強豪集いし天皇杯全日本選手権。初日は早大から4選手が出場した。本来はグレコローマンスタイルを専門とする吉川航平(社3=秋田商)はフリー61キロ級に出場し、善戦を繰り広げての4位。フリー65キロ級の米澤圭(スポ1=秋田商)は3回戦敗退。同じく1年の髙橋海寿々(スポ1=東京・大森学園)は63キロ級で4位に。60キロ級の香山芳美(スポ2=東京・安部学院)は3位決定戦で勝ち切ることができず、昨年の3位から4位に沈む。それぞれが表彰台まであと一踏ん張りだった。
全日本2位の実績を持つ井上貴尋(三恵海運)に負けを喫し、3回戦敗退となった米澤。攻撃をうまくかわして先制点を奪い、滑り出しは好調かのように見えた。だが、グラウンドを取られてからローリング技をくらうと6点差が開く。「ローリングさえかからなければ勝てるチャンスもあった」と太田拓弥コーチが言うように、強豪相手と互角に戦うためにはローリングを守りきれるようなフィジカル面の強さがカギのようだ。吉川は3回戦でフォール勝ちを披露し、会場を沸かせた。第1ピリオド(P)前半でリードを許すも、すぐにビックポイントで盛り返す。さらに勢いに乗ると、力の限りで相手の両肩をつけて勝負あり。迎えた準決勝では第2Pで6点の差が開いてしまう。試合終了間際の猛攻もむなしく、3位決定戦へと回った。奮闘は及ばず4位に終わったものの、「自分のスタイルは貫いてできたかな」(吉川)と手応えを体感できたようだ。
吉川は自分のかたちを確立した試合を披露
髙橋は先日のビル・ファーレル国際大会にて対戦した伊藤彩香(東新住建)と準決勝で再び顔を合わせることに。0-8で負けてしまったという前回から一転、今回は2-4と差を狭める。3位決定戦の相手には苦手意識を感じ、0-12での敗戦。その中でも、「相手の頭をしっかり崩せたので、そこは収穫」(髙橋)と、自分のできる範囲のことを発揮した。以前は自分からタックルが取りに行けなかった髙橋だが、総じて成長が見られた試合内容となった。香山は準決勝、オリンピック代表の強豪・川井梨沙子(至学館大)に当たる。完全に流れを明け渡し、まったく歯が立たない状況へ。テクニカルフォール負けとなったこの試合を振り返り、「10点差なんて、半年や一年あれば十分に追いつける」と太田コーチ。3位決定戦でも負けを喫したその要因は、太田コーチが再三言っている『組み手』にあるだろう。
香山自身も「組み手が課題」と話した
リオデジャネイロのオリンピック代表選手選考会も兼ねる今大会は、やはり簡単に勝たせてはくれないようだ。「雰囲気が他の大会とまるで違う。なんか、神々しい」(髙橋)。そんな緊張感も並々ならない中で、選手たちには普段通りのプレーが求められている。天皇杯はあす、あさってと続く。一戦でも多く。日本最高峰の舞台で輝くために奮闘する、早大の貪欲なプレーに刮目せよ。
(記事 寺脇知佳、写真 本田京太郎)
結果
女子
▽60キロ級
香山 4位
▽63キロ級
髙橋 4位
男子フリースタイル
▽61キロ級
吉川 4位
▽65キロ級
米澤 3回戦敗退
コメント
太田拓弥コーチ
――オリンピック代表選手選考会ということもあり、ことしの天皇杯全日本選手権の印象はいかがでしたか
準決勝まであたりは学生もOBも自分の力を出し切れていた部分もあったんですけど、やはりそんなに簡単には勝たせてくれなかったですね。
――きょう出場した4選手の試合を振り返って
吉川(航平、社3=秋田商)は、自分のかたちをある程度確立してきた試合でもありましたね。がぶった状況でポイントを取るのができなかったりなど、まだもちろん課題はあるんですけど、こういったことをずっとやってきた中でなにかが見えてきた、というのはありますね。芳美(香山、スポ2=東京・安部学院)に関しては組み手がやはりできていないのにも関わらず強引に突っ込んでタックルを取られたり、さばいてもバックを取られたり。やっぱり組み手ができない状態で飛び込んでしまうレスリングには限界を感じるんで、組み手をマスターしてから相手を崩してタックルに入る、っていうのが課題ですね。海寿々(髙橋、スポ1=東京・大森学園)に関しては、受けは強いんですけど、崩してからのタックルだったり組んでからのポジションだったりがまだまだでしたね。圭(米澤、スポ1=秋田商)は、グラウンドの力強さと足首が課題だと思いますね。組み手でもある程度リードしてたんで、ローリングさえかからなければ勝てるチャンスもあったと思いますね。ただ、右を差されてからちょっと嫌がってる状況でポイントを取られ、それでそのあと返されたんで、やっぱりまだまだ65キロ級としての身体がつくれてないですね。でも高校時代の61キロ級から階級をあげて、吉川と同様にこういうところでやっていけば優勝できる力が身についてくるんじゃないか、っていうのが垣間見えたので、その点はきょうの収穫ですね。
