第2回にお届けするのは前川勝利(スポ3=茨城・霞ヶ浦)と中井堅太(社3=南京都)の3年生コンビ。ケガから復活し、世界選手権出場を果たした前川と今季悲願の学生タイトルを獲得した中井にそれぞれの今季これまで、そして最上級生となる来年への意気込みなどを語ってもらった。
※この取材は12月6日に行われたものです。
ルール変更に翻弄された前半戦
笑いの絶えないお2人。仲の良さがうかがわれます
――前川選手は明治杯全日本選抜選手権(明治杯)優勝が前半の大きな山場だったと思いますが
前川 前期は明治杯で優勝して、世界選手権出場を初めて決めて、でも世界選手権はいい成績を残すことができませんでした。しかし初めての出場で、どんな場所か、どんなものかという経験はできたので良かったです。五輪王者は出場していませんでしたが、それでもトップレベルの選手が多く出場していて、他の選手の試合を観ているだけでも、学ぶことは色々ありましたね。
――(世界選手権の舞台)ハンガリーはいかがでしたか
前川 レスリングは人気があって、日本じゃあり得ないぐらいお客さんも入っていました。
――シーズン後半はいかがだったでしょうか
前川 世界選手権後すぐの国民体育大会(国体)で負けて、そこはまあ仕方がないかなと思っていました。期間も短かったので。全日本大学グレコローマン選手権(全グレ)はその分しっかりと勝てて、内閣杯全日本大学選手権(内閣杯)は最後負けてしまいましたが、団体優勝に貢献できたので、まあいいかなと思います。僕の本業はグレコローマンなので。フリーはまあ(笑)。気持ち的には楽な感じでやれていました。
――その中で園田新選手(拓大)と何試合か対戦しましたが
前川 リーグ戦(東日本学生リーグ戦)と国体で負けたのは全て自分のミスだったので、別に相手に(ポイントを)奪われて負けたという印象はないですね。しっかりやったら全部勝っていると思うので、あんまり意識してないです。谷田選手(谷田昇大、ヤマヨテクスタイル)の方が警戒していますね。
――フリーだとアレッグ・ボルチン選手(山梨学院大)でしょうか
前川 タックル速いですよね(笑)。外人ですからね。でもあれぐらい勝たなきゃダメだというのはあります。
――中井選手は全日本学生選手権(インカレ)3位から全グレで優勝しましたが
中井 インカレで負けた相手が全グレに出場していませんでしたが、インカレの敗因を全グレまでに少しは改善することができていたと思います。
前川 何でそんなにメディアに謙遜キャラを出すの?
中井 何だろう。あんまそんなガツガツ行けへんねん(笑)。
――同じ階級の花山和寛選手(社4=愛媛・八幡浜工)は意識されますか
中井 いや、そこまで意識してなかったですね。インカレでも決勝で対戦できたらいいなと思っていましたが、その一歩手前で僕が負けてしまいました。天皇杯(天皇杯全日本選手権)では当たるかもしれませんが、その時は思いっきりやれたら、それでいいかなという感じです。
――レスリングが五輪競技から外れるとなったときはどう思いましたか
前川 予想していなかったので、外れるとなった時は、「マジか」みたいのはありました。
中井 東京で外れるかどうかという話だったので、東京で開催されるのであれば、見たかったですし、応援にも行きたかったです。でも選手としては、多分続けていないですね。まあそんなに重くは見ていなかったです。
――それに伴って大きなルール変更がありました
前川 いままであまり意識していなかったコーションがすごく敏感になったというのはありますね。コーション中心に考えてしまうところがあるかもしれないです。
中井 僕は新しいルールに全然なじめなくて、いろいろ考えさせられました。元々、自分から攻撃するタイプではなかったのですが、現在のルールだと攻撃しなければコーションが来ますし、前半から飛ばしていかないと負けてしまうので、インカレなどでは、自分なりに前半からガツガツいったりもしていました。それで負けた試合はスタミナ不足が直接的な敗因になったので、このルールに合わせるのは大変でした。
――世界選手権もコーション絡みで敗れてしまいました
