明治杯全日本選抜選手権は2日目を迎え、早大からは髙橋海寿々(スポ1=東京・大森学園)が63キロ級、多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)がフリー70キロ級に出場した。髙橋は全日本の大会で初の1勝。しかし2回戦では昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)で圧倒されてしまった相手である村田夏南子(日大)に完封負けを喫した。多胡島は初優勝が懸かった決勝戦に挑んだ。強豪の小島豪臣(中原養護学校教諭)に2-0で敗北。競り勝つことのできなかった試合に悔しさが残ったが、実力は十分に発揮した。
初戦で昨年の天皇杯5位の相手にフォール勝ちした髙橋。「勝てて良かった」と、全日本の大会で初めて勝つことができた喜びを述べた。しかし、「行き当たりばったりというか、セオリーがない」と太田拓弥コーチ。2回戦では世界で活躍する選手になすすべなくテクニカルフォール負けを喫し、自分より年上や格上と当たり前に勝負しなければならないこの大会の厳しさを味わった。太田コーチが言うように、世界を相手にする選手と対等に戦うためにはまず自分の攻撃パターンを確立することが求められている。加えて、自分の良いレスリングを仕掛けるなどのプラスアルファのパフォーマンスができるかが今後のカギとなるだろう。
この体勢から返されてしまった髙橋
「天皇杯では2位でしたが、自分の中で全日本2位の選手の器にまだ達していないと思っていました」(多胡島)。自分の実力と心境とのギャップに不安を抱いたまま臨んだ今大会。開始20秒で片足を取られ2点をリードされてからは、取り返しを図るため、多胡島の猛攻が続く展開が繰り広げられた。相手は強く、多胡島のスタイルは封じられるのみ。第2ピリオドにもつれ込むも、スコアはそのままの2-0で劣勢状態が続く。ついに、残り15秒で最後の力を振りしぼり、素早くタックルを繰り出した多胡島。しかしタイミングが合わず逃げられてしまい、ポイントは取れずに試合は終了。勝てそうで勝てない接戦での敗北だった。あとひと押しだった試合を振り返り、多胡島は「自信を持ってどんな相手とも対戦できるようにしないといけない」と、不安だった試合前の心境を反省。精神面でもうひと踏ん張りできるかが課題となった。
開始早々2点を失った多胡島。奪い戻せなかった
髙橋が次に控えるのは今月末の東日本学生春季新人戦。経験を積み、夏に待ち受ける大舞台・全日本学生選手権までに自分の攻撃パターンを極めることが急務となる。また、毎試合において練習でのレスリングをいかに本番で再現できるかを意識している多胡島は「練習がちゃんと実を結んだかな」と、不安な気持ちの状態のかたわらでも実力を出せたことを確認した。8月頭に行われるスペインでの国際大会に向けても練習を積み、勝負強さを発揮したい。それぞれが明治杯で得た収穫を糧にどこまで飛躍できるのか。いま、真価が問われている。
(記事 寺脇知佳、写真 谷田部友香)
練習が実を結び、銀メダルを得た多胡島。表彰台で輝く!