――昨年3位だった香山選手が4位に落ちた要因は
右が前なのに左手で相手の頭をいなそうとしたりして、相手のバランスが全然崩れていなかったんですよね。基本的な組み手だったり、コンタクトレスリングでやるのか、もう一回リセットしてどんなレスリングをやれば彼女はこの大会で表彰台じゃなくて優勝を狙えるのか。優勝を狙うためにはそういったところを見直したいですね。準決勝では明らかに組み手負けしていましたし、先に組み手を組まれてから強引にタックルを突っ込んでかわされて、バック、グラウンドは手を取られて返される、っていう。もう少しこういったことをやっていけばあの10点差なんて、半年や一年あれば十分追いつけると思いますね。まあ本人がそこをどれだけわかった上で練習するかっていうところなんですけど。芳美は力もあるんですが、まだまだタックルだったり組み手だったりつながっていくものがないんで、しっかり直していかないとな、と思いましたね。
――円陣ではどのようなお話をされていたんですか
田中幸太郎(平25社卒=現・阪神酒販)と石田智嗣(平24スポ卒=現・警視庁第六機動隊)の試合の反省点を話しましたね。田中については、ラストの30秒まではいいアタックができてたんですけど、そっから守っちゃったんですね。時間を稼ぐっていう頭がなく、タックルだけを取りにいっていれば絶対に勝っていた、と。石田の相手は最初にテイクダウンを取っていたのでテイクダウン取らないと勝てないよっていうのを学生には伝えたのと、勝負どころで守るんじゃなくて攻めに行くことで力はついていくんじゃないか、ということを話しました。
――あすに向けて
一人は優勝者が出てほしいですね。山口剛(平24スポ卒=現・ブシロード)が一番近いところにはいるんですけど、そう簡単には勝たせてくれないでしょうし。まあただやはりこれくらいのレベルで圧倒的に勝つようじゃないとオリンピックは行けないですし、国内で1点差2点差で勝ってもオリンピックの予選では勝てないでしょうし、正直山口には圧倒的に勝ってもらいたいと思いますね。現役選手には、とにかく練習でやってきたことを信じて、それを次に生かせるように頑張ってもらいたいですね。あとは多胡島(伸佳、スポ2=秋田・明桜)もオリンピック階級じゃないんですけど、もちろん優勝できる力を持ってるんで、今季の課題を克服するような試合をしてほしいです。最近は変に審判に左右されて、最後のもつれたケースにポイント取られて負けてることが多いんで。そういうのを払拭するような試合をやってもらいたいですね。
吉川航平(社3=秋田商)
――きょうの試合を振り返って
全体的には、誰が相手でも自分のスタイルは貫いてできたかな、と思います。
――緊張などはしましたか
1回戦の相手が高校の同期だったのですごく緊張したのですが、それ以外は気持ちの整理がついてそこまで硬くならずにできたかな、と思います。
――シードの選手を相手に試合をする機会が多かったですが、振り返ってみていかがでしたか
準決勝の有元先輩(伸悟、近畿大)には自分が仕掛ける前に全部タックルが入られる、という展開が続いてしまったので、先に攻める技だとかガブったあとの切り返しなどを覚えないともっと上は狙えないな、と思いました。
――3位決定戦を振り返っていかがですか
3位決定戦の相手も高校の先輩でいつもワセダに練習に来てくれる方なのですが、普段のスパーリングだとボッコボコにされているので少しでもくらいついてやろうという気持ちでやったのですが、グラウンドで返されるだとか無駄な失点が多かったので、そういう失点をなくしていかないといけないな、とすごく反省しています。
――課題は見つかりましたか
自分のかたちは確立しつつあるので、相手によってどのように対応していくのか、というのが次に向けての課題だと思います。
――収穫点はありましたか
今回の試合を通しては、あまり力で相手に押されている場面がなかったかな、と思います。そこは自分の長所として伸ばしていけるように頑張りたいと思います。
――主将として来季への意気込みをお願いします。
僕が1年生の時には内閣(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)で優勝しているんですが、それ以外は団体のタイトルには見放されているので、その団体のタイトルを狙ってチーム一丸となって頑張りたいと思います。