前川 何で自分がコーションを取られてしまったのかを把握していない部分が多くて、そういう選手は他にもいっぱいいると思います。世界選手権でも世界チャンピオンだった選手が僕と同じようにコーションで負けていたので、そういうところは改めて見直していかないといけないというのはあります。今まで意識していなくて、曖昧だった部分をはっきりさせないといけないということなので、難しいですね。
――中井選手もコーションは意識されているのでしょうか
中井 ちょっと攻めなかっただけで、一回目のコーションが来てしまうので、いかに攻めている感じを見せるかというのと、実際に攻めるということが大変でした。
――中井選手は以前のコメントでスタミナ不足を課題に挙げられていましたが、現在はいかがでしょうか
中井 大体ルールややり方も把握できたので、体力もですが、力が最後まで持つような試合運びを心掛けています。
――ピリオドの数、試合時間なども変わりました
中井 7点差でテクニカルフォールになって試合終了というのはありがたいです。でも3分2ラウンドはキツいですね。3分終わったあとにまた3分というのは心も折れますし、精神的にやられます。
前川 今までは2分という中で戦っていたので、2分経過したときに時計を見て、「まだ1分もあるのか」というのはありますね。最近は少しずつ慣れてきましたが、やはりまだ2分での戦い方が体の中に染み込んでいるので、いかに3分での戦い方に切り替えられるかですね。
――最終的にはレスリングは競技種目に復活し、さらに東京五輪も決まりました
前川 僕の場合は東京まで続ける予定なので、東京に決まって良かったです。
中井 第三者、観客として考えたら嬉しかったですね。
――今回でレスリングという競技がクローズアップされたのではないでしょうか
前川 初めて会った人に「レスリングやっています」と言うと、「残って良かったね」などと言ってもらえるので、そういう意味では、認知度は高まったと思います。その話題は結構ありますね。
『ツインタワー』
グレコローマン特有の豪快な投げを決めた中井
――お二人は『ツインタワー』と呼ばれているそうですが、由来を教えてください
前川 由来というか、らいねんグレコ(グレコローマンスタイル)は僕ら二人しかいないんですよ。実際、全グレはどうするのみたいなとこがありまして(笑)。フリーの選手に少し頑張ってもらいます。
――お二人そろっての優勝は全グレが初めてだったと思います
前川 同期とそろって優勝したのはあれが初めてだったので、嬉しかったですね。前日、先にこっち(中井)のほうが計量も終え、組み合わせも分かっていたので、その晩に僕の部屋来て、「やばい、組み合わせ最悪や」とか言ってました(笑)。組み合わせ知ってますか?もう死のブロックだったんですよ。昨年のインカレ準優勝(魚住彰吾、専大)、次が世界ジュニア選手権3位(屋比久翔平、日体大)とかがいて、あと変則的な選手もいまして。
中井 もうやばいと思いました。3位に入れればチームに貢献できるかなぐらいに考えていました。
前川 それで僕が「頑張れ!とりあえず行け!」みたいなことを言って(笑)。相手が強いのは分かっていたので。チーム全体的に組み合わせが悪く、誰も決勝行かないのじゃないかと思っていました。それで次の日、自分の計量で会場に行って、「誰かうちで決勝まで残ってんの」と聞いたら、「中井さんです」と言われ、「ええっ」と驚きました(笑)。
中井 ビックリした。俺も驚いた。
前川 これはいっただろと思っていたら、決勝で相手をボコボコにして優勝していましたね。
――その死のブロックを突破したことによって自信なども生まれましたか
中井 あのブロックを勝ち抜いたのは自信になりましたね。決勝行ったら絶対優勝できるなというのはありました。
――何が要因だったのでしょうか
中井 インカレで新ルールに対応できなかったので、全グレでは対応しながらの試合展開を心掛けたら、あまりバテませんでした。6分間戦い抜けたんじゃないかなと思います。
――今回の優勝で前川選手にちょっと追いつけたかななどの実感はありましたか
