春の新人戦から半年が経ち、秋の新人戦(東日本学生秋季新人選手権)が開幕した。半年でどの程度の力がついたのか。おのおのが自分の腕を試す格好の機会となった。初日はフリースタイル(フリー)が行われ、先日の内閣杯(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)で銀メダルを獲得した伊藤駿(スポ1=京都・網野)は優勝を飾った。春の新人戦は1回戦敗退に散った伊藤奨(スポ2=長崎・島原)も夏から調子を上げており、優勝こそ逃したものの2位へと躍進を遂げる。矢野富三家(スポ2=島根・隠岐島前)も3位に入賞し、早大からは計3名が表彰台にのぼった。伊藤駿は2日目に行われたグレコローマンスタイル(グレコ)でも2位につけ、フリー、グレコの両スタイルで健闘を見せた。
活躍が目覚ましいのは57キロ級の伊藤奨だ。「インカレで3位になってからは自信がつきました」。その言葉通り、それからは徐々に勢いを増す様子がうかがえる。今回も良い流れのまま試合を展開し、準決勝までの試合をとんとんと勝ち抜いていく。主導権を握る姿勢を常に崩さない、といったような善戦を繰り広げてみせた。けれども、やはり優勝への道だけは近いようで遠かった。決勝ではなかなか自分からタックルを仕掛けることができず、もどかしいムードが続いてしまう。着々と2ポイントを重ねられ、終わってみると6点差がついていた。「相手が一枚上手だった」とこぼした伊藤奨。来季は優勝の二文字をつかめるか。そのための近道は、まずチャンピオンを倒すことだろう。
決勝に進むも、優勝までが遠かった伊藤奨
準決勝、決勝ともにテクニカルフォール勝ち。70キロ級のマット上で相手を次々になぎ倒していったのは伊藤駿だ。他を寄せ付けない圧倒的な強さ。その武器は、自身も得意とするタックルに他ならないだろう。グレコでも基本としている部分は同じで、相手の体を豪快に抱え、倒しにかかる。そのスタイルのまま決勝まで漕ぎ着くと、ここで初めて苦戦を強いられた。両者の攻め合いが続いたのち、開始2分で同点に。すると相手の猛攻にやられ、たったの1分間で投げ技なども含めた8点を奪われてしまった。惜しくも両スタイルでの優勝とはならなかったが、それでもフリー優勝、グレコ2位という好成績だ。しかし、「(両スタイルで)優勝しなきゃいけない位置にいる」と期待も大きいだけに、「自分から組み手を使った攻撃をやって欲しかった」とやや不満の残るコメントを残した山方隆之監督(平4年卒=福岡・築上西)。細かい部分の修正だけでも大きく化ける可能性がありそうだ。
伊藤駿。余力のある様子で快勝した
春から秋にかけ、いずれの選手も確実に前進を遂げていた。また、らいねんになり学年が上がると、「これまで以上にいろんな試合で結果が求められてくる」(伊藤奨)のも確かだ。新体制で挑む初の団体戦・東日本学生リーグ戦(リーグ戦)まではさらに半年という十分な期間が残された。リーグ戦の優勝を狙うには、今回の結果の良し悪しに立ち止まっている暇はないだろう。上の立場としてしっかりと結果を残す、という責任を負うことになる選手たち。勝ちにこだわり続け、さらに前進を。早大レスリング部の進化は続く。
(記事 寺脇知佳、写真 杉野利恵)
「久しぶりの優勝なので嬉しかった」(伊藤駿)
結果
男子
▽フリースタイル
57キロ級 伊藤奨 2位
橋本星良(人1=茨城・土浦日本) 3回戦敗退
矢野富三家 3位
70キロ級 伊藤駿 優勝
斎藤隼佑(スポ1=群馬・館林) 準々決勝敗退
▽グレコローマンスタイル
59キロ級 伊藤奨 3回戦敗退
橋本 2回戦敗退
矢野 3回戦敗退
66キロ級 米澤圭(スポ1=秋田商) 準々決勝敗退
71キロ級 伊藤駿 2位
斎藤 2回戦敗退
コメント
山方隆之監督(平4年卒=福岡・築上西)
――まず初日を振り返っていかがですか
