2014年の最終決戦となる天皇杯全日本選手権が幕を開けた。1日目、2日目を合わせて60キロ級・香山芳美(スポ1=東京・安部学院)が3位、フリースタイル(フリー)70キロ級・多胡島伸佳(スポ2=秋田・明桜)が2位入賞と、全日本の大会で躍進を遂げた。
3位決定戦で攻める香山
初日に出場した香山のヤマ場は準決勝だった。開始早々に背中に回られてしまい、追いかける展開に。1ピリオド(P)終了際に再び危ない場面を迎えたが、ディフェンスで粘り追加点を与えない。劣勢が続いたものの、後半になると香山も徐々にペースをつかみ始めた。試合終了前のラストチャンス。返し技を試みるも脇の甘い不完全なかたちで仕掛けたため、逆に失点してしまう。準決勝で敗れた香山は3位決定戦に回った。
3位決定戦では同階級の全日本学生選手権優勝者と対峙した。序盤は相手に押され、2点のリードを許したままピリオドを折り返す。しかし2Pでは積極的にタックルで前へとプレッシャーをかけ、それを起点に得点につなげていった。これまでの対戦では負けていた相手から勝ち星を挙げ、3位入賞を果たした。
(記事、高畑幸 写真、三尾和寛)
多胡島は接戦ながら強豪選手を破り、決勝まで駒を進めた。決勝の相手はアジア大会3位の実力者、小島豪臣(中原養護学校教員)。序盤こそ持ち前の積極的な攻撃で競り合いを繰り広げる。それでも、2P中盤でバックポイントを奪われ2点のビハインドを負ってしまう。終了間際に相手の警告で1点を獲得するも、試合は4-3で終了し優勝には手が届かなかった。学生二冠王の実績を誇る多胡島。フリー70キロ級で日本一の小島を封じることはできなかったが、「技術で敵わない部分は体力でカバーできた」と語るように、その試合内容には満足の表情を見せた。
バックポイントを奪う多胡島
早大からは香山と多胡島の2名が入賞を果たした。今季最後の大舞台で健闘を見せたことは、両者の自信に、また他の部員たちの来季へのモチベーションにもなったことだろう。それぞれの選手が納得のいくレスリングを――。その先にある優勝を見据え、飛躍に期待がかかる。
(記事、寺脇知佳 写真、高畑幸)
★OB2選手も優勝!
2日目に出場したフリー97キロ級・山口剛(平24スポ卒=現ブシロード)、同65キロ級でアジア大会5位の石田智嗣(平24スポ卒=現警視庁第六機動隊)がそれぞれ優勝を果たし、両者共に3連覇を達成した。
タックルで攻める山口
山口はケガで6月の明治杯全日本選抜選手権には不出場だったが、タックル、グラウンド技と強さは健在。終始、落ち着いた試合運びで優勝を飾った。
一方、65キロ級の決勝は田中幸太郎(平25社卒=現阪神酒販)との同門対決に。同じ早大出身者同士、相手を十分に知り尽くしており均衡した試合となった。最終的には、田中がタックルに入ったところで返し技を決めた石田が優勝を果たした。
田中との早大対決を制した石田
結果
女子
▽60キロ級
香山 3位
男子フリースタイル
▽70キロ級
多胡島 2位
コメント
太田拓弥コーチ 1日目
――香山選手が3位となりました。試合についていかがでしたか
基本的なところがまだできていない部分がかなりありましたね。修正していかないといけないと感じました。がぶっている状況の時に、ポイントを重ねられるチャンスはあったのですが、腕を奪われて相手の背中に回りきれない場面が3、4回あったので。力任せに技を仕掛けてしまうこと、準決勝では足がそろっていたところをタックルに入られてしまうこと、良いかたちでタックルに入ってもテークダウンまではつながらなかったこと。そういったところを改善していけば、全日本のレベルでも優勝も手に届く位置にはいると思うので、とりあえず表彰台に上ることができたのは良かったかなと思います。
――攻撃面でタックルについてはいかがですか
今シーズン1年を見ていて、勝てたときはタックルでポイントが取れた試合で、負けているときはそのタックルを切られてしまったときですね。結局、準決勝では切られてしまって負けた、3位決定戦ではタックルで取れたから勝ったというところですね。もう少し、確実にポイントを重ねていく基本的な動作について修正が必要になってくると思いますね。
――ディフェンス面では脇が甘かったという印象ですか
準決勝のがぶり返しにしても脇が甘かったので、相手に技がうまく掛かりませんでした。しっかりと脇が締まっていれば、相手を封じ込められるので掛かりきったと思うのですが。固め方が緩かった分、角度によっては相手を返しているように見えたと思いますが、正直なところセコンド側から見ているとあわよくば返し技が決まっているかなというかんじでした。チャレンジされて相手が成功した判定は妥当な判断だと思いますね。実力的にはあと一歩というところですね。本人もこれで満足はしていないと思うので、これからの課題ですね。ただ60キロ級はオリンピックにある階級ではないので、60キロ級で実力をつけて経験を積んでオリンピック予選のシーズンは58キロ級に落とす方向で本人と相談しながらやっています。
――来年度入学される米澤圭選手も出場されていました。どのような印象でしたか
最初の4分間は100点満点の出来でしたね。正直な話、テクニカルフォール勝ちするのかと思っていましたが、相手も実力のある選手だったので最後一気に5点取られてしまいましたね。後半に明らかにばててしまっていて足りない部分は体力面と分かりました。大学トップレベルの実力はもうすでにあると思うので、そういったところを重点的にレベルアップをしていきたいと思いました。脇を差されている場面も多かったのでそういったコンタクトをしてからのレスリングを改善していけば勝てるチャンスはあるのかなと感じますね。あの子が入ってくることによって、チームがより底上げできる可能性もあるので、多胡島と2枚看板で4年生も含めて底上げしていきたいなと思います。
