あと1歩タイトルに届かず。米澤、山﨑共に第1シードの牙城は崩せず

レクリング

 世界選手権の代表選考に関わり、国内大会の中で最高レベルを誇る明治杯全日本選抜選手権(明治杯)。初日は女子フリースタイル(フリー)58キロ級の小林奏音(スポ3=長野・佐久長聖)が全日本の舞台で自身初となる勝利を挙げ、3位で表彰台に上る。男子グレコローマンスタイル(グレコ)66キロ級の宇井大和(スポ2=和歌山・新宮)は逆転した直後にフォール負けを喫し、2回戦敗退に終わった。2日目はグレコ75キロ級の齋藤隼佑(スポ3=群馬・館林)が1回戦で姿を消したが、共に第2シードで登場したフリー65キロ級の米澤圭(スポ3=秋田商)とフリー74キロ級の山﨑弥十朗(スポ2=埼玉栄)が順当に決勝まで勝ち進む。しかし、決勝では健闘こそ見せたものの第1シードの牙城を崩せず、いずれも悔しい2位に終わった。

 3度目の全日本の舞台。ついに小林が念願の1勝をつかんだ。第1ピリオド(P)、1分6秒に2点の先制を許すが、2分50秒にバックを取り同点に追い付く。第2Pも4分13秒にリードを許すが、5分20秒に再び同点に追い付く一進一退の攻防。「最後に逃げに入ってしまった部分は反省点」と語ったが、その後も相手の攻撃を必死にしのぎ切り、規定によりラストポイントを奪っていた小林に軍配が上がった。準決勝では格上の相手に完敗したが、この悔しさは来週の東日本学生女子選手権にぶつけてくるだろう。同じく1日目に登場した宇井は完勝で1回戦を突破した。2回戦は3分24秒に投げ技でリードを奪われたがすぐさま逆転に成功。しかしその後隙を突かれて投げ技を決められ、フォール負けとなった。

粘りを見せて全日本初勝利を飾った小林

 「膝をちょっと怪我してたんですけど試合になったらアドレナリンが出て、全然痛みとかも感じなかったのでコンディションは結構いいほうだった」と米澤は1回戦を貫禄のテクニカルフォール勝ちで突破。準決勝は開始早々にバックで先制を許したが、冷静に自分のレスリングを信じて戦い、6-3で逆転勝利を収めた。そして迎えた決勝。相手は第1シードでこの大会2連覇中の鴨居正和(自衛隊体育学校)。強敵に対して米澤は臆することなく攻めていき、鴨居のパッシブで先制点を奪う。このまま勢いに乗りたいところだったが、第1P終了間際にバックを取られ1-2で折り返した。第2Pも攻勢に出たのは米澤だった。再び鴨居のパッシブで1点を加え、2-2とポイント上は同点に追い付く。しかし、鴨居はバックの2点で得点しており、規定上このままいけばビックポイントで敗戦となる。米澤は最後まで攻撃を仕掛け続けたが、あと1歩でポイントを取りきれなかった。敗戦の瞬間、米澤はマットを叩き、悔しさをあらわにした。

決勝戦で惜敗し、悔しさをあらわにする米澤

 昨年の明治杯では決勝戦で残り4秒から逆転を許し、苦杯をなめた山﨑。第2Pに1点差に迫られ、苦しみながらも初戦を3-2で辛勝した。準決勝は親交のある保坂健(平27スポ卒=現・自衛隊体育学校)と対戦。第1Pはリードを許して終えたが、「点数取られるのは予想していた」と慌てることなく逆転し、決勝戦に駒を進めた。決勝戦は五輪2大会連続出場の第1シード高谷惣亮(ALSOK)に挑んだ。昨年、天皇杯全日本選手権(天皇杯)の決勝戦で力の差を見せられており、山﨑が越えなくてはならないカベだ。その王者に対して、山﨑は第1P早々に仕掛ける。タックルで左足を取り、高谷を持ち上げるとそのままバックで先制。「作戦が上手くはまった」と快調な滑り出しで会場を沸かせた。それでも王者のカベはやはり厚かった。右足を取られて体勢を崩されたところから連続失点で2-4と逆転を許して第1Pを終えると、体力の落ちた第2Pは攻め手を失う。さらに失点を重ね、2-8で昨年に続きタイトルを逃すこととなった。