中井 いやいやいや、学生と全日本ですよ。レベルが違いますからね。まあワセダの中で学生王者取っているのが、4年生を除くと少ないので、そこぐらいにはなれたかなと思います。
――お二人は遊びに行ったりはするのでしょうか
中井 遊びには行かないねえ。
前川 行く暇がないよな。学部が僕は所沢や東伏見でこっちは本キャンで違いますからね。空き時間に何かしようなどということはほぼないですね。
中井 基本的に練習や寮でです。部屋覗いたりなどはめちゃくちゃします。
――初めて会ったときはどういった印象を持っていましたか
前川 始めて会ったのは高3の国体でした。なかなか面白いんですが、国体の1日目に中井と初めて話して「おまえが自己推薦で来るやつか、頑張ろうな」とかって話をしてました。そこで階級は66キロで、とかって話をしていたんですが、次の日見てみたら、84キロ級のマットにいたんですよ(笑)。「こいつバカなんじゃねーか」って思ったら、ボードにも彼の名前が書いてあって(笑)。国体は各都道府県から各階級に一人しか選出されないので、仕方なかったんですよね。でも彼はそこで3位になって、だから元々強いんですよ。びっくりしましたよ。
中井 (体重)70キロぐらいで出場してました。
前川 だからそれが一番印象に残っているね。
中井 衝撃やったね(笑)。国体が千葉県で開催されたので、その試合終わった後、ここ(レスリング部部室)で練習したときまた話しました。
――その当時の中井選手の前川選手の印象はどんなものだったのですか
中井 僕なんか高校時代は優勝した覚えがないので、住む世界が違う感じでした。入学しても彼らが練習で先輩などと良い勝負してる中、誰にも勝てなくて、しかも同期が全員全国チャンピオンでした。すごい代に入学してきてしまって、「これはやばいな」と思いました。初めはメチャクチャ頑張りました。追いつこうと思ったのですが、半年じゃ追いつかなかったですね(笑)。そこからはマイペースに切り替えました。
――早大レスリング部にはすぐに溶け込めましたか
中井 はい。アットホームな感じなので。
――同期の存在がモチベーションになったこともあったのではないでしょうか
中井 そうですね、一回は(優勝)獲っとかないまずいなというのは心のどこかであったので、頑張りましたね。チャンピオンに囲まれていたので、焦りはありました。
――来年グレコローマンを本職とする選手はお二人のみになってしまいますが、グレコのタイトルへの思いはありますか
前川 リーグ戦、内閣杯は獲ったことがありますが、全グレだけはまだ団体優勝していないので、できれば来年獲りたいです。自分たちでまた一つ新たな歴史を作り上げたいです。ことしの全グレもほぼ優勝が決まりかけていた中での準優勝だったので、尚更その思いは強いです。
――グレコローマンの魅力を教えてください
前川 フリーはフェイントなどありますが、グレコは力と力の真っ向勝負ですね。変な技もできませんし、力一つでごまかしがききません。技もリフトなど豪快なものが多いので、そういったところが魅力だと思います。
中井 フリーはどちらかと言うと、技術的な攻防で、初心者からしたら何が起きているのか分からないと思います。タックルをしてもつれたりすると何が何だか分からないのに対して、グレコは組み合って、ダイナミックな投げなど、初心者が見ていて一番面白いんじゃないかなと思います。
――中井選手が高校時代からグレコローマン専門だったのですか
中井 いえ、高校時代も練習ではすべてフリーでした。グレコの試合に出場したら3位を獲ったので、グレコのほうが向いていると思いました。大学入学当初はフリーもやりたいと思っていたのですが、同じ階級に保坂健(スポ3=埼玉栄)、桑原諒(スポ3=静岡・飛龍)がいたので、グレコ一本にしました。
――前川選手は来年度副将に就任されると聞きましたが、どのように主将を支えていきたいですか
前川 主将が困っていれば、手伝っていきたいです。どちらかと言うと、健(保坂)はグイグイ引っ張っていくタイプなので、僕は後ろから押し上げていくぐらいに思っています。僕らの代は結構意見などもまとまるので、大丈夫だと思います。
――それは仲がいい証拠なのでしょうか
前川 どうなんですかね。仲は良いよね?