香山芳美(スポ1=東京・安部学院)
――試合を振り返っていただいて、3位という結果についてはいかがですか
いままではベスト8が最高で表彰台に上がったことがなかったので、メダルを取れたことは素直にうれしいのですが、内容を見ると、準決勝で勝ちたかったなという思いが強く、悔しい気持ちです。3位決定戦で勝てたのはよかったのですが、勝ち上がったからこそ、準決(準決勝)が悔しくなってくるという気持ちが強いです。
――(3位決定戦について)最後まで攻めの姿勢で臨んでいたように感じたのですが、どのようなお気持ちだったのでしょうか
相手が高校の1つ上の先輩で、小学校・中学校くらいから何度も対戦をしていたものの一度も勝てていなかった選手だったので、その選手に勝ちたいという気持ちはありました。しかし、気負ってやるよりも、1回準決で負けてしまっていたので、勝ち負けではなくて、この大会のテーマとして、大学で練習してきたことを出すということがあったので、勝ち負けを気にせずそれをしっかりやろうというように思っていました。
――対戦相手は全日本学生選手権のチャンピオンでしたが、試合を振り返っていかがですか
もともと勝ったことがなく、今シーズン最初のクイーンズ(ジュニアクイーンズカップ)でも負けているので、今大会で入学から12月まででどの程度成長できたかということが確認できるかなと思っていました。どうしても勝ち負けを気にしてしまうと上がってしまうので、初戦と準々決勝とあまり自分の動きができていませんでした。いままでの試合で調子がよかったときというのは、負けてもいいやという気持ちでやっているときだったので、練習だと思ってやろうと思いました。
――準決勝での粘りが印象的でしたが、本日のディフェンス面での自己評価はいかがですか
ディフェンス面は、準決勝でタックルを取られてしまうといった、3位決定戦もそうなのですが、相手があれで来るということがわかっていたのに対応できていないので、わかっていて守れないというのはまだまだ強化していかなければならないなと思いました。
―― 今大会は今季最後の試合でしたが、今季を振り返っていかがでしたか
今季は大学1年目で、いろいろ挑戦していく年だったと思うのですが、前半は国内でも調子が悪くかったです。後半は、女子オープン(全日本女子オープン選手権)であったり国際大会(ビル・ファーレル国際大会)で優勝することができて、全日本(明治杯全日本選抜選手権)も6月は初戦で負けてしまったのですが、メダルを取ることができたので、練習などではあまり自分で感じることはないのですが、一歩一歩少しずつ成長できているのかなと感じました。しかし、このペースで強くなっていってもオリンピックには絶対間に合わないと思うので、来季はもっと考えて上のレベルに早く行けるように頑張っていきたいと思います。
太田拓弥コーチ 2日目
――多胡島選手の決勝戦を振り返ってみていかがですか
相手が左から差して攻撃してくることは読めていました。そこはうまく対応できていたので良かったと思いました。少しズルズルやられてしまうのではないかと思っていましたが、そこからの攻撃もできていたので次につながるかなと思いました。
――攻撃面についてはいかがでしたか
終始、積極的にやっていたと思います。アクティビティタイム中に勘違いがあって、しっかりとテークダウンを取っていれば流れは変わっていたと思うのですが。結構、良いかたちで攻撃はできていたと思いますね。それでも強い選手は足を取ってから切らすことなく攻めてくるので、そこが課題かなと思いますね。これからも本人のスタイルを磨いていけたらと思っています。
多胡島伸佳(スポ2=秋田・明桜)
――きょうはどのような気持ちで臨まれましたか
練習でやったことを出したいな、と。結果があまり考えてないです。
――準決勝、決勝と社会人選手と対戦しましたが、どのように感じましたか
技術で敵わない部分は体力でカバーしたり、社会人選手への戦略を実行できたのでよかったです。
――決勝戦では接戦となりました。敗因はどのようなことだと感じていますか
あれがいまの自分の実力と捉えているので、悔しいですけど、ことし1年間負けずにきて、それでああいう負け方をできたのはすごくよかったです。
――決勝戦が始まる前はどのような心境でいましたか
本気でやろうと思っていました。楽しんでやるというか練習でやっていることを出そうと思っていました。
――決勝ではご自身のタックルを封じられていたように思われましたが
そのレベルになるとそんなに簡単に決まるものでもないので、ただ、物にするところはできていたので、それは満足しています。
――足りなかったところ、良かったところはどのようなことですか
足りなかったところは、気持ちのコントロールがうまくいかなかった点です。良かったところは、こうするって決めたことを忠実に試合の中で再現できたことです。やると決めたことをその通りに実行できました。
――きょうの結果を見て個人としての目標を教えてください
優勝うんぬんよりやっぱりいまよりうまいレスリングで、できるだけ欠点を減らしたレスリングを出して、その結果優勝につながったらいいかなと思います。