【連載】『最高の舞台』 第3回 前川勝利×中井堅太

レクリング

 本連載の最後を飾るのは、中井堅太(社4=南京都)、前川勝利(スポ4=茨城・霞ケ浦)のグレコローマンスタイル(グレコローマン)コンビだ。天皇杯全日本選手権(天皇杯)はお2人にとって早大を背負って戦う最後の大会。それぞれにとって天皇杯とはどのような意味を持つ舞台なのか。今季の振り返りとともに、お話を伺った。

※この取材は12月13日に行われたものです。

階級と戦った1年

4回目の特集取材となった前川

――まずは前川選手にお伺いします。ことしを振り返ってみてどのような1年でしたか

前川 世界選手権に出られなかったというのが一番大きいですかね。階級変えたということもありますし、いろいろとあった1年間ですね。ここにきて。

――明治杯全日本選抜選手権(明治杯)で敗れて世界選手権代表の座を逃したわけですが、あの段階で減量をしていましたか

前川 そうですね。10キロくらい落としていて、120キロないくらいだったので、正直厳しいだろうなとは思っていました。

――減量の影響はありましたか

前川 そういう面もあったと思いますね。10キロ落としたらだいぶ体の力も変わってきますし、落としている途中で体の慣れとかもありました。ただ自分の中ではもうちょっと普通にやられるかなと思っていたのですが、接戦だったので逆にちょっと悔しかったですね。

――全日本学生選手権(インカレ)で優勝しても物足りない感覚でしたか

前川 そうですね。

――階級を下げようと思った理由は何ですか

前川 (階級区分の変更で120キロ級から)130キロ級に変わりまして、ことしのアジア選手権(3月)に行った時に130キロ級でやって。海外の選手と胸を合わせて、僕も体重を135キロぐらいにして減量してという感じでやったのですが、向こうの方がはるかに大きくなっていて。120キロ級のときだったらまだ何とかなるかなという感覚はあったのですが、130キロ級の海外選手の体格の大きさでは勝負するのは難しいと思いました。フリースタイルの125キロ級くらいだったらという考えもあったのですがスタイルも違いますし、10キロ多いというのは難しいなと。98キロ級だったら斎川先輩(哲克、足利工教諭)がロンドンオリンピックなどに出ていますしチャンスがあるかなと思って、ここで切り替えていこうかなと思いました。

――中井選手は前川選手の減量を聞いてどのように思いましたか

中井 できるのかなと思いましたね(笑)。僕らの世界で言うと30キロ落とすなんてもうガリガリなので、どうなるのかと心配ではありました。天皇杯に合わせてくると言っていたので、夏の段階で110キロちょっとか。

前川 そうだね。インカレ前で。

中井 あと半年切って10キロみたいなのは軽量、中量級からしたらありえないことなので、どうするのかなみたいな(笑)。大丈夫かなと思って見ていました。

――30キロを落とすというのはすごい決断だったと思います

前川 最初は階級変えようということは思っていなくて、肉体改造みたいな感じで体脂肪率を落とそう、筋肉量を増やす肉体に改造しようということで始めました。そうしたら一気に120、115、110キロとストンと落ちたのでこのままだったら落とした方がいいかなという感じでしたね。

――OBで98キロ級の大坂昂選手(平26スポ卒=現三菱電機)には相談しましたか

前川 いや大坂さんには相談していないですね。

――自分の中で決めたという感じでしょうか

前川 そうですね。相談したというと、全日本には栄養管理士の方がマルチサポートというかたちでついてくださっているので、そういう方には減量のやり方とかは相談しました。落とそうとしたのは、いまALSOK所属の金久保(武大)先輩が食事の管理で体を改造するということをやっていて、それで金久保先輩に相談しましたね。肉体改造をやろうというのはアジア選手権の帰りの飛行機の時に話をしていて、やってみたらと言われて、僕も興味を持って自分から聞きました。いろいろと教えてもらって自分からやり始めて、体重が落ち始めて、(夏の全日本)合宿の時に98キロ級に落とそうと思っているのですがという話をしたら、「いいと思うよ」と言われました。

――食事を変えて減量したのですか

前川 そうですね。基本的に脂質を抑えるという(笑)。

中井 (笑)