開始直後、リオ五輪代表・高谷からポイントを奪う山﨑

 米澤は、内容が互角以上だっただけに悔しさの残る敗戦となった。「殻を破って攻めて点数を取りにいく練習をもっとこれからしよう」と向上心を失わない米澤が全日本の舞台でタイトルを取る日は近い。山﨑も後半こそ体力が落ちたが、天皇杯のときより高谷に対抗できており成長を感じさせた。最終日は、2階級に早大戦士が登場。女子フリー60キロ級の香山芳美(スポ4=東京・安部学院)はリオ五輪金メダリスト川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)に食い下がれるか、男子フリー70キロ級では伊藤駿(スポ3=京都・網野)、梅林太朗(スポ1=東京・帝京)が昨年までの早大エース多胡島伸佳(平29スポ卒=現・KATSURA-group)ら強豪のカベを越えられるか、いずれも目が離せない熱戦となるだろう。

(記事 皆川真仁、写真 平松史帆、杉野利恵)

※フリースタイルは10点、グレコローマンスタイルは8点差がつくとテクニカルフォールで試合終了になる

結果

1日目
 

男子グレコローマンスタイル

▽66キロ級 宇井 ベスト8

女子フリースタイル

▽58キロ級 小林 3位

2日目

男子グレコローマンスタイル

▽75キロ級 齋藤 1回戦敗退

男子フリースタイル

▽65キロ級 米澤 2位

▽74キロ級 山﨑 2位

コメント

1日目

太田拓弥監督

――宇井(大和、スポ2=和歌山・新宮)選手の戦いぶりを振り返っていただけますか

1回戦はしっかり自分のかたちでプレッシャーかけてて、しっかりポイント取れて、勝つことができました。しかし、2回戦に関しては相手の首投げを警戒してしまってちょっと逃げるような感じで腰をおさえたり、下がったりしてたところがやっぱり負けた要因かなとは思います。

――逆転してから消極的になったということでしょうか

いや、逆転する前のところもちょっと場外際相手が左に組んできたところを腰を落としてブロックしたり。相手の技をひっくり返してそのあとグラウンドで良く返したところまでは良かったんですけどその後やっぱり強引に首に組んだところを逃げるようなかたちで、逃げるとやっぱりどうしてもスペース生まれるのでそこで胸合わしてとかタックルいくとかという攻撃的な展開をやっておけばあの投げにかかることはなかったんですけどやっぱりそれ以上に相手のプレッシャーが強かったんじゃないかなと思います。そこが敗因の1つかなとは思いましたね。

――宇井選手は途中でちょっとバテたとおっしゃっていましたが

相手の技を防ごう防ごうとしてるとやっぱりどうしても体力的にバテてしまうので、あそこで自分から仕掛けにいけばバテることはないんですけど、相手のプレッシャーを受けながら相手の技をかわすのが精一杯。自分から仕掛けてないのでバテてしまうんですよね。自分のペースでレスリングしてないのでそういったところが敗因の1つかなとは思いますね。

――小林(奏音、スポ3=長野・佐久長聖)選手は1回戦を粘り勝ちしましたがどういったところに成長を感じましたか

組手でもちょっと負けてましたけど、良く最後の最後で粘って良く勝ったと思います。ただラストほんとに数秒でコーションつきそうだったのでリーグ戦(東日本学生リーグ戦)でも(チームとして)出た課題というところでどういったかたちでラスト30秒守りきるかというのがまあ課題かなとは思います。

――準決勝はやはり力の差がありましたか

そうですね。まだちょっと差はあったかなとは思います。

――リーグ戦で優勝を目指したなかで悔しい結果(6位)に終わりましたが、チームの雰囲気はいかがですか

リーグ戦が終わってからコーチ陣、あと上級生中心に話し合いをして練習の中身であったり日程だったりしっかり見直しをしてこの大会に挑んだのでチームの雰囲気は少しずつ良くなってきてるかなと。ただ初日に奏音が良く勝ってくれたんですけど、大和が表彰台まで最低でもいってもらいたいという気持ちではあったので初日いい流れであした以降につなげて欲しいなとは思ったんですけど。なかなかグレコで日体大が上位を占める中で大和1人で立ち向かってるというような感じの中でまあ勝つことって難しいんですけどそれでも二人ともまず1つ勝って奏音は3位で大和はベスト8ということでもう1つ上にいって欲しかったんですけどリーグ戦の嫌な流れは少しは断ち切ることができたかなと思いますね。

――あした以降出場する選手に期待することは

リーグ戦で見直した点とか練習の中身なんかもだいぶ変えたのでそういったところで成長してる部分を見せてほしいなとは思いますね。

小林奏音(スポ3=長野・佐久長聖)

――全日本の舞台で3位になられましたが、お気持ちはいかがですか

3回目の全日本にしてやっと1勝できて、今回はくじ運もけっこう良くて1回勝てば3位になれて、対戦相手も互角の相手だったので、勝てて良かったかなとは思っています。でも内容は最後に逃げに入ってしまった部分は反省点です。

