天皇杯全日本選手権(天皇杯)もいよいよ大詰め。世界選手権優勝者も出場し、より一層盛り上がりを見せた。当日計量が採用された影響もあるのか、有力選手が敗れるなどの波乱も起こる。早大勢からは3人が出場。伊藤奨主将(スポ4=長崎・島原)にとっては学生としてワセダのシングレットを着る、最後の機会に。またフリースタイル(フリー)65キロ級の米澤圭(スポ3=秋田商)は順当に決勝まで勝ち進んでいった。
フリー57キロ級の吉村拓海(スポ2=埼玉栄)は減量による体調不良の中で試合を行うこととなった。初戦は同点で第1ピリオド(P)を終え、第2Pでは相手のタックルを切れず、バックポイントを献上してしまう。しかしここから吉村が意地を見せる。試合時間残り30秒でカウンターから背後に回ると、残り10秒にも場外際でバックポイントを取り、逆転。勝利を収めながらも試合後にはマットをたたき、「普段の力を出せればもっと大差で勝てる相手だった」と悔しさをあらわにした。2回戦では世界王者と対戦。「爪痕を残そうと思った」と序盤にタックルを仕掛けるも、相手に切られてしまう。その後、立て続けに攻撃を許しテクニカルフォール負けを喫した。同じくフリー57キロ級に出場した伊藤奨は第1P開始1分で、相手の隙を突き先制点を奪うが、その後相手にテークダウンを奪われると回転技を許しテクニカルフォール負け。「自分のいいところも出せたし、悪いところも出てしまった」と学生最後の試合を振り返った。
早大での最後の試合を全力で戦い抜いた伊藤奨
早大勢が苦戦を強いられる中、安定した試合運びを見せたのが米澤だった。米澤は3日目の初戦、準々決勝を判定勝ちで突破する。最終日に行われた準決勝では、第1Pに背後に回ってからローリングを決めると第2Pでもアンクルホールドで追加点を重ね、10-0で圧巻のテクニカルフォール勝ち。内容も伴った勝利で決勝に向けて弾みをつけた。初優勝を懸けた一戦では高谷大地(自衛隊体育学校)と対戦。先に試合を動かしたのは米澤だった。相手の胴を取りに行き、押し込めるかという好機になったが、ものにできず。その後、テークダウンを奪うが返し技を決められると、そのまま背後に回られ2-4で第1Pを終えた。第2Pでは、「自分のペースが乱れてきてしまった」と試合の主導権を相手に握られてしまう。逆転の機会をうかがえないまま、試合終了。「チャンスだと思っていた」と第1シードが敗れるなど波乱があっただけに悔しさが残る試合となった。それでも「この天皇杯で自分のスタイルを確立しつつある」と、不振にも陥り試行錯誤を重ねた1年の最後に、来季への確かな光を見出した。
準々決勝で、来年早大入学予定の安楽龍馬と対戦した米澤
「新階級になっていろんな状況とかの変化に、ちょっと対応しきれていない」(伊藤奨)と早大勢にとっては表彰台に上ったのが1人となかなか厳しい結果となった。同時に新階級、新ルールを先取りした今大会で来季への課題が明確になったであろう。今季は団体戦でのタイトルに恵まれなかっただけに、来季は米澤新主将を中心に覇権奪回を目指したいところだ。
(記事 杉野利恵、写真 林大貴、松澤勇人、皆川真仁)
※フリースタイルは10点差がつくとテクニカルフォールで試合終了となる
優勝した高谷と健闘をたたえ合う米澤
結果
▽男子フリースタイル
57キロ級
伊藤奨 2回戦敗退
吉村 ベスト8
65キロ級
米澤 2位
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コメント
3日目
太田拓弥監督
――きょうの3人の結果をどう見ていますか
57(キロ級)の2人はちょっと伊藤(奨主将、スポ4=長崎・島原)は最初の1分すごいいいスタート切れたと思ったんですけど、その後グランド返っちゃったんでちょっともったいなかったなというのは感じました。後半型の選手なので、前半ああいったかたちでポイント取れたので、ちょっともったいないなっていう感じでしたね。あと吉村(拓海、スポ2=埼玉栄)に関しては減量が相当きつかったんで、しかもルール改正で当日計量になったので足が全くっていうぐらい動いてなかったですね。米澤圭(スポ3=秋田商)は、ちょっとここ1カ月調子落としてましたけど、ポーランドで世界選手権(U23世界選手権)あったんですけど、それで少し手ごたえを感じて帰ってくることができて、少し自信になったかなと思います。ちょっと手こずった部分もありましたけども、圭らしくしっかりタックル取って、しのいで勝ったんでその点については良かったかなと思います。