前川 ずっと脂質って言っているんですよ。周りは笑いますよね。そんな感じです。常に言うよね(笑)。異常に言うようになったんですよ、脂質に敏感になって。飲み物とかでもエネルギー、カロリー、炭水化物、脂質ってあるんですけど、その脂質を抑えるんですよ。だから揚げ物は完全にシャットしました。鶏の胸肉とかささ身とかを中心的に食べて、炭水化物は落とさないように、エネルギーはパフォーマンスが落ちてしまうのでそれは取るようにしていました。

――きつくはなかったですか

前川 別にきつくはなかったですね。最初は揚げ物食べたいなと思いましたけど、体重も意外とすぐ落ちたので結果が出るとけっこういけるなとなるじゃないですか。結果が目に見えて出ると調子付くので、そのままいきましたね。

――中井選手はその様子を見てどのように思っていましたか

中井 脂質ですか。脂質抜きは笑いものでしたね(笑)。脂質があるものは寮のご飯などでも残して、スーパーで買ったものを食べてたり、あれは面白かったですね。

前川 ネタになったね。

――中井選手にも1年を振り返っていただきたいのですが、インカレ、全日本大学グレコローマン選手権(全グレ)と続けて日体大の屋比久翔平選手に敗れる結果となってしまいました

中井 3年生の時(2013年度の全グレ)に1回やっていて、その頃は66キロ級で対戦したということもあって何とか勝てたのですが、71で5キロ増えるだけで相手もかなり大きくなっていて、正直パワーで圧倒されてインカレでは何もできなかったですね。それをふまえて全グレに臨んだのですが、1カ月やそこらじゃ力はつかなくて結果として同じように負けましたね。たぶん点数も同じだったと思うのですが。ショックでしたね。1回勝っている相手に階級は違えども2回も負けるというのは結構悔しいものがありました。

――昨年全グレで優勝されたことでことしは意識の違いはありましたか

中井 完全に2階級制覇を狙って臨んだつもりではいたのですが、そんなに気負うことなく、本来の階級の1つ上ということで自分自身に緊張感はなかったです。良い感じで臨めたとは思うのですが、1回負けちゃって。そこで気持ちが切れかけたのですが周りの支えなどがあって敗者復活を勝ってようやく3位という結果が残せたのかなと。

――屋比久選手とはインカレ、全グレと早い段階で当たった印象があります

中井 どちらか1つは当たるだろうなとは覚悟していたのですが、まさか2試合連続で早々に当たるとは夢にも思っていなくて。反対のブロックだったら決勝行けていただろうなというのはありましたが、どうせ当たるのでいいかなと。インカレはちょっとびっくりしましたが、全グレはそんなに気にすることはなかったです。

――個人戦だけのインカレで71キロ級に出場したというのはなぜですか

中井 それは全グレで71(キロ級)に出るというのは決まっていたので、その前に71キロ級はどんなものなのかという思いでインカレは71キロ級にしました。

――天皇杯に71キロ級で出場するというのは何故ですか

中井 資格的な問題で、たぶん66(キロ級)だと資格的に出られないので、(全グレ)3位になって資格のある71キロ級で出ようかなということです。

テレビとAKB48

リラックスした表情の中井

――お2人は4年生ですが、最上級生としてこれまでと変わった点はありますか

中井 あったかねえ。

前川 そんなにないかな。

中井 まあ練習を仕切ることが多くなって、練習の雰囲気づくりとか、後輩とか周りの選手たちをどう盛り上げていこうかと練習中によく考えることはありました。それぐらいですかね。自由な代ということにしていたので。

――練習は祭りのようだと保坂健選手(スポ4=埼玉栄)がおっしゃっていましたが

中井 そうですね。自由に盛り上がってやっていましたね。

前川 僕たちは日によって練習のチーフを4年生で回していたのですが、僕と中井のときはグレコの差しの取り合いを入れたりとか、保坂や桑原(諒、スポ4=静岡・飛龍)のときはフリースタイルのポジションの練習とかを入れたりしていたのでそういう面では面白かったかもしれないですね。同じような練習ではなく、変わった練習を毎日していたので。そういう面ではグレコも強化できたし、フリーも強くなるということで良かったかなと思います。