香山芳美(スポ2=東京・安部学院)
――きょうの試合を振り返って
初戦は勝って当たり前だと思っていたし、高校の先輩だったのでちょっと緊張したんですけど、自分のかたちでできたので良かったかな、と思います。2試合目はオリンピックの代表の選手ということでどのぐらいできるのかなというのはあったのですが、海外の遠征で感じたのと同じなのですが、差がまだまだあるなと思いましたね。でもコーチからも埋められない差ではないと言われたので、しっかりやっていけば確実に差は縮まると思うので、課題をしっかりつぶしていきたいなと思います。3位決定戦に関しては、この試合では2位以下の実力が拮抗していて誰が勝ってもおかしくないし、また同じトーナメントでやったら結果も変わってくるんだろうな、と思いました。学生の大会だと勝つか負けるかという試合しかしてこなかったのですが、そういう接戦のなかで勝てるようにならないと、全日本で上位の争いをしていくとなると実力が拮抗している中で勝たなくてはならないので、勝てる試合だとは思うんですけど、そういうところでしっかりと勝てるようになりたいな、と思いました。
――昨年の順位(3位)を超えたいと以前におっしゃっていましたが、その点については
準決勝に関しては仕方ないという言葉にはしたくないのですが、シード選手が発表された時点で川井梨沙子選手(至学館大)と当たるのは分かっていて、決勝に行きたいという思いがすごくあっても準決勝で負けてしまって。せめてきょねんと同じ順位でとどめておきたかったという思いはあるので、そういう意味ではすごく悔しいですね。でも、6月の全日本(明治杯全日本選抜選手権)と12月の天皇杯の出場権は今回で取れましたし、まだ半年と1年あるのでそこでリベンジをしたいな、と思いました。
――気持ちづくりの面ではどうでしたか
6月の全日本のときには気持ちづくりが全然できなかったので、それに比べると今回は良かったかな、とは思います。やはり海外の試合とかの方が緊張せずに自分らしい動きができて、準決勝では自分ではあまり思いませんでしたが周りからすこいビビった試合してたねと言われたので、そういうのは気持ちの面が出てるのかな、と思いました。6月から半年で成長はできたかなとも思いますが、もっと上手い気持ちづくりをしていきたいですね。
――川井選手と戦って見えた課題とは
いままで強いなと感じる選手は力が強いとかやりづらいとかそういう点だったのですが、川井選手の場合は力強いとかはあまり感じず、上手いし速いという感じで自分がこうしたいというかたちがあるのにも関わらずそれをやらせてもらえずに、気づいたら向こうのかたちになっていて崩れている、という感じでしたね。やはり自分のかたちに持っていかなくてはいけないのですが、大学に入ってからは組み手が課題で、どうしても自分のかたちに持っていけず、自分のかたちがどういうものであるのかも完成していないので、それをまずつくって上手い相手にも対応できるようにしないといけないな、と思いました。
――来季への目標をお願いします。
来季はジュニアからシニアになって試合数も減るので、一試合一試合を大切にしていかないとな、と思います。今季までは2ヶ月に1回は試合があったので、どんどん課題を見つけて、という感じでできたのですがそれができなくなってくるので、一戦一戦をしっかり取って、6月と12月でメダル取って満足、じゃなくてそのひとつ上に行けるように頑張りたいです。
髙橋海寿々(スポ1=東京・大森学園)
――緊張はありましたか
やりかった相手が棄権してしまった、というのもあって、まあ多少緊張はしましたけど特にダメだった、というところはありません。オリンピックの代表になるような強い選手がたくさん出ていた中でも自分のできることをやれば、それなりの試合ができるだろうし、それなりのところまではいけるのかな、と思って伸び伸びと試合ができました。
――天皇杯全日本選手権(天皇杯)に対してどのようなイメージをお持ちですか
日本で1、2番目に大きい大会で、しかも今回はリオデジャネイロオリンピック代表の選考会も兼ねている大会なので、この大会に出場する資格を得ることも大変ですし、何度この大会に出場してもその場の空気とかアップのときの雰囲気とかは他の大会とまるで違いますね。なんか、神々しいような大会です。
――大会前に周囲の方からどのような声をかけられましたか