中井 うん。まあ4年生の仲が良いとはまた違う感じのね。
前川 また違うカラーの仲の良さですね。
――中井選手は保坂選手のことをどうご覧になっていますか
中井 あいつはレスリングに真面目ですね。私生活はちょっとチャラけた部分もありますが、レスリングの練習が始まれば顔つきから何から変わります。そういう部分ではキャプテンに向いていると思います。
前川 向いていますよ、あいつが。正直僕はいないですからね。全日本の合宿で抜けることが多いんですよ。そういったことが考えると、健は優勝して、安定感もありますし、ずっとチームにいるので、僕は一番向いていると思います。
――前川選手は全日本の合宿からチームに持ち帰ることができる部分はどういったものだとお考えですか
前川 日本のトップが名を連ねている場所にいるという自覚を持ち、合宿中は色んな指導者の方のアドバイスを聞きながら、自分を伸ばすことしか考えていません。斎川選手(斎川哲克、両毛ヤクルト販売)などと思いっきり練習しながら、技術などを教えてもらえるので、非常に大きな場所です。そして、そういった技術はワセダに持ち帰って伝えていかないといけないと思っています。ワセダはグレコの指導者もいませんし、そんなに強くないというのは他の指導者の方も知っていらっしゃることなので、西口強化委員長(西口茂樹強化委員長)に「ここでしっかりと学んで、おまえがワセダのグレコを変えていかないといけないぞ」と言われます。
「目標は優勝しかない」(前川)
前川は天皇杯2連覇を狙う
――現在の調子はいかがですか
中井 悪くはないですね。良くもないですけど。いつも通りにやればよい勝負ができるのではないかと思います。
――音泉選手(音泉秀幸、ALSOK)との戦いになってくるのではないでしょうか
前川 あと隆太郎先輩(松本隆太郎、群馬ヤクルト販売)もいるしね。
中井 音泉選手は強いですね。このルールに適しています。バテないし、怪力なので止めようがないです(笑)。しかも今回は3位決定戦の制度が導入されたので、明治杯のようにはいきません。実力で3位を獲るしかないので、頑張ります。
――具体的な目標は
中井 それを言われるとちょっと厳しいんですけども。『現状維持』が一番ベストな答えになってきますね(笑)。3位の価値も上がったので。
前川 3位に入ると全日本の合宿にも呼ばれますしね。全日本合宿に参加できるボーダーラインがあるので、今回3位と4位の区別をはっきりと付けたのだと思います。
――前川選手はいかがですか
前川 これから調子を上げていきます。あと20日あるので、そろそろ追い込んでいって、調子を合わせていこうかなという感じですね。目標は優勝しかないですね。こんなところで負けていたら駄目ですよ。来年はアジア大会もあるので、優勝以外はありません。優勝以外だったら落ちることしかないじゃないですか。そこまで上がったら、優勝しか行くとこはないですね。
――最後に今後の意気込みをお願いします
中井 らいねんは全グレの団体優勝を絶対獲りたいですね。個人はもういいので、団体優勝ですね。
前川 できればリーグ戦、全グレ、内閣杯の団体三冠を獲りたいです。個人ではアジア大会の出場が一番大きな目標です。
――ありがとうございました!
(取材・編集 井上義之、三尾和寛)
最後はおちゃめなポーズをとってくださいました
◆前川勝利(まえかわ・しょうり)(※写真右)
グレコローマン120キロ級。茨城・霞ヶ浦高出身。スポーツ科学部3年。来年は世界選手権とアジア大会の日程が重なる予定だが、前川選手は優先するのは「アジア大会」と即答。「アジア大会はオリンピックなどに並ぶお祭り」と語り、非常に楽しみにしている様子でした。
◆中井堅太(なかい・けんた)(※写真左)
グレコローマン66キロ級。南京都高出身。社会科学部3年。前川選手は3回目の対談取材に対して、中井選手は初めてということもあり、最初は緊張気味のご様子でした。しかし、中盤からは歯切れも良くなり、様々な節々から同期への静かなる闘志を感じられたのが印象的でした。