――前川選手は副将も務めましたね

前川 副将は、保坂が海外遠征でいなくて僕がいるときは僕がコーチとかと連携とってということはやっていましたね。田中亜里沙(女子主将、スポ4=埼玉栄)も教育実習などに行っていて保坂といないときが被ることもあったので。ことしの全日本合宿はフリースタイルとグレコローマンスタイルで別にやることが多かったんですよ。いままでは合同でやっていたのですが、ことしはグレコだけとかフリーだけという合宿があって、片方不在もときに連携をとったりなどはしましたね。

――保坂選手は主将になって変わったということをおっしゃっていましたが、前川選手はいかがですか

前川 どうなんですかね。変わってないと思いますけどね(笑)。

――中井選手から見ていかがですか

中井 変わらないですよ(笑)。副主将は変わらないですね。基本的には主将がなんでもやってくれるので、主将だからこれといって特別な仕事はないし、補佐という感じになるのでそんなに副主将が出てくる場面はないですね。

前川 健(保坂)が合宿でいないときくらいだもんね。非常勤講師みたいなものです(笑)。補充です。

――ことしの4年生はどういう学年でしたか

前川 自由ですね。

中井 個性的なやつらがそろったんじゃないですかね。

前川 色が強いので。

中井 個性的だけどやるときはがっつりやるというタイプで。

――太田拓弥コーチが内閣総理大臣杯全日本大学選手権(内閣杯)の後に「個性が強すぎて終盤ようやくまとまった」ということもおっしゃっていました

前川 そういうこともありましたね。でも個性が強くて良かった部分もあると思いますね。

――同期の中でこれだけは負けないということはありますか

中井 あるかなあ。基本的に何でもできるからねえ(笑)。

前川 なんだろう。たとえばどんなことですか。

――すごくうまいものがあるなど、特技などでも

中井 テレビの大きさ(笑)。あれは負けない。

前川 あれはやばいっすよ。意味が分からない。

中井 紺碧(寮)でも負けない。

――寮の中でも一番の大きさですか

中井 たぶんね(笑)。

前川 テレビだけは億万長者ですよ。55(インチ)?

中井 55。

前川 55インチですよ。やばくないですか。

中井 テレビの大きさは負けない。

――何故そのテレビを買ったのですか

中井 テレビ見るのが好きだから、もともと32インチを持っていたけど物足りないなと。DVDとかを映画館みたいな環境で見たかったから買っちゃえみたいな。装飾品も負けないな。スピーカーが付いてレコーダーが付いて。

――前川選手も中井選手の部屋に行って見たりしますか

前川 録画した番組とかを見せてもらったりしますね。

中井 ヤマダ電機に行く回数も負けない(笑)。電気屋さん行って、テレビのコーナー行って。同じサイズのテレビ、俺が買ったやつより安くなっていたらショックなので、毎回チェックしています。

――前川選手はいかがですか

前川 何だろうな?AKBのグッズはいっぱいある。
それくらいですね。CDは全部持っているので。

――推しメンは誰ですか

前川 松井珠理奈ですね。1回新聞にも載ったことがあるんですよ。とあるスポーツ新聞の北海道版なのですが、昨年の天皇杯で優勝した時に「AKBが好きなんですよね」と聞かれて「好きなんです」と答えました。そしたら「誰が好きなんですか」となっていまみたいに「松井珠理奈です」と言ったら次の日1面に『松井珠理奈のために2連覇』みたいな記事が出ていて(笑)。本当にびっくりしましたよ。メディアが怖いですよ。だから余計なこと言わないようにしていて(笑)。

――それはすごいですね(笑)

前川 (優勝した時が)大会中3日間の2日目で、3日目の応援をしていたら、まず従兄弟から連絡が入っていて「これ何?」みたいな感じで写真が来て。そしたら中学の友達からもバンバン連絡が来て、「熱愛報道?」みたいな(笑)。

旅行に行きたい

インカレ決勝時の前川。今後は98キロ級に挑戦する

――内閣杯を終えて部活は引退されましたが、引退後に始めたことはありますか

中井 車の教習くらいかな。あしたデビューですね(笑)。(もともと)バイトはやっていたから。引退してからは学校、バイトしかしていないので。それでやっと車の教習行き始めようとして、寝る暇がないという感じですね。死ぬんちゃうかなって(笑)。