できることをやって来いよ、とか、変に緊張すると自分の力出し切れないよ、とかですかね。先輩方や普段応援してくださっている方々に会ってご挨拶して、いろいろ声をかけてくださったのですごい励みになりました。友人からの頑張ってねの一言も自分の中で大きかったりします。
――きょうの試合を振り返って
1試合目の相手は女子オープン(全日本女子オープン選手権)の決勝で戦った相手なんですけど、勝てたことや点がスムーズに取れたこと、それに意識してきた組み手も前回よりはうまく使えるようになっていたことは良かったんですけど、6分間も戦ってしまったということに関しては反省しないといけないと感じています。 2回戦目に対戦した伊藤彩香選手(東新住建)はアメリカ遠征(ビル・ファーレル国際大会)で対戦した相手だったんですけど、その時は0-8負けてしまって。でも今回は2-4で得点もできたし、点差も縮まったので、成長を感じられる試合だったと思いますね。そこでも練習してきた組み手やフェイントとかも少しは通用していたのかな、と感じます。3位決定戦での村田夏南子選手(日大)は高校時代の天皇杯で対戦した相手で。またこの大会で引退されるということだったので、自分がどう爪痕を残せるのかということを考えながら対戦しました。苦手意識を感じながら試合をしてしまったので、組み手とかを積極的に来られて押されてしまいましたね。相手の頭をしっかり崩せたので、そこは収穫だったと思います。
――自分の思うようなプレーはできましたか
練習してきたことは少しでもできていたし、いままではタックルも全然入っていなかったんですけど、今回は入れることができました。1年間練習してきたことを全く出せなかった、ということではないので個人的には結果の4位はこの1年間の集大成としてはよく頑張ってこれたな、という印象です。
――きょうの試合を通じて見えた課題や収穫点は
タックルが入っているのにそこから点を取りきるということができない、という点が課題ですね。技は持っているんですけど、振り切る力とかタイミングとかの技以外のところを鍛えていかないといけないな、と感じました。テクニックは負けてはいないと思うので、それをいかにして通用させていくかが一番の課題だな、と感じました。
――今大会の結果を踏まえて次への目標をお願いします
目標は表彰台でしたが、今回は4位という結果に終わってしまいました。明治杯全日本選抜選手権への出場権を獲得しましたし、次はそこで今回負けた相手に勝ちたいですし、勝った相手にはさらに差をつけていきたいです。今回対戦していない強い選手の方々に対してはいかに実力を近づけていけるかが課題だと思います。
米澤圭(スポ1=秋田商)
――緊張はしましたか
大学1年なのであまり気負いせず、思いっきり自分の持っている力を出し切れればいいと思っていたので、そこまで緊張はしなかったですね。
――天皇杯全日本選手権(天皇杯)に対してどのようなイメージを持っていますか
リオデジャネイロオリンピック代表の選考会なので、どの階級も本当に強い選手しかいなくて、勝てるかどうかかなり心配でした。
――大会前に周囲の方からどのような声をかけられましたか
とりあえず思いっ切りやってこい、とだけ言われましたね。
――きょうの試合を振り返って
初戦はいつも通りのプレーができて勝てたんですけど、次の準々決勝は相手に差される場面が多くて自分の動きができなかったですね。あとは、グラウンド取られてローリング返されてしまったのが結構デカいな、と思いました。これからはフィジカルの強化に取り組みたいと思います。
――きょねんと今回とでは印象に違いは感じましたか
きょねんは高校生だったので、何も考えずに相手にタックルしに行ってました。今回はいつもと違って落ち着いた感じで攻めていきました。組み手から組み立てて、相手がタックルで返して来ればカウンターするって感じで、きょねんより幅広くレスリングができていたと思います。
――負けてしまった相手のタイプはいかがでしたか
差しとか、とにかくくっついてくるタイプだったので、自分的にはすごくやりにくかったです。
――きょうの試合を通じて見えた課題点や収穫点は
自分が負けた相手も6月の明治杯で2位という実績のある選手だったので、グラウンドで返されなければ普通に試合ができていたのかな、と自信になりましたね。
――今大会の結果を踏まえて次への目標をお願いします
この大会で1勝したことにとってらいねん6月の明治杯全日本選抜選手権への出場資格を得ることができたので、それに向けてフィジカル面やきょう見つかった課題を克服していきたいです。