結果
▽女子63キロ級 髙橋 2回戦敗退
▽フリー70キロ級 多胡島 2位
コメント
太田拓弥コーチ
――髙橋選手(海寿々、スポ1=東京・大森学園)の試合を振り返って
1回戦はよく粘って勝ったかなとは思うのですが、自分から仕掛けた技ではなかったので、課題点だと思います。2回戦は相手も強い選手だったのですが、なにかこう仕掛けて欲しかったですね。なにもできずに終わっちゃったかな、と思います。勝った相手も引退している社会人の方なので、これがバリバリ大学生とか今まで勝ったことのない相手に勝ったとかなら評価できるとは思うのですが、大会自体の初勝利ということに関してはよくやった部分ももちろんあるんですけど、正直あの試合だと自分の良いかたちのレスリングがやりきれていなかったので、課題点です。
――JOCジュニアオリンピックのときには自分の攻撃スタイルを確立させることが課題だとおっしゃっていましたが
まだ行き当たりばったりというか、セオリーがないですね。多胡島(伸佳、スポ3=秋田・明桜)だったらこれ、というパターンがあるじゃないですか。優勝している早大のOBでもこの選手はこれ、という代名詞みたいなのがあるじゃないですか。まだ髙橋はそういうのがないので、どういったかたちで自分のスタイルを見極めていくのか、というのが課題です。そこをもっともっとやってかないといけないかな、と思いますね。
――多胡島選手の決勝を振り返って
相手もやっぱりベテランなので前さばきがうまく、多胡島がやろうとしているスタイルを封じ込まれてしまいましたね。タックルも2回入ったんですけれども、それも相手が崩れて中心を確保してのタックルではなく、半ば強引に入っているようなタックルだったので、取りきれなかったというのがありますね。そこを取り切るためにはやっぱり崩し、フェイント、浮いたところをタックル、中心が崩れたところをタックル、というのを突き詰めてやらないとああいったベテランの選手にさばきでやられるかな、とは思いますね。足りないところは、組み手のときの頭の位置であったり、相手が手を置いてきたところを腕をとって攻撃するパターンであったりです。コンタクトしてからのレスリングスタイルを磨いていかないと、今のスタイルだとこの大会では厳しいですね。
――終盤で惜しい展開がありましたが
やっぱり良いタイミングで入りきれていないんですよね。半ば強引にいっちゃってるんでコントロールできないんですよ。良いタイミングで入っているときはだいたいポイントにつながってくるので、前さばきができていないのがポイントをとりきれなかった一つの要因でもありますね。
――あすに向けて
部内で多胡島、金子(和、社4=群馬・大泉)の二人がきょねんの一年間で伸びた選手だと思うので、表彰台には上がってもらいたいなと思いますね。
髙橋海寿々(スポ1=東京・大森学園)
――今大会には推薦というかたちでの出場でしたが、どのようなテーマを持って臨まれましたか
大学に入ってから初めての全日本で、私の出ている階級はオリンピック階級なのでリオ(五輪)の予選会という大事な大会に出場できたということはすごくうれしい気持ちと、高校の時に出ていた大会だったのでそこでできなかったことを一つでも多くできるようにやろうと思って挑みました。
――やろうと思っていたことというのは具体的に何ですか
基本的には自分より年上や格上と当たり前に当たるので、何か自分から一つフェイントでも仕掛けてみようという気持ちです。やられっぱなしではなく、自分が先に仕掛けてみようと思っていました。
――初戦は天皇杯全日本選手権(天皇杯)5位の歌田圭純選手(埼玉西部消防局)にフォール勝ちでした。その試合を振り返っていかがですか
(歌田選手が)きょねんの天皇杯で自分の同い年の選手に勝っていたなということをきょうマットを前にして思って、年上で天皇杯5位で、それまでもずっと全日本に出ていらっしゃる選手だったので格上なのは覚悟していたのですが、渡利選手(璃穏、至学館大)や伊藤選手(友莉香、環太平洋大)のように世界で活躍している選手ではないので、勝算はあるなと思ってぶつかっていきました。最初はびびってしまったのですが、一つ入ったら点を取れたので、第2ピリオドは自信を持っていきました。自分から攻めていくことはなかなかできなかったのですが、とりあえず勝てて良かったです。
――試合後にはガッツポーズもされていましたね
大学に入って親元を離れて、親や小さい頃から支えてくださった方々が一緒に応援してくれたので、全日本で初めての勝てた試合だったので「何とか一勝したよ」と。うれしかったです。
――敗れてしまった準々決勝についてはいかがですか
きょねんの高校最後の天皇杯の1回戦で村田選手(夏南子、日大)と当たって、グルグルに回されて何もできなくて、世界で活躍されている選手なのですごいなと差を感じました。圧倒されてしまったのですが、全く手が届かないわけではないなと、爪ぐらいはかすめられるんじゃないかなと思っていたので、前回よりはまともな試合ができたんじゃないかなと思います。