――現役の頃より忙しいですか

中井 めちゃくちゃ忙しいです、もちろん。現役の方が楽でした。ハードスケジュールでやってますので(笑)。

――前川選手はいかがですか

前川 僕は内閣杯で部員としては引退となりましたけど、実際あまり変わっていないですね。練習に出ていますし。授業などもあるので午後練習に出られないことも多いんですよ。引退したからといって練習に出なくなったら全然練習できないので、あまりリズムは変わらないですね。この間もブラジルカップがあったので、そこに照準を合わせていたので、そっちに集中していましたね。

――競技生活を終えた後、やってみたいことはありますか

中井 旅行!休みがないからね。いま土日にまるまる休みがあるので、土日を使ってどこかに行きたいと思ってたんですけど、まだ行けていないですね。行きたいな。

――旅行に行くならどこに行きたいですか

中井 行くならあまり遠出ができないので、九州ぐらいは行きたいですね。(出身の)関西行っても意味ないし、かといって上に行っても何もないし…。となるともっと下の九州ぐらいまで行かないとおもしろくないかなと(笑)。九州に行きたいな。

――前川選手はいかがですか

前川 僕も海外に旅行で行きたいですね。プライベートで。いままで海外はいろいろ行きましたけど、全部レスリングシューズを持って行っているんですよ(笑)。レスリングシューズを持たないで海外に行きたいですね。

――遠征の時は観光をする暇はないのですか

前川 この間のブラジルの時も観光は最後にしたりしましたけど、本当にちょっとで自由にではないので、自由にやってみたいなというのはありますね。

――行きたい国はありますか

前川 クロアチアとかいいかもしれないですね。

中井 クロアチア(笑)。

前川 クロアチアはめっちゃ海がきれいなんですよ。底が見えるくらいきれいですよ。

中井 ハンガリーの隣ね!

前川 ハンガリーもいいですね。全部で2回くらい行ってるんですけど。ハンガリーもいいですし、やっぱりヨーロッパの方に行きたいなーって。

中井 ヨーロッパいいなあ。

前川 イタリアとかもいいですよね。

昨年と同じ顔ぶれでしたが、話題はつきない対談となりました

――レスリングをやっていて良かったことはありますか

中井 良かったことは…就活!現実な話ですけど(笑)。就活と大学進学とか、そういう人生設計というか。柔道をずっとやっていたんですけど、レスリングをやったことによって大学はワセダに来られたし、就職もできたし。レスリングをやってなくて柔道をやっていたら大学、就職は全く別のもので、たぶん絶対レスリングをやっていた方がいい方向には進んでいったのかなとは思っていて。レスリングのおかげ様ですという感じです。

――逆に悪かったことはありますか

中井 うーん…そんなにないけど唯一言うならば、知らない人にレスリングをやっていますと言ったらこれ(レスリングのユニフォーム)をばかにされるんですよね。ぴちっとしたやつ。それが僕の中ではどうしようもなかったですね。いまとなっては全然変じゃないんですよ、僕らからしたら。むしろ似合っているやつもいてかっこいいなみたいな。そんな感じになってくるんですけど、初めて見る人からしたらこれ(レスリングのユニフォーム)が面白いらしくて、その対応というか…。「かっこええんやぞ」と言うとちょっとなんか変な方向に行くし。初対面の人の印象というか、それがレスリングはちょっとダサいですね(笑)。レスリングをやっているってなかなか言いづらいです。

前川 あるあるネタだな、それは。

――前川選手はいかがですか

前川 僕の人生はレスリングがなかったら何もないですよね、本当に。全部レスリングで生きているので大学も入れましたし、それが本当に一番大きいですね。レスリングがなかったら何をやっているんだろうという感じなので、それが一番良かったですね。良かった点は全てですね、僕のレスリングは。悪かった点は合宿とか遠征が多くてあんまり大学の友達とかと予定が合わないですね、練習もありますし。そういう面でちょっと遊んだりしたかったなというのはありますけど、まあしょうがないですよね、自分がやりたいことをやっているので、どっちを選択するかなので。その辺ぐらいですね。