57キロ級の橋本星良(人1=茨城・土浦日本)は3回戦も勝てる試合だったんですけど、相手の組み手に合わせてしまい、相手に主導権がいってしまいましたね。試合では練習でできない経験ができていると思うので、次に生かせる試合だったのかな、と思います。矢野富三家(スポ2=島根・隠岐島前)については、本人にも言いましたが練習でやってきたことが出し切れていなかったですね。かたくなっている部分があったので、技術的な面でもそうなんですけど精神的な面でも改善していかなきゃいけないんじゃないの、という話をしました。伊藤奨については、決勝に行くまでは自分の組み手で主導権を握っていて、良い試合展開かな、と思いました。ただ、決勝については組み手の部分で相手のほうが一枚上手、という部分があって、どうしても相手に主導権が渡ってしまった、というところでちょっと残念な結果になったのかな、と思います。やはり優勝するような強い選手にも通用するような組み手というものをもっと突き詰めてやっていかなければいけないな、ということを本人にも言いました。斎藤隼佑(スポ1=群馬・館林)については、きょうの試合は勝てそうなところまではいっていたんですけれど、実は体調を崩していて、きょうの試合も出れるかどうかという話をしていて、そんな中でよくやったとは思うのですが、本人にも言ったのですが体調を崩すということは試合をやるまでも負けている、と。同じことがないように自己管理を徹底してやれ、と言いました。伊藤駿(スポ1=京都・網野)は、実力的にも優勝しなきゃいけない中できっちり優勝したという点は良かったです。ただ正直、実力差があったと思うので、もうちょっと自分から組み手を使った攻撃をやって欲しかったな、というのはありました。ずば抜けて強いというわけではないのですが、優勝しなきゃいけない位置にいると思うので、もう少し大学でやっているレスリングを出して欲しかったな、というのはありますね。
――2日目を振り返って
結果として伊藤駿だけ決勝に行きましたが、決勝は負ける相手じゃないんですけど、細かいところができていなくて、結果負けてしまった、と。基本的にフリーに生かすためにグレコ(グレコローマンスタイル)をやっている、というのがあって。春の新人戦でも同じようにやったんですけども、春に比べるとやはり秋のほうが、グレコっぽく、とまではいきませんが、組み手が多少できるようになったのかな、という点では全体的に進歩している、と感じた試合でした。
――チームを引っ張っていく存在となる1、2年生に今後期待することはありますか
団体戦では、リーグ戦(東日本学生リーグ戦)が7位、グレコ選手権(全日本大学グレコローマン選手権)では順位がつかないような結果で、そして内閣杯(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)では4位になり、徐々に上がっていった部分があるので、その上り調子をらいねんに引き継いで、リーグ戦から優勝目指してやって欲しいなと思います。ただ、1年ごとに違うチーム、新1年生が入ってきますし、違うチームになると思うので、自分たちのチームの色を新4年生がしっかり出して、それを後輩たちに浸透させて上っていってほしいな、と思います。
――天皇杯(天皇杯全日本選手権)への展望は
きょねんの天皇杯はいま現役の学生で金子和(社4=群馬・大泉)と多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)、香山芳美(スポ2=東京・安部学院)しか出ていなかったんですね。春の明治杯全日本選抜選手権も同じくあまり人数を出せなかったので、天皇杯に出れるように頑張ってくれ、と言っていて。その中でことし天皇杯に出るメンバーは10人というレベルになっているので、1年間の底上げということが、まずは天皇杯というところでできてきているのかな、ということは感じています。今度の天皇杯というのはリオのオリンピックの予選大会への出場権がかかっている試合なので、本当にみんな目の色を変えてくるでしょうし、階級を変更して出てくると思うので、きょねんの天皇杯よりもレベルは上なんだろうな、と思います。その中で自分がどれだけのことをやれるか、と。1試合でも多くやってほしいな、と思います。
