オリンピアンのカベ高く、山﨑リベンジを誓う2位

レクリング

 ことしの大一番もついに最終日。この日は多くのオリンピック選手も出場し、多くの観客が天皇杯全日本選手権(天皇杯)に押し寄せた。吉村拓海(スポ1=埼玉栄)と小林奏音(スポ2=長野・佐久長聖)が1回戦敗退に終わったが、吉川航平主将(社4=秋田商)はベスト8に入る。また山﨑弥十朗(スポ1=埼玉栄)は準決勝、決勝と熱戦を繰り広げ会場を沸かす。高谷惣亮(ALSOK)に敗北を喫し2位となったが、東京五輪への戦いの幕開けを感じさせる試合となった。

 本来フリースタイル(フリー)の吉村はこの日はグレコローマンスタイルでの試合となった。1回戦は、10月の全日本大学グレコローマン選手権で負けた相手との対戦に。しかし第1ピリオド(P)開始50秒ほどで立て続けにポイントを奪われると、その後に投げ技を許しテクニカルフォール負けを喫した。小林奏音(スポ2=長野・佐久長聖)は第1Pでバックポイントを決めて4-0と折り返したものの、第2Pで相手にテークダウンされてしまう。ラスト2秒に相手にポイントが入り、まさかの逆転負け。悲願の全日本の舞台で1勝を挙げることはできなかった。この1年間チームを引っ張ってきた吉川航平主将(社4=秋田商)は意地を見せるラストゲームとなった。初戦となった2回戦では吉川らしい投げ技で得点を重ねる場面も見られ、14-10で3回戦へと進出する。準決勝を懸けた戦いでは組んだ状態から相手を投げるなどリードする展開も見られたが、最後に守り切れず背後を取られてしまう。5-6と接戦を落とし、吉川にとって最後のレスリングの試合が終わった。「最後の最後で楽しく笑顔で終われました」(吉川)。潔く次のステージへと進めるようだ。

この1年チームを引っ張った吉川主将

 最終日の中心にいたのは、まさに山﨑だったであろう。その準決勝は異様な緊張感に包まれた。相手は明治杯全日本選抜選手権の決勝で負けた奥井眞生(国士館大)。試合は山﨑がバックポイント、ローリングポイントを決められ、先制点を奪われる。山﨑も第1ピリオド(P)終了間際にテークダウンを取り、2-4で前半を折り返した。第2P開始直後、相手と組んだ状態から崩しバックポイント、さらにローリングポイントを決め逆転。タックルに入りさらポイントを追加する。しかし相手の気迫に押され始める場面も見られ場外ポイントなどでじりじりと攻められていく。8-8と同点で試合は終わったが、ビックポイントの差で勝利を収めた。迎えた決勝では高谷との勝負になった。試合開始から相手の素早いタックルに何度も苦しめられる場面が見られた。第2Pに入っても思うような試合をさせてもらえないまま、得点は開いていく。しかし終盤に意地を見せる場面も見せ、場外際で1ポイントを獲得する。「自分が普段やらないようなプレーで点数を取れたのは良かった」。ただの敗北ではなく、収穫も手にした2位となった。

決勝戦での山﨑

 オリンピックを狙う早大戦士たちの前に立ちはばかるカベ。しかし超えられないカベではない。「決勝の舞台で何が足りなかったのかということは、本人が1番分かっている」(山形隆之監督、平4人卒=福岡・築上西)。この悔しさを結果に変えられるか。また来年へ個人だけではなく、団体戦でも借りを残している早大。「とにかく団体戦で優勝することが目標」(太田拓弥コーチ)。今季無冠に終わり、総合力の大切さを知ったチーム。一致団結した強さを証明する1年にしたい。

(記事 杉野利恵、写真 皆川真仁、寺脇知佳)

表彰台での山﨑

結果

▽男子フリースタイル

61キロ級 吉川 ベスト8

74キロ級 山﨑 2位

▽グレコローマンスタイル

59キロ級 吉村 1回戦敗退

▽女子フリースタイル

58キロ級 小林 1回戦敗退

コメント

山方隆之監督(平4人卒=福岡・築上西)