――レスリングをやっていなかったらどんな大学生活を送っていたと思いますか

中井 確実にサークルに入って、ブイブイやってるんちゃうかなと思いますけどね。サークルには絶対入っていて、バイトをしていて、金があって、一人暮らしをしていて、単位を取れているかなってぐらいですね。部活をやっているから授業も行っていて何とかやってますけど、やってなかったらどやろ?たぶん遊んでるな。バイトして…掛け持ちぐらいしてるんちゃうかな。それぐらいやってますよ。なんだかんだ規則正しい生活というか、朝練習をして午後(練習を)やって帰るという流れが毎日あったので。だから昼間に授業に行ってという感じでなんとかできていましたけど、(レスリングをやっていなかったら)起きる時間とかはめちゃくちゃ遅いだろうし、寝坊とかが身についていて。レスリングをやっていて社会的にも役に立つことは多かったので、やっていなかったらたぶんクソ野郎でしたね(笑)。レスリングをやっていなかったらクソ野郎です。

前川 レスリングをやっていなかったらたぶん大学も行ってないですよ。高校も北海道に残っていたと思うので…。

中井 それあるな。東京来てないよな、まず。

前川 絶対に東京にも出てないので…。高校も行ってたんですかね?ちゃらんぽらんな生活していたと思いますよ、絶対。絶対に真面目ではなかったですよ。そんな感じだと思います。

――競技面以外で体を鍛えていて良かったと思うことはありますか

中井 何だろう…身近にあり過ぎて気づかへんな。結構あるんですけどね。電車の中で揺れない。耐えられる。

前川 そういうこと!?

中井 俺、電車の中でつり革持っていたら何とかなる。何とか耐えられる。

前川 そういうことですか…

中井 それぐらいしか使い道ないで(笑)。

前川 僕は別に体を鍛えているというよりも大きいので、結構いろんな人に話し掛けられたりとか、人が寄ってくるというかそういうのはありますね。得しているのかな、というのはあります。あんまりなんか変なことはないですね、どちらかというと。インパクトもあると思うので、「すごいね」みたいな感じで話し掛けられたりはありますね。

――筋肉があると寒くないという話を聞いたのですが、いかがですか

中井 こっち(前川選手)やないの、完全に!(笑)

前川 僕は(出身が)北海道というのはありますし、あんまり寒くないですよ。こっち(東京)は気候的にも住みやすいです。だから僕はそっち(北海道に住んでいたから)だと思いますよ(笑)。北海道出身の友達としゃべったりすると、「全然寒くないよね」という話になって。

中井 サンダルやもんね。

前川 そう、僕きょうもビーサンで来ているんで。全然寒くないですよ。

中井 それはちょっと気になったけど(笑)。

前川 結構みんなに突っ込まれるんですよ(笑)。キャンパスに行くんですよ、ビーサンとかで。「何でビーサンなの!?」みたいに言われて「いや、寒くないよ」みたいな感じで。

――本当に寒くないのですか

前川 あんまり寒くないですね。ルフィみたいになってるけどね、ちょっと(笑)。

中井 寒いよ、寒い!

前川 いや、寒くないです全然。

中井 いや、寒い寒い!寒いのは嫌いやもん。

――欧米の人は平熱が37度くらいらしいですが

前川 いや、それはないですね!(笑)

中井 それはないでしょー(笑)。

前川 それはないです、それはないです!温かいですけど、常に。それはないですね!

中井 温まりやすいね、体ね。

前川 温まりやすい。

中井 すごく熱いもん。

――卒論のテーマなどはいかがですか

中井 僕は社学(社会科学部)なのでないです。

前川 僕は、ことしの前期までゼミみたいなのがあるんですよ。それで考えていた時に、ちょうど僕は自分の体重(減量)をやっていたので、もうそれでいいんじゃないかと言われました。本当は、実験系は被験者が何人か必要らしいんですけど、例外があってトップアスリートだったら1人でいいらしいんですよね。ちょうど僕も代表に入っていたので「トップアスリートだから1人でいいよ」みたいに先生から言われて、じゃあこれでいいやみたいな感じですぐ決まりましたね。

