世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)での敗北から約5ヶ月。須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)に東京五輪のチャンスが再び舞い降りた。今大会優勝すればアジアオリンピック予選への出場が内定し五輪に近づくことができる。初戦と準決勝を順調に勝ち進んだ須﨑はついに入江ゆき(自衛隊体育学校)との決戦を迎えた。プレーオフでの雪辱を果たし勝利をつかむことができるか。そして、準決勝で世界選手権出場者の乙黒拓斗(山梨学院大学)に破れた65キロ級の安楽龍馬(スポ2=山梨・韮崎工)は3位決定戦に臨んだ。優勝を目標としていただけに悔しい敗戦となったが、初の全日本での表彰台にのぼりその悔しさを晴らすことができるか。
須﨑と入江の決勝は均衡状態が続いた。素早い組み手争いから互いにタックルを防ぎ相手の懐に入らせない。しかし、入江より攻撃を展開できた須﨑は開始2分でパッシブを獲得。1−0で第2ピリオドへ折り返した。その後も両者攻め入れさせない展開が続き、今度は入江がパッシブを獲得。すぐに須﨑も再びパッシブを獲得し、1点のリードで試合時間残り1分の攻防となった。ビハインドを抱える入江は巻き返そうと今までよりも素早く細かいタックルを仕掛けてきたが、一瞬も油断せず処理をした須﨑。最後まで激しい組み手争いを繰り広げたが、得点に変化はなく試合終了。ブザーが鳴ると須崎はガッツポーズを掲げて決戦の勝利を喜んだ。その目には少し涙が浮かんでいた。プレーオフで敗北してからも東京五輪を諦めず練習に励んだのはこの日の優勝のため。五輪へ努力し続けた須﨑に勝利の女神は微笑んだ。試合後のインタビューで「焦ることなく強い気持ちのままここまで戦い抜くことができました」と笑顔で答えた須﨑。両者テクニカルポイントを獲得できなかったというところについては「レスリングの面ではまだまだ直さなきゃいけないところだったのでアジア選手権までに修正してもっと強くならなきゃいけないと思います」と次に向けての反省とした。
安堵の表情を浮かべてガッツポーズをする須﨑
前日乙黒と死闘を繰り広げた安楽龍馬は3位決定戦へ臨んだ。相手は天皇杯で過去3位になった実力をもつ嶋江翔也(佐賀県レスリング協会)。試合開始から激しい組み手争いが行われ、両者なかなかテクニカルポイントをとれない時間が続く。安楽が先にパッシブを献上し第1ピリオドを終えた。迎えた第2ピリオドでは開始20秒で右足へのタックルから相手の体勢を崩した安楽がテークダウンに成功。しかし、このまま優勢に進めることはできなかった。ラスト1分で相手が安楽の腰に回しテークダウンし逆転された。1点のビハインドから巻き返そうと素早い動きで相手の懐に入りにいくも攻撃を許されず万事休す。2−3と僅差で惜敗となった。試合終了後悔しさをあらわにしマットに四つん這いになった安楽。今年全日本学生選手権・全日本大学選手権と、学生の大会で優勝を果たし破竹の勢いであった安楽だったが、初の全日本での表彰台にのぼることはかなわなかった。
片足タックルからテークダウンを決めた
早稲田で表彰台にのぼったのは優勝した須﨑、準優勝の小玉彩天奈(社2=高知東)、3位入賞の梅林太朗(スポ3=東京・帝京)、米澤凌(スポ2=秋田商)の4人。昨年表彰台に1人ものぼることができず、今大会は躍進といえる。しかし、多くの選手が優勝を狙っていたために、インタビューでは悔しい思いを吐露した。また、今大会優勝を果たした須﨑は今年の全日本2大会ともに制し、両大会の決勝で対峙した入江に勝利した。須﨑が東京五輪の代表に内定するためには3月に行われるアジアオリンピック予選で2位以内に入らなければならない。「アジア予選で絶対に優勝して東京五輪の代表になりたい」と囲みインタビューの場で決意のこもった眼差しで語った須﨑。再び舞い戻った五輪へのチャンス。今度は絶対に逃さないだろう。
(記事 北﨑麗、写真 林大貴)
表彰台から観客席へ手を振る須﨑
結果
男子フリースタイル
▽65キロ級
安楽 5位
3位決定戦 ●2−3 嶋江翔也(佐賀県レスリング協会)
女子フリースタイル
▽50キロ級
須﨑 優勝
決勝 ○2−1 入江ゆき(自衛隊体育学校)
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コメント
須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)※囲み取材より抜粋
――決勝振り返っていかがでしたか
とにかく一瞬一瞬を大切に思って攻めようと、強い気持ちで挑みました。
――終盤1点差まで追い上げられたときどのように思われましたか
1点とられたんですけど落ち着いて、自分が勝つんだという気持ちがあったので、焦ることなく強い気持ちのままここまで戦い抜くことができました。
――夢であった東京五輪に一歩近づきました
アジア予選で絶対に優勝して東京五輪の代表になりたいと思います。国内でも厳しい戦いだったんですけど、日本の代表として責任もって代表権を獲得して絶対に東京五輪で金メダルを獲得できるようにまた一から頑張っていきたいと思います。
――ここまで決して平坦でなかったと思いますが、どんな思いで臨まれましたか
