高校3年生にして世界女王の座をつかんでから1年。レスリング界の誇る若き女王が再び世界の頂に君臨した。まさしく敵なし。大会を通じ無失点という圧倒的な強さを見せて連覇を果たした須﨑優衣(スポ1=東京・安部学院)だが、その表彰台の頂点では目を潤ませていた。その涙の裏には決して平坦ではなかった連覇への道のりがあった。再び女王の座をつかむまでの須﨑の歩みと、そしてついに幕を開ける東京五輪出場を懸けた戦いに臨む意気込みを伺った。
※この取材は10月28日に行われたものです。
「去年の天皇杯の負けから、よくここまで来たなと」
須﨑は圧倒的な強さで世界選手権連覇を果たした
――世界選手権連覇おめでとうございます!
ありがとうございます!
――今の率直なお気持ちからお聞かせください
今の率直な気持ちは、もう次の天皇杯(天皇杯全日本選手権)への戦いが始まっているので、次の天皇杯から東京五輪の選考が始まるので、そこで絶対に優勝して、第一歩をリードしたいなという気持ちです。
――2度目の世界選手権でしたが、1回目と比べて心境の変化はありましたか
そうですね、でも、挑戦者の気持ちで勝ちに行こうと決めていたので、それは去年も今年も変わらず挑戦者の気持ちで戦えたから今年も優勝できたんだと思います。
――慢心はなかったということですね
そうですね、変なプレッシャーを感じることもなく、挑戦者の気持ちで臨んだので、それがいい刺激になったと思います。
――決勝はクリッパン女子国際大会でも戦ったリオ五輪銀メダリストのマリア・スタドニク選手(アゼルバイジャン)でしたが、対策等はありましたか
相手がタックル飛び込んでくるタイプなので、そこは入らせないように、頭の位置を合わせることは意識しました。あとは自分のレスリングをやり切ろうという気持ちで臨みました。
――その相手に10−0のテクニカルフォールで勝てた要因というのは
ここまで来たら勝つために自分ができることをやりきるしかないという覚悟を決めていたことが今回の勝利だったと思います。
――今回は全てフォールとテクニカルフォール、大会通じて無失点での優勝でしたが、その点を振り返っていかがですか
1試合1試合今回の大会の課題として、自分から先に攻める。そして攻め続けるということをずっと練習してきましたし、試合でも意識してやってきたので、それができた結果がこのような結果になったのだと思います。
――去年と今年では優勝を決めた瞬間の表情が少し違うように見えましたが、心境の違いがあったのでしょうか
去年は本当に優勝した瞬間に涙が出て。今年もすごくうれしかったんですけど、去年はなんか本当に世界チャンピオンになったんだっていう信じられないような気持ちもあったんですけど、今年はうれしい気持ちとほっとしたなっていう気持ちで。確かな自信に変わってきたなと感じました。
――圧倒的な強さで優勝しましたが、自分の中で成長を感じる部分というのはありますか
やっぱり去年の天皇杯で負けてから、大学生になって練習の環境も変わって。そういった色々な変化の中で自分の中でレスリングに対する考え方も変わって、レスリングの幅が広がって、そのおかげで今回いいかたちで優勝することができました。
――去年の世界選手権以降の1年間の戦いが成長させたと
そうですね、やっぱり天皇杯の負けがあったからこそ、今回の金メダルがあったのだと思います。
――表彰台の上では目を潤ませていましたが、どういう気持ちだったのでしょうか
去年の天皇杯で負けてから、アジア大会やアジア選手権やW杯といった大会に出られない、代表に選ばれないという時期があったんですけど、そういう中を乗り越えて、よくここまで来たなというか、また戻ってこれたなっていう。この1年の長い道のりがよぎって、感慨深い気持ちでした。
――厳しい試練を乗り越えてつかんだ今回の世界選手権ですが、連覇を達成して改めて感じることはありますか
今回の世界選手権は去年と比べると本当に厳しい道のりの中でつかんだ切符だったので、なにがなんでもこのチャンスを自分のものにしてやろうという強い気持ちで、よりハングリー精神を持って戦えるようにったと思います。
「家族の応援に、すごいパワーをもらった」
世界選手権を振り返る須﨑
――世界選手権へ向けて強化合宿なども行ってきましたが、そこで得られたものなどはありましたか
そこでは吉村祥子コーチ含め、コーチ陣からも自分から攻める、攻め続けるということを意識して言われていたので、その部分は今回の試合に生きました。
――吉田沙保里選手(至学館大職)とスパーリングを行っていました
世界を何度も制している憧れの選手に、世界選手権を連覇するために練習に付き合っていただきました。
――憧れの選手とスパーリングをして感じる部分というのはありましたか
タックルも基本に忠実で、(タックルに)入って止まってしまったらポイントを取れないし、取りきれるまで動き続けなければならないということを痛感して、それをいい方向に生かすことができました。
――壮行会も含めて代表では山口剛コーチ(平24スポ卒=現・ブシロード)とも一緒でしたが、何か言葉を交わす機会はありましたか