――伊藤奨選手はきょうは序盤から積極的に動いている印象でしたが、調子は良さそうでしたか
そうですね。やっぱり最後の全日本っていうところで、とにかく全部出そうという、そういった気持ちがすごく伝わってきた内容の試合でした。
――1年間振り返ってみて、伊藤奨主将はどんな主将でしたか
真面目ですし、先頭で引っ張ってくれましたし、チームを良くまとめてくれたかなと思いますね。
――吉村選手はケガはもう完治したのでしょうか
そうですね。走り込みもちゃんとできてますし、全く問題ないと思います。ただやっぱり階級のところについては今後階級上げるのか、下げるとしても、もっともっと早く減量しないといけないですし、その辺はしっかり話し合って決めたいなと思います。
――あすの米澤選手の試合に向けて
優勝候補の乙黒拓斗選手(山梨学院大)が棄権したので、おそらく自衛隊の選手2人になるんじゃないかなと思います。準決勝で金城選手(希龍)で、決勝でおそらく高谷選手(大地)が上がってくるんじゃないかなと思うんですけど、圭の持ってるものを出せば優勝できると思うので、しっかり自分のスタイルを貫き通して優勝してほしいなと思いますね。
伊藤奨主将(スポ4=長崎・島原)
――大学最後の天皇杯(天皇杯全日本選手権)でしたが、いかがでしたか
立ち上がりはすごい自分の動きができて、きょう調子いいかなと思ってやってたんですけど、ああいったかたちで足触られてバック取られた時の、一瞬の極めっていうか、グランドで結局極められちゃったので。自分のいいところをまず出せたし、悪いところも出てしまったのかなという感じです。
――開始直後から積極的に攻めていましたがそれは試合前から決めていましたか
最後の試合なので、普段は6分間を通してバテないようにだったり最後の方に取り返すみたいなのをプランでやってるんですけど、結局それだと点数も動かないし、自分のやりたいこともできないかなと思ったので、最初から自分がやりたいことをバテてもいいからやろうと思って、積極的に動きにいきました。
――実際やってみて終盤は体力的にどうでしたか
体力的には何もなかったんですけど、当日計量になったので、6分間やってたらもしかしたらバテてたかもしれないですけど、それは相手も同じなので結局やってみないと分からないかなという感じですね。
――チームとしては今大会はいかがですか
勝てそうな選手が勝ててなかったりというのが目につくかなと思いますね。やはり当日計量になって、それに対応しきれてない部分もあったり、新階級で今までやったことない選手とやることになったりっていう、いろんな状況とか場面の変化が起きてるのでそれにちょっと対応しきれてないかなっていうイメージですね。そういう感想です。
――今後もレスリングは続けられますか
これを機にレスリングを中心とした生活ではなくなるんですけど、今後も社会人の大会とかは趣味程度じゃないですけど、息抜き的な感じで、やっぱり体が動くうちは選手として試合に出たいし、選手じゃなくても指導したりなんらかのかたちでレスリングに携わっていけたらいいなと思います。
――改めてこの4年間はどんな4年間でしたか
レスリングの面もそうですけど、人間的にも成長できましたし、それなりに辛いことも楽しいこともあったんですけど、目標だった天皇杯にも何度か出場できて充実した4年間だったんじゃないかなと思います。
――後輩たちにメッセージをお願いします
まずレスリングができるっていう環境にあること、親であったり部のOBさんだったり、そういう人たちへの感謝の気持ちを忘れずに、結果を残すことももちろんなんですけど、人との関わりを大事にしながらレスリングに取り組んでほしいなと思います。
米澤圭(スポ3=秋田商)
――きょうのご自身の調子はいかがでしたか
前のインカレ(全日本学生選手権)とか大学選手権(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)に比べたら良くはなってると思います。絶好調というわけではないですが、良くなってきている傾向だなと思います。