――では自分の体がそのまま卒論になったのですね

前川 はい、まさかと思いましたね。ラッキーでした。僕は試合とかであまりゼミに行ってなかったんですけど、みんな周りの子は毎回来ていろいろ計画を立てているわけじゃないですか、これからどういう実験しようみたいな。でも僕なんかはほぼ実験が終わっているような段階だったので。資料みたいなのも全部ナショナルチームの栄養管理士の人がいままで作ってくれていたので。そういうデータを携帯に送っていただいて、僕も「こんな感じなんだ」と見てやっていたので、一気にドベからトップに行ったんですよ(笑)。

――では余裕といった感じですか

前川 そうですね。

――田中亜里沙選手(スポ4=埼玉栄)は苦しんでいるそうですが

前川 らしいですね!要領悪いんだあいつは、たぶん。要領悪いよな!絶対あいつ!(笑)

中井 要領悪いですよ、たぶん。でも卒論よく分からへんもん、どういう問題か。

日本レスリングのひのき舞台へ向けて

中井は天皇杯で競技生活にピリオドを打つ

――前川選手は卒業後も競技を続けられるということで、目標はリオデジャネイロ五輪になってくると思いますが

前川 そうですね。それで最終的には東京五輪でメダルを取ることなので、そこですね。

――先ほどおっしゃっていたブラジル遠征はいかがでしたか

前川 2キロオーバーまで許されるルールだったので100キロだったのですが、初めて98キロ近くまで落として。98キロ級までの試運転みたいな感じでした。戦った選手はスウェーデンの選手(Fredrik Schoen)でことしのヨーロッパ選手権3位、世界ランキング6位(9月発表のランキング)の選手でした。世界ランキング6位ということは知らなかったのですが、ヨーロッパ選手権のことは計量の時に本人から聞いて、やばいなと。絶対に当たりたくないなと思ったら、当たったんですよ。出場選手5人だったら総当たりリーグだったのですが、6人からはトーナメント戦になるんですね。(計量したのが)微妙な人数だったので数えないで「5人だったと思います」と言っていたら次の日に「6人だぞ」となっていました。トーナメント表を見に行ったら僕はスーパーシードになっていて負けても3位決定でメダル獲得だったんですよ。トーナメントの下のブロックに4人いて、僕とスウェーデンだけ上のブロックにいて(笑)。最悪でした。下はブラジル2人(Davi Jose Albino,Robson Kato)とエクアドル(名前不詳)とチリ(Carlos Gracia)で、下は弱いんですよ。下から決勝上がってきたのはブラジル1番手(Davi Jose Albino)で僕は2日目くらいの練習でスパーリングしていて実力は分かっていました。全然強くないなと思っていて、最初が決勝戦のようなものですね。

――マークする強い選手は2人だけでしたか

前川 「切り替えて行け」とコーチ陣にも言われまして、西口(茂樹)強化委員長には「組み合わせが悪いんじゃなくて、ヨーロッパ3位といきなりできるんだから逆にチャンスだと思って行け」と言われて。「オリンピック目指すために98キロ級に落としたうえでヨーロッパ3位の選手とどこまでやれるかというのがカギになるから悪くないぞ」と声を掛けられました。試合はいい内容で、よく分からないのですが1回勝ったんですよ。最初に投げられて0-7までいきました。8点差で終わり(テクニカルフォール)なのですが、そこから僕が差しでバーっと前に出たら(相手に)コーションがついて、2コーション目もついて。その後そり投げしてきたのですが足引っ掛けてきて1回注意で、もう1回そり投げされたのですがまた注意になって、相手陣営はチャレンジしたのですがビデオチェックしたら足が引っ掛かっていて、2回目の注意なのでコーションなんですよ。

――3コーションで失格ですね

前川 それで試合終了となったのですがスウェーデンの選手が物申してきてもめて。ジャッジや主審は終わりといったのですが、審判長が出てきて続行と言って、よく分からないうちに再開されて負けてしまいました。手応えはありましたね。西口強化委員長からも「成功だな」と言われました。

――天皇杯から世界選手権に向けて、五輪出場権争いは始まっていきますが、どのようなプロセスを考えていますか

前川 良い流れはことしの天皇杯で優勝して、次の選抜(明治杯全日本選抜選手権)も優勝して、世界選手権に出場する。そこで5位以内に入ればいいですよね、やっぱり。(五輪出場の)権利も獲得できますし、オリンピックにそのまま行けたらいいなというのがあります。