現地とかでもお会いして、「頑張りましょう!」とか、「頑張ってな!」と言われましたし、すごく心強かったですね。
――世界選手権では同じJOCエリートアカデミー出身の乙黒拓斗(山梨学院大)選手や向田真優選手(至学館大)も金メダルを獲得しましたが、影響を受けることはありましたか
乙黒さんはJOCエリートアカデミーの先輩で、すごく刺激を受けました。向田真優さんもJOCエリートアカデミーの先輩で、先輩が連日で金メダルを取ったので、私も絶対に金メダルを取りたいと感じて、本当に刺激を受けました。
――代表のメンバーは顔なじみの選手も多いと思いますが、お互い励ましあったりすることもありますか
そうですね、調整練習の期間なんかはみんなで声だして盛り上げたり。個人戦ですが、チームワークはとても大切なので、応援しあったりしましたね。
――早大で男子の選手から技を教えてもらうこともあるとおっしゃっていました
スパーリングをやったりだとか、自分のスパーリングを見てもらってアドバイスをもらったりだとか、逆に男子のスパーリングを見て、ここすごいな思ったところを自分も取り入れてみようと聞きに言ったりとかして、教えてもらったりしています。
――ハンガリーで印象に残ったこととかはありますか
一番は、家族全員が来てくれたんですよ、応援に。お父さんもお母さんもお姉ちゃん(須﨑麻衣、平30年スポ卒=千葉・鎌ヶ谷)も。その中で絶対に負けられないと思ったし、絶対に金メダルを取る姿を見せてあげようと思ったので。金メダル取った瞬間に家族全員がよろこんでくれている姿が目に入ったので、それが一番の思い出ですね。最前列で見ていてくれたので、試合に入場するときとかも、「優衣頑張れ!」って言ってくれて。パッて見て家族が応援してくれていただけでもすごいパワーをもらいました。
――(日本に帰ったら食べたいものとして挙げていた)お寿司とタピオカとパンケーキは食べましたか
タピオカは飲んだんですけど。パンケーキとお寿司は、あしたとかに食べに行こうと思います(笑)。
――ちなみにどこのタピオカを飲んだのですか
池袋の宣喜茶ってところです。めっちゃ美味しかったです!
「もう、全てをレスリングに懸けて、なにがなんでも・・・」
デリシャススマイル杯東日本大学女子リーグ戦の会場で連覇を報告した
――ついに12月の天皇杯から東京五輪の選考が始まります
本当にここからが勝負なので、ここからあと1年で東京五輪の代表が決まるので。本当にとにかくレスリングに対して真剣に、まっすぐ取り組んで、東京五輪の代表になれるようにがんばりたいと思います。
――去年と同じく、世界選手権を取った直後で天皇杯を迎えますがどういった意気込みで臨みますか
去年のリベンジをする気持ちで。去年の天皇杯は世界選手権を取った後に負けてしまいましたが、今年は絶対にリベンジをする気持ちを持って、世界選手権優勝、そして天皇杯も優勝して笑顔で1年間を締めくくれるように頑張ります。
――来年の世界選手権で五輪の代表が決まるかたちですよね
来年の世界選手権で3位以内に入れば決定です。今年の天皇杯と来年の明治杯全日本選抜選手権で勝って、世界選手権で3位以内に入れば。もう、本当に頑張ります。もう、全てをレスリングに懸けて、なにがなんでも・・・。
――日本の女子50キロ級というのは周りを見渡しても最も厳しい階級だと思いますが、その部分はどう感じていますか
厳しい戦いを勝ち抜いてこそ意味があると思いますし、日本でも世界でも厳しい階級ですが、その厳しい中で勝ったほうが喜びも大きいですし、そのために必ず、貪欲に勝ちに行きたいと思います。
――世界選手権で連覇をしたというのはやはり自信につながりますか
はい。より東京五輪が現実的なものとして見えてきたし、自分の強さ、レスリングが見えてきました。
――具体的にはどうでしょうか
自分がどういう気持ちのとき、自分の体調がどういうときに自分は力が出し切れるかっていうのがはっきりと見えてきました。
――逆に、現状の課題などはありますか
これからも崩してからタックルに入ることや、タックル以外ででポイントを取ること、グラウンドやカウンターでポイントを取ることを重点的にこれからも取り組んでいきたいと思います。
――最後に、東京五輪を懸けた戦いへ向け、一言お願いします
本当にここからが勝負になるので、次の天皇杯で優勝して、来年の明治杯も優勝して、世界選手権三連覇をして。東京五輪の代表を一発で決めることができるように頑張ります!
――ありがとうございました!
(取材・編集 林大貴、写真提供 日本レスリング協会)
金メダルを掛けて撮影に応じてくれた須﨑選手
◆須﨑優衣(すさき・ゆい)
1999年(平11)6月30日生まれ。身長153センチ、女子50キロ級。千葉県出身。東京・安部学院高出身。スポーツ科学部1年。世界選手権連覇からわずか2日後にインタビューに応じていただいた須﨑選手。デリシャススマイル杯東日本大学女子リーグ戦の会場で登壇し連覇の報告をした須﨑選手に、会場からは暖かい祝福の声や拍手が挙がっていました。東京五輪へ向け、新たな戦いへと挑む須﨑選手にこれからも注目です!