――この3日間を振り返っていかがですか

学生で決勝まで行ったのが、伊藤駿(スポ2=京都・網野)、芳美(香山、スポ3=東京・安部学院)、圭(米澤、スポ2=秋田商)と弥十朗(山﨑、スポ1=埼玉栄)でしたね。決勝まで行くことだけでもすごいですけど、やはりなかなか優勝は簡単にできないということを改めて感じたところと、決勝の舞台で何が足りなかったのか、これからやらなきゃいけないことは本人が1番分かっていると思うので、そこはプラスに捉えて、来年につなげていってほしいなと思います。OBでは花山(和寛、平成25スポ卒=現自衛隊)の決勝もありましたけど、最後に早大勢での優勝で終わりたかったというのが正直なところなんですけど、やはり難しいということで、来年から頑張ってもらいたいなと思いました。

――今回出場された4年生の吉川航平主将(社4=秋田商)と堀江一馬選手(社4=富山・富岡商)はこれが最後の試合になられるということですが、いかがでしたか

そうですね、特に堀江についてはずっと天皇杯全日本選手権(天皇杯)に出たいと思っていたなかで最後の天皇杯に出れたことは、ずっとやってきたことが結果として出て良かったかなと思います。吉川に関しては、3回戦で勝てる試合だったのでちょっともったいなかったかなと感じました。

――ここ最近では部員の約過半数が天皇杯に出場するなどチーム力の向上が目に見えて分かると思うのですが、そういった部分はどのように思われていますか

確かに何年か天皇杯に出られる学生というのが少ない中で、天皇杯に出ることをまずは目標にしていた中で、日ごろに練習の成果は出ているんだなと思います。ただ出ることを目標にしていたということでやはり勝ち切れない、目標の置き場所をもう1つ上の部分へ持っていかないといけないのかなとは思っています。

――早大のことし1年の戦いは振り返ってみていかがですか

団体戦で言うと、リーグ戦(東日本学生リーグ戦)で優勝した山梨学院大に勝って、優勝しなきゃいけない、できるところにいたのですが、その次の全日本大学グレコローマン選手権、内閣総理大臣杯全日本大学選手権でどこまでリーグ戦の悔しさを結果として残せるかというところだったんですけど、結果としてはリーグ戦よりも下の順位に落ちる結果になって、やっぱり1年間のチームの作り方の難しさを感じる1年だったと思っています。

――最後に来年に向けての意気込みをお願いします

4年生7人が抜けて、少し人数が減ってしまうんですけども、少ないなかでも1人1人が自覚を持った、ことし何が良かったのか悪かったのかというのを各自が考えて、私自身も考えていきたいですし、まずはリーグ戦優勝を目標にやっていってもらいたいと思います。

太田拓弥コーチ

――山﨑弥十朗選手(スポ1=埼玉栄)の試合はいかがでしたか

(決勝の相手の高谷惣亮選手、ALSOKは)やっぱりオリンピックに2回出ているだけあって、知り尽くしていますよね。弥十朗もなすすべがなかったという感じで、最初にもっと仕掛けて欲しかったなとも思います。どちらかと言うと弥十朗はスロースターターなので、最初に仕掛けてどんどん行ってほしかったです。やっぱりオリンピックに出るレベルだとかメダルを取るレベルの選手というのは、全日本のレベルだと圧倒的に勝ちますね。

――山﨑選手は準決勝では接戦を制されました

実力差は間違いなく弥十朗の方が上だと思います。ただ相手の気合の方が上手だったので、ちょっと最初は油断していたわけではないですけど相手の気迫の方が上でしたね。前半の終わりかけのところでポイントを取れたりだとか、後半のにもポイントを取れたりしているので、あきらかに実力差はあると思うんですね。でもああいった試合を6-0、8-0ぐらいの実力差はあると思いますし、奥井選手(眞生、国士館大)くらいを手堅くシャットアウトして、おそらく高谷選手ならテクニカルフォールで勝つと思いますし。それぐらいの実力にしないと高谷選手のカベは超えられないかな、と思います。今回2位に入ったということで1月のデーブ・シュルツ国際大会にも選ばれますし、2月3月は海外遠征と全日本合宿でそこで高谷選手とも練習できるので、課題なども見えてくると思うので、今回の試合でももちろん課題が見えたので、そこを修正していけば十分あと3年間で追い付けるのではないのかなと思います。

――吉川航平主将(社4=秋田商)の試合はいかがでしたか

3位になれた試合なんでもったいなかったんですけど、よくここまでチームを引っ張っていてくれたと思いますし、1回戦の相手に関しては山梨学院大の選手で、リーグ戦で山梨学院大に吉川を使わずに伊藤奨(スポ3=長崎・島原)を使ったので、それであの試合で勝ってくれたことはチームのレベルアップにもなると思いますし、あわよくばもう1勝して準決勝の樋口黎(日体大)とはさすがに厳しいかもしれないですけど戦ってほしかったですね。キャプテンとしてよくチームを引っ張ってくれたと思います。