――リオデジャネイロ五輪での目標は何ですか

前川 やっぱり出るからにはメダルに絡んでいきたいし、取りにいくというのは当たり前ですよね。

――出場権を得るためには斎川選手と戦わなければならないですが、その点についてはいかがですか

前川 厳しい戦いになりますね、絶対に。いまは斎川先輩も教員をやっているので、本格的に練習を積めていないとはいえ強いんですよ。練習を十分にやれていなくてアジアで3番ですから相当強いですよね。僕は高校2年生の時に初めて日体大の方に練習をしに行って、そこで初めて斎川先輩に会ったんですよ。そこからいろいろ稽古をつけていただいて、本当にたくさんのことを教えていただいて。憧れの選手でしたね。そのときはまだ(斎川選手は)84キロ級の選手だったんですけど、ボコボコにされまして。技術から何から違うという感じで、ちょうど僕は高校2年で全国のタイトルを取っていたので、ずっと斎川先輩に全日本合宿やナショナルチームに入っても教えていただいていていました。そういう憧れの選手とまさか同じマットに立つとは思わなかったので、うれしい面もありますし、すごいなというのもあります。いろいろな気持ちがありますね。

――逆に言えば斎川選手に勝つことができれば世界で通用することにもなりますね

前川 そういうことですよね。逆にそこに勝てば一気にオリンピックは見えてくるので、ここを必死に勝ちに行くしかないですよね。

――中井選手は就職をされるということですが

中井 そうですね。完全にレスリングはやらない予定ではいます。

――今後レスリングと関わっていくことはありますか

中井 どうなんですかね?働いてみないと分からないところもあるし、勤務地とかもいろいろ分からないので。近くにレスリングの知り合いがいたらちょっとやるぐらいはするかもしれないですけど、いまのところレスリングは考えていないですね。

――では天皇杯で最後になるのですね

中井 そうですね。

――天皇杯まであと1週間ほどと迫っていますが、現在の調子はいかがですか

中井 いまはレスリングと離れているので調子も何もないんですけど(笑)…どうでしょう?とりあえずいまはレスリングをしていないんですよ、全然。だからリフレッシュしているんじゃないかな。内閣が終わってからずっと休みをもらっていて、だいぶ気持ち的にも体的にも休み過ぎているかなという感じです。そんなに緊張もしていないし、逆に最後なので楽しむだけかなという感じのレベルですかね、いまは。

前川 僕もこの間のブラジルカップで98キロ級で戦っていく上での戦い方というか、世界で勝つ勝ち方というのがなんとなく分かったので、そういう面を伸ばすというところに重点に置いて練習しているので、良い感じに仕上がってきているとは思います。

――天皇杯がワセダを背負って戦う最後の大会となりますが、感慨はありますか

中井 4年間お世話になった大学なので、何かひとつ残せたらなと思っているんですけど、実力的に3番に入ることすら難しい階級でもレベルでもあるので、後輩たちに何か残せたらなとは思います。

前川 本当にあのユニフォームを着て戦うのも最後なので、個人的にも3連覇も懸かっていますし、2階級制覇というのもついてきますし。最終日なのでもし優勝したら盛り上がるのはもう半端じゃないですよね。大学の友達も話を聞いたらたくさん来てくれると言っているので、そういう部分もいろいろあって、優勝を飾りたいですよね。全日本のタイトルを学生で取っているのも僕ぐらいしかいなくて、自分でも全日本を取るのは俺しかいないなというのがあるので、ことしの明治杯を取れなかったのはすごく悔しくて。毎年僕だけなんですけど、ワセダから全日本で1人は優勝しているわけじゃないですか。そういうところも優勝者が0になってしまったというのはあるので、今回の天皇杯は120キロ級の時よりも厳しいと思いますけど、何としても勝ちたいなというのはありますね。

――71キロ級には屋比久選手やOBの花山和寛選手(平26社卒=現自衛隊)もいますが、意識する選手はいますか

中井 当たりたくないのは完全に花山さんですかね。やりづらいですね、ワセダ同士というのは。3年間ずっと一緒に練習をやってきたので。学生の時もずっとできれば当たりたくないなと思っていた人で、いま自衛隊に行ってかなり強くなっていると思うので一番やりたくないと言えばやりたくないですね。屋比久は別に2回負けているのでそんなにビビることはないし、むしろ負けて当たり前ぐらいの勢いでやるので、そんなに対戦相手にこだわりというか意識はしていないです。やりたいことをやろうという感じです。