――U23世界選手権から構えを低く戻したとおっしゃっていましたが、今大会もそのスタイルで臨んだのでしょうか
そうですね。今大会はそれを貫いていこうと思っていて。しっかり(低く)構えるっていうのはやっぱり基本なので、そこを徹底しています。
――初戦はなかなか得点できない時間もありましたが、どのように振り返りますか
昔から知っている相手で、カウンターを狙っている場面もあって、ロースコアの戦いになるなと自分自身思っていました。それは分かっていたので開き直って、ワンチャンスで(ポイントを)取ろうと思っていました。
――準々決勝は早大入学予定の安楽龍馬選手(韮崎工高)でしたが、対戦してみていかがでしたか
高校生なのに本当にめちゃくちゃ実力があって、大会全体を通してなんですけど高校生のレベルは上がっているなと思いました。その中でもワセダの(来年度)主将として負けられないという気持ちもあったので、そこは意地で、勝ちました(笑)。
吉村拓海(スポ2=埼玉栄)
――初めての本職のフリースタイルでの天皇杯(天皇杯全日本選手権)となりましたがいかがでしたか
計量システムが今回の試合から変わって当日計量となって減量きついっていう中で、結構自分の中では楽にというか、うまく(体重を)落とせて動けるかなと思ったんですけど、リカバリーしたときに食べれたんですけど全然体の中に吸収された感じがしなくて。試合前とかアップしててもすごい吐き気とか出てきてしまって、試合中もずっと吐き気があって全然動けなくて駄目な試合してしまって、高校生相手にラスト10秒で取り返すみたいな。2回戦も体調が悪い状況で、世界チャンピオンとできたっていうのは良かったんですけど、自分の力を本当に全然出せなかったので、これからは一個上の階級に上げて、その階級でまだ全然小さくて勝負できる体ではないと思うので、これからリーグ戦(東日本学生リーグ戦)までの期間結構空くので、その間にオフ期間ですけど気を抜かずしっかり体を鍛えるトレーニングとかも怠らず、レスリングのことを一番に考えていきたいなと思います。
――昨日あまりチームが成績が良くなかった中で、きょう最初に登場しましたが、どのようなことを考えましたか
今回初めてのフリースタイルでの天皇杯だったので、あまりチームの状況というのを気にしないで試合に臨みました。
――初戦はリードを許しましたが焦りはありませんでしたか
試合内容の焦りというよりかは、体調の面での焦りというか、吐き気を抑えるので精いっぱいだったので、もうとりあえずは今出せる力を出し切ろうと思って。焦りというよりは出し切ろうと思っていきました。
――初戦勝った後、マットをたたいていましたがあれはどういった心境でしたか
もうとても悔しくて、普段の力を出せればもっと大差で勝てる相手だと思ってたので、そういうちょっと悔しい気持ちが出てしまいました。
――ケガの状態はもう完全に大丈夫でしょうか
そうですね。ケガで気になるところはなかったので、ケガの方は大丈夫じゃないかなと思います。
――2試合目は相手も強かったですが戦ってみていかがでしたか
栄養満タンでいっても結構差があると思ったので、栄養もちゃんと取れない状態で戦うような相手ではないと。なんか爪痕残そうと思って、最初の方にタックル入ったんですけど普通に切られて、その後は体がつり始めてしまって、もう戦えるような状況ではなかったです。
――来年3年生となりますが、目標や意気込みをお願いします
来年のチームは、きょうも出てたすごい強い高校生が1年生として入ってくるので、階級もそんなに大きくは違わないので自分が指導してもらうようなかたちと言っては良くないですが、マット上がったら先輩後輩も関係ないので後輩たちと一緒に自分も強くなって高めていければなというふうに思います。試合での目標は来年の明治乳業杯(明治杯全日本選抜選手権)とかも出れるので、そこでしっかり自分の階級に合った体をつくって勝負してメダルを目指して頑張っていきたいなと思います。
最終日
太田拓弥監督
――米澤圭選手(スポ3=秋田商業)は2位という結果でしたがきょうのプレーはいかがでしたか