伊藤奨(スポ2=長崎・島原)
――2位になった感想は
準決勝で強い選手と当たる予定でしたが、その選手が棄権していたので最低でも決勝には進まなきゃなと思って試合をしました。目標は達成できたので良かったのですが、決勝戦では自分が思っていたよりも相手との差を感じなかったので、そこで勝てたらもっと良かったなと思います。
――東日本学生春季新人戦(春季新人戦)では1回戦敗退でしたが、そこから今回決勝に残るまでを振り返ってみていかがですか
ことしはJOC(JOCジュニアオリンピックカップ)も春季新人戦も1回戦で負けてしまって、あのときは自分のレスリングスタイルが全然できていなかったし、フィジカルの面でもダメダメでした。夏のインカレ(全日本学生選手権)からだんだん調子が上がってきて結果もついてきて、さらにインカレで3位になって自信がつきました。この前の内閣杯(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)でも負けてしまったものの、意外とやれるなという手応えがあったので、今回も自信を持ってやれば勝てるのかなと思って試合に臨みました。
――決勝戦を振り返ってみていかがですか
最初の2点は自分で取りにいった2点ではなくて相手のミスという要素が強かったです。それも含めて6分間トータルで見たら、試合の組み立て方も相手の方が上手くて、相手が一枚上手だったかなとは思います。
――良かった点と課題点は
良かった点は、得意なカウンターも取れたし、カウンターのあとバックに回って股裂きという技をやるのですが、その技を返せた場面も多くあり、だんだん試合をするたびに自分の形が確立されてきたのは良かったかなと思います。決勝も含め、カウンターを狙いすぎてしまい、自分からタックルを取りに行くという場面がちょっと少なかったかなと思いました。次は天皇杯(天皇杯全日本大学選手権)になると思うのですが、格上の選手に対して自分からどれだけ攻めれるのかというのが課題ですね。
――3年生という上級学年になるにあたって、チームでの自身の役割についてどのように考えていますか
これまで以上にいろんな試合で結果が求められてくると思います。いままでは先輩たちに思いっきりやれと言われた通りに思いっきりやって、勝ち負けはそこまで気にしていなかったのですが、これからは後輩が思い切ってやれるように3、4年生が特にリーグ戦(東日本学生リーグ戦)などでは勝たなくてはいけないと思います。そういう意味でいままで以上に責任が生まれてくると思うので、練習からそういうことを意識してやらなきゃな、と思います。
――天皇杯に向けての意気込みをお願いします
格上の選手が多いと思うのですが、今回の決勝の相手も全日本3位だったりと強いのは確かですが、思った以上に差は感じませんでした。自分のスタイルとしては体力はある方ですし、粘って泥試合になればチャンスもあると思うので、自分の良さを出せればいいかなと思います。
――来季への目標をお願いします。
来季は新人戦がなくなって試合数が少なくなるのですが、リーグ戦でレギュラーとして出て、インカレも決勝に行けるように頑張りたいです。
伊藤駿(スポ1=京都・網野)
――優勝した感想は
久しぶりの優勝だったので嬉しかったです。
――決勝戦を振り返って
得意のタックルが決まったので良かったと思います。
――準決勝、決勝とテクニカルフォール勝ちを収めましたが、逆に何か苦戦した部分はありましたか
特に無かったです。
――良かった点は
グラウンドを返せたことです。
――課題点を挙げるとすれば
相手にタックルを入れるタイミングがばれてきていてなかなか入れなかったので、組み手などを中心に練習を頑張っていきたいと思います。
――天皇杯全日本選手権の目標をお願いします。
まずは1戦1戦勝てるように頑張っていきたいと思います。
――来季への意気込みをお願いします
全国大会優勝を目指します。