――前川選手は斎川選手と代表合宿などでスパーリングの経験もあると思いますが、勝つためにはどのようなレスリングが必要だと考えますか

前川 やっぱり斎川先輩は技術的にもうまいので、相手のレスリングに合わせてはまってしまったらやられてしまうと思います。僕はどちらかというと技術よりも力が大きい方なので、120キロ級の時も力のレスリングみたいなところがあって、押し出して、差して前に出るというのが僕の一番の持ち味というのがあったので。そういう面で、海外でこの間試合をした時も、やっぱり差して前に出ると相手もバテてきますし、本当に勝つためには差して前に出るというのが一番だなというのを大きく感じたんですよ。僕は階級も上から落としてきているので力は大きい方だと思うので、最大の強みである前に前にということを考えていますね。相手を自分のレスリングに引き込むという感じですかね。斎川先輩とはそういうレスリングをすればチャンスはあるんじゃないかと思います。

――98キロ級にはOBの大坂昂選手(平26スポ卒=現三菱電機)もいますが、意識はしますか

前川 そうですね。大坂先輩以外にも全日本で3番に入った米平先輩(安寛、宮崎県協会)とか、学生の時も大坂先輩はチャンピオンではなくて負けていますし、そういう選手もいますので、西日本にいる横井選手(健人、中京学院大クラブ)っているんですけど、ちっちゃいの…

中井 ちっちゃいの(笑)

前川 小柄で妖精みたいのがいるんですけど(笑)、その人も本当に強くて大坂先輩を破っていますし、僕は国体で対戦したんですけど、一発持っている選手なので。やっぱりそういう強い選手がいろいろいますよね。学生チャンピオンの選手も出てきますし、そういった意味では僕は日本では98キロ級のマットに上がっていないので、気持ち的には僕は一番下だと思っています。下から這い上がっていくという気持ちですね。全員がライバルです。

――天皇杯に向けての目標を教えてください

中井 もうメダルとか一切気にせずにレスリングを純粋に楽しめたらなと、そう思っています。

前川 僕は毎度のことながら優勝ですよね、やっぱり。これからオリンピックを見据えるにあたっては優勝しかないと思いますし、そこしかないですよね。そこに向かっていけばおのずと結果は出てくると思うので、本当に重要な大会だと思っていますし、弾みを付けたいです。優勝は一番の目標です。

――最後に意気込みをお願いします

中井 ケガなく終えるぞって感じです!

前川 さっき目標は優勝と言ったので、いろいろな意味で優勝したら絶対沸くじゃないですか、話題性もあるので。僕結構いままでそういうのがあるんですよね。高校3年生の時もJOC(JOCジュニアオリンピックカップ)で優勝して、その時も大学3年生に勝ったりして会場が沸いたんですよ。大学1年生の時も明治杯でも大学に入ってすぐ優勝して結構会場を沸かせるというようなことがあったので、わりとそういうことが多くて、まさかというようなことが僕は多いんですよ、やっているのが。なので今回も沸かせたいですよね、会場を。

――ありがとうございました!

(取材・編集 三尾和寛、谷田部友香)

学生で最後の決戦に向けて意気込みは十分です!

◆中井堅太(なかい・けんた)(※写真左)

グレコローマンスタイル71キロ級。南京都高出身。社会科学部4年。中井選手が色紙に書いてくださった言葉は『ファザエフ』。これはグラウンド技の名前で、今季何度か試合中に実践したそう。競技生活最後の大一番で中井選手のファザエフが繰り出されるのか。ぜひご注目ください!

◆前川勝利(まえかわ・しょうり)(※写真右)

グレコローマンスタイル98キロ級。茨城・霞ケ浦高出身。スポーツ科学部4年。『戦人(いくさびと)』と色紙にしたためた前川選手。吉田沙保里選手(ALSOK)の「夢追人」からインスパイアされて考えた言葉だそうです。座右の銘もワールドクラスですね!