――山方隆之監督(平4人卒、福岡・築上西)は「自分のレスリングを出し切ってほしい」とおっしゃっていましたが、それはできましたか
できることを100パーセントできたと言うと嘘になってしまうのですが、前回当たった時と比べると、自分が仕掛けて相手が崩れたり少しずつ崩すことができたので、これからも何回も当たると思うのですが、そこで徐々に相手との距離を縮められたらな、と思います。
――JOCジュニアオリンピックカップから、ご自身の攻撃スタイルは確立できてきましたか
昔みたいな力任せにガツガツというスタイルから、大学に入っていろんな先輩方から教えていただいて刺激を受けて、新しい自分のかたちが徐々に形成されてきたのかな、とは思うのですが、昔の自分の動きが出てきてしまったりしてなかなかまとまることができないでいます。でもJOCでできたことは今回できたと思いますし、何となくできてきているな、という手応えはありました。
――東日本学生春季新人戦(新人戦)に向けて目標と意気込みをお願いします
新人戦は2キロオーバーということで、今回は体重調整を失敗してしまってみなさんにご迷惑を掛けてしまったので、新人戦はもうすぐ迫っているのですがそれも遠い相手ではないのでできることをやってぶつかって、優勝を目指して頑張りたいです。
多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)
――大会を終えていまのお気持ちは
天皇杯(天皇杯全日本選手権)で2位になったのですが、自分の中で全日本2位選手の器にまだ達していないと思っていたそんな不安な中で試合に臨んだのですが、ある程度コンディションが悪い中でもあそこまで行けてああいう試合ができたということでは、本当の実力が付いたのかな、と思いました。
――初戦、準決勝を振り返っていかがでしたか
周りの方からはいかに決勝で小島さん(豪臣、中原養護学校教諭)に勝つかということを言っていただいていたのですが、僕の気持ちとしてはそれどころではなくて、まずそこに行くまでにどうするかということが不安でした。それでもちゃんと勝てて決勝をいいかたちで迎えられたので、本当に良かったと思います。
――決勝の相手は天皇杯と同じ小島選手でしたが、対策は考えていましたか
全く対策は考えていなくて、小細工が通用するような相手ではないと分かっていたので、自分の良いところを出して相手の一つ一つに対応するということだけ考えていました。
――ご自身の良いところは出せましたか
そうですね。出せましたが、まだ出せるし出さなければいけないなと思います。
――天皇杯と比べて手応えはいかがでしたか
手応えはあるのですが、それは自分が慣れてやりやすくなっているだけかもしれないので、自分の技術の底上げはここで安心しないで引き続きやっていかなければいけないな、と思いました。
――試合後悔しそうな様子も見せていましたが、悔しい思いは大きかったのでしょうか
僕の中で勝てそうで勝てない試合というのは一番やりたくない試合で、競って勝てないというのは技術が足りないというだけでなくメンタル面も含めて、そういう負け方が一番嫌でした。きょうも0ー2で、2回チャンスがあったのにもかかわらずものにできなくて。勝負強い試合をしないといけないので、その点が悔しかったです。
――きのう、山方隆之監督(平4人卒=福岡・築上西)、太田拓弥コーチ共に「自分のスタイルを出してほしい」とおっしゃっていましたが、それはできましたか
そうですね。練習の時から、練習の通りに試合でできるかということをリーグ戦(東日本学生リーグ戦)が終わってからやってきて、それがちゃんと実を結んだかな、と思っています。
――今大会を通じて得た課題は何ですか
もっと自信を持ってどんな相手とも対戦できるようにしないなと思います。格下は格下で「負けてしまうんじゃないか」とか、格上は格上で「通用するかな」とかを考えてしまうので、僕の場合はもっと自信過剰にやっていかなければいけないな、と思います。
――今後の試合の出場予定は
個人的には7月の上旬にスペインへの遠征があって、そこで国際大会があります。チームとしてはインカレ(全日本学生選手権)です。
――スペインではどのように戦っていきたいですか
ことしの冬にデーブシュルツでアメリカに行き、そこでは結果が良くなかったのですが、そこで出た課題を踏まえてこの半年間やってきたので、そういう意味で自分の上積みは絶対にないといけないのでそれを感じられるように、外国人を上回ることができるように、勝負強くやっていけるよう遠征を頑張りたいです。
――最後に、インカレに向けて
インカレは全員知っている選手で、自分の長所を出すことも大事なのですが、きょねん(タイトルを)取っていて追われる立場で、研究されていると思うので、短所を突かれないようにしたいです。短所を削って、長所を出すということを意識してやっていきたいです。