――1回戦の試合では点数の取り合いから、最後にラストポイントを決められましたが、どうでしたか

取られて取って、取られて取ってという試合展開で私が最後に取って勝てたのでそこは良かったのですが、最後の20秒ほど相手がガンガン攻めてきている時に私が逃げちゃって、そういう試合はコーションとか取られかねないので、負けてもおかしくないような試合をしてしまったのでそこが反省点かなと思います。

――準決勝では相手の力の強さに圧倒されている印象を受けたのですが

かなり格上の相手で手も足も出ない感じでした。

――その中でも腕を引っ張られたりしていましたが、何かやろうとしていたことはありますか

秒殺はされないようにと思ったのですが、結果ほとんど秒殺だったので、自分のレスリングを少しでも出せればいいなと思っていたのですが出せなくて。相手のペースでなかなか自分のレスリングができなかったなと思います。

――今後も格上の選手と戦った時にどれだけ自分のレスリングが出せるかというのは、課題になってくるのでしょうか

そうですね。どんな相手でも自分のレスリングができるのかというのが必要だなと思いました。

――次の試合の東日本学生女子選手権に向けての意気込みと目標をお願いします

5日ぐらいあとなんですけど、体重もちゃんと調整して疲れも取って、優勝を狙えるような大会だと思うので優勝を目指して頑張りたいと思います。

宇井大和(スポ2=和歌山・新宮)

――きょうはどのような意気込みで臨まれましたか

 組み合わせが悪くは無かったので準決勝くらいまではいけるかなと思っていたんですけど、気のゆるみが出てしまいました。

――1回戦の1Pは慎重に見えました

 初戦なので緊張してて足が動かなくて、慎重になってしまいました。

――後半はいかがでしたか

 後半は息があがってきてこれ以上やると疲れちゃうなと思ってました。

――2回戦は前半から攻めていましたが

 相手は身長も高くて下から攻めていこうと思っていました。

――1-4で負けている時間帯があり、どのようなことを考えていましたか

 時間はまだあったのでどこかで切り替えせるかなと思っていました。

――逆転しましたが、その後すぐに負けてしまいました

 途中でバテてしまって。相手の強引な技を切れなかったので。まだ体力が足りなくて今回はバテてしまいました。

――今後に向けての意気込みをお願いします

 来週の水曜日から新人戦があるのでしっかり押さえるところは押さえて優勝したいと思います。

2日目

太田拓弥監督

――今日の試合を総括していかがですか

リーグ戦(東日本学生リーグ戦)の反省のラスト30秒のところでの戦いというところにこだわって練習してきたので、きのうの奏音(小林、スポ3=長野・佐久長聖)もそうですけどきょうの弥十朗(山﨑、スポ2=埼玉栄)や圭(米澤、スポ3=秋田商)の戦い方は、もう少し楽に勝ってもおかしくないかなとは思ったんですけど、それでもリーグ戦の負けが今回生きているなというのが見て取れますね。2人の決勝も、もう圭なんか勝ってもおかしくないですし、弥十朗にしてもまだまだ差があるかなと思っていた部分もあるんですけど、12月の天皇杯(天皇杯全日本選手権)までには追いつく距離に来ました。リーグ戦で落ち込んでいたチームが今回すごく良いかたちで残っているので、負けが生きている戦い方をしてくれているなと感じます。

――山﨑選手は去年の12月の天皇杯の決勝に比べると成長が見て取れる戦いだったように思えます

そうですね。オリンピックに2度出た選手相手にタックルもしっかりと取れましたし、ただそこでグラウンドを返しきれなかったり、逆にタックルを取られた後、グラウンドで返ってしまったのでそこが敗因ですね。高校生の時に拓大の浅井に勝って国士舘大の奥井にJOCジュニアオリンピックカップで勝ったんですけど、その時は最初にタックルを取られたのにグラウンドを守ったんですよね。今回もあそこで守っていればまた違う展開になったと思うんですけど、さすがに相手の方が実力が1枚上でしたね。でも12月の全日本までには十分追い越せる距離には来たかなと思いますね。

――山﨑選手の初戦と準決勝は苦戦しているように見えましたが、いかがでしたか

もっと楽な展開になれたかなとは思いますけど、お互いに左構えでちょっとやりづらさがあったんじゃないかなとは思いますね。

――米澤選手の決勝はすごく惜しいという印象を受けたのですが、いかがですか

前半に組み手でいい展開で押していたところを強引にいったところのカウンターで、ただラストはコーションが付いてもおかしくないような攻めだったんですけど。そこで確実にテークダウンを取るというふうにいけば十分に勝てるかなというところまでは来ましたね。去年の12月の天皇杯よりは確実に組み手で追い込んでいましたし、強引にいったところをカウンターで取られたのでそこさえ守れば。もうたぶんこれから決勝で戦った選手と戦うことになると思うんですけど、1回勝っちゃえば負けることはないんじゃないかなと思います。それぐらい力は付いているので。