五輪を目指す中で順調に勝ち続けられたら最高だったんですけどそうはいかなくて、怪我をしたりプレーオフであと一歩のところで負けてしまったり苦しい道のりでした。でも本当に周りの人たちの支えのおかげで今日ここで勝つことができたと思います。周りがあっていまの自分がいるので感謝の気持ちでいっぱいです。
――周りの人のなかには吉村コーチもいらっしゃると思います。吉村コーチへの想いは
自分が五輪に出て金メダル獲ることが吉村コーチにとっての夢でもあるし、自分を五輪に出して金メダルを獲らせたいという思いは変わらず持ち続けてそばで指導してくれていたので、やっぱり最後金メダル獲って最高の恩返しをしたいです。
――あともう一つ勝たなければならないと思いますが、どのように準備していきたいと思っていますか
小さい頃からの夢なので、絶対にもっと強くなってこのチャンスをものにして東京五輪に出たいと思います。もっとフィジカル面や、レスリングの長所を生かして短所を克服しもっと進化したいと思います。
――プレーオフからの5ヶ月を振り返っていかがでしたか
この5ヶ月は本当に色々なことがあって苦しかったんですけど、この5ヶ月が自分を成長させてくれた、意味のあるものだったんだなと改めて思います。
――テクニカルポイントを互いにとれなかった展開でしたが、あのような展開はどのように思われていますか
やっぱりテクニカルポイントとりたかったんですけど、気持ちは常に前に出ていたので気持ち面ではよかったのですが、レスリングの面ではまだまだ直さなきゃいけないところだったのでアジア選手権までに修正してもっと強くならなきゃいけないと思います。
――今大会通してタックル以外からポイントをとる場面が見られましたがそれに関してはどのように思われますか
自分にはタックルだけというようなイメージがあると思うんですけど、それだけじゃ世界で勝っていけないし日本でも勝てないので、それ以外のこともたくさん練習して今大会で出すことができました。
――登坂選手や入江選手など、今最軽量級が国内で戦うのにとても厳しくなっていると思います。レベルが上がっていることに対して須﨑選手自身はどのように思われていますか
国内の戦いはすごく厳しかったんですけど、ライバルの選手がたくさんいたおかげで自分はもっともっと強くなりたいという気持ちとか練習しなきゃという気持ちが生まれて進化し続けてこられたので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
小玉彩天奈(社2=高知東)
――組み合わせを見たときどのように思われましたか
第1シードの人、あんまりやりたくない人と当たっちゃって、初戦からが勝負だなという気持ちはありました。
――準決勝まで順調に勝ち進んでいった印象ですが、ご自身で振り返っていただけますか
絶対優勝したくて、不安もあったんですけど、自分が一番練習して一番成長したんじゃないかという自信があったので、自信を持って戦うことができました。自分からちゃんと攻めて点数とることができてよかったなと。安心しています。
――テクニカルポイントを重ねていき、かつほぼ無失点で抑えました
やっぱり自分から攻めていくことで相手も攻めにくくするというのが今回試合通してわかって、失点もアクティビティ(パッシブポイント)だけでほとんどなく決勝まで進むことができて、それはよかったと思います。
――早稲田でアンクルをとても練習してきたと以前おっしゃっていましたが、それは発揮できましたか
アンクルも点とったらかけたかったんですけど、今回は不発で。相手もアンクルをやっていることを知っていると思うので、うまく逃げられて決めさせてくれませんでした。それが決まればもっと楽な試合ができたんじゃないかと思います。
――怪我をした瞬間はいつでしたか
準決勝の最初の展開で、相手のタックルをカウンターしたときに腕が引っ張られてそれで一瞬外れた感じがして。でもそのときはちょっと痛いくらいで戦えたんですけど、アドレナリンが効かなくなってくると痛みが増して…。
――決勝ではやはり怪我の影響が出ましたか
そうですね。テーピングを巻いてるので相手も右腕をかなり狙ってきてはいたんですけど…。でも怪我をしてても勝ててた試合じゃないかなと。最後の残り10秒を守りきれていたら勝てていたのにというのはあります。怪我のせいにしてるのは言い訳かなと正直思います。
――悔いが残るものとなりましたか
第1ピリオドの最初のタックルをとりきれなかったのと、第2ピリオドも結構いいタイミングで入ったんですけど、フォールしきれなくて。フォール体勢でずっといればよかったんですけど逃しちゃったのが反省です。最後残り少ない時間で自分の判断能力が劣ってて点をやってしまったのが本当に後悔してます。
――来年にどのように生かしていきたいですか
来年はまず怪我を治して少しでもいい状態で戦いたいんですけど、最後勝ってるときに気持ちで負けないというか、押されずに自分のやってきたことを今まで通り出せるように。出すことができないのは気持ちの弱位ところだと思うので、そういうところも力をつけていきながらずっと課題である片足タックルの処理を極めていきたいと思っています。
――来年は上級生になりますが、部内でどのような存在になっていきたいですか
3年生になって、今までは上級生の背中を見て自分もああならなきゃとついていったんですけど、今度は自分たちが引っ張っていかなきゃいけないという気持ちがあります。そういうのは苦手なんですけど、少しずつ主将を支えていきながら結果だけじゃなくて練習でも引っ張っていけるような存在になれたらいいなと思います。