やっぱり相手の方がいろんな面で上手でしたね。最初のタックルもいいかたちで入れたんですけど返されて、その後2ポイント取りましたけど、あそこは確実に点数取らないといけないですし、あと後半入って組手で結構追い込んで勝ててたので勝てるチャンスはあるかなと思ってたんですけど逆に圭の方が足止まって動きが鈍くなってたので、そこを相手も突いてきてちょっと点差が開いてしまいました。もう一回しっかり鍛え直さないと、なかなかこういった場所で優勝することは厳しいなっていうのを改めて考えさせられましたね。
――準決勝はテクニカルフォール勝ちで昨日よりも調子が良く見えました
そうですね、準決勝は自分のかたちっていうのがしっかりはまったので、いい内容だったと思います。ただ優勝できると思っていたので(決勝は)ちょっと差がついたかなとは思いますけど、しっかりフィジカル追い込んで、タックルの処理と組手のところやれば6月の試合(明治杯全日本選抜選手権)には十分間に合うぐらいの差なのでもう一回しっかり改善させたいと思いますね。
――今大会のチーム全体を総括して、4日間いかがでしたか
ちょっと厳しい結果になったなっていうのは否めないですし、もう一回しっかり今回の反省を踏まえて、この冬にしっかり体をつくって、春先の大会に向けてやらないといけないなっていうのをつくづく感じましたね。
――来年、米澤主将を中心にどういったチームをつくっていきたいですか
優勝した世代と、あと他の優勝しているチームとかも見てきて思うのは、やっぱり4年生中心にまとまらないと強いチームって絶対できないので、圭中心にまとまりのあるチームづくりを。みんなが同じ方向を向いているようなチームをつくっていきたいなと思いますね。
米澤圭(スポ3=秋田商)※囲み取材より抜粋
――決勝はいかがでしたか
2日目は、自分いいペースで試合運びができるという自信がすごくありました。最初はまぁできていたなと思っていたんですけど、タックルに入ってから返し技を食らって、やっぱりタックルの処理で自分が攻めて点数を取られて調子とか狂ってしまって、自分のペースが乱れてきたなというのがありますね。後半は相手のペースに持っていかれたという感じですね。
――天皇杯(天皇杯全日本選手権)では2位でした
65キロ級では波乱が起きたのでこれは絶対に自分チャンスだなと思って、絶対に優勝するんだという気持ちで臨んだんですけど、結果こういうかたちになってしまって。すごく悔しいですね。
――どういうところを立て直して、来年につなげていきたいでしょうか
ことしの後半はあまり調子が良くなくて、天皇杯で右肩上がりになってきたんですけど、それプラス、タックルに入った後の処理、正確性ですね。タックルに入った後、海外でもタックル入った後に返し技を食らったりすることが多いので、精度を高めていきたいです。あとフィジカル面ですね。反省点は色々あるんですけど、その分伸び代があるということでプラスに捉えて、これから頑張っていきたいです。
――来年もこの階級でやっていきますか
東京五輪があるので、それに向けてしっかり立て直したいですね。
――準決勝ではカウンターを狙っただとかそういうのはあったりしましたか
いや、そういうわけではないですね。まず組手とかで自分のペースをつくって、そこで相手が嫌々タックルを入ってきたところにカウンターを取るというかたちだったので、最初からカウンターを狙っていたというわけではないですね。
――米澤選手のレスリングを柔らかいレスリングとするなら、決勝で戦った高谷選手(大地、自衛隊体育学校)は力で押していくという印象を受けましたが、どうでしょうか
特に高谷選手はフィジカルがけっこう強いなというイメージがあるので、やっぱりフィジカル面。毎回言っているんですけど、なかなかそんなすぐ簡単につくというわけではないので。
――ことし1年の試合を総括して、いかがでしたか
学生の大会でも負けたり、その中で自分のレスリングを試行錯誤していって、最終的にこの天皇杯で自分のスタイルを確立しつつあるので、悪かったというよりかは最終的に優勝できなかったんですけど、自分のレスリングを見つけたという所はいい点だったかなと思います。
――来年は主将になられますが、どのようにチームを引っ張っていきたいでしょうか
実力がある選手がキャプテンの方がみんなも付いてきやすいと思うので、その面では自分がしっかりと結果で自分の後ろ姿を見せて、それで楽しく元気でワイワイ、明るい雰囲気でポジティブなイメージでいって、チームをつくっていきたいなと思います。