――小林奏音選手(スポ2=長野・佐久長聖)は逆転を許してしまいましたが、試合はいかがでしたか

ああいうポジションにすること自体がだめなんですよね。それ以外のところだとほぼ完璧に試合運びしていたところが、最後にああいうポジションにしたのが良くなかったですね。試合前にいつも言っていることなんですけど、どこからどう見ても自分達が勝っていると分かる試合をしろと、チャレンジして覆るようなポジションになるなと言っているので、ちょっとしょうがないかなと思いますね。

――吉村拓海選手(スポ1=埼玉栄)の試合についてはどうでしたか

フリースタイルの選手なのでグラウンドでのディフェンスの仕方もあまり知りませんし、とは言っても新人戦で優勝できるレベルなので、もうちょっといい試合をしてほしかったなと思います。

――ことしもこの試合で最後となりますが、ことし1年を振り返っていただいていかがですか

4年生中心によく頑張ってくれた面ともう少しあそこをこうしておけば良かっただとか、チームが一丸にならないと団体戦で優勝できないなと改めて思いましたし、いくら米澤圭(スポ2=秋田商)、伊藤駿(スポ2=京都・網野)、弥十朗、多胡島(伸佳、スポ4=秋田・明桜)の4人が強くても、試合に出れていないメンバーであったりとかそれ以外の階級のメンバーをレベルアップしていかないと、団体戦の優勝はないんだなと改めて気づきました。人数が少ないなかで過去に優勝している時代のチームと比較して、チームのバランスであったりとか総合力であったりとか、もちろん我々スタッフも含めて一丸になっていかないと、チームで良い方向に行かないんだなと気づきましたし、ことしの反省も深めて来年以降につなげていきたいと思います。

――来年への意気込みをお願いします

内閣総理大臣杯全日本大学選手権で優勝できるメンバーもそろっていますし、もちろんリーグ戦(東日本学生リーグ戦)などの団体戦で優勝することによってすごい緊張感の中で経験値を積むことができるのが団体戦なんですよね。やっぱり、緊張感のあるなかで自分のレスリングをやって、もっともっとチームとして全体としてもレベルアップしていけば、おのずと東京オリンピックの金メダルが見えてくるんじゃないかなと思うので、とにかく団体戦で優勝することが目標ですね。

吉川航平主将(社4=秋田商)

――初戦は接戦となりましたがいかがでしたか

初戦は点の取り合いになったというより自分が大量点を取れた後に余計な動きをしてしまったことによって無駄な点数を相手に与えてしまいました。それで接戦になってしまいましたが体も良く動きましたし、結果的に2試合目につながる動きができたと思います。

――体力的には2試合目に不安はありませんでしたか

なかなか11月の内閣総理大臣杯全日本大学選手権が終わってから練習する時間がなかったですが特に体力面での不安はなかったですね。

――2戦目の序盤に投げ技で4点を先制されましたがその時の心境は

去年のこの大会で高校の同級生である自衛隊の選手と戦った試合では序盤に自分が投げ技で4点取って相手に追い掛けられる展開でした。今日はその逆の展開を相手にやられてしまい、なんか凄くやられたなと思いました。でも取られてしまったのはしょうがないし、残り5分強で取り返せれば良いかと特に深刻に考えずに戦えました。

――4点差を一時逆転してからの心境は

とにかく守りに入ってはいけないと思ったので、ずっとくっついて自分のスタイルを徹底していこうとしました。でも、やはり相手の選手も上手かったので組み手でいなされてタックル入られてしまいました。

――4年生としての意地を感じましたがこの4年間を振り返っていただけますか

自分が努力してきたと言えばそれまでですけど練習で努力する環境を提供してくださった早稲田大学はじめ高校の恩師や先輩方などに凄く感謝しています。レスリングをずっとキツくてつまらないスポーツだなと思ってたんですけど最後の最後で楽しく笑顔で終われました。自分が目標にして4年間やってきた努力・感謝・笑顔を最後まで貫けて満足です。

小林奏音(スポ2=長野・佐久長聖)

