これまでやってきた成果しか出ないので、本当に細かいところをこの1週間で詰めていきたいなと思います。

――尾瀬選手、山縣選手が打撃部門で1位、2位ですが、ご自身の三冠王獲得に向けて早慶戦はどのような試合にしたいですか

 自分の三冠王っていう目標もありますけど、まずはチームが勝つことが何よりも優先なので。やっぱり尾瀬、山縣が出てくれたからこそ自分に打点がついてますし、自分が打てば点が入るので、やっぱり本当に2人が出てるっていうハイアベレージな数字はチームの得点に大きく貢献してる証だと思います。本当にクリーンアップを打っている身としては感謝したいと思いますし、尾瀬も首位打者目指してやっていると思うので、自分も必死に食らいついていきます。三冠王ももちろんそうですけど、まずは勝つために必死にやった中でタイトルを取れればいいなと思います。

――2015年春以来となる完全優勝のキーマンは誰でしょうか

 やっぱり僕は吉納だと思います。数字で見たら今季あんまりかなっていう風には皆さんの目には映ってるかもしれないんですけど、状態も僕は上がってきてるという風に見えています。練習も毎日一緒にやっていますし、吉納のバットが火を噴いた瞬間に早稲田の勝利は確実なものとなると思うので。プレッシャーをかけるつもりはないですけど、みんな吉納の一撃を待っていると思うので、僕はこういう苦しい場面で絶対吉納が這い上がってきてくれると思うので、期待したいと思います。

――今季の早慶戦は優勝が懸かっていることもあり、観客も多いと思いますが、こういった大舞台で浮き足立ったり緊張したりした経験はありますか

 自分はそんなに緊張しないです。緊張しないって言ったら嘘ですけど、緊張が高まることによってアップアップするタイプではないです。中学、高校も含めていろいろな舞台で試合をさせてもらったっていうのもあって、そういった場面を比較的楽しんでやれていると思います。やっぱり慶応は昨年もかなり話題になりましたけど、(応援が)すごい迫力ありますが、自分は慶応の応援歌を聞いて楽しみながら守備してるぐらいの感覚なので、浮き足立ったことはないです。

――最後に早慶戦への意気込みをお願いします

 昨年はあと1勝のところで早慶戦で最後2連敗で優勝を逃しているので、この悔しさを雪辱を晴らせるように主将として全力でチームを引っ張って、まずはとにかく1戦目を取りにいきたいと思いますし、皆さんと久しぶりの優勝パレードを一緒に歩けるように必死になって戦いますので、どうか神宮球場までお越しいただいて応援よろしくお願いします。

――ありがとうございました!

(取材・編集 丸山勝央)

◆印出太一(いんで・たいち)

2002(平14)年5月15日生まれ。185センチ。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部4年。捕手。右打右投。いつも冷静沈着にプレーする印出主将。「挑戦者の気持ちを大事に」と語ってくださいました。チャレンジャーとして陸の王者に立ち向かいます!