――齋藤隼佑選手(スポ3=群馬・館林)の試合はいかがでしたか

相手は2位になった選手ですけど、階級が同じとは言えないような体つきの差がありましたよね。そこが点数の差に生まれたのかなと。スタンドでもいい展開には持っていけなかったですね。相手の方が組み手も1枚上でしたし、グラウンドも力強さも1枚も2枚も上なので、75キロ級に適した体重にしないといけませんね。

――表彰台にも何人か上っていて良い流れできていると思いますが、あしたに向けて意気込みをお願いします

特に70キロ級(男子フリースタイル)の選手は切磋琢磨(せっさたくま)して実力もないトップ級なので、OBの多胡島(伸佳、平29スポ卒=現・KATSURA group)を筆頭に1人でも多く表彰台、優勝者はまだ出ていないので、優勝者を出したいなと思います。

米澤圭(スポ3=秋田商)

――決勝戦あと1歩のところでしたがいかがでしたが

そうですね。まああと1歩のところだったんですけどやっぱり最後まで相手をテイクダウンまでしっかり取りきるというのができなかったのでそこが悔しいところですね。しっかりテイクダウン取って勝ちたかったですね。

――1度試合が中断しましたがその影響はありましたか

まあそれは特にないですね。

――後半は積極的に攻めていきましたが攻めは十分に通用しているという感じはありましたか

相手が反応すごい早いというのもあるんですけど、あと1歩が取りきれないというのがこれからちょっと直していきたいというところですね。

――初戦は磐石の試合展開でしたがきょうの調子はいかがでしたか

膝をちょっと怪我してたんですけど試合になったらアドレナリンが出て、全然痛みとかも感じなかったのでコンディションは結構いいほうだったと思います。

――準決勝は一時リードされながらも冷静な印象でしたが

そうですね。自分の組み手をやってればしっかり点数は取れるという自信があったので試合始まってすぐ点数取られたんですけど、そこはまだ全然時間あるなと思って落ち着いてしっかり取り返そうという気持ちで臨みました。

――今後、あと1点を取りきるためにどのような取り組みをしていきたいですか

もっと普段から攻めのレスリングを意識して、ちょっとスパーリングでもまだ攻め足りてないみたいな、練習とかでも一応試合意識するので。そんなガツガツ攻めてないという練習なのでそこをちょっとやっぱり殻を破って攻めて点数を取りにいく練習をもっとこれからしようかなと思いました。

山崎弥十朗(スポ2=埼玉栄)

――決勝戦、序盤にタックルが決まりましたが天皇杯のときと比べていけそうだなという感じはありましたか

そうですね。作戦が上手くはまったという自分の印象を受けたんですけどやっぱり前半で攻めると後半バテてしまって。何がいけなかったのかなと思ったら前半の攻めは良かったんですけどその後警戒しすぎて力みすぎてしまって息が上がってしまったのかなと。そこの力みというのは普段の自分の動きじゃないという意味でやっぱりいつもとは違った動きになって息が上がってしまったのかなと。

――今後高谷選手に勝つ上で何が必要だと思いましたか

まず、どんな配分でもしっかりと対応できる体力。自分1回この試合前に体調を崩してしまって、すごい肉体的、内臓的にちょっと負担かかってしまって、あまりいいコンディションではなかったのでそこしっかりまず治して持久力高めれば、しっかりタックルも取れてたんでそこらへんはカバーできると思います。

――初戦は終盤1点差の場面をしのぎましたが、東日本学生リーグ戦から終盤改善出来たなってところはあったでしょうか

やっぱり気持ちの持ちようですかね。減量という苦しいところをリーグ戦のときは少しやだなという部分があったんですけど今回はしっかりと調子合わせようと。試合前の気持ちづくり、コンディショニングがやっぱり変わったかなと思います。

――準決勝の保坂選手との試合では逆転を許してからどのように気持ちを切り替えられましたか

保坂先輩は昔から知り合いだったので、やっぱりお互い手の内も分かっていて、経験も多いのでそこらへんはあまり気にしていなかったですね、正直。点数取られるのは予想していたので、そこをどう上手く対処するか、主に技術面ですね。

――今後の目標は

まずは、先ほど言ったように体力面。体のコンディショニングを整えて、8月にある世界ジュニアに向けて整えていきたいですね。