――惜しくも逆転での敗戦となりましたが今日の試合を振り返っていただけますか

正直、史上最悪な負け方をしたなと思ってます。

――序盤は順調にポイントを重ねていましたが調子はいかがでしたか

3日前に風邪を引いて寝込んで全然練習出来てませんでした。そのツケが回ってきて後半自分の動きが出来ず、相手に合わせてしまったのでああいう結果になったと思います。

――収穫と課題は見つかりましたか

最初は調子良くポイントをとれました。ああいうのを2ピリオド続けられるような練習をしていくのが課題かなと思います。

――ことし1年を振り返っていただけますか

結構去年よりはいろんな大会で勝つことが出来たり、入賞することができたんですけど大きい大会は1回戦負けとかが多かったです。この試合も年内最後の大会だったんですがちょっと後味の悪い終わり方でした。あまり今良い気分ではないんですけど成長してるかなと感じた1年でした。

――来年の目標は

来年はまた年2回ある全日本に両方出てインカレ(全日本学生選手権)など大きな試合で入賞出来るように頑張りたいと思います。

――冬の間に特に取り組みたいことはありますか

しばらく大会がないので中だるみせず、常にきょうの悔しさをバネに練習していきたいと思います。

山﨑弥十朗(スポ1=埼玉栄)※一部囲み取材より抜粋

――高谷惣亮選手(ALSOK)との対戦はいかがでしたか

学生とは違うレスリングでしたね。スピードも速くて。途中で点数とれない展開になりました。

――決勝まで行って自信はつきましたか

勝っていくというのは自信になりましたし、最後は1-10になってしまいましたけど、グラウンドから自分で追い返す気持ちで点数を取っていけたので、自分が普段やらないようなプレーで点数とれたっていうのが大きいですね。

――高谷選手と対戦したのは初めてですか

初めてでしたね。全日本合宿でスパーリングとかやらせてもらって、いつもテクニカルフォールされてしまうので、実際に試合をやってみてテクニカルフォールされなかっただけましかなと思います。

――勝てるという実感は

奥井さん(奥井眞生、国士舘大)にも僅差で勝って自信もついて、高谷さんとの試合も同じ展開で点数差が拮抗した試合をしようと思ったんですけど、最初で点数開かれてしまいましたね。

――4年後のビジョンは

4年後はオリンピックに出たいので、勝たなきゃいけないので、勝てるビジョンでいこうかなと。

――半年前から体は大きくなりましたか

6月から3キロくらい大きくなりましたね。高校生相手だと出す力も6割7割しか出してないんですけど、早大に入って個性の強い人と練習して、力もつきましたね。

――表彰台で高谷選手と握手されていましたが、掛けられた言葉は

闘志がすごかったと言っていただきました。ああいうことをしないと東京はいけないぞと。褒められてうれしかったです。

――今後の課題は

自分のスタイルというのが大学入って違ってきていて、まだ固められていない部分の修正をしていきたいのと、早大は多胡島さん(伸佳、スポ4=秋田・明桜)とか米澤さん(圭、スポ2=秋田商)とか変わったスタイルの人がいるんですけど、そのスタイルにはまあまあ対抗できるようになったので、次は正統派のタックルを仕掛けてくるの選手にどう立ち向かっていけるかが課題になってくると思います。

――来年の目標は

来年の目標としてはまず天皇杯全日本選手権のリベンジですね。年末をいいかたちで締めくくりたいです。でもまずは1月のデーブ・シュルツ国際大会で海外の選手の技と体力を肌で感じつつ、JOCジュニアオリンピックカップも3連覇懸かってるんで、それを目標に頑張りたいです。

吉村拓海(スポ1=埼玉栄)

――初めての天皇杯全日本選手権(天皇杯)でしたが、緊張などはされましたか

緊張はしなかったです。普通に相手の実力の方が上でした。

――組み合わせを見たときはどう思いましたか

全日本大学グレコローマン選手権で負けた相手だったので、そのときも結構やられたので、またこの人とか、とりあえず頑張ろうと思いました。

――練習でやってきたことは出し切れましたか

全然そんなことはないですね。やる前にやられてしまったというか、やることすらよく分かってないので、しょうがないですね。

――来年は天皇杯へはフリースタイル(フリー)で出たいですか

そうですね。フリーで出たいと思います。

――来年への目標をお願いします

ことし1年間を通してずっと試合に出続けて、大学での要領とか自分に何が足りないのか分かってきましたし、階級の事とかもあるので日々の食生活や私生活から管理していけば、また結果は付いてくると思うので、レスリングの練習の前に私生活から気を付けていきたいと思います。